ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 英語教育に関するニュース > 英語教育の目標は「遊びながら楽しむ」でいい~東京学芸大学附属大泉小学校・石毛隆史先生インタビュー~

英語教育に関するニュース

石毛隆史先生1

今回は、東京学芸大学附属大泉小学校で英語を指導されている石毛隆史先生にインタビュー!
『えいごえほん百科 スタート』『えいごえほん百科 ジャンプ』などの監修もされている石毛先生に、効果的で楽しい英語学習のコツや、子供を英語嫌いにさせない教え方の秘訣を伺いました。


Q1.石毛先生と英語との出会いを教えてください。

Q2.英語の学びを楽しいものにするために、心がけていることは何ですか?

Q3.小学校の教科として英語をどのように評価したらいいのでしょうか?

Q4.家庭でも英語を学ばせたい保護者に、メッセージをお願いいたします。



Q1.石毛先生と英語との出会いを教えてください。

小学5年生のとき、父親の転勤で英語が全くできないまま渡米

僕はアメリカ南部のテネシー州で小学校高学年から高校時代までを過ごしました。そういった環境の中で英語を身につけられたのは、今思えばとても恵まれていたと思います。
ただ、渡米したのが小学5年生のときだったので、最初の1年半くらいはとても苦労をしました。

元々、野球少年だった僕は、甲子園に行くのが夢でしたから、渡米すること自体に気が進まなかったというのもあります。「祖母の家に残るんだ!」とぎりぎりまで言い張っていました。
しかし結局、渡米することは避けられませんでした。

父の転勤が決まった8月から渡米する12月まで、定期的に英会話学校に通っていましたが、それまで英語の勉強なんてしたことがなかったため、とても間に合いません。英語が全くできないまま渡米することになりました。

現地の公立小学校には日本人が少なく、最初は言いたいことを伝えられませんでした。
辞書を持ち歩いて、自分の伝えたいことは、辞書を引いて相手に伝えるという感じでした。友達が、「こういうふうに言うといいよ」と教えてくれることもありましたが、やはり大変でした。

でも、中学1年生のときに少人数の私立の学校に転校して、中学2年生でサッカーをはじめた頃から少しずつ、会話が通じる楽しさを感じられるようになれたんです。
「相手の言っていることがわかる、相手に通じる」という喜びを知った経験は、僕にとって大切なものになりました。
ですから、これから英語を学ぶ子供たちにも、ぜひそういう体験をしてほしいと思います。

小さな子供たちの面倒をみたことが英語の先生になるきっかけ

こうして英語がわかるようになってきて、アメリカの日本人コミュニティの中で、小さな子供たちの面倒をみたりしているうちに、教員の仕事に興味が湧いてきたんです。
日本語補習校の先生には、教員になるなら東京学芸大学に進学することをすすめられました。
東京学芸大学なら、幼稚園・小学校・中学校・高校で教える免許が取れるので、小さな子供を教えるのはもちろんのこと、英語を専門に教えるにも向いていました。
そこで東京学芸大学に進学して英語の先生になり、現在、東京学芸大学附属大泉小学校で英語を教えています。

石毛隆史先生2


Q2.英語の学びを楽しいものにするために、心がけていることは何ですか?

記憶ではなく「何となくわかる」実感を重視

日本の英語教育は、ひたすら単語を覚えたり、記憶に頼る学習が多いですよね。たくさん覚えられる子が評価されるという傾向があると思います。
でも僕は、「聞いていたら自然に言えるようになっていた」「何となく相手に通じた」という実感を、英語の授業で経験してほしいんです。

例えば、ご家庭で英語の絵本を読むとき、絵を見ながらお母さんが、"Do you like tigers?"(トラは好き?)とたずねて、子供が「こわい!」という反応をしたとします。
そうしたら、"Oh, you don't like tigers! I don't like tigers, too."(そっか、あなたはトラが嫌いなんだね!私も嫌いなんだよ。)とお母さんが返します。こういったやりとりができると、子供は「相手に通じた」という実感が得られます。

英語と英語の間に日本語をはさんでも、もちろんかまいません。
そういうことを繰り返すうちに子供は、"I like~."というフレーズや動物の名前の意味を想像できるようになるはずです。

シンプルなフレーズを繰り返し使うことが大事

シンプルなフレーズを繰り返し使う中で英語表現を理解していくことは、英語を推測する力を引き出すためにも非常に大事です。
例えば、僕が「数」をテーマに小学3年生の英語の授業をしたときは、こんなふうに進めました。

自分のことをまずは話します。"How many pencils do you have? I have six pencils."(筆箱には何本の鉛筆がありますか? 私は6本の鉛筆を持っています。)と言いながら、教員の筆箱の中にある鉛筆を見せます。そして、子供たちに自分の筆箱を開けてもらい、自分たちが持っている鉛筆を数えさせます。
そして、持っている鉛筆の数に応じて、"One, two, three, four... you have four pencils!"(1本、2本、3本、4本......あなたは4本の鉛筆を持っていますね!)というふうに言ってあげます。
これを児童の数だけひたすら繰り返すんです。

そうすると、同じ数が何度も出てきます。勘のいい子なら、fiveのところまできて、「あ、僕5本だ!」と日本語で発言したりします。
そうしたら"You have five pencils! I have six pencils."(あなたは5本の鉛筆を持っているね! 私は6本の鉛筆を持っています。)と、すかさず僕が返します。

全員の鉛筆の数がわかったら、今度はそれを足していきます。
"Two plus four is six. Six plus two is..."(2足す4は6。6足す2は......)というふうにクラス全員の鉛筆を足していったら3ケタの数字になりました。

学習指導要領では、「20」まで教えればいいことになっていますが、授業では「ここまで教えればいい」ということに、あまりしばられすぎないようにしています。
世界にはもっといろんな数字があるし、英語を推測する力を大事にしてほしいからです。

単語の意味は教えなくてもいい

学習のねらいに合わせて、最初から答えを用意して授業をするよりも、繰り返しのフレーズを聞いているうちに、何となくその日のテーマが身につくという順序の方が、僕は英語の学習には適していると思います。

例えば、"like"(好き)という単語について教えたいとします。
単語の意味を教えなくても、
"You like bananas!"(君はバナナが好きなんだね!)
"I like strawberries!"(私はイチゴが好きなの!)
"Do you like bananas?"(君はバナナが好きなの?)
"I like strawberries!"(僕はイチゴが好きだよ!)
といったセンテンスを、クラスの一人ひとりに投げかけているうちに、「『好き』と言いたいときはlikeを使えばいいのかな?」ということが何となく感覚としてわかってきます。
この「何となくという実感」が大事なんですね。暗記で単語の意味がわかっても、そこには実感がないから、覚えらません。

ふだんの会話の中で、親子でも友達同士でも、お互いの好きなことをたくさん話しているはずです。お互いのことをよく知っていれば、「あの子はあれが好きだよね?」「私が好きなもの、きっと知ってるはずだよ」と、想像力を働かせることができます。英語学習以前に、そういう気持ちの通い合いや、お互いの関係性があればこそ、こういう繰り返しフレーズの問いかけが授業でも活きてくるんです。

英語の授業を通して、想像しながら会話を聞くことの大切さを子供たちに実感してほしいです。

歌では「単語」ではなく「音」を聞きとる

また、本校では英語の授業で、マザーグースやナーサリーライム(童謡)などの歌をよく取り入れています。
英語の歌は、英語の自然な音やリズム、イントネーションを身につけるためにオススメです。
言葉のリンキング()も、歌だとすっと入ってきますね。子供はとても耳がいいですから。

授業で"If You're Happy and You Know It"(『幸せなら手をたたこう』)の曲を聞かせたことがあります。
そのときに、どんな音が聞こえきたのか子供たちにたずねました。
聞こえた単語ではなく、音をたずねたんです。
すると、"If you're happy and you know it, and your face will surely show it. "(幸せならあなたはわかるはず、幸せならそれを見せたくなるはず)という歌詞の部分が「『フェイスショリショリ』って聞こえた! ひげそってるね!」と、嬉しそうに答えた子がいました。
子供はとても耳がいいですから、歌を覚えさせようとしなくても、こちらが歌って聞かせているうちに自然と覚えてしまうものなんですね。だから、自分が聞きとったひとまとまりの音、パッと言うことができるんです。教えるときにこうした子供のすばらしい感性を利用しない手ないでょう。歌を授業に活用すれば、子供のこうした特性もどんどん活すこができます

また、英語の音に聞き慣れないと、しゃべれるようにはなりませんから、耳からたくさん聞かせることはとても大事です。その際に、歌ってとてもいいんですよ。

※リンキング(Linking):
2つの英単語をつなげて、1つの英単語のように発音するルール。
例えば、"Don't you?"のように語尾が"t"の英単語と語頭が"y"の英単語が続く場合、"t"と"y"をつなげて"ch"と発音する。

石毛隆史先生3


Q3.小学校の教科として英語をどのように評価したらいいのでしょうか?

理想の評価とは、子供の学ぶ意欲をさらに引き出す評価

2020年から、小学校でも英語が教科になりますが、教科として学ぶことで、「英語ができなくちゃいけない」と子供や親にとってプレッシャーになるのではないかという心配はあります。
特に、中学受験の科目に英語があったら、受験のために英語を学ぶことになるのでプレッシャーは増しますよね。

英語の授業の評価方法については、現段階ではまだまだ模索中です。
ただ、評価されたことで子供がもっと学んでいきたいと思えるような評価方法を考えなければいけないと感じています。

本校では、実験的に、小学5・6年生にルーブックのようなものを示して、今の自分が「学びの段階」のどの位置にいるのかを意識させるようにしています。
ルーブリックには次のような感じで段階が示されており、子供自身が段階に応じたゴールをイメージできるようになっています。

「理解できたことに日本語で答えられる」
        ↓
「聞かれたことに英単語で答えられる」
        ↓
「聞かれたことがわかって英文で答えられる」
        ↓
聞かれたことに答えられて、かつ相手に質問することもできる

繰り返し英語表現を耳で聞いて理解できるようになり、だんだん口にも出せるようになると、英語で話すことが実感できるんです。
子供たち自身に学びの段階を意識させて、次はどの段階に進みたいのかを考えさせるのは、英語を学ぶモチベーションにもなりますし、今後の英語の授業の評価方法としても、1つのよい例になるのではないかと思います。

※ルーブリック:学習達成度を測るための評価基準の1つで、観点と尺度からなる表として評価基準を示す。テスト形式の方法では評価が難しい部分を、より適切に評価できるとされている。また、評価基準を知ることで、学習者の学習意欲と学習速度の向上が見込めるとされている。

小学校で英語を学ぶ本当の意義

世知辛い話ですが、小学校・中学校・高校と学年が上がるにつれて、受験のために英語を暗記する授業がどんどん増えていきます。
でも、小学校のときに「耳で聞いて何となく英語がわかる」という成功体験があれば、「あの頃はわかったんだ」という自信がもてて、中学・高校の英語でつまずいても、英語に対してネガティブな考えを軽減させることができると思うんです
学ぶことが楽しい」「何となくわかる」という成功体験を味わえるのは、小さい頃に英語を学ぶ本当の意義だと思いますし、楽しいと思いながらする英語学習は、心の糧になります。
小さな成功体験が、その子を生涯、きっと支えてくれると思います。

英語学習の目的らわれぎないように

「英語を学ぶのが楽しい!」と子供が感じられたら、「何のために学ぶの?」いう疑問は出てきませんよね?
英語の授業をそういうものにしたいです。

「将来必要だから学ぶ」という理由だけだと、何だか悲しいですよね。
未来がわからないからこそいろんなことを学んでおいたほうがいいですし、学ぶことが楽しいと思えれば、自然に英語学習に取り組んでもらえると思います。

石毛隆史先生4


Q4.家庭でも英語を学ばせたい保護者に、メッセージをお願いいたします。

「子供におしつけない」「子供ができると思わない」ということが秘訣です。
お母さんやお父さんが、お子さんの年齢だった頃を思い出してみるといいと思います。

よく、自分ができなかったことを前倒しで教えようとする親御さんがいますが、英語教育にしても、自分が嫌いだった頃と同じ勉強をさせたところで、うまくはいかないですよね? 
「どうしてこんなこともできないの!?」なんて言いたくなるときは、自分ができなかった頃を思い出してみましょう。
そうしたら、少しはイライラも減り、「一緒に学ぼう!」という余裕が出てきます。

子供と一緒に英語の歌に耳を傾けて、「ここ、何て言ってたの? お母さんわからないから、もう一度聞かせて!」って親が身を乗り出してきたりしたら、子供も嬉しくなります。
正しい英語にこだわるよりも、英語を親子一緒に楽しむ時間を大事にしてほしいです。

取材を終えて

取材の終わりに、石毛先生が「僕自身、さまざまな出逢いに導かれて、思いがけず英語を教える道に進みました。ですから、子供たちには、英語はもちろんのこと、さまざまな出逢いを大切にしてほしいです」とおっしゃっていたことが印象的でした。
英語学習では目に見える成果を求めがちですが、目に見えない部分で人生の下支えとなるのが、本当の学びなのかもしれません。

そして、子供が英語を「学ぶことが楽しい」「何となくわかる」と実感するためには、学校でも家庭でもサポートする側の姿勢がやはり重要なんですね。


石毛隆史先生プロフィール

プロフィール:石毛隆史(いしげ たかふみ)
1983年生まれ。東京学芸大学附属大泉小学校教諭。
東京学芸大学中等教育教員養成課程卒業。同大学修士課程修了。
監修書に『えいごえほん百科 スタート』『えいごえほん百科 ジャンプともに、講談社)がある。

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