ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 英語教育に関するニュース > 言語も音楽も、聞くことから始めるのが大切~東京大学・酒井邦嘉教授インタビュー~

英語教育に関するニュース

酒井先生近影1

「ディズニーの英語システム」(DWE)は、「スズキ・メソード」を取り入れて作られました。
スズキ・メソードは「赤ちゃんが毎日繰り返し耳にする言葉をいつの間にか話せるようになる」という母語を習得する過程を応用しており、子供の音楽教育で取り入れられている教育法です。

言語脳科学者の酒井 邦嘉先生は、スズキ・メソードによる教育法を展開する才能教育研究会とともに、脳科学による音楽教育の共同研究を2017年にスタートし、音楽と言語の関連や、音楽経験に基づく脳の働きの個人差などを調査しています。
そんな酒井先生に才能教育や外国語の習得、さらに子供の才能を伸ばす親の役割などについてお話を伺いました。


Q1.酒井先生がスズキ・メソードに注目したのはなぜでしょうか?

Q2.酒井先生から見て、スズキ・メソードはどのような点が優れているのでしょうか?

Q3.子供の才能を伸ばす上で親として大切なことは何でしょうか?

Q4.最後に、子育てをしている方にメッセージをお願いします。


Q1.酒井先生がスズキ・メソードに注目したのはなぜでしょうか?

酒井先生近影2

人間の脳は母語に対して最適にデザインされている

スズキ・メソードの「母語を理想として才能教育を行う」という考えは、言語学者ノーム・チョムスキーの「言語生得説(※)」に基づいた私の長年の研究に合致します。
人間の脳は、子供のときの言語発達を通し、母語に対して最適にデザインされると言えます。
そして母語に違いがあっても、人間の言語には普遍的な特性があるということを、私はMRI(磁気共鳴画像法)などの方法で科学的に明らかにしてきました。

これまで私は言語を生み出す脳の研究をしてきましたが、脳が生み出す芸術についても研究していきたいと、数年前から考えていました。
今回、スズキ・メソードと始めた共同研究で、言語と音楽の共通性や、音楽が持つ独自の脳機能の解明につながるのではないかと考えています。
こうした研究を進めることで、「人間とは何か」という大きなテーマの解明に近づけるのではないか、とワクワクしています。

※言語生得説:
子供には生まれたときにすでに言語能力の中核部分が備わっているという学説。
生得的な能力があるため、育った環境で特定の言語にふれるだけで、その精妙で複雑な文法規則が自然に習得できると考えられている。


Q2.酒井先生から見て、スズキ・メソードはどのような点が優れているのでしょうか?

酒井先生近影3

丸ごと聞いて弾くという習得のしかたが自然

赤ちゃんは大人の話を繰り返し聞く(または手話を見る)うちに、母語を理解し、話せるようになります。
そのときに「効率」が問題になることはありませんし、その過程を「訓練」と捉えることもないでしょう。
特に学校のように文法を学ばなくても、「昨日お菓子を食べた」「明日お菓子を食べよう」といった時制に応じた使い分けなどが、ごく自然に身につくようになります。
子供は、「昨日お菓子を食べよう」「明日お菓子を食べた」といった間違いをほとんどしないのです。

自然に覚えるという点では、音楽も同じです。やさしい曲ならば、繰り返し聞くうちに、声に出して歌えるようになります。それは3歳の子供でもできることです。
スズキ・メソードはこの「自然に聞く」ということを大切にしているのが素晴らしいと思います。
その一方で、最初に楽譜を読むことから教えるのは自然なことではありません。実際、楽譜が読めない子供でも歌をうたうことはできるのですから。

これを英語に置き換えて考えれば、英語の音になじむ前にアルファベットから教えるのは不自然です。母語と同じように、最初は音声から始めるのが自然です。
大人は英語を「教育や学習」と捉えて、アルファベットや単語を先に教えようとしがちですが、それは音楽を聞いたことがない子供に楽譜の読み方を教えるようなものです。
実際の英語の音を想像できない人にとって、アルファベットは単なる記号に過ぎません。
それはまるで意味のない記号や模様を覚えるようなもの。これでは訓練でしかありません。

それから、言葉を単語から教えようとするのも、大人の発想にすぎません。
単語は、文やまとまった表現の中で使われてはじめて、意味を成す場合が多いのです。
例えば、"What's up?"(最近どう?)や、"Son of a gun!"(なんてこった!)などのフレーズを、単語ひとつひとつに分けてしまうと、意味がとれなくなってしまいます。
状況ごとの生きた表現として、丸ごと聞く。それが自然なのです。

同時にいろいろ習得することの大切さ

また、子供に日本語と英語を両方学ばせると混乱するという意見も根強いですが、根も葉もない話です。
実際、ヨーロッパやアフリカなどでは、バイリンガルやトリリンガルの子供たちは珍しくありません。
そもそも日本語にも方言があったり、男性が使う言葉、女性が使う言葉で違いがあります。
両親が使う言葉が全く同じでなくても、子供が混乱することはないのですから、心配することはありません。
子供たちは、日常語と丁寧語を使い分けるような感覚で、話す相手や状況に応じて言葉を切り替えられるようになります。

子供にとって、言葉はすべてひとつなのです。敬語や方言、英語といった分類は大人が勝手にやっていることにすぎません。
同時にいろいろ習得することではじめてわかる共通点こそが大切なのです。

日本語と音楽を両方学ばせると混乱するとか、日本語が十分身につかないうちに音楽を始めるのは良くない、と言う人は少ないでしょう。
幼児期から音楽を始めるのが良いという結論は正しくても、その理由が日本語と音楽は全く違う活動だから、というのは間違っています。
スズキ・メソードとの共同研究から明らかになってくると思いますが、言語と音楽には奥深い共通点がいくつもあるのです。

子供の教育について、いろいろな意見や立場がありますが、いつも「自然かどうか」を手がかりにして判断すれば、最良の方法を選択できることでしょう。


Q3.子供の才能を伸ばす上で親として大切なことは何でしょうか?

酒井先生近影4

幼少期に身につけた能力で一生が決まる

「三つ子の魂百まで」という諺がありますね。これは真理なのです。
人は生涯にわたって学ぶことができますが、幼少期に身につけた能力の比ではありません。
例えば、どこまで頑張るのか。どこであきらめるのか。
そうした根気や「やり抜く力(グリット)」などの精神傾向は、おそらく脳の奥深いところで幼少期に形成されると私は考えています。大人になってから一朝一夕で変わるようなものではありません。
形成過程にある幼少期の脳は特別です。幼少期に脳に刻まれたことは、本人ですら抗えないのです。
ですから幼少期には、豊かな情操教育を含む全人教育こそが大切だと言えます。

スズキ・メソードで才能教育を受けた子供たちは、長じて音楽家としてだけでなく、さまざまな分野でスペシャリストとして活躍しています。これはスズキ・メソードが音楽を通して全人教育を行っているからにほかなりません。
親として大切なのは、ほめるだけで甘やかしてしまったり、逆に訓練に徹して厳しくしすぎたりしないようにすることです。両者の中庸にこそ正解があるのです。
ほめるだけだと、子供はほめられることをさらに求めるようになります。
それでは自分を冷静な目で見ることができず、自分に何が足りないか、何が必要かを考えようとしなくなってしまいます。つまり、自分で自分を高めることができないのです。
逆に、厳しい訓練だけでは、いったん離れてしまうと戻るのが難しくなってしまいます。

音楽でも英語でも、すぐに飽きてしまったり、ちょっとしたつまずきで前に進めなくなることもあるでしょう。
そのときに少し先を見据えて、「もうちょっとだけやってみよう」と背中を押してやるのが親や教師の役割です。
「難しいことなのに、頑張ったらできた」というように、ひとつひとつ壁を乗り越える体験をさせる。これが全人教育につながります。
段階を追って、難しい曲に挑戦するようにデザインされているところもまた、スズキ・メソードの素晴らしい点ですね。

例えば、将棋で活躍されている藤井 聡太さんも、楽しいことや楽なことだけを追求して、中学生棋士になったわけではないでしょう。負けたときの悔しさが一番のバネになっているかもしれません。
5歳から始めた将棋は、藤井さんにとって全人教育の役割を果たしたと考えられます。

もちろん、幼少期を過ぎてからも英語や音楽を身につけることは可能です。私自身は、中学のときに独特の方法で英語を自習し始めました。
当時大好きだった「刑事コロンボ」を英語で聞き取りたいという一心で、2ヵ国語放送をテープに録音し、繰り返し聞いたものです。
「刑事コロンボ」の洋書を手に入れて、一冊すべて翻訳したこともありました。
何度聞いてもよく聞き取れず、何度辞書を引いても意味がわからず、四苦八苦しましたが、そうした経験が今も生きているように思います。

プロとして活動している音楽家の多くは、幼少期にレッスンをスタートして才能を開花させています。
幼少期は子供の脳の成長にとって特別な時期ですから、お子さんに合った環境が整えられるといいですね。

Q4.最後に、子育てをしている方にメッセージをお願いします。

酒井先生近影5

「脳にとって何が自然か」を考えて子供の力を信じる

脳にとって何が自然かを考えることで、いろいろな疑問が解決します。
例えば、最近ではひとつのことに集中させることが良いと言われていますし、先生が板書する時間と説明する時間を分けたり、生徒がノートを取る時間と考える時間を分けたりしがちです。
ところが、説明を聞きながらノートを取ったり、ノートを取りながら考えることができない生徒が増えてしまって、不自然な効果を生んでしまっています。

同時にさまざまなことをする「マルチタスク」の能力は、元々人間に備わっています。
楽器を弾くということは、まさにマルチタスクなのです。
合奏であれば、自分の弾く音を聞きながらも、同時に周りの人の演奏を聴いて、それに合わせて音の強弱やテンポを調節する必要があります。
しかも同時に楽譜を見ながら、指揮も見なくてはいけません。ひとつのことだけに集中していたら、アンサンブルにならないのです。

個人差はあるものの、誰でも自然とマルチタスクができるように脳が作られているのですから、それをあえてやめて一つ一つに集中させるのは不自然な教え方です。
歌をうたいながらお絵かきをしたり、お母さんとおしゃべりしながら料理を手伝ったり。そうした子供の自然な行動を、無理に制限しないことです。
もちろん、スマホを見ながら食事をしたり、自転車に乗ったりしない、というマナーやルールは守りましょう。

もうひとつ、親の大切な役割は我が子のことを信じることです。親が自分を信じてくれているかどうかは、子供にも伝わります。
親に信じられていると思えば、「自分にもできるかもしれない。もうちょっと頑張ってみよう」という気持ちになります。自信につながるのです。
ほめて育てる、楽しいことをやらせる、というだけでは、つらいことだって乗り切れるという子供の可能性を信じずに、挑戦させる機会を放棄していることになってしまいます。
この子であれば乗り越えられると考えて、ほめるのは先延ばしにしながら、ちょっと難しいことに挑戦させてみるのです。
そうすれば、「もっとできる」という確かな自信を自分で持てるように、段々と成長していくことでしょう。

まとめ

言語も音楽も、聞くことから始めて、子供にとって自然な環境をつくることが大切です。また、子供は幼少期から段階を踏んで壁を乗り越える体験を積むことで、自分で能力を高めていく力を手に入れていきます。子供の成長をサポートするために親ができることはたくさんありそうです。
なお、幼児英語学習のヒントがいっぱいの酒井先生へのインタビュー記事を、以下のリンク先にも掲載しています。
こちらもぜひチェックしてください!

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酒井先生近影6

プロフィール:酒井 邦嘉(さかい くによし)

言語脳科学者。1964年生まれ。東京大学 大学院理学系研究科 博士課程修了、理学博士。1996年マサチューセッツ工科大学 客員研究員を経て、1997年より東京大学 大学院総合文化研究科 助教授。2012年より同教授。
2002年第56回毎日出版文化賞、2005年第19回塚原仲晃記念賞受賞。脳機能イメージングなどの先端的手法を駆使して、言語や創造的な能力の解明に取り組んでいる。
著書に、『科学という考え方』(中公新書、2016年)や『高校数学でわかるアインシュタイン』(東京大学出版会、2016年)などがある。

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