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英語教育に関するニュース

小泉先生インタビュー前編

激動するグローバル時代への対応を含め、学校教育現場では英語教育が大きく変わろうとしています。小泉先生は幅広い調査から、これからの英語は「世界経済全体を支配する英語圏の人々の母語」から「世界経済・技術・文化に大きな影響を与える、あらゆる地域の人々が使う国際共用語」になり、30年後の英語力は地域の差ではなく個人の差になるだろうと予測されています。

2020年の小学校3年生からの英語必修化、5年生からの教科化という流れの中で、家庭での英語教育に今、何が求められているのでしょう。前編では言語習得の構造について、後編では世界の英語教育の流れを中心にお話をうかがいます。


Q1.これからの英語教育に大切なことは何ですか?

Q2.ビクス(基本的対人コミュニケーション技能)の特徴を教えてください

Q3.カルプ(認知・学問的言語運用力)の特徴を教えてください

Q4.真似をするのが上手という子どもの特性は英語教育に有効だそうですね

Q5.英語の音とリズムは幼いときほど身につくのでしょうか?

Q6.身につけた英語の力を継続していくことが大切だそうですね


Q1.これからの英語教育に大切なことは何ですか?

多くの日本人が抱えている英語コンプレックスの原因として、従来の英語教育が文法訳読中心で、知識の量でばかり評価してきたことが指摘されています。今後は英語に対する日本人の姿勢を変えていくことが求められています。言葉の壁を越えて、困っている人がいたら助ける、相手が話している意味を理解しようとする、言いたいことが伝わるように努力し、積極的に発言するといった対人関係の中での自発的コミュニケーションの姿勢を評価することが重要なのです。

そのためには、まず英語を指導する側の意識を変えなくてはなりません。コミュニケーション能力の構造を理解することが大切です。研究者は言語能力の発達にはビクス(基本的対人コミュニケーション技能)とカルプ(認知・学問的言語運用力)という二つの段階があると考えています。

Q2. ビクス(基本的対人コミュニケーション技能)の特徴を教えてください

赤ちゃんは生活の中で親と同じ言葉を無意識のうちに身につけてしまいます。これはビクス(BICS:Basic Interpersonal Communicative Skills)という領域で、「パパ、大好き」とか「おなかすいた」などの、暮らしの中で必要な対人関係や欲求を満たすための言葉であり、言語能力の基礎として重要な役割を果たします。

アメリカでは子どもが 'Give me cookies.' と言うとお母さんが 'Please.' とつけ加えて、人にものを頼むときの言い方を教えます。このように子どもは親の真似をしながら日常的なコミュニケーションの技を身につけていきます。そして5歳くらいまでに母語の基礎的な文法が完成されます。その後学校に通うようになると、算数でも理科でも社会科でも、新しいことを学ぶ中で日常生活よりも高いレベルでの言語運用力を身に着けていくのです。ここで大切なことは、子どもにとっては、外国語を習得する上でも、外国語のビクスから身に着けていくことが自然な順序だということです。

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Q3.カルプ(認知・学問的言語運用力)の特徴を教えてください

子どもは学校教育の中で、日常的な言葉の技であるビクスの上に、カルプ (CALP: Cognitive/Academic Language Proficiency)と呼ばれる力を積み上げていきます。教室で新しい知識や世界に触れる過程で、ビクスよりも高いレベルの言語力が必要になります。それをカルプと呼びます。抽象的な語彙を駆使して考えを整理したり、相手を説得したり、比喩を用いたりする力です。たとえば、小学6年生なら「先生と僕らの意見は平行線です」などと言うこともできますが、算数で「平行」という概念を学ぶからこそ、その言葉が使えるのです。カルプが身につくことで子どもの言葉は大人の言葉になっていきます。ビクスだけでも日常の会話はできますが、「大人の言葉」とは別なのです。

Q4.真似をするのが上手という子どもの特性が英語教育に有効だそうですね

幼い子どもは外国語の音を真似るのが好きです。「ごっこ遊び」も大好きです。小学校でも、素直に真似することに長けているのは1~3年生です。たとえばアメリカ人は'girl'という単語は少し舌を巻いて発音します。1年生はそのまま真似をして発音しますが、6年生では「カタカナにしたらどう書くのだろう」と 考えてしまいます。

脳の発達からみても、幼い子どものほうが英語の音声に素直に対応できるのです。10~12歳ぐらいになると言語や論理をつかさどる左脳の働きが発達し、機械的な真似では満足しなくなります。代わりに、英語の構造や抽象的な語彙を学ぶことには適した時期になるのです。

このことから、何でもあるがままに受け入れる幼いうちにまず英語の音声やリズムなどを感覚的に身につけて、その後、発達段階に応じて判断力や思考力、自主的な発表力を付けるための英語指導の方法を考えて行くのが良いと思います。

Q5.英語の音とリズムは幼いときほど身につくのでしょうか?

さまざまな研究事例や考察から、音声面では外国語の早期教育の効果はあるという説が支持されています。英語のリズムに乗る力も幼いときほど働きやすいのです。英語のリズムと国語のリズムが混じることもないので国語への悪影響を心配する必要もありません。

英語の単語を聞いて理解する最初の段階では、語頭と語尾が大切なのですが、たとえばタイガー tiger という単語の -erの音は日本語にはありませんが、チャンツや歌で自然に身につきます。また、語尾が韻(ライム)を踏むのも英語の歌に特有です。

こうした英語の音声面の特徴は歌で覚えると、音とリズムとイントネーションなどが自然なままで耳に長く残るので、幼いうちに英語のプロソディ(音声面のさまざまな特徴)を、歌や踊りで全身を使って身につけることは効果的でしょう。

Q6.身につけた英語の力を継続していくことが大切だそうですね

耳に残った英語のリズムは「一生もの」なので、幼いときの英語体験が将来生きる可能性は高いでしょう。ただし、幼いときほど、具体的な暮らしの中で英語にさらされることが大切なので、親の意識的な環境づくりは重要です。親と一緒に英語を使う、英語の絵本を楽しむ、英語で遊ぶイベントに連れて行くなど、親子の気持ちが通じ合うような楽しい英語の時間をたくさん持って、長い目で子どもの英語力を育てていくことが求められます。

絵本などの教材は子どもが夢中になるもので、繰り返し同じ言葉が使われているものが望ましいですね。絵本の中に道を進むシーンがあれば 'out of' や 'through' といった場所に関する前置詞の感覚が養われますし、'Go straight.' 'Turn right.' などの命令形を自然に学ぶこともできます。
ただし、ネイティブのような発音は幼い子ほどすぐ身につきますから、そこをゴールだと勘違いせず、Q2やQ3でも書いたように、ビクスのレベルからカルプへと発展する英語力を意識し、年齢に相応しい学び方を考えることが大切になります。

前編まとめ

子どもが学校に上がる5歳くらいまでに母語が完成し、人と人とのコミュニケーションの基礎を身につけることを考えると、この時期に親がどのような言葉や態度で子どもに接するかが問われているようです。
また幼い時ほど無理なく英語の音やリズムが身につきやすく、こうした体験は将来、英語でのコミュニケーションを楽しみ、より高いレベルの英語力を育む基盤づくりにも効果的だといえます。

後編では世界の英語教育の流れや、今後子どもたちに求められる英語のコミュニケーション力の養い方などをうかがいます。

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小泉先生近影
プロフィール:小泉 仁(こいずみ まさし)

東京家政大学教授。日本児童英語教育学会会長。東京大学大学院修士課程修了。神奈川県立高等学校教諭、東京学芸大学附属高等学校教諭、文部省・文部科学省教科書調査官、近畿大学教授を経て現職。『小学校英語教育の展開』(共著、研究社、2010年)、『新しい英語科授業の実践』(共著、金星堂、2013年)などの著書がある。

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