「子供に英語学習を」と考えるパパとママからは、子供の英語力だけでなく、グローバルな感覚や思考力も養いたいというご意見をよく耳にします。
子供の語彙力や思考力、言語的感覚などの発達に大きな影響を与えるといわれているものの1つとしてよくあげられるのは、質問を含む「大人の語りかけ」です。
まだ語彙が乏しい子供に語りかけをするとき、私たちは自然とさまざまな質問を投げかけています。
「何をしているの?」
「どっちが好き?」
「これは誰?」
しかし、会話の中で何気なく出てくるこうした質問には、大きく分けて「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」という2つの種類があることはご存知でしょうか?このうち、子供のさまざまな能力をのばすために有効なのが、オープンクエスチョンを取り入れた語りかけだといわれています。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの違い、また、オープンクエスチョンが幼児期の言語、思考の発達や英語学習にどのように影響を与えるのか、具体的に見ていきましょう。
オープンクエスチョンとは?
オープンクエスチョンとは、簡単にいうと、「はい」または「いいえ」のように限られた答えでは回答できない質問のことをいいます。
たとえば、「いつ」「どこで」「誰が」「何が」「なぜ」「どうやって」など、英語でいう5W1H(When、Where、Who、What、Why、How)を使った質問は、回答者が自由な発想で答えられるため、オープンクエスチョンということになります。
一方で、ある選択肢の中から回答できる質問は、「答えが限定される」という意味でクローズドクエスチョンと呼ばれます。たとえば、「あなたは学生ですか?」「あなたは旅行が好きですか?」などの質問は、「はい」か「いいえ」のどちらかで答えられるためクローズドクエスチョンです。また、「あなたは犬と猫、どちらの方が好きですか?」という質問も、与えられた二択から回答できるため、クローズドクエスチョンということになります。
同じような内容をオープンクエスチョンに置き換えると、
「あなたはどこでどのようなことを学んでいますか?」
「あなたはどのような場所を旅するのが好きですか?」
「ペットを飼うとしたら、どんな動物を飼いたいですか?」
といった質問になります。答えの自由度が一気に高まることがわかるでしょう。
幼児期の学習や、英語学習におけるオープンクエスチョンの効果
幼児期の語りかけとして、オープンクエスチョンは「より多くの語彙の習得につながる」、また「考える力をのばす」といったプラスの効果を生む方法だといわれています。幼児期の英語学習においてもそれは同じです。
これは、オープンクエスチョンを繰り返すことで、子供の「考える機会」や「考えや思いを言葉で表現しようとする機会」が増えるからだと考えられています。クローズドクエスチョンでは、あらかじめ与えられた選択肢から答えを選べば良いので、多くを考えることも、言葉を探す必要もなくなってしまいます。
たとえば、車のおもちゃで遊んでいる3歳の男の子がいるとします。ここで語りかける場合、どのように問うのがオープンクエスチョン、またはクローズドクエスチョンになるでしょう。
「この車はどこへ行くの?」
「この車には誰が乗っているの?」
5W1Hを使ったこうした質問はオープンクエスチョンです。
「これから海へ行くんだよ」
「ママとパパと僕が乗ってるんだ」
子供たちは、限られた経験や知識の中から考えをつむぎだし、言葉として表現しようとするでしょう。この「考え、言葉を探そうとする」作業が、思考力や語彙力を習得する上でとても大切なのです。
これがクローズドクエスチョンだとどのようになるでしょうか。
「車が好き?」
「この車は速いの?」
このように問われると、「うん」の一言で答えられてしまい、子供はこれ以上の答えや情報を発しないかもしれません。会話をしようと手始めに聞く質問としては有効ですが、こうした質問ばかりでは、子供たちが自ら考え、言葉として表現する機会が失われてしまうのがわかります。
これは幼児だけでなく、英語や他の言語を学習する大人に関しても同じです。より多く語彙を増やそうとするのであれば、できるだけオープンクエスチョンに身を浸し、知っている単語を使って自分なりの経験や考えを表現する練習を重ねることが重要です。
クローズドクエスチョンもうまく活用
オープンクエスチョンが効果的な語りかけであることはわかりましたが、それは決して「クローズドクエスチョンをしてはいけない!」ということではありません。
むしろ、クローズドクエスチョンのほうが効果的に働く場合もあります。英語を学習しはじめたばかりの大人や、言葉を話しはじめたばかりの子供など、新しい言語に初めてふれる学習者にとってクローズドクエスチョンは、言葉を広げていくための第一歩として大きな助けになります。
たとえば、英語学習をはじめたばかりの小学生の子供に花の写真を見せ、"What's this?"(これは何ですか?)というオープンクエスチョンをするとします。仮に聞かれている内容が理解できたとしても、答えに詰まってしまうことが想定されるでしょう。
そこで、質問をオープンクエスチョンからクローズドクエスチョンに切り替えます。
"Is this a flower or an apple?"
(これは花ですか、それともりんごですか?)
こうして選択肢を絞ってあげることで、英語の語彙がまだ乏しい英語初心者の子供でも、答えることが一気に容易になるはずです。これでも難しいようであれば、"Is this a flower?"(これは花ですか?)と、"Yes"(はい)か"No"(いいえ)で答えられるような質問に切り替えていきます。
こうして、答えやすいクローズドクエスチョンからさまざまな質問をしていくことで、学習者は大きなストレスを感じることなく、徐々に英語などの外国語に慣れ親しんでいくことができます。
これは母語を話しはじめたばかりの幼児でも同じです。語彙が限られている小さな子供にとって、答えを自分で考え表現しなければならないオープンクエスチョンは、難題となることもあります。「何を食べたい?」と聞かれても、「『あれ』が食べたいけれど、名前がわからないなぁ」と困り、答えに詰まることもあるでしょう。
そこで、写真や実物を見せながら「りんごが食べたい?それともバナナが食べたい?」とクローズドクエスチョンにしてあげることで、「そうだ、私が食べたいものはバナナという名前だった!」と学ぶことができ、語彙が広がっていきます。
この段階を何回か経たあとで、「何が食べたい?」とオープンクエスチョンに切り替えていきます。クローズドクエスチョンを通して語彙力の基礎を培うことで、オープンクエスチョンに答える力の基盤を形作ることができるはずです。
まとめ
自分の気持ちや感覚、考えを表現できる語彙力や、自由な発想を発信できる力こそ、グローバル社会で生きていく力の基礎です。
お子さまとの日頃の会話から意識的にオープンクエスチョンを取り入れ、思考力や語彙力を育んでいくことが、そうした力を養う第一歩になるのかもしれません。