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小泉先生インタビュー後編

前編では主に家庭教育で培われるビクス(基本的対人コミュニケーション技能)と、学校教育で鍛え磨かれるカルプ(認知・学問的言語運用力 )という二つの段階の言語について、東京家政大学の小泉教授にご説明いただきました。また、乳幼児期に有効な音声面からの英語教育が英語のビクス育成には有効であり、そのための家庭での取り組みが重要であることについてうかがいました。

後編では、これからのグローバル時代に求められる英語コミュニケーション力の育て方について、引き続き小泉教授にお話をうかがいます。


Q7.諸外国でも英語教育の低年齢化、コミュニケーション重視の流れがあるようですね

Q8.英語の中身が大切とは具体的にはどういうことですか?

Q9.中学校や高等学校でも授業は英語で行われるなど、コミュニケーションを重視した英語教育が広まっているそうですね

Q10.今後は日本国内でも英語が必要になるのでしょうか?

Q11.自分から学びたいという気持ちを育てるにはどうしたら良いでしょうか?

Q12.「多様な文化や価値観との共存・共生のための英語教育」を提唱されていますね


Q7.諸外国でも英語教育の低年齢化、コミュニケーション重視の流れがあるようですね

この10年で、実態として母語+αの言語が必要となり、世界中で英語が大切、子どもを英語で教育するという意識が高まっています。たとえば、シンガポールに生まれ中国語で育った子どもが大学では英語で学び、やがて結婚して英語で子育てをし、その子どもがシンガポール英語のネイティブ・スピーカーになるといったようなことがよくあります。

同様のことは、ますます多くの人々が国境を越えて居住するようになるにつれ、増えて行きます。インドでも、ほとんどの人が母語のほかに共通語として英語を話しますが、シンガポールと同様にインド英語だけを母語とする若い人が増えているのです。既に現在の世界では、英語圏以外で育った人同士がコミュニケーションをする機会のほうが、英語圏の人と英語を使う機会よりも多くなっています。そのときに重要になるのは発音よりも英語の中身なのです。

Q8.英語の中身が大切とは具体的にはどういうことですか?

小学校の英語の時間に外国語指導助手である ALT(Assistant Language Teacher)が子どもたちに 'Big voice! Smile! Eye contact!' と声をかけることがよくあります。しばしば強調される3点セットなのです。でも、実際のコミュニケーションではこのような型にはまらないケースもおこります。

ある小学校の授業中の活動で、子どもが友達に 'How are you?' と声をかけたら 'I am sad.' と返事をされたことがありました。相手の子は「スマイルはできない」と思い 'Why?' と聞くと、その子は 'Horse no.' と言って、前日の日曜日に雨が降ってお父さんと約束していた乗馬ができなかったことを絵に描いたそうです。

このように子どもたちは、英語を学んでいる中でも、友達の気持ちをくみとり、それに答えたりしたいのです。児童を見ていると、型にはまった練習をするよりも相手を思いやる気持ちが大切だというコミュニケーションの本質に気づかされる瞬間があります。

Q9.中学校や高等学校でも授業は英語で行うなど、コミュニケーションを重視した英語教育が広まっているそうですね

文法中心から内容中心の英語への転換が重視され、英語を用いて生徒と相互作用(インターラクション)を行うオーラル・インターラクション(oral interaction)が注目されています。たとえば、 'Do you have a red pen?' と聞かれたらどうしますか? ひと昔前は 'Yes, I do. I have a red pen.' と形式的に答えるのが正解でした。でも、最近の学生はペンケースから赤ペンを出し「さあ何を書くのですか?」という顔をして次の指示を待つようになっています。完全にコミュニケーションとして英語を受け止める世代が育ってきているのです。

しかしこのようなことができてもそれはビクスのレベルなので、せっかく中学校、高等学校と英語を学ぶならカルプのレベル、つまり、論理的な内容を理解し、 思考や発表ができるレベルまで到達してほしいと思います。文部科学省は、中・高等学校の英語授業を英語で進めるように指導していますが、生徒にしっかりしたビクスを付けて、高校レベルの教科書の内容を英語で扱う授業が増えると良いですね。

Q10.今後は日本国内でも英語が必要になるのでしょうか?

「インバウンド」という言葉が知られるようになりました。日本人が外へ出て英語を使う場面だけを想定してはなりません。日本が国際的な「目的地」になっているのです。また、観光客ばかりではありません。国民の少子化・高齢化が進むので、近い将来、海外からの労働力の受け入れは避けられないでしょう。日本語が通じない相手と、共通の言語が英語である、という場面は増えていきます。国の内外で英語が求められる時代がそこまで来ているのです。

英語も、たとえば野球のように、プロから県大会あるいは草野球のレベルまで、一人ひとりが自分の目的と能力に合わせて楽しみながら使うことができるようになることが望ましいと考えます。その際に最も大切なのは、学んで楽しいと思える気持ち、即ち、子ども自身の内側からの自発的な動機づけなのです。

Q11.自分から学びたいという気持ちを育てるにはどうしたら良いでしょうか?

「伝わった」という体験が「もっと学びたい」という気持ちを育てるので、具体的な体験を積み重ねることはとても大切です。
こんな例があります。ある小学校で、お店屋さんのロールプレイングをしているとき、折り紙でつくった商品が売れ残ってしまったチームがありました。その子どもたちが「値引きは英語で何と言うの?」と聞いてきたので「discountだよ」と教えました。小さなことですが、子どもたちが自らこのような思いつきをして、必要な情報を集めることができたことは貴重な体験になりました。
このような小さなきっかけが子どもたちの外国語学習の動機付けになり、将来の国際関係の現場での深い交渉力につながるかもしれないとまで考えています。

子どもたちには英語をどう使ったら良いのかを考え、仲間や社会とのつながりを見つけながら自分の中にわきおこるものを表現する力をつけてやりたいと思います。大人の仕事は、そのための環境やしかけを作ってやることです。

Q12.「多様な文化や価値観との共存・共生のための英語教育」を提唱されていますね

横浜市では2008年のアフリカ開発会議開催に伴い、市内の小学校がホストになって一校一国運動を展開しました。
ある小学校の子どもたちはアフリカから来た小学生と交流する機会に恵まれ「言葉が通じれば気持ちは一緒」だと肌で感じ、もっと英語を学びたいという意欲を高めたそうです。欧米からの訪問でなかったことも、かえって良かったのかと思えます。

今の子どもたちが大人になる頃には私たちには予測もつかない世界が待っています。そんな中でも、英語教育を通じてお互いに理解し合い、他者を意識したコミュニケーションの力を伸ばすことが、子どもたちが将来自分の世界を広げていく基礎となるでしょう。

後編まとめ

小泉先生は子どもたちの将来を見据えた上で、英語教育の重要性を強調されています。国の内外において、今後ますます英語へのニーズが高まっていくことは間違いないようです。多様な文化や価値観と共存・共生できる子ども達を育てるためにも、常に英語の中身の大切さに注目することが肝要です。子ども達一人ひとりが自分から学びたいという気持ちを持って、人と人との温かいコミュニケーションの土台を築いていくためには、サポートする大人にも広い視野が求められているようです。


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プロフィール:小泉 仁(こいずみ まさし)

東京家政大学教授。日本児童英語教育学会会長。東京大学大学院修士課程修了。神奈川県立高等学校教諭、東京学芸大学附属高等学校教諭、文部省・文部科学省教科書調査官、近畿大学教授などを経て現職。『小学校英語教育の展開』(共著、研究社、2010年)、『新しい英語科授業の実践』(共著、金星堂、2013年)などの著書がある。

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