ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 英語教育に関するニュース > 東京大学 酒井教授インタビュー「子供の言語習得にとって大切なポイント」

英語教育に関するニュース

酒井教授インタビュー

東京大学駒場キャンパスにお伺いして酒井邦嘉教授にインタビューを行い、英語(第二言語)学習に関する様々な意見をお聞きしました。本記事では、言語脳科学の視点から、子供の言語習得に大切なことは何か、また親としてすべきことは何かについてお伝えいたします。


酒井教授の研究分野

酒井教授は、脳機能イメージングといって、安全に脳内の働きを調べて画像化する「MRI」などの技術を使って脳の機能を研究しています。なかでも特に言語について、脳内のどこで、どのような働きがなされているのかを「MRI」で明らかにしようとしています。この酒井教授の研究を特徴的なものにしているポイントは、異なる研究領域の融合とその広さではないかと思います。言語学は文系ですが、脳科学は理系の領域です。酒井教授はその双方の学術領域を横断的にクロスオーバーしながら研究を行っています。この双方の学問分野での研究によって、さらには言語などの高次機能を支える脳のメカニズムの実証によって、今まで理論として語られてはいたものの、まだ充分にわかっていなかった、言語における脳の働きと仕組みの解明に大きな貢献をしているのです。

アメリカの言語学者ノーム・チョムスキーは、現代の「知の巨人」として非常に大きな功績を残した人物のひとりとして知られています。彼は、全ての人間の言語には普遍的な特性があるという仮説を「生成文法」として提唱しましたが、酒井教授はこのチョムスキーの理論の延長線上に立って研究を進めており、言語を生みだす深遠なメカニズムが明らかになってきました。今後はさらに人間の本性に迫る研究を目指したいと酒井教授は話しています。

さて今回の記事では、こうした脳と言語の関係性に焦点を当てて、

  • 子供の言語習得に関係する脳の働きについて
  • どのように子供は言語を習得するのか(環境の重要性)
  • 親はどのように子供のサポートを行えるのか(持続の重要性)

上記3点に関して、酒井教授の視点を交えつつ、お伝えしたいと思います。

子どもの言語習得とは

酒井教授に、幼児期の言語習得についてお聞きしたところ、「人間の脳は、予め言語を習得できるようにプログラムされています。子供は、自然と身近にある言葉を覚えていくわけですが、言葉の意味だけでなく、文を作る仕組みも理屈抜きで吸収してしまいます。脳がそうさせているのであれば、自然に従うのが一番良いのです。ですから親や教師は自然な言語習得を見守るだけであって、決してそれを勉強というかたちで行わせてはいけません」という答でした。

酒井教授が指摘しておられる言語習得に関するこのような脳の働きは、一般にはあまり理解されていない部分かもしれません。「人間の脳には自然と言語を習得する能力が生まれながらに備わっている」ということを充分理解したうえで言語習得のプロセスをうまく導いていくことが、とても重要なポイントになります。

「自然な環境」の重要性

また酒井教授は、ヴァイオリンやバレエといった芸術における早期教育の重要性を強調しながらも、幼児期に本能として身に付く言語習得については、たとえそれが英語などの第二言語であっても早期教育の対象外だと明言しています。子供にとって、あらゆる言語は「自然」に獲得するものなので、親の役目は言語習得のための「環境」を整えることです。

では酒井教授の示す「自然な環境」とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?
「習うより慣れよ、あるいは門前の小僧習わぬ経を読む、ということわざがありますが、これらは子供の言語習得の特徴をうまく表しています。大人の視点からは、意味が分からずにお経を覚えるのは無駄に映るでしょうが、子供はお構いなしに環境にあるものを丸ごと吸収してしまいます。音楽もこれと同じで、音楽理論を説いてもそれを理解することは困難ですが、演奏してみて楽しいと分かれば、それを自分でアレンジして演奏できるようにもなります。言葉もまた、いったんきちんと吸収して自分のものになれば、自在に使えるようになります。それは第二言語でも同じことなのです。ですから脳が発達しつつある子供のうちに、自然な言語環境を整えることが重要なのです。」

「言語は自然に習得するものである」と言ってしまうと、親は何もする必要がないというような誤解を生むかもしれませんが、酒井教授のお話をさらに深くお聞きすると、そうではないことが明確に分かります。むしろ親は積極的に子供のために環境を整え、子供の個性や関心を自然に伸ばすよう手助けすることが大切です。英語の母語話者でない親が、無理をして(例えばカタカナ英語の発音で)英単語を子供に教えるのは、不自然な教育法の典型です。

さらにその方法や手段として、映像や音楽といったものと組み合わせて言語を学ぶことについてのお考えをお聞きしたところ、「子供の大好きなアニメ作品を、英語などの副音声で観るのもいいですね。まずは子供が興味や関心を持つことから始めるのが一番です」とのことでした。

例えば音楽に関心がない子供に対して、無理やりモーツァルトを聞かせるのは苦痛でしょう。子供が自然に受け入れられるような環境作りが大切なのであって、それこそが親のできることであると理解できました。子供が興味を持つ題材であれば、それをベースにした言語の習得はよりスムーズに進むと言えるでしょう。子供の興味の対象を見極め、それに沿った環境を提供するようにサポートできればよいのです。

「持続」の重要性

「自然な環境を整える」ことと合わせて、興味などの「持続」に関しても、酒井教授から興味深い意見をお聞きすることが出来ました。

「環境もそうですが、一つのことを長く続けられるための心を育てることも大事です。長時間投げ出す事なく一つのことに打ち込めるようになれば、次に他のことを始めたときにも同じように身に付けられるのです。ですから親としては、その子の個性に合った持続的に行えるものを見つけることが最良のサポートでしょう。」

子供にとって自分が興味を持つものであればそれを幾らでも吸収することが出来ます。また、一つのことに長時間向かい合うことが可能になりますので、一層上達しますし、得意な技能となったり、喜びになったりするわけです。特に言語は習得までの終わりがないものですので、持続的に行うことはより重要です。子供の持続性を育むためにも、子供が自ずから深い関心を持つものを見極め、そしてそれを継続的に続けられるような環境づくりを行って、伸ばしてあげることが肝心でしょう。こうした非認知的な能力には汎用性があり、それを身に付けた子供は、将来どんな言語であっても、その習得に必要な時間を惜しまずに吸収できるようになるのではないでしょうか。

おわりに

酒井教授のお話をお聞きして印象深かったのは、いかに自然に「環境」を整えるかということでした。子供の関心を見極めて、それを伸ばすための環境を作ることが重要なのです。「判断に迷ったら、自然な方法に勝るものはないのです」と繰返し強調していました。例えば子供が関心を示すような音楽や映像と合わせて英語を導入して、いつの間にか子供が英語を自然と口ずさむようになれば、それは非常に効果的な習得法であることも理解できました。こうした環境づくりをすること、そしてそれを継続して行えるようにサポートすることが、子供のために親ができる重要な役割だと言えるでしょう。



酒井先生近影

プロフィール:酒井 邦嘉(さかい くによし)

言語脳科学者。1964年生まれ。東京大学 大学院理学系研究科 博士課程修了、理学博士。1996年マサチューセッツ工科大学 客員研究員を経て、1997年より東京大学 大学院総合文化研究科 助教授。2012年より同教授。
2002年第56回毎日出版文化賞、2005年第19回塚原仲晃記念賞受賞。脳機能イメージングなどの先端的手法を駆使して、言語や創造的な能力の解明に取り組んでいる。
近著に、『科学という考え方』(中公新書、2016年)や『高校数学でわかるアインシュタイン』(東京大学出版会、2016年)がある。

英語教育に関するニュース

ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 英語教育に関するニュース > 東京大学 酒井教授インタビュー「子供の言語習得にとって大切なポイント」