専門家の先生による、英語教育に関する記事

反復の大切さ(中編)
今回の玉川大学 佐藤 久美子先生のエッセイでは、英語と日本語の習得の関わりについてご説明いただきます。子どもの発話力の伸ばし方のヒントも必読です!
また、『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』コーナーでは、英語のアウトプットの機会が少ない環境でもできる工夫をご提案していますので、記事の最後までチェックしてくださいね!

英語習得の力は日本語の反復力と関係が深い?!

前回は、3~6歳児およそ150名を対象として語彙調査において、もうすぐ小学校に入学予定の6歳児を比較してみると、「銀河」「研究」「礼儀」の意味がわかる9歳児並みの語彙力があるお子さんもいれば、「くだもの」「頭」の意味が理解できない2歳児並みの語彙力しか無いお子さんがいることをお話しました。生後わずか6年で、9歳分の差が生じてしまうのです。

さらにこの語彙力は、未知語、すなわち初めて聞く単語の反復力(音声をまねして発音する力)と、とても関係が深いことがわかりました。
未知語の反復、すなわちまねが上手にできるお子さんは語彙力が高く、まねがうまくできないお子さんは語彙力が低い傾向にあります。

実は、日本語だけでなく英語の反復力調査を同時に行ったところ、日本語の反復力と英語の反復力は大いに関係があることが明らかになりました。
この調査は、子どもに英語で以下の20語を即時反復してもらい、ボイスレコーダーに録音して、英語ネイティブの大学教員が採点するというものです。
録音された発音は、「正確かつネイティブ並みの良い発音」、「正確な発音」、「不正確あるいは一部のみ発音」、「音声なしあるいは聞き取れない」という4種類の基準で分類され、点数をつけられます。

【調査に使われた語彙リスト】

bumped, lunch, run, puzzle, head, bear, where, bread, man, swing, little, tickle, today, doll, monkeys, tummy, baby, toothbrush, doctor, banana


調査の結果、日本語の未知語の反復が上手なお子さんは、英語の反復も上手なことが明らかになりました。
特に英語を学習している子どもたちでなくても、初めて聞いた英語の単語でも、上手に反復できるのです。
一方で、日本語の未知語の反復が得意ではないお子さんは、英語も上手に反復できませんでした。

こうした差が生まれる原因は、保護者との会話量にあります。
文を発話できるようになる2歳児ごろまでに、保護者などとよく話をしているお子さんは日本語の反復力が高く、初めて聞いた英語も反復が上手にできるのです。
一方で、日常的に保護者との会話が乏しいと、日本語の反復も上手にできないので、英語の反復もできません。

そこで日常生活において大切なことは、保護者の方が日ごろからお子さんとよく話をすること、語り掛けたり、お子さんの話を聞いてこれをまねして返したりすることです。こうした活動が、言葉の発達を促していきます。
そして、英語学習を始めたときにも、この日本語の反復力が英語習得に良い影響力があるのです。

どんな反復をさせればよいのか、疑問に思われる方もいらっしゃると思いますが、例えばお子さんが使った単語をそのまま繰り返してあげます。
お子さんは保護者の方に自分の思いが伝わり、嬉しくなります。
例えば、お子さんが「はっぱ」と言ったら、「葉っぱ、葉っぱ」とリズミカルに繰り返します。お子さんもさらにつられて「はっぱ、はっぱ」と返すでしょう。これがコミュニケーションの基本です。「発話交替」と言って、交代に発話をしていきます。
「お外に行こうね。おそと、おそと」とお母さんが語り掛けると、お子さんも「おそと、おそと」と言えるようになります。

これを英語で行ってもいいですね!
ミツバチの絵を見たら、"Look at the bee!"(ミツバチを見て!)と言えば、お子さんも"Bee, bee!"と反復するようになります。
"Turn around!" (回って!)、"Clap your hands!"(手をたたいて!)など、遊びながら、体を動かしながら英語で話しかけると、お子さんも楽しく自然に英語のまねができるようになります。

『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』第2回:親が英語で語りかけることは必要でしょうか?/「○○ってなんていうの?」と聞かれた時は?

お悩み解消QA第2回

今回の質問コーナーでは、佐藤先生が2つの質問に回答しながら、お子さんのアウトプットを引き出す具体的な方法をレクチャーします。

◆DWEユーザーの方からのご質問①◆

子どもが3歳になり言葉が達者になってきたことで、「○○ってなんていうの?」と聞かれることが多くなりました。
日本語→英語は、ほとんど名詞を聞かれます。「リスってABC何?」などです。

その際は頑張って調べて答えを教えてあげるのですが、英語→日本語を聞かれるときは動詞、形容詞などが多く「Lazyって何?」などと聞かれたときにはどのように答えればいいのでしょうか?また間違った解釈を子どもがしているなと感じた時は、どのように対処すればよいでしょうか?

◆佐藤先生のご回答①◆

子ども用の学習辞典の英和、和英をご用意されて、これを使ってお答えするようにすると良いでしょう。
子ども用の辞典には絵もついていますので、一緒に絵を見ながら、話すこともできます。
さらに、海外の絵辞典も楽しいです。
Richard Scarryの描いたWord Book(※)などはストーリが感じられてお勧めです。

※参考リンク:Richard Scarry's Best Word Book Ever (Giant Little Golden Book)

こうした絵辞典なども取り入れると、自主的に学習する喜びも合わせて身につけることができると思います。
また、子どもの言葉の解釈が間違っていると感じられたら、正しい表現をさりげなく使って気づかせる、というのも良いやり方です。


◆DWEユーザーの方からのご質問②◆

私が英語が出来ないので家の中でも日本語しか話す機会がなく「英語でお話しする」ということがなかなかできない状態です。
親ががんばって英語の語りかけをしている家庭を見ると、単語ではなく文章でしっかりスピーキングできている印象があるのですが、今のうちの状態で大丈夫なのか不安です。
親の語りかけは必要でしょうか?

◆佐藤先生のご回答②◆

小学校で英語が始まり、小学校の担任の先生方も苦労されています。
先生方に「All in Englishで教えなくても大丈夫ですか?」とよく聞かれますが、「大丈夫です!」と私はいつもお答えしています。
ご自分の発音を心配して英語を使わない、楽しそうではない授業の方が問題だと私は伝えています。

ご家庭でのお子さんも同じです。
お母さんも英語に興味を持って、まずはDVDの通りに歌ったり、話したりしてみましょう。
語りかけでなく、お子さんと一緒に歌を歌うだけでも良いのです。

DVDのまねに慣れたら、次に、普通に話してみましょう。
歌をまねしていた場合は、メロディーを取って、歌詞だけ話してみるのです。
自信のない英語は使わずに、DVDを通じて確実に覚えた英語表現を、どんどん使ってみましょう。

覚えたままの英語表現を、お子さんにも話しかければ良いのです。
覚えている英語表現が使えそうな日常の場面では、毎回必ず英語を使うようにしてください。

さらに、単語を言い換えて使ってみてください。
実は日本人の小学生でも、いつも使っている表現が定着してくると、単語の言いかえが可能になります。
例えば、"May I have a sticker, please?"(シールをもらえますか?)というフレーズがあります。
この表現は、ご褒美に先生からシールをもらう時にいつも使っていた表現です。
この表現が定着したころに、小学生がa stickerの部分をa marble(ビー玉)やa worksheet(ワークシート)に置き換えて使えるようになりました。
ネイティブの子どもたちも、定型表現と言って、決まりきった表現は場面と一致させて暗記して使って覚えていくようです。

DVDで覚えた表現を、使えそうな場面で積極的に使うようにしてみましょう!
お母さんが「英語を使って楽しい!」という気持ちになると、お子さんも積極的に使うようになりますよ。

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佐藤久美子先生近影

佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻) 脳科学研究所 教授。
長年、子どもの言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。
2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの「えいごであそぼ」、「えいごであそぼwith Orton」の総合指導を担当。

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