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秋田県内の小学校でオールイングリッシュの授業を推進~国際教養大学専門職大学院・町田智久准教授インタビュー~

秋田県内の小学校で、オールイングリッシュ(英語による英語指導を表す通称。正式にはTeaching English in English)の授業を広めるために尽力されている、国際教養大学専門職大学院の町田智久准教授。

「小学校の英語教育を変えていきたい」という思いから、子供たちが興味・関心をもつさまざまな英語への取り組みを、県内の先生方にアドバイスされているそうです。いったいどのような授業なのか、詳しいお話を伺いました。


Q1. 県内の小学校で実践されている、TOEFL Primaryを取り入れたオールイングリッシュの授業内容と成果について教えてください。

Q2. 日本の英語教育が大きく変わりましたが、いま子供たちには、どのような英語力が求められていますか?それを身につけるためには何が必要ですか?

Q3. 先生が提唱する「英語を教えることに集中するのではなく、英語を通じて子供たちの良さをさらに伸ばす」教育法とは、具体的にどのような方法ですか?

Q4. 「こういう授業をして、生徒の英語力が伸びた」という体験がありましたら、教えてください。

Q5. 就学前の子供たちも、英語に親しむ機会をもった方が良いですか?



Q1. 県内の小学校で実践されているTOEFL Primaryを取り入れたオールイングリッシュの授業内容と成果について教えてください。

オールイングリッシュで授業を行うと、子供たちの反応が違う

TOEFL Primary(※)を使い始めたのは2015年からで、週に1回秋田県大仙市にある小学校の、6年生を対象に、担任の先生と一緒にオールイングリッシュの英語授業を始めました。

英語の授業では、インプット(英語のシャワー)を子供たちに与えることが最も大事です。英語によるインプットをより多く与えるためには、英語を指導する際にはすべて英語を使って授業を行うのが理想的です。

担任の先生方は最初、「英語で授業を行うのは無理です」とおっしゃっていたのですが、実際に私が英語で授業を行うのを見て、「やっぱりオールイングリッシュで授業を行うと、子供たちの反応が違う」と思われたようです。

子供たちは英語を英語のまま、日本語を介さずに理解するようになり、英語の指示にも自然と反応するようになりました。そして、英語を使ってコミュニケーションする楽しさを実感していたようでした。毎回、英語の指導に関するアドバイスを担任の先生に伝えることで、最終的には担任の先生方も、オールイングリッシュの授業を行うことができるようになりました。

※TOEFL Primary:英語初級者の総合的な英語力を測る、小・中学生向けのTOEFLテストのこと。

英語が苦手だった子供たちの多くが、英語を好きになる

こうした取り組みを行って、子供たちの英語がどのぐらい上達したかをみるために、年に2回TOEFL Primaryを実施しました。

最初は「英語は全然できない」「英語は苦手」という子供も多かったのですが、実際に1年間オールイングリッシュの授業を行った後にTOEFL Primaryを受けると、リスニングはCEFR(セファール)(※)のA1レベル(英検3級レベルに相当)にほとんどの児童が到達し、しかも7割近い子供が「英語を好きになった」と答えました。

大仙市の小学校には3年間毎週通って、毎年6年生を教えました。その後、新たにうようになったのが、由利本荘市にある小学校です。どちらの小学校も、以前は日本語を使って指導していましたが、私が通うようになってからは、担任の先生方も頑張って英語での指導に切り替わっています。

特に、由利本荘市の小学校では、1年生から6年生まで、すべての担任の先生方がオールイングリッシュで英語の授業を行っています。そのため、子どもたちは抵抗感なく英語を使えるようになりました。

その小学校でも年に2回、6年生にTOEFL Primaryを実施しているのですが、毎回CEFR(セファール)のリーディングに関してはA1レベルをほぼ全員クリアしていて、2割以上の児童がA2にも到達しています。

※CEFR(セファール):外国語を学ぶ人がどのぐらい言語を習得しているかを示す国際的なガイドラインのこと。習得レベルはA1~C2までの6段階に分けられている。


Q2. 日本の英語教育が大きく変わりましたが、いま子供たちには、どのような英語力が求められていますか?それを身につけるためには何が必要ですか?

Q2. 日本の英語教育が大きく変わりましたが、いま子供たちには、どのような英語力が求められていますか?それを身につけるためには何が必要ですか?

いま子供たちに求められている英語力は「コミュニケーション能力」

いま子供たちに求められている英語力は、ひと言でいえば「コミュニケーション能力」だと思います。そして、英語でコミュニケーションをする際によく話題に「正確さ」と「流暢さ」です。

これまでの英語教育は、どちらかというと「正確さ」に重きが置かれていて、どれだけ正しい英文が言えるか、どれだけ正しく英語(特に文法)を理解しているかということが、重要視されてきました。もちろん正確であるに越したことはないのですが、それだけではなくて、「流暢さ」というのも必要なんです。

何とかして英語で意思疎通しようとする力が必要

「流暢さ」というと、ネイティブスピーカーのようにペラペラ喋るイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。英語を学習し始めた子どもたちに関して言えば、何とかして英語で意思疎通しようとする力という意味での「流暢さ」が、大切になっていくのではないでしょうか。

テレビ番組の海外ロケのコーナーなどで、タレントが身振り手振りを交えながら、知っている単語を繋ぎ合わせて外国人と会話をしている場面を見ることがありますよね。小学校の段階では、そのように何とかして英語でコミュニケーションできる子供たちの育成を、英語教育で目指すべきだと思うんですよ。

繰り返しコミュニケーションをとって、だんだん話せるようになっていく

これは言語に限らず、どんなことにも当てはまります。たとえばテニスをやり始めたときに、最初からフェデラーや錦織のような有名選手と同じように、ボールを打てるわけではありません。テニスの教科書に打ち方が書いてあったとしても、その通りには打てません。最初はうまくかったとしても、だんだん慣れてくると上手に打てるようになってきます。

英語も同じで、最初は単語のみだったり、身振り手振りで補ったりしながら話したとしても、繰り返しコミュニケーションをとっていく中で、だんだん話せるようになっていきます。実際に子供たち様子を観察ていても、そのよな例は多く見られます

ネイティブな発音にこだわらず、気軽に英語でコミュニケーションを

発音についても、アメリカ人やイギリス人のようなネイティブスピーカーの英語だけが今後求められる英語なのかというと、そうではありません

世界の人口を見るとネイティブスピーカーの数よりもノンネイティブスピーカーの数の方がはるかに多く、今後はノンネイティブスピーカー同士の英語を使った会話が、ますます増えていくでしょう。

ネイティブスピーカーのよう発音で話すことにこだわらず、「相手に通じる」ということを目標に、気軽に英語でコミュニケーションをとることが大切です。


Q3. 先生が提唱する「英語を教えることに集中するのではなく、英語を通じて子供たちの良さをさらに伸ばす」教育法とは、具体的にどのような方法ですか?

Q3. 先生が提唱する「英語を教えることに集中するのではなく、英語を通じて子供たちの良さをさらに伸ばす」教育法とは、具体的にどのような方法ですか?

子供たちの興味・関心を活かしていく授業が理想的

教科書にある英語表現を教えようとするのではなく、子供たちの興味・関心を活かしていくような授業が理想的です。

今までの日本の英語授業は、「教科書にこの表現があったから」「この単語はテストに出るから」という教え方が主流でした。でも、そうすると子供たちはどうしても授業がつまらなくなったり、「英語が嫌だな」と思ってしまったりするんですよね。

けれども、子供たちが「やりたい」と思うことを授業に取り入れると、「次はこういうことをやってみたいな」と意欲がわき、自然と英語に関心が向くようになるんです。

英語を正確に話すことよりも、ポジティブに英語に興味をもつことが大切

私の息子はいま小学5年生なのですが、家族でシンガポールを旅行したとき、マーライオンを見て「Above water down.」と言ったのです。それは文法的にはメチャクチャな表現なのですが、本人としては「水が上から下に落ちてくる」と言いたかったんだと思います

そのときに、「それは間違っているよ」と訂正してしまったら、息子は英語に興味をなくしてしまうので、「Oh, good! Yes! Water comes out of the mouth and goes down.」(そうそう、水が口から出て下に落ちているね)と返事をしました。

息子は「Oh! Yes. Mouth mouth.」と言い、口のことをマウスと言うのだと理解したようでした。息子は特に会話などは習っていないのですが、自分なりの英語を自由に使って「オレ英語できるし、わかるよ」という自信をもってす。

そういう風に、英語が正確に話せるかどうかではなくて、子供がポジティブに英語に興味・関心をもてるということが、小学生にとっては大切なのだと思ます

英語嫌いにならないよう、「楽しい」という思いをもたせてあげたい

たとえば車が好きな子供には、車に関連したことを英語で紹介する機会を与えるなど、「自分の興味・関心のあることを、英語を使って表現してみよう」と伝えること、楽しく英語を学ぶことができます。

小学生の場合は、目の前にある単語を覚えさせるよりも、将来英語と積極的に関わる気持ちを育てることの方が大切です。いったん英語嫌いになってしまうと、再度英語を好きにさせるはとても大変なので、何とか「楽しい」という思いをもたせてあげたいですね。


Q4. 「こういう授業をして、生徒の英語力が伸びた」という体験がありましたら、教えてください。

Q4. 「こういう授業をして、生徒の英語力が伸びた」という体験がありましたら、教えてください。

児童一人ひとりが「夢の給食」を、英語でプレゼンテーション

現在月に1回、県内の小学校で英語授業のアドバイスを行っているのですが、その小学校で「夢の給食を作ろう」という授業がありました。

子供たちが自分の食べたいランチを英語で提案し、実際に給食室の方に作ってもらって、皆で食べるという企画です。小学6年生の児童全員が、自分の考えた夢の給食にいて英語給食のプレゼンテーションをするわけです。

そこで、ある男の子が「This is my dream lunch.」と言って見せたのが、ビーフステーキとチキンとポークの絵で、ほとんど肉しか入っていないメニューでした。

すると、それを見ていた女の子は、家庭科で学習した栄養素の知識を使って、「Not healthy. Eat salad!」とアドバイスしたのです。男の子が「I don't like salad.」と嫌がっていると、先生が「How about fruits salad?」と提案し、男の子は「Okay.」と納得して、フルーツサラダの絵を足したのです。既習の知識や技能を使いながら、英語で自然にコミュニケーションをしていました。

英語のための授業ではなく、英語が授業を楽しくするための道具となる授業を

このように、英語の知識のための授業ではなく、英語をコミュニケーションの道具と実際に楽しみながら活用する授業は、とても良いと思います。子供たちが自分のもっている知識や技能駆使しながら表現し、クラスメートとコラボレーションしてひとつのものを創り上げていく、とても充実した授業となりました。

歌や絵本の読み聞かせを取り入れた、楽しい英語の授業

別の小学校の英語の授業では、歌や絵本の読み聞かせなども取り入れました。毎回授業の最初に歌を歌うのですが、数回歌うとほぼ全員が覚えて歌えるようになります。とにかく楽しみながら授業で学べるというのが、小学生にとっては一番大切ですね。


Q5. 就学前の子供たちも、英語に親しむ機会をもった方が良いですか?

英語を楽しいと感じるなら、就学前に英語に接するのは良いこと

お子さんが「英語って楽しいね」と感じられるようであれば、就学前に英語に接するのは良いことだと思います。

たとえば「Old MacDonald Had a Farm(ゆかいな牧場)」という歌の中には、牛や犬、豚などさまざまな動物が登場します。牛は日本語では「モー」ときますが、英語では「ムー(Moo)」と鳴くし、豚は日本語で「ブーブー」と鳴くけど、英語では「オィンク・オィンク(Oink Oink)」と鳴くということを、歌を通じて知ることができます。

それをお子さんが聞いて、「同じ動物なのに、違う鳴き方をするんだね」といった発見ができて、英語に興味・関心をもつようになれたら、それはとても素晴らしことではないでしょうか。

結果を急がず、時間をかけて見守ってあげることが大切

外国語学習というのは、今日覚えた単語や表現が明日すぐに使えて身につくというようなものではなく、とても時間のかかるものです。

そのため、お子さんが英語学習を始めたときに、保護者が「英語の発音が良いかどうか」とか、「英語のフレーズを覚えられたか」ということばかり気にしてしまうと、んで英語を学ぶことができません。

就学前のお子さんが英語に触れる場合は、結果を急ぐことなく、時間をかけて見守ってあげる気持ちが大切だと思います。

インタビューを終えて

インタビューを終えて

町田先生は、中学校の英語教師の道をあえて捨て、35歳のときに大学の英語教員を目指し、イリノイ大学に5年間留学した経験をおもちの方です。「中学校の教員は自分のクラスの生徒しか変えられないけれど、大学の教員になれば、指導する先生方のその先にいる子供たちまで変えられる」と思ったのが、大学の教員を目指した理由とか。

日本の英語教育を充実させたいという町田先生の思いは非常に強く、お話を伺う間も真剣な眼差しで、終始熱く語っておられました。

いま文部科学省では、21世紀型スキルの育成に力を入れていますが、町田先生の小学校の英語授業における取り組みは、まさにその模範的な例といえるでしょう。


町田智久先生

プロフィール:町田 智久(まちだ ともひさ)先生
国際教養大学専門職大学院(英語教育実践研究科)准教授。米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校大学院修士課程(英語教授法専攻)及び、同博士課程(初等教育専攻)修了。博士。東京都の公立中学校で12年間勤務。東京都教職員研修センターで教員研修の実施に従事。2015年より現職。秋田県教育委員会を始め、様々な自治体や企業と協働して、小学校及び中学校の英語教員研修を実施。世界150か国・11,000以上の大学や機関に認められているTOEFL開発主体 ETSの TOEFL Primary® /TOEFL Junior® 公認トレーナー。著書に『児童英語教育の理論と実践』(翻訳、ナショナルジオグラフィックラーニング)、『Explore Our World 1 指導案集』(センゲージラーニング)、『Blue Sky elementary』(啓林館:検定教科書)など。

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