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  • 更新日:2020年6月9日
  • 公開日:2020年5月26日

【専門家に聞く】赤ちゃんとママのための熟睡学入門!新生児の脳を育てる「良い睡眠」とは?—前編—

【専門家に聞く】赤ちゃんとママのための熟睡学入門!新生児の脳を育てる「良い睡眠」とは?—前編—

赤ちゃんの寝顔にホッと心を癒されるママやパパは多いに違いありません。赤ちゃんは、何のために眠るのでしょう。また、寝ている間に赤ちゃんの脳ではどんなことが起こっているのでしょうか。
2017年にベストセラーになった『スタンフォード式 最高の睡眠』。著者は、現在もスタンフォード大学医学部で睡眠をテーマに研究を続けている西野精治先生です。スタンフォード大学はさまざまな研究で世界の最先端を行く名門大学ですが、睡眠の分野でも同様で、アメリカの中でもっとも早く睡眠医学に注目した大学です。
今回は、同大学「睡眠・生体リズム研究所」所長でもある西野先生に、赤ちゃんとママの健康に欠かせない「睡眠」のメカニズムについて伺いました。

【後編:赤ちゃんとママのための熟睡学入門!眠ってキレイになる「ママの睡眠」を考える はこちらから】

赤ちゃんの脳を育てる「睡眠」とは?

赤ちゃんの脳を育てる「睡眠」とは?

赤ちゃんは何のために眠るのでしょう

生まれたばかりの赤ちゃんは1日の大半を寝て過ごします。赤ちゃんはなぜ眠るのでしょう。
私たち大人も、寝不足が重なると体だけでなく頭が働かなくなりますが、脳や体の急速な成長期にある赤ちゃんにとって、睡眠不足が引き起こすダメージは大人以上に深刻です。「質の良い脳」は「質の良い眠り」から作られることがわかっているからです。

赤ちゃんの脳は生まれてから3歳くらいまでに約80%、12歳でほぼ100%が完成するといわれています。脳の発育時期には「考える力・記憶力・運動機能」など、生きるために必要な能力の基礎が育まれると考えられています。そして、脳の正常な発達は赤ちゃんが寝ている間に行われることが、脳科学の研究からわかってきました。質の良い睡眠を十分に取ることは、赤ちゃんの脳の土台を作る上でとても重要なことなのです。

新生児の脳の発達に欠かせない「レム睡眠」って何?

赤ちゃんだけがもつ独特の睡眠パターン

「レム睡眠」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?一言で言えば「動的な睡眠」のことで、その反対の静的な深い眠りを「ノンレム睡眠」と言い、人はこの2種類の睡眠を繰り返して目を覚まします。

ノンレム睡眠では脳も体も休息していますが、レム睡眠では体は休息しているものの、脳は活発に活動している状態にあります。寝ている子供のまぶたの奥で眼球が素早く動いているのを見たことはありませんか?体は寝ていても脳は起きているために起こる現象で、急速な眼の動きは夢見体験を伴うレム睡眠のときに多く見られます。

大人の睡眠ではノンレム睡眠が全体の80%ほどを占めていますが、生後間もない赤ちゃんは全睡眠の50%以上がレム睡眠であることがわかっています。レム睡眠とノンレム睡眠の周期も大きく異なり、大人が90〜120分周期であるのに対し、赤ちゃんは40〜50分周期で、小刻みに寝たり起きたりを繰り返します。個人差はありますが、大人の睡眠パターンとはまったく別物と言えるのです。

実は、脳が未発達な時期に見られるこの睡眠パターンや睡眠量の変化にこそ、脳の成長の秘密があります。そして、赤ちゃんの脳の成長を促すために特に「レム睡眠」が不可欠であることも明らかになってきました。

赤ちゃんの脳は寝ている間に学習している

レム睡眠中の赤ちゃんの脳は、神経細胞とそれを結合させるシナプシスが大人の2倍の速さで増え、起きている間に受けた情報を整理しながら盛んに神経伝達の回路を形成しています。これは発達過程にある未熟で柔軟な脳だけがもつ特別な能力です。レム睡眠は新生児期をピークに成長とともに減っていき、脳の発達が終了する12歳くらいで大人と同様の睡眠パターンを獲得します。

総睡眠時間、ノンレム睡眠、レム睡眠の年齢による推移

総睡眠時間、ノンレム睡眠、レム睡眠の年齢による推移
※参照
Roffwang, H.P.,Muzio, J.N. and Dement, W.C. Ontogenetic development of the human sleep-dream cycle.Science,1966. 152(3722):p.604-19.

未発達で柔軟な脳がもつ優れた能力と睡眠の相関性を示す有名な実験があります。
生まれて間もない子猫に眼帯をかけ、6時間右目をふさぎます。その後、子猫の脳を調べてみると、右目からの視覚情報は左脳に入らないため、左目から左脳にも視覚情報が入るようになり、視覚情報をつなぐ“新しい神経回路”が形成されていました。

このように、発達段階にある脳が刺激に応じて最適な処理システムを作り上げていくことを「可塑性(かそせい)」と言います。子猫の頃は活発な脳の可塑性が見られますが、脳が成長して大人の睡眠パターンに近づくと起こりにくくなります。重要なことに、脳の可塑性は、子猫が片目だけで視覚情報を得る経験をした後に睡眠をとらないと起こりません。人間の赤ちゃんも同様です。起きている間に視覚・聴覚・触覚などによって学習した情報の断片を次々と脳に送り、膨大な情報を「睡眠」によって記憶し、知識化するのです。

「記憶」は眠ることで定着する

睡眠の重要な働きのひとつに「記憶」の定着があります。そのプロセスは、レム睡眠中だけでなく入眠直後の深いノンレム睡眠中にも行われることがわかってきました。さまざまな実験からも“記憶は眠ることで固定する”ということが定説になっています。
睡眠時間を削って勉強した者が結果を出せるというのは俗説で、まったく根拠がありません。ちなみに物理学者・哲学者として知られるアインシュタイン博士は1日10時間以上眠るロングスリーパーだったといわれています。

赤ちゃんのための「ベストな睡眠時間」とは?

赤ちゃん自身の睡眠リズムに合わせることが大切

必要な睡眠時間には個人差があるため、一概には言えません。平均的な睡眠時間として、生後3ヶ月までは14〜17時間、4ヶ月から1歳2ヶ月くらいまでは12〜15時間、1歳3ヶ月から3歳までは11〜14時間くらいといわれているので目安にしてはいかがでしょう。

また赤ちゃんは月齢や年齢によって一度に起きていられる時間=活動時間が違います。新生児では約40分程度、生後6ヶ月頃でも約2時間ほどで眠くなってしまいます。これを超えると疲れてしまい、ぐずりや夜泣きの原因になることも。睡眠時間や活動時間は赤ちゃんの成長のスピードや運動量などによっても違うので、平均よりも多少長い、短いからといってあまり心配する必要はありません。まずは赤ちゃん自身の睡眠リズムに合わせてあげることが大切です。

月齢別の活動時間と睡眠時間の目安

月齢 活動時間の目安 ベストな睡眠時間
(合計)
0〜1ヶ月 〜約40分 約14〜17時間
1〜2ヶ月 約40分〜1時間
2〜3ヶ月 約1時間〜1時間20分
4〜5ヶ月 約1時間20分〜1時間30分 約12〜15時間
6〜8ヶ月 約2時間〜2時間30分
9ヶ月 約2時間30分〜3時間
10〜1歳2ヶ月 約3時間30分〜4時間
1歳3ヶ月〜1歳半 約4〜6時間 約11〜14時間
1歳半〜3歳 約6時間
4〜5歳 約5〜12時間 約10〜13時間

※参照
『ママと赤ちゃんのぐっすり本「夜泣き・寝かしつけ・早朝起き」解決ガイド』愛波文著、西野精治監修(講談社)

赤ちゃんの睡眠不足によるリスク

大人と違って乳幼児には、睡眠不足に対する自覚症状がありません。発達過程の赤ちゃんに睡眠トラブルがあった場合、成長してからキレやすい、常にイライラしている、勉強に集中できないといった症状が出る可能性もあります。また大人同様、肥満や糖尿病の発症にも睡眠不足が関係しているとする説も。

睡眠不足は乳幼児だけの問題ではありません。妊婦が不眠の問題を抱えていると、出生時の赤ちゃんに悪影響を与える可能性が指摘されています。赤ちゃんの睡眠リズムは、ママのお腹の中にいるときからすでに始まっていると考えた方がいいかもしれません。

赤ちゃんにとって「良質な睡眠」とは何ですか?

赤ちゃんにとって「良質な睡眠」とは何ですか?

赤ちゃんが眠る理由と睡眠のミッション

赤ちゃんの睡眠は「量」だけでなく「質」を高めることも大切です。そもそも赤ちゃんが眠る理由は、ただ眠いからだけではありません。睡眠には、
・休息
・記憶の整理
・免疫力の向上
・脳の老廃物の除去
などの目的があります。加えて、赤ちゃんの眠りの質を高めるために欠かせないのが「ホルモンバランスの調整」です。ここでは赤ちゃんの成長に関わる2種類のホルモンとその役割についてお話ししましょう。

「成長ホルモン」と「メラトニン」が熟睡のカギ

成長ホルモン

赤ちゃんの身体的成長に深く関わっている「成長ホルモン」は、生後3ヶ月頃から分泌され、4〜5歳でピークを迎えます。また、寝始めに大量に分泌され、睡眠の後半にはほとんど分泌されなくなることがわかっています。成長ホルモンの働きには、赤ちゃんの体の成長に欠かせない次のような役割があります。

①新陳代謝を高め、細胞を修復する。
②筋肉の生成を促進する。
③骨を形成し、成長を促進する。
④情緒を安定させる。

“寝る子は育つ”といわれるのも、成長ホルモンが睡眠時に多く分泌されることと関連しています。赤ちゃんも夜間にきちんと眠ることで朝から元気に活動することができるのです。

メラトニン

「メラトニン」も夜間の睡眠中に合成され、分泌されます。細胞を守り、睡眠と覚醒の生体リズムを作る働きを担うホルモンで「眠りを促すホルモン」とも呼ばれています。1~5歳くらいまでの間にもっとも多く分泌されるので、この時期は「メラトニンシャワーを浴びる」と表現されます。

メラトニンは、感情や精神の安定に関わる神経伝達物質のセロトニンから、夜間に合成されます。セロトニンの合成には、日照時間が影響しますので、日中は太陽の光を浴びるようにしましょう。逆に夜に光を浴びると、セロトニンからメラトニンの合成が抑えられ、メラトニンの分泌が減り、眠りや、リズムの形成に悪影響を与えます。このメラトニンの合成、分泌を抑える光の波長がブルーライトの領域であることがわかってきました。ブルーライトは特にLEDの照明に多く含まれますので、寝室の照明は暖色系の波長が好まれます。

22時から26時は美肌の“シンデレラタイム”?

かつて女性誌などでは「夜22時から深夜2時はシンデレラタイム」といわれ、この時間に眠っていると美肌になるとうたわれていました。成長ホルモンが夜に多く分泌されることからこのようにいわれたようですが、医学的な根拠はありません。

成長ホルモンは“眠りのゴールデンタイム”と呼ばれる約90分持続する寝始めのノンレム睡眠時に分泌のピークを迎えることが知られています。入眠直後のノンレム睡眠は一晩のうちでもっとも深い眠りで、健康な睡眠では2回目以降のノンレム睡眠が1回目より深くなることはありません。つまり最初の90分間で深いノンレム睡眠が得られていれば、睡眠の時間帯に関係なく十分な成長ホルモンを確保することができるのです。

成長ホルモンは子供だけのものではありません。量は減りますが、何歳になっても分泌されるホルモンです。美容的要素だけでなく、骨の成長や自律神経を整えるためにもゴールデンタイムの睡眠が重要です。毎日同じ時刻に寝起きするなど、睡眠のリズムや環境を整えて質の高い睡眠が得られるよう心がけてほしいと思います。

朝までぐっすり!良質な眠りを育む「睡眠環境」の作り方

赤ちゃんが毎日快適に、安心して眠るためには睡眠環境を整えることも大切です。ここでは具体的に「光環境、部屋の温度・湿度、お昼寝の環境」の3つのポイントについて解説します。

1.光環境

日中:睡眠と覚醒は1セット。質のいい睡眠と目覚めに太陽光は欠かせません。朝の日光浴で体内時計が整いやすくなり、夜間のメラトニンの分泌も高めます。赤ちゃんが目を覚ましたらカーテンを開けて光を取り込みましょう。天気が良い日はお散歩へ。日中になるべく明るい場所で過ごすことはママのストレス解消にもなるのでオススメです。
夜間:天井からの蛍光灯の光は明るすぎる場合が多いので、就寝前は間接照明やフットライトなどを利用して部屋を暗くしましょう。携帯やテレビ、タブレット端末が発するブルーライトは赤ちゃんの眠りの妨げになることもあるため、就寝の2時間前までの利用が理想的です。

2.部屋の温度・湿度

赤ちゃんに最適な室内温度は20〜22度とやや低めが推奨されていますが、個人差があるため赤ちゃんの状態を見ながら調節しましょう。寝汗をかいているような場合は温度が高すぎ、手足の指先が冷たいようなら寒すぎます。湿度は40〜60%が目安です。必要に応じて除湿器や加湿器などを利用して快適な湿度をキープしてはいかがでしょう。

3.お昼寝の環境

睡眠中は「感覚遮断」と言って視覚や聴覚は働きませんが、浅い睡眠のときには赤ちゃんは外部環境を察知しています。お昼寝の環境もできるだけ夜と同じようにした方がいいでしょう。カーテンを閉めて照明を落とすなど、できるだけ部屋の中を暗くしてあげてください。また毎回同じ場所でお昼寝できると赤ちゃんも安心して眠ることができます。

いかがでしたか?体は寝ているのに脳は起きている状態の「レム睡眠」が発見されたのは1953年。以来、謎の多い睡眠のメカニズムに多くの脳科学者たちの注目が集まり、さまざまな研究が行われてきたそうです。

世界初の本格的な睡眠研究機関「スタンフォード大学睡眠研究所」で睡眠の課題に向き合い、質・量ともに改善の方法を研究し続けてきた西野精治先生。大学の枠を超え、著書や講演を通じて日本人の睡眠不足に警鐘を鳴らしています。「とりわけ子供やお母さんにこそ良質な睡眠を」と語る西野先生。後編では子育てに追われるママの睡眠不足解消法も教えていただきます。お楽しみに!

西野精治先生
プロフィール:西野精治(にしの せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学「睡眠・生体リズム研究所」(SCNL)所長。30年以上に亘り、睡眠と覚醒のメカニズムを幅広い視野で研究する。令和元年5月に睡眠に特化したサービスを行うブレインスリーブ社を設立。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』(PHP新書)などがある。

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