父親の仕事の関係で5歳からアメリカに移住し、その後、香港で過ごした松原光さん。幼少期に身につけた英語力を仕事に活かし、海外からも高く評価されている注目のイラストレーターです。
雑誌の表紙をはじめ国内外のアパレルブランドとのコラボレーション、また最近では中国、韓国、台湾などアジア主要都市の有名百貨店やホテルに作品を提供するなど、活躍の場を世界に広げています。
英語もアートも、「思いを伝える」ためのコミュニケーションツール。そんな松原さんに、英語で拓けた人生のチャンスと今後の目標などについて伺いました。
Q1. アメリカや香港で過ごした幼少期の英語習得についてお聞かせください。
Q2. アーティストとしての人生は英語でどのように拓けましたか?また今後の目標は?
Q3. 世界を目指すアーティストに求められる英語力とは?
Q4. バイリンガル教育に関心がある皆さまへのメッセージをお願いします。
Q1. アメリカや香港で過ごした幼少期の英語習得についてお聞かせください。
日本語もまだおぼつかないような幼稚園児だった頃、父の仕事の関係でアメリカ・イリノイ州のシカゴで暮らすことになりました。当時5歳だった僕は、突然現地校に入れられたのですが、言葉ができなくて困った思い出は不思議とないんですよ。
小さいときから運動が得意で、とくに足が早かったために一目置かれ、スポーツを通じて友達の輪の中にすんなり入れた記憶があります。
僕がいた当時のアメリカはマイケル・ジョーダン全盛期で、街中がバスケ一色。家のすぐ裏にもバスケットコートがあって、学校が終わるとみんなでバスケをしながら遊んでいました。
ゲームも携帯も今ほど普及していない時代だったので、すぐに仲間ができて、いろいろなことを教えてもらいました。子供同士で体を動かしているうちに自然に英語が身についた感じです。
11歳から13歳まで過ごした香港ではインターナショナルスクールに通いました。授業もすべて英語でしたが、その頃には日常生活に問題ないくらい英語が話せるようになっていました。
地元のサッカークラブに入っていたのですが、日本人も多かったため練習や試合のときは僕が通訳をするなど、アメリカで培った英語が役に立ちました。
Q2. アーティストとしての人生は英語でどのように拓けましたか?また今後の目標は?
自己流で作品を描きはじめた頃、東京ビッグサイトのアートイベントに出展したことがありました。僕の作品は、当初から日本の方よりもなぜか外国の方にウケが良く、イラストに興味をもってくださったり、購入してくださった方も多くいました。
2019年には、タイのバンコクで開催されたアートフェアに参加しました。世界中からたくさんのアーティストたちがブースを借りて作品を展示する形式のフェアでしたが、そこで僕の絵が現地のデザイナーの目に留まり、作品を気に入ってくれたのです。
英語でいろいろと会話するうちに話が盛り上がり、彼のオフィスの1階に新しくつくるカフェのアートビジュアルや、コーヒーカップのロゴ、Tシャツなどを制作させていただきました。
できることをひたすら行動に移しているうちに、2020年夏には中国の成都にある有名デパートで、世界的な人気キャラクターとのコラボが実現しました。
その後、韓国のアパレルブランド『STEREO VINYLS(ステレオビニールズ)』とのデザインコラボが決まったり、2022年には台湾の台南にある『Kindness day hotel』の記念グッズをつくらせていただいたりするチャンスにも恵まれました。
実際に現地に行くことは叶いませんでしたが、多くの方に僕の作品を知ってもらう機会となり、大きな自信につながりました。
最近では個展にも外国の方がたくさん訪れてくださるようになり、自分の作品について、直接英語で会話ができることが刺激になっています。自分の作品への思いを英語でダイレクトに伝えられるのはうれしいし、自分の活動をもっと世界に広めるための大切な一歩だと感じますね。
いつかアメリカの新聞『ニューヨーク・タイムズ』のコラムにイラストを描いてみたい。
その夢に向かって作品をつくり続けたいと考えています。
Q3. 世界を目指すアーティストに求められる英語力とは?
僕は子供の頃からスポーツばかりしていて、中学からはサッカーに夢中になり、正直英語力はそんなに必要ないんじゃないかと考えていた時期もありました。
でも、今こうして世界とつながり、さまざまな国に目を向けたとき、英語がしゃべれることは必須のスキルとして求められるものだと実感しています。好きな絵を描いて世界にチャレンジしようと決めてから、英語は「夢」を後押ししてくれる大切なツールとなり、チャンスを掴むための武器になりました。
英語を話すときには、自分の言いたいことをできるだけシンプルに、わかりやすい言葉で相手に伝えるように心がけています。
以前サッカー選手の本田圭佑さんのインタビューを聞いたとき、大切なのは難しい単語をたくさん使うことではなく、「話したい、伝えたい」という熱意だということを学びました。
どんなに完璧に文法をマスターしても、言いたいことがなければ、英語は相手に伝わりません。逆に、話したいことがあれば、自分の知っている単語を駆使して何とか伝えようとします。
英語表現はその積み重ねだと思います。僕は作品をつくるときにも同じことを考えています。最小限の要素でいかにより良く成立させていくか。
英語もデザインも人に伝わってこそ!世界の共通語である英語を学ぶ意義もそこにあるんじゃないかなと感じます。
Q4. バイリンガル教育に関心がある皆さまへのメッセージをお願いします。
僕自身の体験からも、小さな頃から英語にふれるメリットは間違いなくあると思います。アメリカにいたとき、テレビ番組や映画に日本語の字幕はありませんでしたが、意味がわからなくても面白くて毎日のように見ていました。洋楽も家の中にいつも流れていて、気に入ったフレーズを口ずさんだりしていました。
そうして幼少期のうちに無意識で身につけた英語力は、大人になった今、大切な財産になりました。
実は文法は苦手でしたが、僕にとって英語は「勉強」ではなく、自分が楽しんだり、友達とコミュニケーションしたりするのに欠かせないものだったので、「英語嫌い」にならなかったのかもしれません。
子供のときから英語に親しみ、好きなことを通して英語にふれることが、子供が英語に興味をもつ一番の方法だと思います。
インタビューを終えて
一度見たら忘れられないインパクトのあるフォルム。グラフィカルでどこかユーモアのある作品が人気です。無名の時代から国内外のアートフェアに積極的に参加し、得意の英語で仕事と人間関係の輪を広げてきました。
「英語ができれば世界は自然に大きく広がっていく」という松原さん。日本だけでなく、欧米・アジアなどでのグローバルな活躍も楽しみですね。
プロフィール:松原 光(まつばら ひかる)
1988年生まれ。漁師などを経て、独学からイラストレーターとしてのアーティスト活動をはじめる。シンプルな線とグラフィカルな形状を用いた作品を制作。2018年に参加した『UNKNOWN ASIA 2018』ではJeon Woochi賞、池田誠審査員賞を受賞。雑誌『POPEYE』や『文藝春秋』の表紙、BEAMSやJOURNAL STANDARD FUNITURE、LACOSTE、ZONe(エナジードリンク)など、さまざまなブランドに作品を提供。
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