近年、日本の求人市場では、英語力があると有利、かつ入社後の昇進が期待できる業界・職種が増えています。外資系金融企業、商社、航空業界、ITエンジニアなど、英語力が重視されるケースはこれまでも一定数ありましたが、事業をグローバルに展開している企業が増加の傾向にあり、英語力があることが大きな武器になる時代へとシフトしています。将来的に高い収入を得るためには、早期から英語力を身につけておくことが近道といえるかもしれません。
ここでは、グローバル人材の就職・転職事情に詳しいヒューマングローバルタレント株式会社代表の横川友樹さんに、英語レベルによる収入格差の実態と、早期英語教育の必要性について伺いました。
Q1. 最新データで見る 「英語力と年収の関係」ついてお聞かせください。
Q2. 日系企業と比べ、外資系企業の年収が高いのはなぜ?
Q3. 外資系企業で求められる英語力の目安は?
Q4. 今後の働き方はどのように変わるでしょうか?
Q5. 早期英語のメリットと、これからの子供たちに必要な英語力とは?
Q1. 最新データで見る 「英語力と年収の関係」ついてお聞かせください。
当社は、バイリンガル向けの転職・求人情報サイトDaijob.com(ダイジョブ ドット コム)に登録している求職者の英語力と、企業からのスカウト(※)の実態をもとに、毎年「語学力と年収に関する調査」を行なっています。同サイトには、約71万人の登録者と1万1000件以上の求人情報が掲載されており、そのデータを対象に行なった最新調査によると、企業からスカウトを受けた日本人登録者のうち、76%は英語のレベルがビジネス会話以上でした。
※Daijob.com に会員登録をした求職者が公開している匿名履歴書を企業が閲覧し、求職者に採用のアプローチすること。
※企業からスカウトを受けた76%はビジネス会話以上の英語力
また、企業からスカウトを受けた人材の英語力と年収を年代別に比較した調査では、ビジネス英語以上のレベルだと、男女ともにすべての年代で英語力と収入が比例し、とりわけ40代以降で年収の差が大きく開いていることがわかりました。男性では50代で1.5倍、女性では2.2倍の収入差がありました。
職種別では、とくに金融関連が顕著で、360万円以上の年収差が見られる企業もありました。大学卒業後、少なくとも50年は働くことを想定すると、英語力の違いで生涯賃金は億単位の差が出てくるでしょう。
※英語力のレベルによって、年収に大きな開きがあることがわかりました
※英語力による年収格差がより顕著な金融関連の職種別データ
出典:全て『ヒューマングローバルタレント』(2022年度 英語力と年収の関係調査)
英語力は「評価すべきスキル」として年収に反映
日本では、大企業だけでなく中小企業も積極的に海外進出を開始しており、採用時に高いレベルの英語力を求める企業も増えてきました。とはいえ、入社時からビジネス英語を使ってバリバリ仕事をするという職種はまだ少ないかもしれません。現状では、30代〜40代以降で管理職になり、海外との連携や取引といったグローバルな仕事を任されるようになってから、ビジネスで通用する英語力が必要になるケースが多いようです。そのため、いざとなってから若いうちに英語力を身に付けてこなかったことを後悔する人も多くいます。
英語で仕事ができるバイリンガル人材は希少性が高く、ビジネスレベル以上の英語力を持つ人材を募集する際には、採用側も想定年収を高めに設定し、評価するべきスキルとして捉えているようです。英語力があると、就活時の選択肢が広がり、高待遇も期待できます。この先ますます、英語は強力な武器になるといえるでしょう。
Q2. 日系企業と比べ、外資系企業の年収が高いのはなぜ?
外資系企業は、日系企業よりも報酬が高いというイメージを持つ方は多くいらっしゃいます。当社に登録されている企業・団体のうちの約半数は、外資系企業の求人です。その中で、年収の平均値を集計したところ、外資系企業では下限が571万円、上限が約860万円でした。同じく日本企業では、下限が約508万円、上限が約800万円で、全体では外資系企業が1割弱から2割程度、年収が高い企業が多く見られました。また、職種別の調査では、下限で300万円以上、上限で400万円近くも差がある職種もあり、一般的に日系企業よりも年収が高い傾向にあるといえます。
出典:Daijob.comに求人掲載中の企業から集計(2023年6月12日時点)
なぜ待遇にこのような差が出るのでしょうか。
その理由としてまず、外資系企業は給与体系に成果主義を採用していることが挙げられます。日系企業の多くが在籍年数や年齢に比重を置いた基本給がベースになるのに対し、外資系企業では年齢や性別に関係なく、成果に応じて支払われるインセンティブ給(歩合給)の割合が大きく、業績に貢献すれば基本給も上昇します。また企業によっては、日系企業のような退職金がなく、これらの費用を給与に回した結果、年収が高くなるという一面があります。
もうひとつ、外資系はそもそも海外進出を実現している企業であり、本国においては高い収益を上げているところがほとんどです。また、グローバルで人事制度を構築する企業も多く、日本の給与基準ではなくグローバルでの給与基準に合わせる企業もあるため、優秀な人材の獲得のために、初任給から高額を提示するところも少なくありません。
Q3. 外資系企業で求められる英語力の目安は?
外資系企業で求められる英語力は、職種や業界、ポジションなどによっても異なります。外資系であっても、やり取りがあるのは日本の企業のみという場合、英語力が高くなくても問題ないというところもあるかもしれませんが、一般的には日常会話以上の英語力は必要とされるでしょう。海外とのやり取りが頻繁にあるようなら、ビジネスレベルの英語力が必要になり、海外赴任の可能性もある場合はネイティブレベルが求められるかもしれません。
TOEIC®︎700点〜800点以上がひとつの目安
就職・転職の際の採用条件に、TOEIC®︎(※)の点数を条件に挙げる外資系企業もあります。メールや電話などでのやり取りが中心の場合はTOEIC®︎スコア990点満点中700点以上、会議やレポートの提出、英語でディスカッションやプレゼンテーションを行うような職種では、最低でも800点以上が目安といわれています。
また、新入社員であれば、英語で書かれた本国のブランディング・ルールブックやマニュアルをきちんと理解したり、ときには会議の議事録を英語で作成したりする仕事を任されることもあり、英語のレベルによっては仕事が限定される可能性も考えられます。
さらに、外資系企業だけでなく、最近では日本の企業でも英語を社内公用語とする企業が増えています。ちなみに日系企業では、営業が中心の部署で600点以上、海外担当部署などでは700点以上を目安とするところが多いようです。
外資系・日系に関わらず、英語はキャリアアップのために持っておきたいツールといえるでしょう。
※英語を母国語としない人を対象とした、英語によるコミュニケーション能力を評価する世界共通の試験。
Q4. 今後の働き方はどのように変わるでしょうか?
採用のグローバル化が進み、英語のコミュニケーション能力が重要視される
今後は多様性がますます重視され、エリアや国籍にとらわれない採用が活発になっていくと予測されます。欧米、東南アジアなどから意欲のある優秀な人材をスカウトするといった動きは、すでに大手・中小企業にも現れています。
日本の賃金は、国際的に見ても低い水準にありますが、労働力を確保するために、能力に見合った高い給与を提示する企業も出てきています。日本でも海外のように成果重視型の報酬体系を採用する企業が増えてくると、「有名大手企業に就職できれば生涯安心」という時代ではなくなるかもしれません。
また、今後さらにグローバル化が加速し、バイリンガル、トリリンガルの有能な人材と共に働くことになったとき、英語力に加え、自ら積極的に会話に加わっていく姿勢と英語でのコミュニケーション能力の高さが重要視されるのではないでしょうか。「日本人はシャイだから」と常に聞き役になってばかりいては、多様な人種の中で対等に渡り合うことはできません。
Q5. 早期英語のメリットと、これからの子供たちに必要な英語力とは?
幼少期からアウトプットの機会を積み重ねることが大切
社内のメンバーに、マレーシアやインド出身の社員がいます。彼らの母国語は英語ではありませんが、子供の頃から多国籍の環境のなかで育ち、臆せず堂々と人前で英語を話す姿をよく目にします。日本人は、英語にコンプレックスを持つ人が多いと聞きますが、それは英語で人と喋ったり、自分の意見を伝えたりするアウトプットの量に圧倒的な差があることが要因のひとつではないかと感じます。
大人になると、「間違ったら恥ずかしい」とか「正しいか自信がない」という気持ちから、英語で喋ることを躊躇してしまいがちですが、小さな頃から英語が身近な環境で育てば、そんなことは気にせず自然にアウトプットできるようになるのではないでしょうか。
我が家には4歳と7歳の娘がいるのですが、上の子は、最近英語の動画サイトを見るようになりました。最初は英語の音楽から入り、周囲から「英語の発音がきれいだね」と誉められたことで英語が好きになったようです。
それをきっかけに「もっとできるようになりたい」と思ったのか、親に言われるまでもなく、自分から英語を学習するようになりました。
「恥ずかしい」という感覚が少ない幼少期から英語になれ親しみ、アウトプットの機会を積み重ねることは、「できた→嬉しい→もっとやりたい」という好循環を生み、結果的に、英語力を伸ばすことにつながるように思います。大人になってからも、その経験は生きてくるでしょう。
幼少期から英語にふれ、将来の選択肢を広げる
仕事で英語能力を発揮するには、自分が本当に伝えたいことを感情豊かに表現する力、そして、それに対して相手の答えや考えを正しく理解しようとする気持ちが大切になります。翻訳機、同時通訳機器などが進化している時代ですが、「言語」は、テキストと感情が合わさってこそ相手に伝わるものであり、それはAIには賄えない部分だと思います。
これからの子供たちには、英語が話せるようになるだけでなく、身につけた英語のスキルを活かし、自分の意見を最適な表現方法で多くの人に理解してもらう力を養ってほしいと考えます。たとえば、声の抑揚、リズム、表情などが加わることで、自分なりの思考や感情がより相手に伝わりやすくなるでしょう。
言葉はコミュニケーションを楽しむためのひとつのツールです。幼少期から、英語ができることの喜びを感じながら英語にふれ、英語体験をコツコツ積み重ねると良いのではないでしょうか。
そして、グローバルな社会で生きる力の基礎を育み、将来の選択肢を大きく広げてほしいと思います。
インタビューを終えて
子供にとって英語をより身近なものにするためには、幼少期からたくさんの英語にふれ、インプットに加えて自然にアウトプットできる機会を多く与えてあげることが大切だといいます。そうすることで、「もっとできるようになりたい!」と、主体的に英語を学ぶようになると横川さんは考えます。
将来を見据え、たっぷり時間のある早期からお子さまと一緒に、楽しみながら英語体験を積み重ねてはいかがでしょうか。
プロフィール:横川友樹(よこかわ ともき)
ヒューマングローバルタレント代表取締役。2007年、早稲田大学スポーツ科学部卒業。ベイカレント・コンサルティングを経て、10年、同社に入社。20年より現職。グローバル人材の転職市場に深い知見を持つ。