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  • 更新日:2019年6月24日
  • 公開日:2018年9月28日

「温かな英語」が子供の人生を変える。愛知教育大学・高橋美由紀教授が考える日本の小学校英語教育の課題とは?

「温かな英語」が子供の人生を変える。愛知教育大学・高橋美由紀教授が考える日本の小学校英語教育の課題とは?

英語を使って主張を通すのではなく、英語で相手に寄り添って理解する
「これからの国際社会では、英語を使って相手に勝つのではなく、英語で相手に寄りそって理解する、そんな英語力が必要になる」と語るのは、愛知教育大学大学院で外国語(英語)教育学、とりわけ小学校英語教育法を研究されている高橋 美由紀教授。今回は、TOEFL Primary®の開発にも携わるなど、国際的に活躍されている高橋教授に、日本の小学校の英語教育の課題、幼い子供にオススメの学習方法や英語で人生を変える方法などについてインタビューしました。

高橋教授が教育実践研究者として子供たちの英語教育で活用されている英語教材DVDの楽しみ方は、明日からすぐにチャレンジできるものです!ぜひ参考にしてみてくださいね。

※参考:小学校の先生たちも現在実施されている日本の英語教育に課題を感じているようです。
小学校における英語教育の現場~現役小学校教師による覆面座談会~小学校における英語教育の現場~現役小学校教師による覆面座談会~

小学校における英語教育の現場~現役小学校教師による覆面座談会~

<目次>
「認知(精神)発達の段階と英語の学習のレベルが合っていない」――現在の日本の小学校の英語教育の課題とは
3・4年生は音声を中心とした「体験的なコミュニケーション活動」を通して英語に慣れ親しむ段階
英語のDVDを見せるならコミュニケーションの大切な場面で立ち止まって気づきを与えてあげましょう
英語はお互いを理解する道具。温かな英語力を育んで
英語が人生にどのような影響を与えるか
インタビューを終えて

「認知(精神)発達の段階と英語の学習のレベルが合っていない」――現在の日本の小学校の英語教育の課題とは

「認知(精神)発達の段階と英語の学習のレベルが合っていない」現在の日本の小学校の英語教育の課題とは

――日本の英語教育の学習時間は、どのように変化していくのでしょうか?

2011年度から2018年度までの日本の英語学習は、5・6年生を対象として実施されていました。しかし2020年度以降は、小学3年生から外国語(英語)の学習を開始する予定です。その移行期として現在(2018年度から)は、3・4年生は外国語活動を年間15時間程度、5・6年生は教科としての外国語教育を年間50時間程度学習しています。2020年から小学校3・4年生では、年間35時間(週1回)の外国語活動、5・6年生では年間70時間(週2回)の外国語教育が本格実施となります。

――現在(2018年9月時点)、これまでの日本の小中学校の英語教育が抱えていた課題は何だと思われますか?

高橋教授
子供たちの認知発達の段階と、小学校で学んでいる外国語(英語)学習の内容がマッチしていなかったことでしょうか。

現在の日本の英語教育では、3年生は”Hello.”(こんにちは。)といった簡単な挨拶や10までの数え方などの、母語教育で言う幼児教育のような内容から学習を始めます。

また、5・6年生になっても、”Hi, my name is Miyuki. I like apples.” (はじめまして、私の名前は美由紀です。私はリンゴが好きです。) というような、幼稚性を含む学習内容が多く含まれています。

一方で、母語における5・6年生は思春期に差しかかった年齢。会話の内容がどんどん複雑になってきます。そうすると認知(精神)と学習内容にギャップが生じて、英語学習に対して違和感や反抗心を抱いてしまう子供が出てきてしまいます。

思春期は、心身ともに不安定な時期であり、人前で話すことが恥ずかしかったり、背伸びして大人の仲間入りをしようと意識したりしている時期ですから(笑)。
これからは子供たちの特質を活かして、各々の年齢に適した活動ができるようになれば、子供たちも英語に抵抗を感じることなく学習をスタートできるでしょう。

3・4年生は音声を中心とした「体験的なコミュニケーション活動」を通して英語に慣れ親しむ段階

3・4年生は音声を中心とした「体験的なコミュニケーション活動」を通して英語に慣れ親しむ段階

――では、3・4年生の時期はどういった英語教育をするのが良いのでしょうか?

高橋教授
文部科学省は、初めて外国語に触れる段階である3・4年生では、コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を育てることを目標に掲げています。これらの外国語活動で体験することは、保護者の方たちが中学校で初めて英語を学習したときの内容とは大きく異なっています。文法を理解する・教科書を読む・英文を訳す・英文を書くということではなく、実際に英語を使用したコミュニケーション活動の場面で、音声を中心とした聞く・話すなどの体験を通して英語に慣れ親しませることが大切になってきます。

例えば……

  • ・”What sport do you like? ” (何のスポーツが好きですか?)と聞かれたら “I like basketball. ” (私はバスケットボールが好きです。)と答える。
  • ・”Hello.”(こんにちは。) ”How are you?”(元気ですか?)などの日常の簡単な挨拶や
    “Thank you.”(ありがとうございます。)などの感謝を表せるようになる

そんな英語経験を積み重ねて、日常の英会話力を育むと良いでしょう。

ただし、この段階の子供は、英語を分析的に理解してはいません。母語であっても英語であっても、言語発達段階を考えると、子供は新しい言葉を覚えるときに「聞くこと」から始めます。聞くことで基本的な言葉や表現が理解できたら、次に動作や視覚教材を使いながら、自分の考えや気持ちなどを表現することを学習します。そしてその際に、表現を丸ごと「チャンク(一塊の表現)」の形で覚えるのです。

だから“What’s your name?”と聞かれたら、返答できるけど
“May I Have your name?”に変わると、答えられないのです。

これらの2つのフレーズは両方とも相手の名前を尋ねる文で同じ意味ですが、聞きなれていない”May I Have your name?”という表現には答えられない子供が多いのです。

なお、コミュニケーションの目的・状況などに応じて、自分の考えや気持ちを表現するための英語を身につけることができるように、絵カードや動画などの視覚教材を活用することは有効です。

英語のDVDを見せるならコミュニケーションの大切な場面で立ち止まって気づきを与えてあげましょう

英語のDVDを見せるならコミュニケーションの大切な場面で立ち止まって気づきを与えてあげましょう

――先生にはお孫さんがいらっしゃるとお伺いしたのですが、ご自宅でお孫さんに何か英語教育をされていますか?

高橋教授
英語のアニメのDVDを見せています。心がけていることとしては、一緒に見ながら「気づき」を与えるようにしています。

例えばですが、映像で気になるもの(子供が知っている、もしくは答えやすいもの)が出てきたら、一時停止をして”What’s this?”(これは何?)と指して、英語で尋ねています。忘れた単語は教えてあげたり、同時に新しい単語も教えてあげたり、というようなインタラクション(双方を向いて行う対話)をするようにしています。コミュニケーションの場面・そこで使われている表現・映像に映し出されている視覚的なもの、全てが子供たちの英語学習にとって重要な教材になります。

やりとりでは、子供が聞いてわかる簡単な英語を使ってゆっくり・はっきりと話します。映像で使用されている英語の表現を使って、登場人物のセリフを繰り返し話すこともあります。

どんなに良いDVD教材も、インタラクションがないとBGMになってしまいます。ご自宅で英語のDVDを再生する際は、インタラクションを大切にしてあげてください。

また、外国の言葉だけでなく、異文化についての気づきを与えてあげることも、これからの国際社会で生きていくうえで大切になるのではないでしょうか。

例えば海外が舞台のアニメの夕食のシーンで、パンが出てくるとします。夕食でパンを食べる日本のご家庭はまだまだ少ないですよね。食べ物の違い・衣服の違いなど、身近な文化の違いを、一時停止をして説明してあげるのも良いですよ。ちなみにですが、私は「バスタブが1番文化の違いが出るなぁ~」と思っています(笑)。
(※バスタブの外で体を洗う日本と、バスタブの中でしか水を使えない海外の文化の違いがわかる)

英語はお互いを理解する道具。温かな英語力を育んで

英語はお互いを理解する道具。温かな英語力を育んで

――様々な文化が交差するこれからの国際社会では、どんな英語力が求められると思いますか?

高橋教授
「思いやりのある英語力」です。

英語は使い方を間違えると、ときに「攻撃するための武器」になってしまうことがあるんです。
これは私が過去に参加したカンファレンス(会議)でのエピソードなのですが、ネイティブ・スピーカー(英語母語話者)が自分の主張を巧みな英語で、しかも大きな声で間髪入れずに話すので、ノンネイティブ・スピーカーは即答ができず、何も言えなくなってしまうシーンが頻発しました。
ネイティブ・スピーカーに早口な英語でまくしたてられると、ノンネイティブ・スピーカーは、その「勢い」に負けてしまいます。
そこで使われていた英語は、お互いを理解するためのコミュニケーションとしての言語ではなく、もはや攻撃するための武器でした。

いくら英語が巧みに操れる能力があったとしても、そのような英語の使い方はコミュニケーションの相手に対する思いやりがなく、真の意味で国際的とは言えません。だから、これから英語を学ぶ子供たちは相手に自分のことをわかってもらうことや、相手の気持ちや考えを理解するために、相手のことを考えた温かな英語を話せるようになってほしいです。特に英語を話せる人ほど、相手の状況やレベルに合わせた英語が使える人になってくれると嬉しいですね。

英語が人生にどのような影響を与えるか

――英語が人生にどのような影響を与えると思いますか?

高橋教授
グローバル時代の現代社会で、私たちは国籍や文化など様々な背景を持つ人々と関わって生きています。英語は、国際共通語としての役割を担っていますので、世界中の情報を一番多く得ることができる言語だと思います。英語を介して世界各国の人々の考え方を知ることは、豊かな人生を歩むためにとても大切です。

例えば歴史ひとつをとっても、国によって解釈は異なります。日本語しか使えなかったら、日本語で得た情報での見方しかできませんが、英語が理解できれば世界中からの情報を得ることができるので、多角的なものの見方ができるようになります。インターネット社会となった現代では、英語が使えれば得られる情報も発信できる情報も世界的規模で広がり、増やすことができるようになります。

多文化共生時代だからこそ、様々な人々との関わり合い、国際共通語である英語で知り得た情報・価値観としっかり向き合う。そこから自分がどうやって生きていきたいかを考え、行動する。
英語はきっかけですが、英語によって得た世界中の情報や価値観が、後の人生に大きな影響を与えるのではないでしょうか。

インタビューを終えて

現代の日本の英語教育が抱える課題は「認知(精神)の発達と英会話内容のギャップ」だと考える高橋教授。子供が幼いうちから家庭で英語を楽しむことは、このギャップを解消することにつながりそうです。
また、双方向の会話のやりとりが英語学習において重要であることもご説明いただきました。子供が対話の中で英語をアウトプットできる環境を整えることも、英語学習では大事なポイントのようです。

高橋教授はインタビューの最後、

「英語を勉強するなら、自分と相手とお互いの気持ちがわかり合えて、世界中の人々とコミュニケーションが図れる、そしてみんなの気持ちを温かくするような英語がいいですよね。」

と、微笑みながら話してくれました。

これから英語教育をしようと考えられている方は、高橋教授が教えてくれた「体験的な学習」「気づきを与えるために映像を一時停止する」などに取り組みつつ、「心の温かさ」を育むインタラクションの機会を増やすように心がけてみてはいかがでしょうか?

インタビューを終えて

プロフィール:高橋 美由紀(たかはし みゆき)

愛知教育大学 大学院教育実践研究科教授。
高校生の頃から海外留学を経験し、大手商社で輸入業務を担当。
結婚退職後は、英会話専門学校や岐阜県内の教育機関に勤めながら、京都大学で博士号を取得。現在(2018年9月時点)は愛知教育大学で教鞭をとりながら、外国語教育メディア学会副会長・中部支部支部長も務める。

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