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幼児教育の経済学

ジェームズ・J・ヘックマン (著)
『幼児教育の経済学』
東洋経済新報社

いつ、どのように子どもの教育に取り組むべきか?

『幼児教育の経済学』という本は、2013年にノーベル経済学賞を受賞したジェームス・J・ヘックマンによって書かれました。
ヘックマンはこの本の中で、「幼い頃から子どもに対する教育的な投資を行うことが、最も効率的な投資である」と述べています。
彼は様々な統計データに基づき、幼児教育に関する、以下のような重要な傾向を明らかにしました。

・ 5歳までに行われる教育は、その後の学力だけでなく健康にも影響がある。
・ 親とのふれあいが足りなかった子どもの脳は萎縮する傾向がある。

幼児教育に関する示唆にあふれた本書をひもとき、「どのようなタイミングと方法で、子どもに教育機会を提供するべきか?」について考えてみましょう。

幼児教育を受けたグループの方が経済的に恵まれていた

本書の中でヘックマンが集中的にふれているのは「ペリー就学前プロジェクト」の調査データです。
このプロジェクトは、アメリカ低所得者の58世帯の子どもを対象として行われ、約40年間に渡ってデータが収集されました。
調査対象の子どもは就学前に教育を受けたグループとそうでないグループに分けられ、40歳まで追跡調査し所得状況などを調べられています。

就学前に教育を受けたグループの子どもたちは、幼児期に午前中に毎日2時間ずつ教室での授業を受けさせられ、さらに週一度の教師による各家庭への訪問により90分の指導が行われました。
この対象グループは、下記のグラフの黄色(上側)となります。
こうした幼児に対する就学前教育は30週間続けられ、就学前教育の終了後、このグループの子どもと、受けなかったグループの子ども(グラフの緑)に対して、彼らが40歳になるまでの追跡調査が行われたのです。

幼児教育の経済学・図表

実験開始から調査対象者が40歳になったとき、この2つのグループにどのような違いが現れたか、その結果は大変興味深いものでした。


幼児教育が行われたグループは、特別支援教育()を受けた割合が低く、月給・持ち家率等の経済的な面が、教育を受けなかったグループよりも良いものとなったのです。
ペリー就学前プロジェクトを受けたグループとそうでないグループの所得の差から、就学前教育がもたらした利益率を計算すると、アメリカでの株式配当利回り平均値(第二次世界大戦後~2008年)を上回っており、株式に投資するよりも就学前教育に投資した方が利益率が高いという結果になっています。

※特別支援教育
日本では、障害のある児童が自立を図るために必要な知識・技能を得るための制度を指します。
アメリカでも同様に障害のある児童を支援する特別支援教育が行われていますが、アメリカでは障害の有無に限らず、通常の教育課程では十分な教育効果が望めないと判断された児童に特別支援教育が行われています。

幼児教育は将来の心身の健康にも影響する

本書では、ペリー就学前プロジェクト以外の統計からも、幼児に対する就学前教育が、子どもに大きなメリットを与えている影響を明らかにしています。
例えば、幼児に対する就学前教育に熱心な家庭で育った子どもは、将来的に喫煙、肥満、麻薬、自殺願望等の様々な面で危険数値が低くなる傾向がみられます。
上記のような傾向が出る理由は、幼児教育に積極的な家庭は子どもに積極的に関与しようとする傾向があるため、子どもの知識意欲や学習意欲が高くなるためとみられています。
また、親とのふれあいが足りない子どもと十分にふれあっている子どもの脳を比較すると、親とのふれあいが足りない子どもの脳は萎縮しており、未発達となっている傾向がみられます。

このような調査結果から、親が子どもの就学前に積極的に教育に関わると、経済的・健康的に良い影響を子どもに与えやすくなることがうかがえます。
親が就学前教育の機会を提供し、積極的にふれあいの時間をとっていくことは、子どもの将来のために非常に大切なファクターなのです。

教育によって経済格差に立ち向かう

近年、日本においても「経済格差」という言葉が取り上げられる機会が多くなってきました。
実は日本の子どもの貧困率は13.9%で、ひとり親など大人1人の世帯に限ると、50.8%となり、OECD諸国の中でもかなり高い水準となってしまっています(2016年の国民生活基礎調査より)。

こうした経済格差と教育格差の問題は密接に関係しているとみられています。なぜならば、貧困により十分な教育が受けられなかった子どもたちがよい職に就くことができず、貧困が親から子へ連鎖するというスパイラルが存在するからです。この負のスパイラルは世界中で見られる、非常に深刻な問題です。

本書はアメリカでの大規模な社会実験結果を元に、「貧困問題には幼児教育によって立ち向かえるのではないか?」といったことを示唆しており、幼児教育を検討する父母にとっても良書となっています。

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