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早野名誉教授インタビュー後編

前回から引き続き、東大の早野名誉教授に幼児期から育てることができる力について伺います。

スズキ・メソード()で培ったやり遂げる力は音楽以外の分野でも活かせることを伺いましたが、後編では、早野先生が大切だと考える幼児教育のポイントについてインタビューしました。

※スズキ・メソード:
バイオリンの早期教育法。「ディズニーの英語システム」のプログラム開発には、「スズキ・メソード」の生みの親、鈴木鎮一先生も監修者として参加しています。


Q.9 幼児教育で一番大切なことは何でしょう?

Q.10 クラシック音楽を楽器で弾くことの意味は何でしょう?

Q.11 古典にふれることが大切なのでしょうか?

Q.12 鈴木先生の才能教育運動が目指したものは何でしょう?

Q.13 次世代の子ども達のために何ができるかを考えることが大事なのですね

Q.14 早野先生は長年大学でも教育に携わってこられましたね

Q.15 「楽しむことが大事」ということが先生の中に息づいていますね

Q.16 これからの才能教育の可能性についてお聞かせください


Q.9 幼児教育で一番大切なことは何でしょう?

一番大切なのは楽しくやることなのです。特に小さな子どもにとって何百時間も、何千時間も練習することはとても大変ですから、いくら親がついて「練習しなさい」と言ってもそうはならないのです。それをいかに楽しくやらせるか、子どもがやりたいと思う環境をつくって親子ともに楽しくやるかが大事です。やり遂げる力などの非認知能力を育てるためには音楽でなくても良いのですが、音楽には楽しさがある点が非常に価値あるところだと思います。

一生の力となる生きる力を育てる手段として、音楽というのは非常に優れていると考えています。あまり実用的ではないところもよいと思うのです。何かのために、とか思わないで、とにかく楽しむ、そういうことに時間を使う。どうしても今は、塾や何にしろ、人生すべて何かのためにというふうになりつつありますよね。でも長い人生、必ずしもそれだけではない。

また、いわゆる教養も大事だと思います。例えば音楽の場合、日本で流行っている音楽だけではなく、世界のどこにいってもみんなと心を通わせるベースになる、共通言語として通じる、クラシック音楽は大切だと思います。

Q.10 クラシック音楽を楽器で弾くことの意味はなんでしょう?

楽器を聴くだけでなく弾くというのは、自分が音を出してそれを自分で聴いて、モーツァルトやバッハに「これでいいかね?」と能動的に会話をする行為なのです。それは一方的に絵を見るのとはちょっと違います。
子どもに自覚はないでしょうが、何百年も昔の作曲家の感性と対話をする行為といえるでしょう。ある程度の年齢にになって楽譜を読むようになった人にとっては、楽譜に書かれている音楽家のこころに対して自分がその作曲家に語るという営みではないかなと思います。

なぜこんなことを言うかというと、物理に進んだ僕が学生時代にアインシュタインの論文などを読んだとき、そこに書かれている数式を読みながら「なぜこの人はこんな発想にいたったのか」「なぜこう考えたのか」「これって間違いじゃないか」「いや良く見ると間違っていない」とか、数式を見て昔の人の知性と感性を感じ、百年前のアインシュタインに語っていたのです。

これは楽譜を見てモーツァルトと語るのとあまり変わらないのです。どちらも文章ではなく、どちらも日本語でもない。片方は楽譜で、片方は数式です。どちらも世界中に通じる言語で書かれているわけです。楽譜を見て音楽を演奏しバッハやモーツァルトの感性にふれるのと、数式を理解してアインシュタインの知性にふれるのは実はあまり違わないのではないか。そう思う人は音楽をやっている人の中にはめったにいないと思いますが、僕は音楽と物理と両方やったので、そう違ったことだとは思っていないのです。

Q.11 古典にふれることが大切なのでしょうか?

昔の人の知性や感性にふれるという営みは実はとても大事だと思っているので、スズキ・メソードの教本が主にクラシックの名曲でできていることは非常に価値があることだと思っています。単なる練習曲ではないというところがです。

我々は今普通に暮らしていると、家の中で家族と暮らし、学校で何があったと話し、テレビをつければ今日のニュースをやっていて、それこそネットを見て、世界中の人たちと現在という時間を共有し、ふれ合って暮らしているわけです。それ自体は全然不自由はないのですが、時には昔の人と語り合う時間もとても大事なことです。古典を見るということはそういうことですね。

我々が今生きている社会は昔の人々の営みのもとにでき上がってきているわけです。万有引力の法則で知られるニュートンは「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです」と言っています。それまでにいろいろな人々が積み上げてきたものがあって、その上に自分が立ってはじめて遠くを見ることができる。

それは別に学問だけの世界だけではなく、いわゆる教養というものにおいても大事だと思っています。ですからいろいろな場面で人間の時間方向のつながりを意識することを僕は非常に大事だと考えているのです。

Q.12 鈴木先生の才能教育運動が目指したものは何でしょう?

鈴木先生の有名な本で『愛に生きる』というタイトルの本があります。その中で鈴木先生は「音楽家だけを育てるつもりではない、立派な市民を育てるために才能教育運動をやっている」と繰り返しおっしゃっている。

では立派な市民とは何でしょうか。僕なりに考えると、それは先生の著書のタイトルに表れていると思います。「愛に生きる」という本は鈴木先生ご自身が自らの思いと能力を子ども達のために活かし、子ども達を育てていく記録なのですが、別に鈴木先生についてだけの記録ではありません。
スズキ・メソードの教えを受けた人々が音楽を学び、あるいはそれを広めていく目的は、最終的には「愛に生きる」ためだと最近思うようになりました。

その人なりに今自分が与えられている場所で、自分の持てるリソース、つまり、資産、資源、能力などを次世代に与えていくためにできることを考える必要があるのではと思います。
もちろん毎日そんなことを考えて暮らす必要はないのですが、どこかで自分が何のためにこの世に生まれて、なぜ生きているかを考えることは大切かもしれません。我々人類は親から生物学的な遺伝子を引き継ぎ、歴史の上に立っているからです。

Q.13 次世代の子ども達のために何ができるかを考えることが大事なのですね

今ここに生きている人間が次の時代、次の世代に何を残していこうかと思うとき、自分がよい給料をとってよい生活ができるためという観点だけではなく、自分の子どものためという観点だけでもなく、次の世代を担う子ども達のために、何らかのものを提供し、使っていくと、自分が生きている今の時代よりも子ども達の時代がよくなると思います。経済状況などでだんだん難しくなってはいますが、世界にそう思う子ども達が育っていくことによって、よりよい世界になっていきます。そのためにスズキ・メソードが広まっていくとよいなと思ってます。

メソードはもちろん大事ですが、メソードが生まれて70年経った今、「何のためにそれをやるのか」をよく考えて、子ども達によりよい時代の担い手になってもらいたいなと思うようになりました。

Q.14 早野先生は長年大学でも教育に携わってこられましたね

大学でも次世代をどう育てるかということが教育者としてずっと主要なテーマでした。また、東日本大震災の後は、原発事故の後、象牙の塔に閉じこもっていられない状況になって、糸井重里さん達と共に社会と向き合うことになり、福島の高校生と一緒に論文を書くなどいろいろな活動をしてきました。そこで若い世代がどのように社会と関わっていくか、どのように生きていく上での自信となっていくか、ここ3年くらいのテーマとしてやってきたこととがスズキ・メソードの活動ともつながっています。

Q.15 「楽しむことが大事」ということが先生の中に息づいていますね

鈴木先生が子どもをほめることが上手な方だったということもその理由だと思います。
公益社団法人「才能教育研究会」の会長になってから、音楽教育法である「スズキ・メソード」 の先生によく言われることは「自分は子どもの頃は他のところで音楽をやっていて、スズキ・メソードの先生になったけれど、スズキ・メソードでは子どもをほめて育てることに驚きました」ということです。これは僕にとっては新鮮な経験でした。

お母さんは子どもと部屋に閉じこもって暮らしていると気持ちに余裕がないかもしれません。でも練習しないからと子どもを叱って、親も子も両方苦しい思いをするということにならないように、楽しくやっていくことの方が大事だと思います。
音楽は「音を楽しむ」と書きますが、幼児教育も楽しむことを強調して取り組んでいただくと良いと思います。それに伴って様々な能力がついてくる、というお得な面を伝えたいです。

Q.16 これからの才能教育の可能性についてお聞かせください

才能教育研究会というのは鈴木先生がつけた名前ですが、どうやったら子どもがよりよく育つか、それをみんなで研究するという精神に基づいており、70年前に始められた鈴木先生の運動、教えは外国での研究によっても十分に裏づけられています。

こうした研究を多くの方々に知っていただいて、そこで学んだ子ども達が生きる力、生き抜く力を得る手助けができればと思っています。音楽を志す方々だけでなく、そうでない方々もその後の長い人生の中で音楽を楽しみ、生きる力を楽しく身につけることができる、そのための確立された方法がスズキ・メソードです。

一方で、スズキ・メソードが生まれた頃から親子を取り巻く社会的な環境は大きく変わってきていますから、70年前のやり方そのままではなく、子どもにとってよりよい環境とはどういうものかということを研究して、新しい時代に即したやり方をみんなで検討する余地があると考えています。現代的な観点でスズキ・メソードを認識しなおし、子どもたちだけでなく、育てる側もみんなで成長していきたいと願っています。


後編まとめ

早野先生は幼児教育において、楽しむこと、昔の人の知性や感性にふれることが大切だと考えています。
子どもが膨大な時間の練習を積むことができるのは、楽しんでいるからこそです。そして、クラシック音楽を例に、世界のどこでも通じる共通言語としての教養についてご説明いただきました。
また、歴史の積み重ねの上に立っている人間として、「次世代に何をどう伝えていくか」という大きな観点で教育の目的を考え直すという視点をご提示いただいています。

社会的な環境が大きく変化する中、教育という分野においても、過去からの知恵を受け止めつつ、新たな広い視野で思考することが求められているようです。


早野先生近影2

プロフィール:早野 龍五(はやの りゅうご)

東京大学名誉教授。1952年岐阜県大垣市出身。世界最大の加速器を擁するスイスのCERN研究所(欧州合同原子核研究機関)を拠点に、反物質の研究を行う。2016年より(公社)才能教育研究所会長。糸井重里氏との共著に『知ろうとすること。』などがあり、福島第一原子力発電所事故に関して科学的に考える力の大切さを提唱している。

参考文献

鈴木鎮一『愛に生きる 才能は生まれつきではない』講談社現代新書 1966
ジェームズ・J・ヘックマン『幼児教育の経済学』東洋経済新報社 2015
アンジェラ・ダックワース他『GRIT やり抜く力』ダイヤモンド社 2016
アンダース・エリクソン他『超一流になるのは才能か努力か?』文藝春秋 2016
早野 龍五 , 糸井 重里『知ろうとすること。』新潮文庫 2014

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