東京都では、小・中学校で身につけた英語によるコミュニケーション能力を、高校でさらに向上させるために、小・中・高校で一貫した英語教育を進めています。2023(令和5)年度からは、都立高校の入試に、中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J、以下スピーキングテスト)を活用することを決定しました。
スピーキングテストとは、英語4技能のうち、『話す』能力が測られるテストのことです。今回は、このスピーキングテストの活用によって、都立高校の入試がどのように変わるかについて、ご紹介します。
1. いよいよ都立高入試にも、「話す力」の評価が加わる
2. スピーキングテストで最も求められるのは、コミュニケーション能力
3. 子供たちのスピーキング力を高めるには、どうしたら良い?
4. 民間英語試験の結果により、高校入試が有利になる学校もある
1. いよいよ都立高入試にも、「話す力」の評価が加わる
これまでの都立高入試の得点に、新たにスピーキングテストの20点を加算
東京都教育委員会は2021年9月24日、2022年に実施する2023年度(令和5年度)の都立高校入学者選抜から、スピーキングテストの結果を活用することを決定しました。スピーキングテストは、都内の公立中学校の3年生全員に実施されます。
これによって、今まで英語4技能のうち「聞く」「読む」「書く」の3技能のみで評価されていた都立高入試に、いよいよ「話す力」の評価が加わることになります。
具体的な選抜方法について、お話ししましょう。都立高校では、これまで入学者選抜において、次のような方法で採点を行ってきました。
学力検査の結果が700点満点(5教科×100点=500点満点を700点に換算)、調査書点の結果が300点満点(65点満点を300点に換算)なので、最高得点は次のように1000点でした。
(学力検査)700点
+(調査書点)300点
=(総合得点)1000点
そして、2023年度の入試以降は、次のような方法で入学者選抜を行います。
学力検査の結果(700点満点)と、調査書点の結果(300点満点)に、新たにスピーキングテストの結果(20点満点)が加算されます。
(学力検査)700点
+(調査書点)300点
+(スピーキングテストの結果)20点
=(総合得点)1020点
つまり、これまで都立高入試の得点であった1000点満点に、新たにスピーキングテストの20点満点を加えたものが、総合得点となります。20点というのはけっして大きい数字ではありませんが、高校入試は1点2点を競い合うこともあるので、スピーキングテストの点数が選抜の結果に影響することは間違いありません。
6段階の評価を、20点満点の点数として換算
スピーキングテストの点数は、AからFまでの6段階の評価を、20点満点の点数として換算します(正式な決定は、「令和5年度東京都立高等学校入学者選抜実施要綱」で発表)。
評価 | 点数 |
---|---|
A | 20点 |
B | 16点 |
C | 12点 |
D | 8点 |
E | 4点 |
F | 0点 |
※出典:東京都教育委員会ホームページ
2. スピーキングテストで最も求められるのは、コミュニケーション能力
スピーキングテストの問題は、4つのパートに分かれている
スピーキングテストの問題は全部で8問あり、主に4つのパートに分かれて出題されます。
パート | 出題形式 | 出題数 |
---|---|---|
A | 英文を読み上げる | 2 |
B | 質問を聞いて応答する 意図を伝える |
4 |
C | ストーリーを英語で話す | 1 |
D | 自分の意見を述べる | 1 |
スピーキングテストの評価には、大きく分けて3つの観点があります。
1つ目は英語によるコミュニケーションがどの程度できるか、2つ目は英語の言語を正しく活用できるか、そして3つ目は発音の流暢さです。
上記の出題数の配分を見ると、スピーキングテストに最も求められるものが、コミュニケーション能力であることがわかるでしょう。
小・中で身につけたコミュニケーション能力を、高校でさらに向上させるための施策
このように、都立高入試にスピーキングテストが導入されるようになった背景には、東京都が計画的に進めている「グローバル人材育成計画」があります。
これまでも東京都では、小学校英語の教科化や、英語4技能評価の導入、ICTを活用したスピーキング能力の向上など、さまざまな取り組みを行ってきました。
今回の都立高入試改革も、小・中学校で身につけた英語のコミュニケーション能力を、高校でさらに向上させるために、その施策のひとつとして実施されるものです。
3. 子供たちのスピーキング力を高めるには、どうしたらいい?
大人が4技能の中で一番難しいと感じているのがスピーキング
では、子供たちのスピーキング力を高めるには、どのような方法があるのでしょうか?スピーキング力というのは、一朝一夕に育てられる能力ではなく、英語にふれあう機会が少ない日本では、スピーキング力に自信のない人も少なくありません。
TOEICを実施している一般社団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が、英語学習をしている全国の20~50代の働く男女500名を対象に実施した調査によると、英語の4技能において「スピーキングが一番難しい」と回答した人は55.8%と、半数以上に及びました。
また、一番のばしたいと思っているものに「スピーキング」と答えた人も66.6%と多く、20代以上のビジネスパーソンが、いかにスピーキングの重要性を感じているかがわかります。
※出典:「プレスリリース IIBC『英語のスピーキングに関する実態と意識』調査結果を発表」(一財)国際ビジネスコミュニケーション協会
英語のコミュニケーションに重要なのは、「伝えたいという気持ち」
このアンケートでもうひとつ、興味深い結果があります。英語のコミュニケーションにおいて、「外国人と意思疎通を図るために何が重要か?」という質問に対する回答は、1位が「伝えたいという気持ち(25.8%)」、2位は「語彙力(23.4%)」、3位は「発音(22.4%)」でした。
スピーキング力を高めるためには、自分の気持ちを英語で伝える喜びを経験することが大切であり、そうした人と人との関わりの中でこそ、自然に英語力を育むことができると多くの人が考えているということでしょう。
※出典:「プレスリリース IIBC『英語のスピーキングに関する実態と意識』調査結果を発表」(一財)国際ビジネスコミュニケーション協会
4. 民間英語試験の結果により、高校入試が有利になる学校もある
大阪の公立高校は、英検®1級取得で英語の得点の100%が保証される
英検®など民間の英語試験のスコアが、高校入試に大きく関わる学校もあります。
たとえば、大阪の公立高校の入学者選抜では、英検®(またはTOEFL iBT、IELTS)の取得級(スコア)に応じて読み替え率を決め、英語の学力検査の点数と比較して、高い方の点数を学力検査の成績にするとしています。
TOEFL iBT | IELTS | 実用英語技能検定 | 読み替え率 |
---|---|---|---|
60~120点 | 6.0~9.0 | 準1級・1級 | 100% |
50~59点 | 5.5 | (対応無し) | 90% |
40~49点 | 5.0 | 2級 | 80% |
つまり、英検®準1級か1級を取っていれば100%の得点、英検®2級を取得していれば80%の得点が保証されるということです。そうなると、英語の勉強に割くはずだった労力を他の教科に振り分けられるので、受験にはかなり有利になるでしょう。
大阪の私立高校でも、英検®合格級によって入試の優遇を行っている学校があります。優遇の内容は学校によってさまざまで、英検の級に応じて英語の得点を保証するケースもあれば、英語の得点に加点をするケースなどもあります。このように英検®の取得によって入試が有利になる学校は、大阪府以外にも数多くあります。
英語教育改革が進む中、入試方法も変化している
このように、スピーキングテストの点数や英検®など民間英語試験のスコアが入試に有利になるケースは多く、これからも増える可能性が考えられます。
グローバル化に対応した英語教育改革が進む中、「聞く」「話す」「読む」「書く」の英語4技能の習得を重視する学校の方針によって、入試の方法も変わりつつあります。お子さまが中学、高校、あるいは大学に進学するとき、どのような英語力が求められるかを今から考えておくことも必要かもしれません。
※英検®は、公益財団法人 日本英語検定協会の登録商標です。
まとめ
都立高校の入試にスピーキングテストの結果が活用されることや、大阪の府立高校の入試で英検の取得級に応じた得点保障が受けられることなどについて、お話ししました。日本の英語教育は、今までのような"学問としての英語"から、"使える英語"へと大きくシフトしています。その中で、英語のスピーキング力の重要性も、ますます高まることでしょう。