首都圏の私立中学校は、約半数が入試科目に「英語」を導入するようになりました。背景には、小学校高学年で英語が教科化されたことや、さまざまな個性や可能性を持った生徒を集めたい私立中学校が、多様な入試を展開するようになったことが挙げられます。
2023年の私立中学入試では、どのような英語入試が行われたのでしょうか。また、中学受験を考えるご家庭では英語学習をどのように続けていけばいいでしょうか。
中学受験生向けの模擬試験を手がける、首都圏中学模試センターの取締役・教育研究所長を務める北一成さんにお話をうかがいました。
Q1. 私立中学受験で英語入試が広まった背景は?
Q2. 2023年の入試で話題になった英語入試は?
Q3. 乳幼児の保護者が今からできる準備はある?
Q1. 私立中学受験で英語入試が広まった背景は?
子供のさまざまな個性や可能性を見る「入試の多様化」の一環
1都5県の私立・国立中学校の受験者数は、2015年から9年連続で増加していて、2023年の入試では、受験者数は約5万2,600名と史上最多を記録しました。2020年からの約3年間、新型コロナウイルス感染症の拡大によってさまざまな行動制限がかかる中、多くの私立中学校は、オンライン授業などを充実させ、勉強や学校生活が途切れないように工夫を続けていました。こうした切り替えの早さと柔軟な対応が評価され、受験者数増加につながったと考えられます。
そしてもう一つ、受験者数が増えている理由として、子供のさまざまな個性や可能性を測る「新しい入試」スタイルが広まってきたことが挙げられます。公立中高一貫校で出題される小論文や知識活用型の「適性検査型入試」や「記述型入試」。小学校時代に頑張ったスポーツや習い事などの成果による「自己アピール入試」「プレゼン入試」。算数や国語などの得意科目だけで試験を受ける「選択型入試」などです。「英語入試」もそうした入試の多様化で広がってきた方法なので、従来の国語・算数・理科・社会の4教科を軸にした学力検査以外の方法で、私立中学校に進学する道が拓けてきたのです。
首都圏の半分の私立中が英語入試を実施
2023年の入試で「英語入試」を実施した私立中学校は141校ありました。2022年入試では146校だったのでわずかながら減ってしまいましたが、志願者数自体は推定で約2,560名と増えています。5年前の実施校は112校、受験者数は推定1,320人でしたから増加の一途をたどっているのは明らかです。すでに首都圏の私立中学校の約半数が英語入試を実施していることになります。
最大の要因は、2020年度から小学校5・6年生で英語が教科化されたことです。私立中学校の入試は、小学校で学ぶ内容を問うことになっていますし、子供たちが将来、社会に出たときに求められる力を考えて、定員の一部を割いて英語入試を始める学校が増えてきたのです。
(資料提供:首都圏中学模試センター)
Q2. 2023年の入試で話題になった英語入試は?
英語の歌に合わせたパフォーマンスも
2023年に注目された英語入試として、2つの学校を紹介しましょう。
神奈川県大和市にある、聖セシリア女子中学校・高等学校の「英語表現力入試」では、英語による面接と、英語の指示や音楽に合わせてジェスチャーやダンスをする「身体表現」を実施しました。身体表現では、机や椅子のない広々としたスペースに、受験生が先生を囲んで輪になり、体を動かしていきます。英語を聞くのが楽しい、話したり歌ったり、体を動かしたりするのが楽しいと感じる生徒にはぴったりのユニークな試験です。
埼玉県狭山市にある西武学園文理中学・高等学校では「英語4技能入試」を行いました。リーディング(読む)やライティング(書く)だけでなく、リスニング(聞く)やスピーキング(話す)も含めた4技能での入試でした。
そのほか、英語の面接をおこなう学校や、英語の試験問題を読んで、書いて回答するオーソドックスなスタイルまで、英語入試といっても学校ごとに特色が見られます。
民間試験の取得級で「優遇措置」や「特待生」が狙える
幼児期から小学校時代に学んだ英語を、中学受験に活かす方法として注目したいのが、英語の民間資格による「優遇措置」です。出願時に、英検®などの民間英語資格を取得している証明を提出すれば、取得級やスコアによって入試本番の点数に加算されたり、入試の英語試験を免除されたりすることもあります。
この方法を取る私立中学校は増えていて、優遇対象となる英検取得級は1都5県の私立中学校で「3級以上」が35%(31校)、「4級以上」が26%(23校)、「5級以上」が22%(19校)、「準2級以上」が10%(9校)、「2級以上」が5%(4校)などとなっています(首都圏中学模試センター調べ。英検以外の試験のスコアは、相当する英検級に換算して集計)。レベルの高い準2級や、2級程度を取得している受験生を「特待生」として合格させる学校もあります。幼児期や小学校低学年から積み上げてきた英語力を生かし受験前までに準備できる方法と言えそうです。
※英検®は、公益財団法人日本英語検定協会の登録商標です。
Q3. 乳幼児の保護者が今からできる準備はある?
誰もが感じる英語の必要性。乳幼児期から始めて続ければ受験にも有利
英語が得意なお子さまは、それを活かして中学受験ができる時代になってきました。英語力やコミュニケーション力、協働力が大切だということは、今の保護者世代がそれぞれのお勤め先や、仕事をするうえで感じていることではないでしょうか。私立中学校もこうした社会の変化をにらんで、今後の大学入試にもつながる力を中学入試でも確かめ、多様な生徒を受け入れたいと考えているのです。つまり、保護者や子供、そして私立学校の学力観や入試観が大きく変化してきたと言えるでしょう。
英語ができる生徒の受け入れは、伝統的に海外からの「帰国生入試」を積極的に行ってきた難関私立中学校が強く、帰国生ではない受験生が受ける「一般入試」においてハイレベルな英語入試を課す学校もあります。
ただ、近年の英語入試の広がりは中堅クラスを中心とした多くの私立中学校に広まっています。ペーパーテストで知識のみを問うのではなく、表現力やコミュニケーション力など、その子供に備わっている良いところを多面的に評価する手段として、英語入試は機能しているのです。
中学入試にさまざまな方法でチャレンジできるようになったことは、受験生や保護者にとっては喜ばしいことと考えていいと思います。なぜなら、入試の多様化は、その先の大学入試の多様化につながるからです。
英語でのコミュニケーションに親しみ、英語を好きになるきっかけとして、乳幼児期からの英語学習は大いに期待できます。中学受験を目指して、小学校4年生くらいから学習塾に通い始める子供たちが、それまでに続けてきた習い事として"英語"を挙げるのは珍しくありません。子供が好きな習い事を家族みんなで応援して、続けながら中学受験にもトライさせたいと考えるご家庭は確実に増えています。お子さまが得意なこと、好きなこと、やりたいことを続けることが、その先の入試にも活かすことができる時代になっているのです。
インタビューを終えて
英語が受験に必要な時期が、高校受験から中学受験へと移り変わってきています。ですが、試験といってもネイティブの先生と会話をしたり、歌やダンスで自己表現したりする内容もあり、決して「辛い」ものではないことが近年の英語入試の傾向から読み取れます。こうした試験に強いのは、楽しみながら自然に英語に触れあってきた子供ではないでしょうか。間違いをおそれず、興味のあることには夢中になれる乳幼児期こそ、英語学習の環境を整えるのに最適な時期と言えそうです。