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柳沢幸雄校長先生インタビュー前編
36年連続で東大合格者数トップ(※)を誇る開成高等学校。
近年では、ハーバード大学をはじめ、海外の大学に進学する生徒を多く輩出しています。
2011年から同校の校長に就任した柳沢幸雄先生は、過去にハーバード大学で教鞭をとっており、ベストティーチャー賞に何度も輝いた経験があります。
今回は教育と英語の両方に長年関わってきた柳沢先生に、子育てにおける環境づくりの大切さについておうかがいします。

※参考リンク:教育進学総合研究所調べ


1.開成高校が36年連続で東大合格者数トップの理由

2.個性を尊重する居心地よい校風

3.中高の6年間は"師"を選ぶ練習をする時期

4.子育てで大切なのは観察眼と環境づくり

5.「垂直比較」のほめ方で結果に差


1.開成高校が36年連続で東大合格者数トップの理由

――開成高校が東大合格者数1位を維持する秘訣は何ですか?

生徒の自主性、自律性を重んじている本校では、先生が生徒に「こうしろ」「ああしろ」と指図することはありません。進路の決定も同じです。本校に東大合格者が多いのは、ロールモデルとなる先輩の姿を見ているからでしょう。

5月第2週の日曜、母の日に行われる運動会は一年間をかけて準備してきた高校3年生が最も輝く日です。そして運動会が終わると、気持ちを切りかえて受験勉強をはじめます。坊主頭にして見た目まで変える生徒もいたりしますが、それぐらいの勢いでガラっと気持ちを変えて、志望校に合格するのです。それまで学校生活に没頭してやりきった感を覚えているからこそ、気持ちをガラっと変えることができるのでしょう。

後輩はそんな先輩の姿を見て、自分たちも運動会まではめいっぱい学校生活に没頭しようと思います。
卒業してからも、先輩と後輩の縁は続くので、大学での様子を聞く機会も多い。
自然と、後輩たちは「自分も東大に行こう。」と思うようになっていきます。

柳沢幸雄校長先生インタビュー1

2.個性を尊重する居心地よい校風

――開成高校での学校生活はどのようなものでしょうか?

私も本校の卒業生の一人ですが、自宅から近い本校を受けたら合格し、何も知らないまま入学しました。当時、中学生は全員坊主頭だったので「ひどい学校に来ちゃったな」と思ったのを覚えています。ところが、学校生活がはじまると個性を尊重してくれる校風が自分にピッタリはまりました。
「Aくんは走るのが早い」、「Bくんは数学が得意」というように、その人の得意な部分を周りが認めてくれるので、とても居心地がいいのです。

私は中学に入ってからものづくりに興味を持ち、物理部に入りましたが、中学3年1学期の物理の中間試験では赤点をとってしまいました。
先生に相談すると『高校課程物理』という参考書を勧められ、その参考書を読んだらわからなかった点がすっとわかったのです。それから、論理の世界、自然科学の世界にはまっていきました。
苦手な科目もありましたが、物理部の先輩にいろいろと教えてもらい、感化されながら、本当に楽しい学校生活を送りました。

先輩の影響は勉強関連だけでなく、高校2年で文化祭の準備委員長をやれば、私は副委員長としてそばで学び、自分も高校2年で文化祭準備委員長となりました。
その先輩が東大の理1に進んだのを見て、自分も同じように東大理1へ行きました。
私が卒業してから50年が経ちましたが、生徒の個性を先生や先輩が伸ばしてくれる校風は今でも変わりません。

柳沢幸雄校長先生インタビュー2

3.中高の6年間は"師"を選ぶ練習をする時期

――中学高校時代に大切なことは何でしょうか?

中高の6年間は"師"を選ぶ練習をする時期だと私は思います。
子どものころは、子供が選んだわけではありませんが、親や先生がいろいろなことを与え、教えてくれます。
しかし、社会にでると新しい技術や知識、さらには働く意味を教えてくれる先生はいません。自分で先生を探さなければなりません。

子ども時代と大人の中間にあるのが中等教育の6年間です。自分にとってメンターとなる人と出会い、"師"を選んで学んでいく。この経験が非常に大切だと考えています。
「朱に交われば赤くなる」という言葉のように、中高の6年間は影響を受けやすい時期です。どんな生徒集団で、どのような先輩、後輩の関わりがあるか、というのが非常に重要です。

本校では新入生のときに先輩が優しく接してくれます。自分が先輩になり、後輩が入ってくると、今度は自分たちが後輩の面倒をみてあげようという気持ちになるのです。
先輩が後輩に優しく、さまざまな交流がある。たくさんいる先輩の中から気が合い、自分のロールモデルとなる先輩を選ぶことになります。
また、生徒たちは教わる経験と教える経験の両方をすることで、大きく成長していきます。

柳沢幸雄校長先生インタビュー3

4.子育てで大切なのは観察眼と環境づくり

――子育てのコツは何でしょうか?

子どもは社会のことを知りません。自分が何を好きなのかもわからない。
ですから、いろんな経験をさせ、その中から子どもが喜ぶことをやらせることです。楽しいことなら夢中になってやるので、集中力も養うことができます。

その際、親に必要なのが観察力です。国際コンクールで優勝した盲目のピアニスト、辻井伸行さんのお母さんが良い例ですね。
伸行さんが赤ちゃんのころ、ショパンの曲にあわせて足を動かしていたのをきっかけにして、お母さんは伸行さんの耳の良さや音楽に対する感受性の鋭さを知りました。
その才能を伸ばそうと伸行さんが喜ぶCDを聞かせたり、興味を持つことをやらせたりして、世界的なピアニストに育てていきました。

また、子どもにとって何よりも励みになるのが、親の喜ぶ様子を見ることです。例えば、ハイハイを始めたときに喜んでいる親の姿を子どもが見ると、ハイハイをすると親が喜んでくれる、と子どもは認識します。親の喜ぶ姿を見たくて、「おいで、おいで」と親に呼ばれると子どもは喜んでハイハイをするのです。

しかし、もしタバコがそばに置いてあればそれを口にしてしまうかもしれません。動く範囲が広がれば危険は増します。
それでも、親は「危ないからだめ」と言わずに子どもが安全にできるよう、環境を整えますね。環境を整えて子どもの挑戦を後押しし、できたことをほめるのは、乳幼児期はもちろんのこと、中学生になっても欠くことのできない大切な親の役割です。

知り合いの夫婦が、決して「だめ」と言わずに育児をしたところ、いろいろなことに挑戦する子に育ちました。
また、挑戦した分転んだり落ちたりと失敗も経験するので、非常に慎重な面も持っています。
親は見ていてハラハラするでしょうし、大きなケガがないように配慮することが必要ですが、だめと言わずに見守る大切さを感じますね。
よく観察し、その子が好むことをやれるような環境を整え、ほめる子育てをしてください。

柳沢幸雄校長先生インタビュー4

5.「垂直比較」のほめ方で結果に差

――上手なほめ方とはどういうものですか?

具体的にほめることです。ただ「いい子だね」と言っても、子どもは何がいいのかわかりません。
子どもが一生懸命やったことにたいして、「これができるようになったのね。すごいね」と言えば、これはやっていいのだ、とわかります。
また、講演会などでもよく言うのですが、「垂直比較」でほめることがポイントです。他の子と比べるのではなく、その子の前の状態と比較してどう変化したのかをほめましょう。

こうしてほめていると、親の価値観は確実に伝わります。以前はきれいになっていた部屋が散らかり放題になったのを見てほめる親はいません。そこに価値がないからです。
価値がある方をほめ、具体的なメリットを伝えましょう。
「部屋をきれいにしたのね。えらいわね。これでプリントを探す時間が減ったでしょう」と言えば、自分にとってプラス面があることが子どもにもわかります。

逆に、「ほら、言ったじゃない。そんなことやっても失敗すると思ったのよ」などと、けなしてばかりいるとどうなるでしょうか。
Aという方法で失敗した子どもは、次はBを試してみます。
しかしまた同じように怒られると、何もしなければ親に怒られずにすむと学習します。
けなされたり怒られたりばかりしている子どもは、いわゆる「指示待ち」状態になってしまうのです。

子どもがやったことをほめ、「こんなふうに考えるのも面白いよね」と、子どもの考えを少し広げてあげる。この親子のやり取りが非常に大切です。

前編まとめ

開成高校が東大合格者を輩出している背景には、先輩が後輩によい影響を与えていく校風があるようです。
中高時代に自分の"師"を選ぶ練習を積んでおくことは、社会に出てからも自主的に学び続けられる人間になるために大切だということをうかがいました。
また、親が子育てのための環境を整えるにあたり、子どもが夢中になれることを見つける観察眼と、人と比べず本人の成長を喜ぶほめ方が非常に重要なようです。

後編では、柳沢先生自身の英語学習経験や、海外の大学に進学する生徒の動向などについてうかがいます。

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柳沢幸雄校長先生近影

プロフィール:柳沢 幸雄(やなぎさわ ゆきお)

学校法人開成学園開成高等学校・開成中学校校長。東京大学名誉教授。
1947年生まれ。開成高校から東京大学へ。東京大学大学院工学系研究科修了。工学博士。
ハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科では数回ベストティーチャーに選ばれる。
東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から現職。
『ほめ力:子どもをその気にさせるプロになる』(主婦と生活社、2014年)、『母親が知らないとヤバイ「男の子」の育て方』(秀和システム、2017年)など、教育や育児に関する著書多数。

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