抜群のリズム感とネイティブ・レベルの英語力を生かし、人気ラジオ番組のDJやナレーター、執筆など幅広く活躍中の秀島史香さん。
学生時代は外交官として世界中を飛び回る仕事を夢見て英語学習に励み、結婚後、2016年から2017年にかけてご家族で1年間ベルギーに滞在した経験もあるといいます。
今回は、英語が話せることで得たメリットやご家庭でのバイリンガル教育、これからの時代に必要な英語コミュニケーション力の高め方などを伺いました。
Q1. そもそも英語はどのように習得されたのですか?
Q2. かつては外交官になる夢をもち、英語を学ばれたそうですね。
Q3. 英語が話せて良かったことやエピソードをお聞かせください。
Q4. ベルギー滞在中はお子さまも現地の幼稚園に通われたそうですね。
Q5. バイリンガル育児を目指すときの注意点はありますか?
Q6. 子供が英語のコミュニケーション力を身につける良い方法はありますか?
Q7. これから日本の子供たちに必要な英語力とは何でしょうか?
Q1. そもそも英語はどのように習得されたのですか?
アメリカでラジオを聞きながら耳を慣らして英語を習得
父親の仕事の関係で、アメリカのニュージャージーに家族で引っ越したのは小学6年生のときです。英語力はまったくゼロの状態で現地校に飛び込みました。授業はもちろん全部英語。現地では友達もなかなかできず、宿題はいつも夜中までかかっていました。
勉強が終わってもすぐには眠れず、枕元でラジオを聞くようになりました。最初は何をいっているのか全然わからなかったのですが、"It will be sunny tomorrow."(明日の天気は晴れ)、"Yankees won!"(ヤンキースが勝った)といったニュースや洋楽を耳にするうちに、だんだんと英語の単語がひろえるようになってきたのです。
優しく語りかけてくれるようなラジオDJの英語によって少しずつ耳が慣れ、2カ月~3カ月後には周囲の会話がなんとなくわかるようになりました。自分から何とか友達に声をかけられるようになったのもその頃からです。
現地でラジオを聞いたことで英語を覚え、自分の殻をやぶるきっかけになりました。
Q2. かつては外交官になる夢をもち、英語を学ばれたそうですね。
英語は仕事の選択肢と人間関係を広げる世界共通の「ツール」
父の任期が終わった後も私だけニューヨークに残り、寮のある高校に進学しました。そこにはヨーロッパや中近東、南米などいろいろな文化で育った生徒たちが集まっていて、日々刺激を受けた高校生活でした。
アメリカでの学生時代、クラスメイトから街ゆく人まで、それぞれが好きな音楽や服装、宗教も違うのだなと知れば知るほど興味がわいて、「将来は外交官になって世界中を飛び回るような仕事をしたい」と考えたこともありました。結果的にラジオの道に進みましたが、世界中の人々と交流できるという点では今の仕事も共通しています。
世界をもっと知りたい!と思い本気で英語を学んだ経験は、私にとってかけがえのない財産になりました。英語という世界共通の「道具」を手に入れれば、仕事の選択肢も人間関係も自然と広がっていくものだと今も感じています。
Q3. 英語が話せて良かったことやエピソードをお聞かせください。
世界的スターとのインタビューで「言葉」が伝わる喜びを実感
学生時代は「1998年長野オリンピック」にて、スキージャンプ競技の運営ボランティアを体験しました。各国から来日された選手の方々、スタッフの皆さんの通訳やアテンドを通して、「良い雪だね」とか「食事も楽しんでるよ」など会話が弾み、日本を気に入っていただけたことを誇りに感じました。
英語ができて良かったという気持ちと同時に、英語で誰かを楽しませたり、チームの一員として少しでも私の英語力が何かの役に立ったりしたことがうれしくて、今でも忘れられない大切な思い出となっています。
またラジオのお仕事で、子供の頃から憧れていた世界的アーティストのジャネット・ジャクソンさんをお迎えしたときは本当に感激しました。私の質問に優しく答えてくださったり、うなずいて笑ってくれたりしたことが夢のようで...。
そのとき、どんなに大スターであってもみな同じ人間であり、「言葉」が伝われば怖いものはないと思いました。英語はコミュニケーションの扉を拓く大切な鍵であること、そして人とつながることの喜びを心から実感したのです。
Q4. ベルギー滞在中はお子さまも現地の幼稚園に通われたそうですね。
英語を耳から聞きバイリンガル、トリリンガルが育つ多言語文化圏
夫の仕事の関係で、当時6歳だった娘を連れて1年間ベルギーのヘントという街で暮らしました。ベルギーはフランス語、オランダ語、ドイツ語の3つが公用語の多言語文化圏です。
でも、スーパーやレストランなどではたいてい英語が通じました。現地でできた友人に理由を聞くと「みんな子供の頃からテレビを見ながら英語を覚える」と教えてくれました。海外のテレビ番組の多くが英語のまま現地語の字幕つきで放映され、幼少期から日常的に英語を耳にしているためにバイリンガル、トリリンガルが育つ環境なんだとか。
そんな中で現地のインターナショナル幼稚園に通った娘も、1年の間に驚くほど英語の単語を覚えました。彼女なりに、周囲のお友達や先生方とカタコトの英語でおしゃべりをする姿を見て、耳で聞いたままの英語をすぐに覚えて言えるようになるのは、頭が柔らかな子供ならではとうらやましく思ったりして。
日本に帰国してからは、家でも英語の番組は字幕で見るようにしたり、海外のキッズ動画は英語のままで楽しむようにしています。
Q5. バイリンガル育児を目指すときの注意点はありますか?
子供の興味を引きだし、子供といっしょに英語を楽しむ時間をつくる
「バイリンガル教育」と大きく構えずに、子供の興味のあることを見つけるのが一番だと思います。
たとえばアニメやゲームなど、何でも良いので子供が好きなものがあれば、「どれどれ私も」と、親子で英語にふれるチャンスです。
10歳の娘が最近料理に興味をもちはじめ、海外の料理番組をいっしょに見るようになりました。
「冷蔵庫の中の残り物って"leftovers"って言うんだね」とか、「冷蔵庫って"refrigerator"だけじゃなくて"fridge"とも言うんだって」「ワンタンは英語でも"ワンタン"なんだね!」という具合に、番組の中で使われた、ちょっと面白い単語についておしゃべりしながら、私自身も楽しんでいます。
親が楽しそうにしている姿を見て、娘も自然と「英語って面白い」と感じているようです。多少の間違いは気にしないのが我が家流。「それは違うよ」といちいち文法など細かく直されていたら、大人だってイヤになってしまいますもんね。日常生活の中でどんどん英語を使いながら、英語を使う楽しさをたくさん伝えられたらと思います。
Q6. 子供が英語のコミュニケーション力を身につける良い方法はありますか?
毎日の「あいさつ」を通し、親子のコミュニケーションを大切にする
コミュニケーション力は人生を楽しく生きる上で大切なスキルだと思います。その基本は、自分から"Hi"(こんにちは)と言って心を開くことが第一歩ですが、英語には"How's it going?"(調子はどう?)など相手の気持ちを考えながら、会話のキャッチボールを楽しむための素敵な言葉がけがいろいろあります。
海外では初対面の人同士でも気軽にあいさつを交わす姿をよく目にしますが、家庭の中でも"Good morning."(おはよう)にはじまり"Have fun."(楽しんでね)、"Good luck!"(幸運を祈っているよ!)など、毎日たくさんのあいさつや言葉を交わし合います。
食事をするときにも"How was your day?"(今日はどうだった?)とその日の出来事をたずねたり、家族で報告しあったり。またアメリカでもベルギーでも、子供の話をとても熱心に聞き、共感し、対等に話す親たちの姿を見て「なるほど」と思いました。
家族とのあいさつや会話の積み重ねは、子供の豊かなコミュニケーション力を育むきっかけになります。ご家庭でも、まずは簡単なあいさつを通してお子さまと英語のやりとりを楽しんでみるのはいかがでしょうか。
Q7. これから日本の子供たちに必要な英語力とは何でしょうか?
「伝わった!」という成功体験が人生を一歩踏みだす勇気につながる
子供たちには、自分の言葉で「伝えたいことをしっかり相手に伝える力」を身につけてほしいと思います。英語は人とつながるための便利な道具の1つであり、道具は使ってこそ役に立つものです。
ですから「完璧な英語を覚えてから」とか、「RとLの発音がうまくなってから話そう」なんて考える必要はまったくありません。「伝えたい」という意志があれば発音や文法力は後からついてくると私は考えています。
「東京2020パラリンピック競技大会」が開催されたとき、イギリス、カナダ、イタリア、インドなどさまざまな国のスタッフとチームになって競技運営に携わる機会がありました。同じ英語でも出身国によって特有のアクセントがあったり、表現方法が違ったりして緊張したことを覚えています。
そんな中、それぞれが自分の英語ともっているスキルを尽くし、世界の大舞台で力を合わせるという現場は、ヒリヒリするような緊張感と胸が熱くなる達成感がありました。
失敗を恐れない精神力が仕事・人生を何倍も豊かにする
こういった経験を通して、どんなときでも失敗を恐れず堂々と自分の言葉、自分の英語で意思を伝えようとするしなやかな精神力があれば、仕事も人生も、何倍も楽しむことができることを実感してきました。
英語は世界共通語ですが、正解は1つではありません。子供たちが自分らしく積極的に自分の英語を使えるようになるには、幼少期から「伝わった!うれしい!」という成功体験をたくさん積み重ね、自信をもたせてあげることが大切だと思います。
そのためにも、おうちの人自身が日々の暮らしの中で子供の聞く力・話す力をコツコツのばしてあげると良いのではないでしょうか。対等に1人の人間としてしっかり話を聞き、言葉を返す。将来子供が異文化の中に飛び込んだとき、幼少期の「思いが伝わった!」という体験が「一歩踏みだす勇気」につながることを願っています。
インタビューを終えて
幼少期のラジオとの出会いをきっかけに、耳で聞きながら英語を習得した秀島さん。ご家庭でも、お子さまが小さな頃から英語を聞く環境を大切にされてきたそうです。
まずは"Hi!"や"Good morning."など、身近な声がけからはじめてみると良いかもしれません。秀島さんのアドバイスを今後のバイリンガル子育てのヒントにしてはいかがでしょうか。
プロフィール:秀島 史香(ひでしま ふみか)
神奈川県茅ヶ崎市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒。大学在学中にラジオDJデビュー。NHKラジオ『英語で読む村上春樹』『洋楽で学ぶ英文法』などをはじめ、ラジオ、映画・テレビ・CMなどのナレーション、機内放送、美術館音声ガイド、朗読、コラム執筆など幅広く活躍中。令和元年度(第74回)文化庁芸術祭賞にてラジオ部門・放送個人賞受賞。著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)がある。
Instagram:@hideshimafumika