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英語教育に関するニュース

早野名誉教授インタビュー前編

今回は、ワールド・ファミリーとゆかりがある「スズキ・メソード」の普及に努める才能教育研究会会長、東京大学の早野龍五名誉教授にお話を伺います。

早野教授は、ご自身も幼児期から鈴木先生に師事し、バイオリンのレッスンを受けていました。「幼児教育で一番大切なのは楽しむことです」と強調される早野先生に、ご自身が受けた幼児教育体験と、その後の人生に与えた影響をうかがいます。


「スズキ・メソード」とワールド・ファミリー

「ディズニーの英語システム」のプログラム開発には、バイオリンの早期教育法「スズキ・メソード」の生みの親、鈴木鎮一先生も監修者として参加しています。鈴木先生は「日本じゅうの子どもが日本語をしゃべっている」ことを驚くべき才能と考えて、子どもの環境を整えることで母語と同じように音楽を身につける実践をされました。

ワールド・ファミリーは鈴木先生の「音楽教育だけでなく、広く幼児教育について研究するために才能教育の研究所を設立したい」という理念に共感し、研究所の建設資金を支援したり、スズキ・メソードでレッスンをうけている日米の子どもたち100人ずつの合同コンサートを企画・支援したりしてきました。

◆1977年に開催された日米合同コンサート◆
ニューヨークのカーネギーホールで日米の鈴木チルドレン200人によるコンサートが開催されました
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Q.1 スズキ・メソードとの出会いを教えてください

Q.2 音楽ではなく研究の道に進まれましたね

Q.3 スズキ・メソードでは家庭の教育環境をとても大切にされていますね

Q.4 なぜ幼児教育が大切なのでしょうか?

Q.5 スズキ・メソードが育む「やり抜く力」とは?

Q.6 繰り返し集中することで能力が身につくということですね

Q.7 どれだけ練習したかを自覚することが大切なのですね

Q.8 努力の仕方にコツはあるのでしょうか?


Q.1 スズキ・メソードとの出会いを教えてください

眼科医の父が信州大学の助教授として松本に赴任したとき、旧制中学の同級生に偶然再会し、その人の勧めで僕は鈴木先生の松本音楽院に通うようになりました。幼稚園には行かず週に1回鈴木先生のご自宅に通って、15分か30分かの自分のレッスンが終わった後も、先輩達のレッスンを聞いていました。
鈴木先生がさまざまなお話をされ、「こういう新しいことを思いついたのだけど」と言って僕らを相手に試される、そういう中で育ちました。

お客さんが見えたときにデモ演奏をするメンバーの一人でもありました。ウィーン・アカデミー合唱団が来日したとき、バッハのコンチェルトを披露したエピソードが鈴木先生の著書『愛に生きる』の208ページに紹介されています。
中学校に入る前の春休みには「テン・チルドレン(※)」の1人として3週間の米国演奏旅行に行きましたが、そのことは僕にとって大きな意味がありました。子ども心に世界を見ることの感激もあり、いずれは自分で外国に行きたいと願うようになりました。この演奏旅行は訪問先に与えた影響も大きく、スズキ・メソードが全世界に広がるきかっけとなった出来事でした。

※テン・チルドレンツアー・・・1964年からスタートした 「10人の子どもたちによる演奏旅行」。鈴木先生は毎年10人の生徒を海外演奏旅行に連れて行く活動を続けていました。30年間にわたって世界20カ国384都市を訪れ、世界各地で文化交流、民間外交の促進に寄与してきました。

Q.2 音楽ではなく研究の道に進まれましたね

高校に入る頃、僕は多分音楽の道には進まないと考え、鈴木先生のところに行って「もうレッスンに来ません」と宣言をしました。周りからは医者になると期待されていましたし科学方面も嫌いではなかったのです。だから音楽ではなく科学ないしは医学の道に行くことを決めて、鈴木先生に「今日で最後です」と直接申し上げました。

大学で研究をしながら臨床医として患者さんを診ていた父の仕事を、「大変だな」と思う一方で、「研究するということは面白いな」とも思い、研究者になるか医者になるか迷っていました。
そんな中、東大を受験する時に父親が「本当に研究者になりたいのなら医師免許なんかいらないんじゃないか」と言ったのです。医学部は6年ですから「医学部に行かなかったら2年早く卒業できるぞ」と。「研究者になるならそういう考え方もあるのではないか」と父が気づかせてくれたのです。それで僕は理科Ⅰ類に行き、後に物理学に進みました。

Q.3 スズキ・メソードでは家庭の教育環境をとても大切にされていますね

先生のところでレッスンしているときだけではなく、子どもが育っていく上で家庭の環境全体が重要であるというのが鈴木先生の教えです。母はこの考えに共感していたと思います。ご飯を食べたらバイオリンを練習するというのが母とのお約束だったので、一日に3回練習していました。母は熱心に、僕がちゃんと練習を続けることをサポートしてくれました。母自身はバイオリンを弾かず、医師の免許は持っていましたが、完全に専業主婦でした。小学生までは鈴木先生の家に母と通い、夏期学校のときも母はボランティアとして参加していました。

当時と今では社会の情勢が変わり、子どもの時間の使い方、親の時間の使い方も変わりましたから昔と同じようにはできません。それでも「人は環境の子である。子どもが育っていく中で、子どもにどのような環境を与えるかが大事」という鈴木先生の教えは本当にそうだなと思います。

Q.4 なぜ幼児教育が大切なのでしょうか?

ノーベル経済学賞を受賞したアメリカのヘックマンは『幼児教育の経済学』で、人の人生を40年くらい追いかけ、どの段階で教育投資をすると一番効果があるかということを論じでいます。結論は幼児期で、決して大学受験ではない。幼児期の教育で大事なことは、学校で学ぶことの先取りではありません。早く始めれば学校に入った時には差がついているけれど、学校というのはそれなりによくできたシステムだから、その差は高学年になればほぼ消える。では、幼児期の教育は無駄かといったら無駄ではない。まさにそこが大切なのです。
日本語訳でいう「非認知能力」が幼児教育で育つことが重要であるとヘックマンは言っています。非認知能力は学校の成績では測れない能力で、「粘り強さ」とか「やり遂げる力」といった、性格のようなものです。非認知能力は生まれつき決まっているものではなく、幼児教育で育ちますが、それを鈴木先生は70年前からよくご存知でした。

鈴木先生は「音楽家を育てたいのではなく、音楽を通じてよき市民を育てたい」という言い方をしていますが、子どもが育っていくときに音楽を通じて粘り強さであるとか、何かをきちんとやり遂げる力が育っていくと考えていました。

Q.5 スズキ・メソードが育む「やり抜く力」とは?

最近注目されているビジネス書『GRIT やり抜く力』でも、人が身につける力の中で、生きていく上で一番重要なことはやり抜く力であるといわれています。それをどうやって身につけるのかが問題なわけです。
スズキ・メソードはそれを音楽で見事に体系づけているところが素晴らしいのです。具体的には、1巻からはじまる教本があり、最初はやさしい曲、バイオリンでいえば弦をあまり使わないで指もあまり動かさない曲を、ちゃんと上手に弾けるようにします。そして、徐々に曲が難しく音楽的にも高いレベルになり、いずれモーツァルトやバッハなどの古典の名曲が弾きこなせるようになります。

一曲ちゃんと弾けるようになると次の曲も弾けるようになる、そういうことを繰り返している中で、弾けるようになるまで繰り返して練習する習慣、毎日何かをやる習慣が身につき、何かをやり遂げる能力を楽しみながら獲得するようになるのです。
楽しみながら楽器を弾けるようになるだけでなく、それまでに身につけた性格のようなものが音楽の道に進まない人にとっても一生の宝になる、それがスズキ・メソードの一番大事な根幹だと思います。

Q.6 繰り返し集中することで能力が身につくということですね

今世界で約40万人の生徒さんがスズキ・メソードで学んでいるとされています。中には葉加瀬太郎さんのような世界的な音楽家もいますが、みんなが音楽家になるわけではありません。しかし、新たなものを身につけるときにスズキ・メソードで培った、身につくまで繰り返し集中してできるという能力の影響は大変大きいと最近考えています。
子ども達が楽しく音楽ができるようになることは大切な能力ですが、「自分が今これだけ楽器を弾けているのは自分に特別の才能があったからではない」ということがわかることが大事です。まわりに大勢同じように弾いている仲間がいて、自分も弾けている。スズキ・メソードで育ったお子さんたちにとって大事なことは「今弾けているのは相当練習したからである」ということを知っていることです。
お母さんが話している母語を聴く、それで自然にしゃべれるようになるというのが母語教育ですが、楽器を弾く場合は聴いているだけでは上手くならない。ちゃんと聴いた上で自分の神経が筋肉を動かして、弾けるようになるまで繰り返し繰り返し練習をする必要があります。きちんと弾けるようになるまでには相当な練習量を積んでいるわけですね。

Q.7 どれだけ練習したかを自覚することが大切なのですね

それがなぜ重要かというと、音楽以外の、例えば後天的に英語や数学を学ぶときに、「自分は才能がないから数学ができないと思わない」からです。モーツァルトやバッハを弾いている自分は、どれだけ練習してみんなから「すごいね」ってほめてもらえているのか知っていると、英語や数学ができないとき、音楽と同じだけ自分はそこに労力をつぎ込んだかということを振り返ってみて、「もしかしたらそうではないかもしれないな」と気がつくことができるのです。だから、「生まれつき何かができない」とか、「才能がないからできない」と思わない。自分が楽器を身につけてきた過程を振り返れば、これから新しいことをやるときに、「楽はできない、それなりにきちんと努力をするということが大事である」ということがわかるのです。

最近話題になっているアメリカの心理学者のエリクソンの『超一流になるのは才能か努力か?』によると、一流の音楽家やスポーツ選手など高い能力を身につけた人が、生まれつきなのか、それとも努力をしてできるようになったのかということを調べてみたら、みな例外なく努力をしている。例えば一流のバイオリニストというのは幼少期からプロになってデビューする18歳くらいまでの間にだいたい1万時間くらい練習をしていて、ほぼ例外がないと言っています。

Q.8 努力の仕方にコツはあるのでしょうか?

エリクソンは、「限界的練習」が大事だといっています。自分が今できていることの少し上、3回転飛べている人なら3回転半を目指して練習するということですが、常に自分ができるその少し上を目指して練習するということを繰り返すことがいかに大切であるかを強調しています。できたところをやっているだけでは脳も体も慣れてしまって怠けてしまうので下手になるのです。より高いところを目指して練習していくことが大切です。

スズキ・メソードの教本はまさにそういうふうにつくられていて、次々とより高い能力を育てるように考えられています。先ほどご紹介したヘックマンもエリクソンも最近のアメリカの研究者ですけれども、鈴木先生は70年前にそういうことをごく自然に分かった上でスズキ・メソードを組み立てられたのです。

前編まとめ

鈴木先生のもとで学ばれた早野先生は、音楽とは違う道でもスズキ・メソードの幼児教育の理念は活かすことができると、ご自身の経験から実感されています。努力の大切さを実感として知っていることは、様々な分野での学習に活かせるようです。
後編では、早野先生が考える幼児教育のポイントをうかがいます。

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早野先生近影1

プロフィール:早野 龍五(はやの りゅうご)

東京大学名誉教授。1952年岐阜県大垣市出身。世界最大の加速器を擁するスイスのCERN研究所(欧州合同原子核研究機関)を拠点に、反物質の研究を行う。2016年より(公社)才能教育研究所会長。糸井重里氏との共著に『知ろうとすること。』などがあり、福島第一原子力発電所事故に関して科学的に考える力の大切さを提唱している。

参考文献

鈴木鎮一『愛に生きる 才能は生まれつきではない』講談社現代新書 1966
ジェームズ・J・ヘックマン『幼児教育の経済学』東洋経済新報社 2015
アンジェラ・ダックワース他『GRIT やり抜く力』ダイヤモンド社 2016
アンダース・エリクソン他『超一流になるのは才能か努力か?』文藝春秋 2016
早野 龍五 , 糸井 重里『知ろうとすること。』新潮社 2014

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