専門家の先生による、英語教育に関する記事

反復の大切さ(前編)


玉川大学 佐藤 久美子先生のエッセイです!
生後6年間で個人差が大きく開く語彙力。語彙力が高い子どもの秘密「反復力」についてご説明いただきます。
また、今回から『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』コーナーもはじまりますので、記事の最後までチェックしてくださいね!

3~6歳児、およそ150名を対象として、語彙調査をした結果、語彙力が高い子どもについて興味深い傾向が明らかになりました。
調査方法は、Picture Vocabulary Testと呼ばれる、世界中の調査で広く用いられている語彙テストの日本語版を使い、対象となる子供に一回につき4枚の絵を見せて、質問に対して指で指して答えてもらうというテストです。
例えば、子どもが「ねこはどれかな?」と聞かれたら、「ねこ」の絵を指せば正解です。同様に、「動物はどれかな?」と聞かれたときに「ねこ」の絵を指せば正解です。このテストを繰り返していきます。

この調査の結果で注目すべきは下記の2点です。

1点目は、就学前の6歳児の成績の個人差が非常に大きかったことです。
一番語彙力のある子どもは、11歳児並みのレベルを保有していました。「銀河」「研究」「礼儀」などが分かり、中には「蔵書」の意味が分かる子どももいました()。
※「礼儀」は、大人に向かって子どもがお辞儀をしている絵を指せれば正解です。また「蔵書」は、本棚の絵を指差せれば正解です。 

一方で、2歳児並みの語彙レベルの子どももいました()。
※「果物はどれ?」と聞かれてバナナの絵が指せない、「頭はどれ?」と聞かれてお人形の絵を指せないと、2歳児レベルの語彙力になります。

つまり、小学校にまもなく入学する6歳児では、2歳児並みの語彙力しかない子供もいれば、11歳並みの語彙力のある子どももいて、その差はなんと9歳です。生後わずか6年間で、これだけ差がつくことが分かりました。

2点目は、この語彙年齢と未知語()を反復する反復力には、統計的な有意差があることです。
※未知語というのは、「わた」をひっくり返して「たわ」とか、「かがみ」の語順を変えて「みかが」のように作ります。調査に使われた語は、この他に「まけものな」「つだいらま」「ねきなこま」「みなえしお」などがあります。オリジナルの単語は、「なまけもの」「まつだいら」「まねきねこ」「おみなえし」です。

未知語の反復力を測るには14個の未知語を子どもに即時反復してもらい、これをボイスレコ―ダーに録音し、正確・一部正確・不正確・音声なし、という基準で点数をつけます。調査の結果、これらの14語の反復が上手な子どもは語彙量が高く、反復力が弱い子どもは語彙量も低いことが判明しました。

実は、反復力は、短期記憶の一種であるワーキングメモリ(作業記憶)と密接な関係があります。この記憶力は生得的な特質ではなく、2歳児くらいから伸びて、およそ大学生くらいになるとピークを迎えます。そのため、中高年になってからの語学学習が難しいのです。
さらに、既に学習している日本語の単語の音声配列などが長期記憶に蓄えられているので、未知語を聞いてその単語を反復する時に、その記憶を呼び起こすという作業も、単語の反復という行動に現れていると考えられます。
そこで、単語を反復する機会を多く与え、このワーキングメモリを鍛えることで単語の反復が上手になり、語彙力もついていくのです。

母語の獲得過程では、2歳ごろに特に、保護者の話している表現をそのまま反復する傾向が見られます。
【2歳ごろの会話の例】
母「電車に乗ってきたの?」
子「電車に乗ってきた」
母「小田急線ね」
子「小田急線」
母「また乗るの?」
子「また乗るの」

上記の会話のように、子どもは保護者の言葉を反復する過程を通して会話を楽しみながら、自然に単語力や発話力を伸ばしていくのです。
第二言語である英語の習得にも、同様のことが言えます。フィンランドで行われた研究でも、反復の回数が多ければ語彙力が増えるという調査結果があります。

お子さまが英語を習得する過程でも、単にCDやDVDを聞くだけではなく、まねをして言ってみる=反復という行動が大切なのです。
是非、お子さまの反復を促すためにも、保護者の方もご一緒に単語を反復してみてください!

次回は、
「母語である日本語の反復力と第二言語である英語の反復力には、実は大いに関係があること」
「なぜ生後6年間で単語力の差がこれほどまでつくのか?―保護者の語りかけの仕方のヒント」
についてお話します。

『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』第1回:英語と日本語混合で言葉を学びはじめても大丈夫でしょうか?

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幼児期から英語教育に取り組むとき、英語と日本語を一度に学ぶお子さんへの負担が気になる方も多いのではないでしょうか? そんな不安に佐藤先生が丁寧にお答えします。

◆DWEユーザーの方からのご質問◆

1歳半になる娘がいます。
1歳を過ぎた頃の話なのですが、娘は聞いても意味がわからない言葉を発することが多く、お互い意思がうまく伝えられませんでした。
ある日、ふと、英語で話しかけてみたらそれが通じたんです。自我のようなものも出てきて、いつも通じるわけではありませんが、明らかに英語のほうがわかっているような気がしました。最近は娘からも伝えたい気持ちを強く感じるのですが、お互いうまくコミュニケーションがとれず、もどかしく感じています。

英語を日本語といっしょに与えたことで、娘にストレスを与えているのではないかという不安もあります。このまま英語と日本語混合でも大丈夫でしょうか?

◆佐藤先生のご回答◆

英語と日本語を一緒に使っても、ストレスを与えることはありません。むしろ、英語でも日本語でもコミュニケーションを取れることばがたくさん増えて、楽しくなりますよ!

赤ちゃんは8~12ヵ月ごろに単語を話し始め、15ヵ月くらいまでに10語ほど分かるようになると言われています。
「バイバイ」とか「ワンワン」とか、お母様にも分かる単語がいくつかあると思います。
まだまだ意味不明のおしゃべりは多いのですが、よく聞いていると赤ちゃんがいつも使う単語が複数あります。
これらをキャッチしたら、英語でも日本語でも、単語を使う場面に出くわす度にお母さんも毎回使ってあげると、赤ちゃんが言葉を吸収する手助けになります。子どもはママに理解してもらったと思い喜び、ママもお子さまとお話ができて嬉しくなると思います。反復が大切です。

例えば、「ワンワン見に行こう!ワンワン」と言うと、これが「お散歩に行こう!」という合図です。毎回、「ワンワン見に行こう!ワンワン」と話しかけてください。お子さまも、「ワンワン」と答えるようになります。同じ場面では同じ表現を使い、お子さまにも反復させるのがコミュニケーションのコツです。

また、英語は案外単純に状況を表せるので、子どもも声に出しやすく、保護者も理解しやすいものです。「Up!」という単語を子どもが覚えたら、抱っこするときも「Up!」と言い、階段やエスカレーターを使う時も、「Up! Up!」と言いながら上ってください。お子さまも一緒に「Up! Up!」と言うようになります。二人で「Up! Up!」と話したら楽しくなります。

あせらず、親子で共通に使える言葉を増やしていきましょう!

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佐藤久美子先生近影

佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻) 脳科学研究所 教授。
長年、子どもの言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。
2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの「えいごであそぼ」、「えいごであそぼwith Orton」の総合指導を担当。

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