ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 英語教育に関するニュース > 幼児の英語学習にCLILの考え方を取り入れる方法~東洋英和女子学院大学・笹島茂教授インタビュー~

英語教育に関するニュース

笹島先生1

外国語以外の教科の内容を外国語で学習する方法・CLIL(※1)は、日本の小学校で取り入れるところも出てきており、近年注目を集め続けています。
今回は、日本CLIL教育学会(※2)の会長でもある東洋英和女子学院大学国際社会学部の笹島 茂教授にインタビュー。海外ではどんな風にCLILが外国語の学習に取り入れられているのか、幼児の英語学習にCLILを取り入れることはできるのか、家庭での英語学習のヒントになるお話をたくさん伺いました!

※1 CLIL:
Content and Language Integrated Learning(内容言語統合型学習)の略。

※2 日本CLIL教育学会(J-CLIL):
2015年4月に発足。日本の英語教育の改善、発展に寄与するために、CLILやCBLT(Content-based Language Teaching:内容を重視した言語指導)などを研究実践し、広く学会として活動をしている。現在会員数は300名ほどで、大学と幼児教育、小学校の教育関係者が多い。


Q1. CLILについて教えてください。

Q2. 海外ではどのようなCLILの授業が行われていますか?

Q3. イマージョンプログラムとCLILの違いについて教えてください。

Q4. 幼児にもCLILは適用できますか?

Q5. 子供が英語力を身につけるために、親がしてあげられることは何でしょうか?


Q1. CLILについて教えてください。

CLILは内容と思考を重視する外国語学習

CLILとは、元来、教科科目やテーマの内容(content)の外国語(language)の学習を組み合わせた学習及び指導の総称です。
英語などの第二言語を通して、何かのテーマや他の教科科目などを学ぶ学習形態をCLIL(クリル)と呼んでいます。

日本では「クリル」あるいは「内容言語統合型学習」という表記でも定着しています。
ヨーロッパでのCLILの第一人者、ドゥ・コイル教授は、CLILには「4つのCが含まれる」と言っています。
コンテンツ(Content)、コグニッション(Cognition)、コミュニケーション(Communication)、カルチャー(Culture)の4Cです。

言語活動は、その言語を使って話したり考えたりする内容すなわちコンテンツと切り離すことはできません。そこで、言語を使ってどんなコンテンツを扱うのかをCLILでは大事にします。
例えば、英語をただ学習するのではなく、英語を使って、数学(算数)・理科・社会・音楽・体育・家庭科などの内容のあるコンテンツを学習します。英語を使ってゲームなどの遊びを行うこともコンテンツに当たりますね。

次に大事なのがコグニッションです。コグニッションは一般に「認知」と訳されますが、CLILでは学習の際に思考することを指しています。何かを学んで理解するためには、考えることが必要です。考えて工夫することが学習を促します。
コンテンツとコグニッションのともなうコミュニケーションをすることで、自分とは異なるカルチャー(文化)のことも考えながら共に学ぶということです。
このように4Cの要素をバランスよくとりいれた言語学習がCLILなのです。

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Q2. 海外ではどのようなCLILの授業が行われていますか?

ヨーロッパでは3言語学習が基本

日本では言語学習というと英語がほとんどですが、ヨーロッパでは英語以外のヨーロッパの言語も含みます。
自国の母語+他国の言語2語で、3言語学習が基本です。従って外国語の先生だけでは限界があります。ヨーロッパでは複数の言語が話せる算数や理科、社会の先生がいるので、そういった先生が多言語でそれぞれの教科を教えます。
例えそれが訛りのある英語だったとしても、英語そのものを学ぶわけではなく、算数や生物など、それぞれの教科の知識が培われるならいいという考えです。そうした教育環境が今のCLILを生み出しました。

フィンランドでは学校以外でも英語にふれる機会が多い

フィンランドでは小学3年生から英語授業を始めます。最初はフィンランド語で英語を教えていますが、6年生のときにはほとんど英語での授業になり、かなりの英語力が身についています。こうした成果が出せる理由には、学校の授業だけでなく、家庭で英語のテレビなどを観たり、日常生活で何かと英語にふれたりする機会が多いという社会背景もあります。

英語以外の言語を学ぶときもCLILが取り入れられている

オーストラリアなど英語圏の国々では、日本語や中国語などアジア圏の言語をイマ―ジョンプログラム(※3)で学習したりしています。
オーストラリアの日本語のイマ―ジョンクラスを見学すると、先生は日本語で話していて、子供たちは日本語も英語も話しながら算数の学習をしたり絵を描いたりしています。子供たちのなかでは日本語も英語も関係ないようでした。

海外は自律学習スタイルが多い

いずれにせよ、海外の授業は基本的に学習者が自分で勉強する自律学習スタイルが多いです。先生はあくまで生徒のサポーター的な存在で、学習者の基本は「自分で勉強しなさい」というスタイルです。
やはり学習というのは、自分の頭で考え、工夫することによって「気づき」が得られ、身につくものですから、こうしたスタイルには意味があると思います。

※3 イマ―ジョンプログラム:
イマ―ジョン(immersion)とは「浸すこと」という意味。
イマージョンプログラムでは、通常の授業を第二言語(母語以外の外国語)で教えることよって、第二言語の習得をねらう。

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Q3. イマージョンプログラムとCLILの違いについて教えてください。

CLILでは複数の言語が自然に交差する

イマージョンプログラムとCLILとの明確な境目はありません。
CLIL独自のプログラムというようなものも特にはありませんので、イマージョンプログラムはCLILの方法の一つと言えると思います。
ただ、CLILには、イマージョンプログラムのような「プログラムの何%以上英語でなければならない」「日本語は禁止」のような言語的に考えられた厳密さはありません。つまり、複数の言語が自然に交差していく場での学習がCLILと言えます。

バイリンガルなど、多言語を話す人々の会話の中では、複数の言語が入り混じる場合があります。
このような現象を昔はコード・スイッチング(code-switching)と言っていましたが、今はトランスランゲージング(translanguaging)と言っています。異なる言語を「切り替える」というより、複数の言語を自然に「交差」させてコミュニケーションするといった感じの表現に代わってきているのですね。
話す内容に合わせて、2言語に限らず、3言語、4言語が自然と出てくる可能性がある、それが多言語社会では当たり前のことなのです。

CLILの考え方は違いのある言語や文化にどう対応し、共存するかということにも結びついています。人によって、あるいはシーンによって、自然と出てくる言葉を使えば、その言語が身につくだけでなく、言語の背景にある文化の理解や共感も進みます。CLILの大きなねらいはそこにあるのです。

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Q4. 幼児にもCLILは適用できますか?

幼児でもCLILで英語力と算数力を同時に伸ばせる

CLIL的な幼児教育もこれから増えていくと思います。
例えば幼児には、英語で数字を教えるところから始まって算数を学習させるといった内容がいいでしょうね。
算数はそこまで複雑ではないので、英語で教えるのにとても向いている科目です。算数に強い子供は何歳であろうとどんどん算数力を伸ばしていきますが、そういう子供に先生が英語で教えると、算数に関係する言葉がぽんぽん頭に入ってきて、自然に子どもが"One plus one."(1足す1。)などと言うようになります。
英語で算数を教える方が、日本語で英語や算数を教える場合と比べて、英語も算数も知識の定着度が高いように思います。

ただその時に、頑なに全て英語でなければいけないと思う必要はありません。ヨーロッパでの第二言語学習のように、必要に応じて母語である日本語を入れてもよいでしょう。
幼児のCLILで大事なことは、10人子供がいたら、10人をみな同じレベルにしなければいけないと考えないことです。
算数力よりも、言語力の発達度が高い子供には、それに応じて言語力どんどん伸ばしてあげるという風に、子供の個性に応じた対応が必要です。
CLILでは、科目と言語の両方を統合して考えて子供の力を伸ばしていきます。

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Q5. 子供が英語力を身につけるために、親がしてあげられることは何でしょうか?

「自分で考えて工夫させる」ことが大切

小さい子供は外国語に対する抵抗感がありません。動画や歌などを通じて、その子が興味をもち、面白いと思う英語に日常的にふれさせることで、子供の英語力を伸ばすための環境をつくることができます。
その時、子供に「気づき」を与えてあげられるかがポイントです。「自分で考えて工夫させる」ことで子供の「気づき」は促せます。例えば、子供が興味をもった内容について親も一緒に会話をして、子供の思考を促すことなどがよいでしょう。その時親も英語ができれば英語で話すのがベストですが、英語ができなければ日本語を交えてでも構いませんし、無理に英語で話す必要もありません。

英語は「学ぶもの」ではなく「使うもの」

決して無理や強制をせず、英語を学習言語だというふうに考えさせないということが大事です。英語は無理やり学習させられるものだという固定概念が子供の中にできてしまうと、英語が嫌いになってしまうリスクがあります。
幼児期に、ままごとやサッカーなど、遊びやスポーツを英語で行うのもとてもよいですね。英語は「学ぶもの」ではなく、コンテンツを楽しむために「使うもの」だという意識を刷り込んであげると、子供の英語力を伸ばすことにつながります。
とにかく親子で一緒になって、英語を通してコンテンツを楽しんでください。

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インタビューを終えて

笹島教授は、海外の子供たちを見ていると、英語を「使うもの」として扱っていると感じると言います。
日本の教育現場で英語が「学ぶもの」として取り扱われている事とは対照的に感じるそうです。
英語を使って「何をするのか」「何をしたいのか」ということにフォーカスできるCLILの考え方は、日本の英語教育を改善していくための大きな助けとなりそうです。


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プロフィール:笹島 茂(ささじま しげる)

東洋英和女子学院大学国際社会学部教授。
日本CLIL教育学会(J-CLIL)会長。英国(スコットランド)スターリング大学 PhD(教育学博士)。
英語教育、英語科教育法など英語教育全般に関心を持ち、教師教育に関わり、現在、言語教師認知、ティーチャーリサーチ、CLIL、CEFR、ESP (English for Specific Purposes)の分野の研究に携わる。
『CLIL 新しい発想の授業』(共著・三修社)、『言語教師認知の動向』(共著・開拓社)、『CLIL Basic Science & Math』(共著・三修社)など著書多数。

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