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日本語と英語の両方を「母語」に!子供たちに必要な言語教育とは?〜アーサー・ビナードさんインタビュー〜

アメリカで生まれ育ち、大学卒業と同時に来日。卒論の際に日本語と出会い、魅了されたのがきっかけで日本語を学びはじめたといいます。現在は日本語と英語に加え、イタリア語の翻訳も手がける詩人のアーサー・ビナードさん。数々のエッセイや絵本の中に綴られた言葉は、読み手の想像力を豊かに広げてくれます。

今回は、そんな言語の達人・アーサーさんに、日本の子供たちが言語の壁を乗り越え、世界中の人と豊かにコミュニケーションできるようになるためのアドバイスや、言語習得のコツを伺いました。


Q1. 子供時代はどのような環境で過ごされたのですか?

Q2. 母語以外の言語を学ぶ一番のメリットは何ですか?

Q3. 子供に英語を学ばせる良い方法はありますか?

Q4. 子供のもつ言語能力を高めるために、親ができることは何でしょう。

Q5. 作品を翻訳するときに大切にしていることや工夫する点はどこですか?

Q6. これからの時代を生きる子供たちに必要なことは何でしょう。


Q1. 子供時代はどのような環境で過ごされたのですか?

Q1. 子供時代はどのような環境で過ごされたのですか?

言葉は「つくり手」になった方が何倍もおもしろい

アメリカのミシガン州デトロイトに生まれ、自然の中で遊べる、恵まれた環境で育ちました。ミシガン北部を流れるオーサブル川で釣った魚を食べたり、泳いだり。水生昆虫をはじめ、猛禽類のミサゴやハクトウワシ、尾白ジカなどが息するはいろんな遊びを用意してくれました。故郷の生き物とふれ合って過ごした子供時代が、創作の原点になっているといえるかもしれません。

また、デトロイトは自動車産業が盛んで、当時はカッコいい職人さんたちがクラシック・カーを改造したり部品を変形させたりして、歯車1つからエンジンまで手作業いろいろいじっていました。自分で解体してつくり直したり、修理したりできてこそ、自分のものになるということを教わりました。

言語教育も同じことがいえるのです。僕がときどき頼まれ「子供のためのワークショップ」では、できあいの言葉を覚えるのではなく、参加者が自分で考えて見つけ言葉を紙に書いたり、それをつなげて詩をつくり、リズムやメロディーさぐってみ歌ったりするのですが、子供は言葉づくりの名人です。いろんなことを発見して、発展させてどんどん言葉を生みだし、ワクワクしながら詩や歌のつくり手になることを楽しんでくれます。

完成形のものを覚えさせるのではなく、「言葉は自分でつくっていくもの」という経験をいっしょにすことが、真の言語教育です。日本語でも英語でも、どんな言語でも共通していえます。機械いじりならぬ言葉いり、あるいは言語大工仕事と呼んでも良いです

Q2. 母語以外の言語を学ぶ一番のメリットは何ですか?

Q2. 母語以外の言語を学ぶ一番のメリットは何ですか?

言語は自分の野と想像力をより豊かにするための道具

母語以外の言語を学ぶ一番の面白さは、同じ生き物の名前や自然現象、同じ空間や時間を、まったく別の仕組みと感覚をもった言葉のツールでとらえ直して調べられることにあると思います。
英語はこうだ。日本語に訳すとこうなる。タミル語はどうだろう?自分の視点を変えながら、言葉の向こうにある実体をつかもうとするわけです。

たとえば『PCR』という単語があります。ま略語と呼んだほうがいいか。「そもそもPCRって何?このPって何の略?Cはいったい何?」とさぐれば実体が見えてくる。でもまわりに聞くと、わからないという人が意外と多い。PCRを発明したのはアメリカの化学者、キャリー・マリスという人で、その業績が讃えられ1993年にはノーベル化学賞を受賞しています。
著書もあって日本語の翻訳本も出版されているから「何だろう」と疑問に思えば、PCRの意味や本来の用途を知ることができるんですね。日本語で興味をもったなら、英語でも調べてみるともっといろんなことがわかる。「そうだったのか!」と気づくことがたくさんあるはずです。

僕は今、英語と日本語を半々くらいに使って生活していますが、英語で読んでいるときには気づかなかった矛盾を、日本語で読んだときに強く感じたり、その逆もよくあります。そもそも文章を書くという作業は、言葉を疑ることからはじまったりもします。

言語はコミュニケーションの方法の1つですが、同時にものごとをさまざまな角度から見るレンズの役割も果たします。英語のメガネ、日本語のメガネ、もっとたくさんの言葉のメガネをもっていれば、さらに面白く生きられると思う。
そのメガネを自由にかけ替えれば、自分なりの考え方や答えが見つかることもあります。言語を学ぶ一番のメリットも楽しみもそこにあります。

Q3. 子供が英語を自然に身につける良い方法はありますか?

Q4. 子供のもつ言語能力を高めるために、親ができることは何でしょう。

外国語ではなく「母語」として英語を体内に入れる

小さい子供って良い意味で、とても健全に身のまわりで起きるすべてのことを疑いながら生きているんです。知らない大人が近づいてきたときに、怖ければ大声で泣くし、安心すれば笑ってくれる。
全身で喜怒哀楽を表現し、やっとの思いで言葉をつかみ、心の底から一言二言、発するようになるわけですよ。

新しい言語を覚えるときも同じで、子供がもって生まれた感覚、行動力、直感力を、英語なら英語と直接つなげてあげることです。一人ひとりの中にある本物の感情と、この新しい言語の間に、日本語を介在させないことが大事です。

"I am hungry."を「おなかがすきました」と置き換えて覚えさせる必要はない。それなら翻訳機でもできます。

極端にいえば、英語を外国語としてではなく、赤ん坊が「母語」を覚えるのと同じように身につければ良いんですよ。大人が新しい言語を学ぼうとするとき、たとえば日本語と英語をつなげようとしてしまいがちだけど、物心がつく前の子供は、自分の思いを言葉にしようとする力が大人よりもずっと強い。その力が生かされる形で母語のように英語にふれることです。

大人は、その子がどれくらい実感をもって、その子らしい言葉で表現できるかを考えてあげてください。心の底からわき上がってくる感情とつながったとき、はじめて自分の言葉に日本語も英語も同じです。
子供は素晴らしい表現をもって生まれてくるのです。

Q4. 子供のもつ言語能力を高めるために、親ができることは何でしょう。

Q4. 子供のもつ言語能力を高めるために、親ができることは何でしょう。

五感を使った幼少期の体験は、子供がもつ言語能力の「根っこ」になる

子供の興味の向かうところは一人ひとり違います。子供が何に関心を示すか、それを見出すのはその子の一番近くにいる親の特権です。
この子には音楽が良いとか、体を動かすのが好き、粘土遊び、この子は紙と鉛筆があれば夢中で遊ぶとか。どうすれば我が子が豊かな時間を自ら作りだすことができるかは、子供をじっと観察しているとわかります。
体と五感を使った幼少期の体験は、子供がもつ素晴らしい言語能力の根っこになります。それを学校や塾などに任せてはいけません。

僕は子供の頃、家族といっしょにサーカスや人形劇やライブ、舞台などを観にいきました。生身の人間が歌ったり踊ったりする中か、誰かが実感のこもった一言を発したときに、その言葉は強烈に印象に残ります。

子供って、気に入った言葉を何度もくり返し聞いたりしゃべったりするのが好きだから、一度面白い言葉と出会うと一生忘れない。そういう言葉との遭遇可能にしてあげると良いですね。昔からみんなに読みつがれている物語にふれて学べることも多いでしょう。

Q5. 作品を翻訳するときに大切にしていることや工夫する点はどこですか?

花さき山

豊かな未来につながっていくような、言葉の本質を読者に手渡したい

子供が読者として物語の中に分け入ってきてくれたときに、ただ単に刺激をあたえるとか、面白がらせるとか、そそるだけで終わるような物語にはしたくありません。絵本を通した体験は、疑似体験ではあるけれど、実感がわき、物語の本質が伝わるような翻訳を心がけます。

2020年に、刊行から50年を迎えた名作絵本『花さき山』(岩崎書店)の英語版を手がけました。この物語は、10歳くらいの少女が山菜を取りに行った山で白髪の山ンばと出会う話です。長い間、読みつがれた民話や昔話の中には、英語にはないような表現も多く使われていて、翻訳する際には、辞書にはない英語をつくることがよくあります。僕が『花さき山』にすむ山ンばになり代わって、必死に言葉を生みだすわけです。同じように、ロングセラー絵本として親しまれている『モチモチの木』(岩崎書店)の英語版を手がけ、2021年秋に発売になりました。

アーサーさんが翻訳された絵本

また、『はらぺこあおむし』が代表作のエリック・カールの新作『ありえない!』(共に偕成社)では、絵の素晴らしさ、見開きごとに遊びが完結するリズミカルなおかしさを生かすために、言葉遊びをふんだんに使いました。何年経っても色褪せないカールさんの作品の翻訳もまた、毎回ゼロから出発して、毎回試されることばかりです。

和訳も英訳も「言葉づくり」です。翻訳するときには必ず造語が必要になります。もしも言葉をつくることができない僕らになりさがってしまったら、どんなに素晴らしい文学作品も途絶えてしまうはず。だって語りつがなかったら終わってしまいます。先人たちの、その時代の生き生きとした姿を新たに言葉で描きだすことは、AIにはできないからです。

絵本の世界に入ってきてくれた子供たちが、生きた言葉にふれ、豊かに想像力をふくらませ、それが未来へとつながっていくものでなければならない。言葉の本質を読者に手渡したい。いつもそう考えています。

Q6. これからの時代を生きる子供たちに必要なことは何でしょう。

Q6. これからの時代を生きる子供たちに必要なことは何でしょう。

受け身の側から「言葉のつくり手」側になるように導く言語教育を

IT技術の飛躍的な発達によって、知識は簡単に手に入る時代だけれど、AI機能は1つのツールに過ぎません。与えられた情報に慣れ、それを受け取ってみんなが消費するという姿勢では、これからの時代に生き残ることはできないでしょう。

子供たちが今おかれている状況から抜けだすには、受け身の側から「言葉のつくり手」側になるように導いてあげることです。先々良い大学や有名企業に入ることだけを目標に語学を身につけさせようと考えるのは無意味です。

先人たちが残した素晴らしい物語をはじめ、絵本や詩を読み聞かせたり、英語の歌を歌ったり。日々の暮らしの中で深みある言葉に何度も親しむことは大事そして、子供が好きな言葉を見つけたら、いっしょになってくり返しくり返し、心の底から本気で発してみてください。

魂がこもった豊かな表現力は、先の見えない時代を生き抜く力となり、主体的に人生を切り拓いていく自信となるでしょう。ツールに使われるのではなく、使う側の人間になるように、さらにつくりだす側へ回れるように。子供たち一人ひとりが実り豊かな人生のつくり手となることを願います。

インタビューを終えて

詩集、エッセイ、翻訳絵本からラジオのパーソナリティまで、日本語を自在に使いこなすアーサーさん。書き下ろしのエッセイが中学校の国語の教科書に掲載されるなど、日本の教育現場でも活用されています。
執筆のみならず、日本各地へ出向いてワークショップを開催し、自作紙芝居の上演や平和をテーマにした絵本ライブを行うなど、歩みを止めることなく活動を続けています。
「本物の言葉にふれてほしい」と語るアーサーさんの作品を、ぜひお子さまといっしょに読んでみてはいかがでしょう。日本語と英語の両方が、やさしく体内に入ってきますよ。


アーサー・ビナードさん

プロフィール:アーサー・ビナード(あーさー・びなーど)
詩人。1967年生まれ。ニューヨークのコルゲート大学で英米文学を学び、卒業と同時に来日。日本語で詩を書きはじめる。2001年、詩集『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞を受賞。『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』(集英社)で日本絵本賞受賞。エッセイ集に『日本語ぽこりぽこり』(小学館)、翻訳絵本に『ダンデライオン』(福音館書店)、『ほんとうのサーカス』(BL出版)など多数。平日の夕方、文化放送のラジオ番組「午後の三枚おろし」でパーソナリティも務める。

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