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- 公開日:2021年4月20日
【専門家に聞く】『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』和久田学先生インタビュー
子育てをしていると、たとえば「子供が手づかみでご飯を食べようとする」「言うことを聞かなくてどうしたら良いかわからない」というように、ほんのちょっとしたことでも対応の仕方に迷ってしまうときもあるのではないでしょうか。
「自分が親として未熟だから、良い子育てができない」と悩んでしまうかもしれませんが、実はそうではありません。子育ては科学的なエビデンスに基づいて行えば、失敗を減らして楽しい育児ができるようになります。
では、エビデンスに基づいた子育てとは、一体どんな子育てなのでしょうか?『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』の著者で、公益社団法人子どもの発達科学研究所 主席研究員の和久田 学先生に、詳しくお話を伺いました。
目次
『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』を出版された目的を教えてください。
科学的エビデンスに基づいて、子育ての方法をわかりやすく紹介
さまざまな科学的エビデンスに基づいた子育ての方法を紹介することで、誰もが悩んだり失敗したりすることなく、楽しく子育てができるようにという目的で執筆しました。
子育てや教育については、お父さんもお母さんもいろいろな悩みや疑問があることと思います。それに対して、日本では経験則でアドバイスをしがちなのですが、子育てや教育こそ科学的な根拠を使うことで、悩むことなく子供と関われるようになります。
科学的エビデンスに基づいた子育てとは何ですか?
科学的な研究によって、効果が証明されている子育てのこと
科学的に効果が証明されている子育てのことです。「科学的エビデンスがある」ということは、これまでに蓄積された科学的な研究によって、その効果が学術的に証明されていることを意味します。
したがって、科学的根拠のある子育てをすることによって、成人期に向けて順調に成長する確率が高くなるといえます。
一方、個人の経験則で子育てをすると、個人的な経験のみが頼りですので、成人期の順調な成長につながる確証はありません。もちろんうまくいく場合もありますが、いかない場合もあります。
当研究所では「脳科学」「応用行動分析学」「疫学統計学」の観点から、子供の発達について研究していますが、子育ての悩みはこうした学問を通して考えることで、スムーズに解決することができます。
乳幼児期の科学に基づいた子育てが、子供の順調な発達につながる
このグラフは「年齢」を横軸、「脳の容積」を縦軸として、その変化を示したグラフです。特にオレンジの線の部分(出生前から1歳半程度まで)で脳の容積が急激に大きく成長し、それ以降5歳ぐらいまで緩やかな成長が続いています。
脳が急成長する時期に行われる子育てがいかに重要かについては容易にご想像いただけるかと思います。乳幼児期の子育てはその後の子供の成長にも大きな影響を及ぼすことを理解しておいてください。
これは「脳科学」の一例ですが、それに「行動科学」「疫学統計学」を組み合わせると、さらに失敗のない子育てができる可能性が高まります。
行動科学とは、人間の行動を科学的に研究し、その法則性を解明しようとする学問。疫学統計学は、「こういう因子をもっていると、成人期に問題を起こしやすい」といったように、データを通して解析する学問のことです。
子供を叱ることがなぜ良くないかは、行動科学をもとに説明できる
たとえば「子供を叱ることがなぜ良くないか?」という問題は、「行動科学」をもとに説明することができます。行動科学の基本的な考え方に、「ABC分析」というのがあります。人はA(先行刺激)を与えられると、B(行動)を起こし、C(結果)が生まれるという考え方です。
「食事中に歩き回った→厳しく叱る→食事中に歩かなくなった」という成功体験が生まれると、自分は指導力があると錯覚する親もいますが、そうではありません。ABC分析に照らして考えれば、単に親が叱ったことに対して子供が反応したに過ぎません。子供が次に同じことをしたときは、もっと厳しく叱らなければならなくなり、それが体罰や虐待につながっていくこともあります。
親が子供を叱るのは、子供が何か悪いことをしたときに、「叱ることでもう二度と悪いことをしないように教えたい」という意図があるかもしれません。しかし、子供を叱った瞬間は親のいうことを聞きますが、叱る人が目の前にいなければ、子供はまた同じことをします。これでは、叱る意味がないばかりか、叱ることによって子供の心に怒りや反発心を蓄積させてしまうというデメリットもあるでしょう。
子供を「叱る」「ほめる」ことについて、科学的な観点からアドバイスをお願いします。
子供の心を傷つけてまで叱る行為はNG
「叱る」という言葉の定義が難しいのですが、子供の心を傷つけてまで叱る行為はNGです。たとえば、「○○をしたことはいけなかった」のように、行動を叱るのはまだ良いのですが、「そういうことをするあなたはダメな子供だ」のように子供の存在を否定するような叱り方は、しない方が良いです。
子供はとても繊細なハートで、一生懸命に生きようとしているのですから、その心を傷つけてはいけないというのは科学的にも明確です。
子供時代に親など家族からいつも叱られていた、相手にされなかった、精神的に受け入れられていなかったなど、トラウマになるような辛い体験をすると、成人期の抑うつ、精神疾患はもちろん、がんの罹患率や寿命にも影響するというエビデンスがあります。
たとえば、子供時代に親や家族にからかわれたり、暴力や無視などをされた経験があると、成人期になって精神面・身体面で問題が起きやすいということがわかっています。
ただし、子供が何をしても叱ってはいけないというわけではありません。程度の問題なんですね。「子供を一切叱らない」と決めてしまうと、叱る以外の教育方法を知らない親がそれを実行してしまった場合、ただの放任になってしまう可能性があります。それでは困りますから、子供の心を傷つけないように叱ることも、状況によっては必要です。
子供が間違った行動をしたときは、その行動の何が間違っていたのかを指摘し、「そういうときはこうしてね」といったように、どうすれば良かったのか、代わりにすべき行動を提示してあげましょう。そうすることで、子供は心を傷つけることなく、自分の間違いに気づくことができます。
逆境的小児期体験(ACEs)が健康に及ぼす影響を示したグラフ
逆境的小児期体験(ACEs)とは小児期のトラウマになるような体験のことを意味します。これが”Life Dissatisfaction”(人生への不満)や“Mental Health”(メンタルヘルス)だけでなく、“Cardiovascular Disease”(循環器疾患)や“Cancer”(がん)のリスクも高めることが示されています。
ほめることで子供の良い行動が増えることが大切
では「ほめる」のはどうかというと、これもまた定義が難しく、勘違いしやすいので注意が必要です。子育てに必要な「ほめる」行為とは、子供の良い行動が増える、もしくは定着させる行為のことを指します。
たとえば子供が手づかみでご飯を食べた場合、「手づかみでご飯をたべちゃだめでしょ」と叱るのではなく、手づかみで食べたときは淡々としていて、スプーンをもったときに「わぁ、〇〇ちゃんすごく上手ね」とたくさんほめてあげます。
そうすると、子供がスプーンで食べる時間が次第に増えていき、手づかみで食べる時間は自ずと減っていくでしょう。これは応用行動分析学の「前向き行動支援」という方法です。やめさせたい行動があったら、それを叱るのではなく、それに代わる行動を増やせば勝手にやめさせたい行動が減るというわけです。
また、こんな事例もあります。子供がいたずらをして、お父さんが子供に「コラ!」と叱ったときに、お父さんは「子供を叱った」と思っているかもしれませんが、実はそうではありません。子供が「もっといたずらをしたら、お父さんはもっと怒っておもしろいぞ」と思えば、それは結果的に「ほめる」ことと同じになってしまうのです。逆に、お母さんが子供に笑顔で「歯磨きが上手にできて偉いね」と言っても、子供が「そんなこと、もう恥ずかしいから言われたくない」と思って歯磨きを止めてしまったら、それは「叱る」ことと同じになってしまうわけです。
大人が「ほめているつもり」「叱っているつもり」ではなくて、子供がそれにどう反応したかを観察することが、とても大切です。
良い行動を増やすほめ方で一番大事なのは「注目」
良い行動が増えるほめ方というのは、子供によってさまざまなのですが、一番大事なのは「注目」だといわれています。特に小さい子供は、親に注目されることが、「ほめる」になります。
行動分析学では「注意喚起機能」と呼びますが、自分の行動によって親や教師などの注目を集めることができると、子供は良い行動を少しずつ増やしていきます。大げさにほめたりする必要はなく、良い行動をしたときにお母さんが子供に近寄って、ニコッと笑うだけでも良いのです。
そして、良い行動が増えてきたら、注目の頻度を減らしていきましょう。ときどきしっかりとほめてあげれば、「いつもほめられなければならない子供」になることもありません。
科学的に子育てを捉えることのメリットについて教えてください。
これはとても明確で、「子育てに悩まない」ということです。科学的エビデンスに基づいた方法で子育てをしたからといって、絶対に子育てが成功するわけではありません。ですが、少なくとも失敗はしないと断言できます。子供の育て方に対して夫婦で意見が分かれたときも、「こういう理由でこういう対応をした」と、きちんと説明することができるでしょう。
もちろん、エビデンスに基づいて子育てを行っても、すぐに結果が出るわけではありません。良い行動が増えるまでにはそれなりに時間がかかりますが、正しく応用すれば確実に成果が上がるということが、科学的にも証明されています。
脳は1歳半ぐらいまでにものすごい勢いで発達し、5~6歳までにはほぼ大人と同じぐらいの容積になります。そのため、小学校に入るまでにお父さん・お母さんが子供とどう関わったかというのは、子供の心の発達において非常に重要です。未就学児をもつお父さんやお母さんは、今が一番のがんばりどきでしょう。
インタビューを終えて
科学的なエビデンスに基づいた子育てがいかに重要かということを、和久田先生にユーモアも交えて、とてもわかりやすく教えていただきました。教育の現場で長年実践を積んでこられたからこそのお話は、とても説得力がありました。
子育てを科学の分野から学ぶことで、「どうしてこの子は、親のいうことを聞かないのだろう?」といったイライラもなくなり、楽しくゆったりと子育てができるようになれば、とてもうれしいことですね。
プロフィール:和久田 学(わくた まなぶ)
公益社団法人子どもの発達科学研究所 主席研究員。
特別支援学校の教師として20年以上勤務した後、科学的根拠に基づいた子供の支援を研究し、小児発達学の博士号を取得。専門領域は子供のいじめや不登校など、子供の問題行動の予防、支援者のトレーニング、介入支援のプログラムなど。著書に『学校を変えるいじめの科学』(日本評論社)、『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)がある。
「子育て応援チャンネル」子どもの発達科学研究所のYouTubeチャンネル
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