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  • 公開日:2021年1月12日

イェール大学卒「英語落語」もこなす異色の落語家・立川志の春さんに聞く“英語で世界を笑わせる力”とは?

楽しみながら英語を学ぶ方法として注目されつつある「英語落語」。
シンプルでわかりやすい古典落語は英語でも聞きやすく、思わず笑いがこぼれる演目がたくさんあります。今回は日本語だけでなく、英語落語にも取り組む人気落語家・立川志の春さんをインタビュー!米国イェール大学を卒業し、日本の大手商社に就職。その後、落語家に転身した異色の経歴のもち主です。

「8歳のときにニューヨークの現地校に転校し、異文化にふれた体験が落語家の原点」と語る志の春さんにとって、世界を笑わせる英語落語の魅力とは?また効果的な英語習得法についても伺いました。

「英語落語」をはじめたきっかけは何ですか?

「英語落語」をはじめたきっかけは何ですか?

世界共通の「笑い」である落語は日本の宝

実は私はそもそも「英語落語」をやること自体に、否定的でした。落語は生で、お客さんと呼吸を合わせながら、日本語でやってこそ面白さが伝わるものだと考えていたからです。英語にするとその魅力が半減してしまうだろうと思っていたんですね。

前座時代に1度だけ英語落語をやる機会がありました。師匠の立川志の輔が銀座の落語イベントで英語落語をやるという企画がもち上がり、その前座を務めることになったんです。私にとっての初めての英語落語が『TENSHIKI(転失気)』でした。おならをネタにした古典落語で、子供向けの会でも定番の噺(はなし)です。それを自分で翻訳しました。

日本語ではほとんど笑いの取れなかった演目ですが、このときだけは爆発的に受けたんですね。嬉しかった反面、「これが本当の落語と思ってはいけない。実力なんかじゃない」と自分に言い聞かせました。
まずは日本語の落語をしっかりやらなければならないという気持ちが先にあり、いったんは英語落語を封印したのです。

英語落語を積極的に演じるようになったのは、二つ目に昇進した頃からです。2012年にシンガポールで開催された「インターナショナル・ストーリーテリング・フェスティバル」というイベントに参加したのがきっかけでした。アメリカ、イギリス、インド、ニュージーランドなど世界各国のストーリーテラー(=語り部)たちが集まって公演を行う中、私も日本代表として英語落語を披露しました。演目は、シンプルで1番わかりやすいということから、ここでも『TENSHIKI(転失気)』を選びました。

実際に演じたら、どっと笑いが起きました。椅子から転がり落ちて爆笑する人もいました。そして各国の参加者の方々からは「面白い。落語のようなスタイルの芸は他で見たことがない」と声をかけられ、とても嬉しかったことを覚えています。

100年以上生きのびた物語の普遍的な魅力を英語で表現

着物を着て座布団に座り、右を向いたり左を向いたり。話し手が1人で何人もの登場人物を演じ、聞き手は物語を映像として見ているような感覚になれる落語。
海外イベントでは「自分もこの手法を取り入れたい。落語は日本の宝だ!」とまで言ってもらえました。
そのとき、笑いは世界共通のものであり、落語には世界を笑わせる力があるのだとあらためて実感しました。

考えてみれば、今も残っている古典落語は100年以上もの月日を生きのびてきた選りすぐりの話なんです。日本語だけで100%伝えようとしなくても、話自体がもっている普遍的な力を信じれば、たとえ英語であっても必ずその魅力が伝わるはずです。

実際に英語に訳してみてわかったのですが、古典落語は余計なギャグを加えたりしなくてもお客さんの頭の中にちゃんと情景が浮かぶようにできているんですよ。そして日本語とはまたちょっと違った面白さが加味される英語落語を、世界に通用するエンターテインメントとしてもっと多くの人に伝えていきたい。そう思ったんです。

動画配信をされてから海外からのオファーが増えたと伺いました。

動画配信をされてから海外からのオファーが増えたと伺いました。

オックスフォード、ケンブリッジ大学など世界各地から講演依頼

普段なかなか落語と接点のない方にも落語を知っていただきたいという思いから、2020年の夏くらいからオンラインによる落語配信をはじめました。生の落語の会では日本語の演目が中心でしたが、オンライン配信を行うようになってからは半分くらい英語落語を取り入れています。

先日その動画配信を見てくださった東京大学の方から、留学生向けの英語落語をやってほしいという依頼がありました。また、その翌日にはオックスフォード大学から、その翌週にはケンブリッジ大学からオンラインでの英語落語の講演依頼があり、さらにベルギーにある大学からもオファーがありました。動画で配信するようになったことで、海外の方に英語落語を披露する場が格段に増えました。

聞き手の想像力をかき立てる「落語」の本質を海外に発信

海外の大学生向けのオンライン配信では、2席ほど英語落語を演じた後に質疑応答を行っています。初めて落語にふれる大学生の方からは、「なぜ座って話すのですか?」「なぜ着物を着ているんですか?」と聞かれることがよくあります。素朴な疑問なのですが、実は落語の本質を突いています。

まず、着物は老若男女さまざまな役を一瞬にして演じ分けるうえで1番適したニュートラルな衣装です。また、座ってしゃべることは観客の視線を話し手の身振りや顔の表情に集中させたり、走ったり歩いたりといった距離の移動を動作だけで表すときなどにも便利です。どちらも、見る人の想像力を最大限に働かせるための落語独自のスタイルであり、他にはない落語だけの特徴です。こういった質問に答えることで、外国の方の落語への興味・関心がどんどん深まっていくのです。

落語初心者でも「英語落語」を楽しむことはできますか?

英語落語は中学生くらいの英語レベルで十分楽しめる

英語落語は、初めて落語を聞く方が想像するよりずっとわかりやすいものだと思います。年2回行っている英語落語の独演会は、通常の落語会より初心者の方の割合が高く、「日本語で聞くよりわかりやすかった」とおっしゃってくださる方もいます。
翻訳するときには、とにかくシンプルな単語を使って訳しているので、中学生くらいまでに習う英語レベルで十分楽しんでいただけると思います。

私が英語落語を演じるときには、ある程度日本語のリズムを尊重して話すことに決めています。そうすることで落語特有の“風味”が残り、日本語っぽく聞こえてくるところがあるともいわれます。
英語落語を聞いていただいた後には、「思った以上に英語がわかりました」と皆さんに自信をもっていただけるんですね。親子連れでいらっしゃる方も多く、お子さんがちょっとわからないところがあったときには「どういう意味なの?」と会話がはじまったりするので、それも教育の1つになればと考えています。

英語習得のメリットと上達のコツは何ですか?

英語習得のメリットと上達のコツは何ですか?

英語がもう1つの「視点」を与えてくれる

言語を学ぶことの意味は、単に言葉の違いを知るだけでなく、その言語がもつ文化や思考の違いを知ることが大きいと感じますね。英語を身につけることで、世界中のいろいろな人とコミュニケーションできる魅力も確かにありますが、こんな考え方もあるのか、こんな人もいる、さらにはこんな表現もあるのか、という具合に自分にもう1つの「視点」を与えてくれることが言語を習得する大きなメリットだと感じます。

私自身、落語を訳すときには英語にはない日本語があることに気づいたり、逆に微妙な英語と日本語のニュアンスを、観衆に合わせて使い分けたりすることもよくあります。
たとえば英語でいう“funny”も“interesting”も日本語では「面白い」という意味ですが、英語落語ではギャグや冗談を連発する“funny”な面白さより、知的好奇心をくすぐる “interesting”な笑いの方が受け入れられることもあります。

それぞれの言語がもつ文化的背景を理解し、臨機応変に自分なりの正解を見つけだす柔軟性は、自動翻訳機では決して代用できない大事なスキルではないかと思います。

失敗を恐れずに「しゃべる」体験こそが大事

楽しみながら英語を覚えるという点では、英語落語を覚える方法もオススメです。『TENSHIKI(転失気)』や職探しの話『THE ZOO(動物園)』などは15分くらいの短い話ですので、暗記して外国の方の前でやったら必ず受けると思います。すべてが会話ですから普段の生活シーンでも役立つヒントが満載です。

落語はほとんど「失敗談」がテーマになっています。英語も同じで失敗して当たり前。英語は苦手だからとか、もうちょっと上手くなってからとか、完璧に話せるようになるときを待つ必要はありません。私自身の経験からも、言語習得には“しゃべる”という体験が何より大切だといえます。
落語家も、何度も高座に上がりながら芸を磨いていきます。年に1回だけ珠玉の芸を披露するなんて人はいないですから、毎日2回、3回しゃべる人が一番早く上手くなるんです。

私も上手に英語をしゃべろうとするのをやめました。失敗は笑いのネタであって、怖いものではありません。下手でも自分の言葉でしゃべる方が説得力が出るんです。そして何より、親御さん自身が英語で話す姿をお子さんに見せてあげてください。間違えたら笑い話にしてしまえば良いのですから。

もし幼少時代に英語にふれていなかったら?

8歳で異文化の壁にぶつかった体験が原動力

落語家としての私の原点は、幼少時代の米国暮らしにあったといっても過言ではありません。8歳のときに父親の転勤でニューヨークに引っ越すことになりました。海外で暮らすことに関しては不安より期待のほうが大きかったものの、まったく言葉がわからないまま現地校に送りこまれたときは、子供ながらに恐怖でいっぱいでした。最初は「トイレに行きたい」と言うことさえできず、「早く英語をしゃべれるようにならなくては」と必死でした。

しかし今考えれば、私は8歳で、言葉と文化がまるで異なる環境の中で暮らすという経験ができました。そして、それは後に新たな世界へ飛び込むことになったときにも「なんとかなる」という自信につながったのだと思います。日本の高校からアメリカのイェール大学に進学したときも、サラリーマンを辞めて落語の世界に飛び込んだときもそうでした。
幼少期に異文化の壁にぶつかったことで、自分の進路は自分で決めるという素地ができあがったのだと思います。

志の春さんの「英語落語」は今後どのように進化していきますか?

生でも、オンラインでも新たな落語の魅力を配信

英語落語をやろうと思ったのは、小学校のときに身につけた英語の力がベースにあることは間違いありません。語学は将来、思いもよらない形で生きてくることがあると思いますね。
大学時代には中国語を学びました。落語家になってから、中国や台湾に行く機会があり、現地の子供たちの前で英語落語を話したこともあります。現地校に通う子供たちの英語力に驚かされましたが、中国語で落語ができたらもっと喜んでもらえるかもしれません。

これまで20作ほど古典落語を英語に翻訳しました。いつか英語の新作にも挑戦してみたいと考えています。これからもお子さんといっしょに、そして大人の方は英語の学び直しにも、生で、オンラインで、英語落語を楽しんでいただけたらと思っています。1人でも多くの方が落語に親しんでいただけるよう、これからも芸を磨き、日々精進していくつもりです。

立川志の春さん
プロフィール:立川 志の春(たてかわ しのはる)
1976年、大阪豊中市生まれ。幼少期と大学時代の計7年ほどをアメリカで過ごす。米国イェール大学を卒業後、三井物産に3年半勤務、偶然通りかかり初めて見た落語に衝撃を受け、2002年、立川志の輔に入門。2020年4月、真打昇進。古典・新作落語、英語落語を演じる。『誰でも笑える英語落語』(新潮社)他著書多数。
初出演映画『鶯谷ワンダーワールド』(FOD配信)が公開中(2020年12月時点)。
公式YouTubeチャンネルで落語を随時更新中。
立川志の春公式サイト
公式ツイッター

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