英語を他教科や行事と関連させて深い学びにつなげる取り組み
久米川東小学校では、2017~2018年の2年間、東京都東村山市教育委員会研究奨励校として「すすんで表現する児童の育成」をテーマに、外国語及び外国語活動において、新たな授業づくりに取り組んできました。
具体的には、次のような取り組みを英語授業の中で実施しています。
- 外国語活動の時間だけで完結するのではなく、他教科や行事等と関連させる
- 他の教科で習ったことや、校外学習などで取り組んだことと連動させることで、児童の知的好奇心を刺激する
- 習った表現を使う場面では、表現の仕方や内容に児童がそれぞれ工夫できる余地を残し、「伝えたい」という気持ちを持てるようにする
- 授業の中で英語を使う必然性を作る
こうした同校の取り組みを総括する研究発表会が2018年11月に行われ、1年生から6年生までの全クラスで次のような授業が公開されました。これらの公開授業と研究発表会の様子をご紹介し、子供の英語学習の質を高めるためのポイントを探ります。
学年 | 単元 | 内容 |
---|---|---|
1年 | 私のすきなどうぶつ〜What's this?〜 | What's this? It's a 〜. I like 〜. という表現を使って、自分の好きな動物を言う表現に慣れ親しみ、好きな動物を伝え合う |
2年 | 自分のすきなケーキをつくろう〜What toppings do you have?〜 | お店でケーキのトッピングを買って自分の好きなケーキを作るとともに、自分のケーキを紹介し合う |
3年 | This is for you. 〜What do you want?〜 | 友達のリクエストを聞いて、カードを作って送り合う |
4年 | あなたのためのスペシャルメニュー〜What do you want?〜 | 英語で買い物をして、友だちのためのピザやパフェのオリジナルメニューを作る |
5年 | 英語で友達のことを伝えよう〜Who is your hero?〜 | He / She is good at 〜. He / She can 〜. He / She is 〜.という表現を使って友達を紹介する |
6年 | 東村山を紹介しよう〜I like my town.〜 | We have 〜. You can 〜(enjoy 〜ing).の表現を使って東村山にある施設やお店を紹介する |
<小学1年生>好きな動物を好きな色で自由に表現
低学年では、年間10時間の英語の時間と、E-timeとよばれる10分ほどの英語に慣れ親しむ時間(1年生は週1回、2年生は週2回)を使って指導が行われていました。
1年生は生活科や図画工作科と関連させて英語授業を構成。9月に行われた多摩動物公園への生活科見学で、自分の好きな動物を見つけてきた児童たちは、図画工作の時間に「ゆめのどうぶつえん」というテーマで、好きな動物を好きな色で自由に表現する活動をしていました。
公開授業では動物のシルエットを見せるシルエットクイズや、動物のジェスチャーをしてそれをあてるジェスチャーゲームの中で、
"What's this?"(これは何?)
"It's a 〜."(それは~です。)
という英語フレーズを使ったやり取りを児童たちが実践していました。
授業以外のE-timeでも英語に触れていたことで自分の好きな色や動物を紹介できるまでに英語に慣れ親しんでいる様子がわかりました。
<小学2年生>本物そっくりの自作のケーキで、モチベーションアップ
2年生の「自分のすきなケーキをつくろう」では、店員とお客さんにわかれて、
"What toppings do you have?"(どんなトッピングがありますか?)
"I have 〜."(~があります。)
という会話をしながらケーキのトッピングを買うというアクティビティーをしました。
トッピングの名称を入れる「~」の箇所にはstrawberries(イチゴ)、grapes(ブドウ)、cherries(サクランボ)、cookies(クッキー)、chocolate(チョコレート)、ice cream(アイスクリーム)、candles(キャンドル)、stars(星) snowman(雪だるま)といった単語を当てはめて答えます。
また、図画工作の時間に紙粘土で作った自分のオリジナルケーキを4〜5人のグループで、
"What toppings do you have?"
"I have 〜. This is my cake."(~があります。これが私のケーキです。)
と紹介しあいました。自分で作ったケーキを紹介する子供たちの声がとても誇らしげだったのが印象的です。
<小学3年生>相手の好みを聞いてカードを作る
3年生は国語でローマ字を習い、自分や友達の名前を書くことができるようになっていることを踏まえて、友達のリクエストを聞きながらオリジナルカードを作りました。
この授業では次の英文がターゲットセンテンスとなります。
"What do you want?"(あなたは何が欲しいですか?)
"〜, please."(~をお願いします。)
"This is for you. Here you are."(これをあなたに。はいどうぞ。)
"Thank you. It's good/nice/cool/pretty/cute. I'm happy/glad."(ありがとう。いいね/すてきだね/きれいだね/かわいいね。幸せです/うれしいです。)
これらの英語フレーズを使って、次のようなアクティビティが行なわれました。
①"red star"(赤い星)、"blue triangle"(青い三角形)など、欲しいシールの色や形を英語で伝えて、該当するシールを渡してもらう
②相手のリクエストを聞きながら相手のイラストを書き、自分の名前と相手の名前をローマ字で書いてカードを作成する。
③もらったカードを紹介するShow and Tell
あるクラスでは、小小連携の一貫として、近隣の小学校の先生とティーム・ティーチングで授業を実施。児童はこの先生に向けてカードを作りました。うれしそうに渡す様子から、授業を楽しんでいたことが伝わってきました。
<小学4年生>英語で買い物をしてオリジナルメニューを作る
4年生は、英語と総合的な学習の2科目の授業時間を使い、次のようなロールプレイング授業を行っていました。
①(英語の時間)児童が2人組になって、"What do you want?"というフレーズを使って、お互いがピザやパフェにいれたい食材を英語で聞き取る。
②(英語の時間)2人組は店員役とお客役に分かれて、"What do you want?"というフレーズを使って食材の買い物をし、タブレットで食材をかごに入れる操作を行う。
③(総合的な学習の時間)聞き取った食材の情報を元に、オリジナルメニューのピザやパフェのイラストをパソコンで作成する。
④(英語の時間)自分たちが作ったオリジナルメニューをイラストを見せながら発表する。
この授業ではタブレットに食材の絵を映しながらやり取りすることで、実際の買い物に近い雰囲気で英会話ができるように工夫されています。発表の際もイラストをタブレットで見せることで、聞く側にとってわかりやすくなっていました。
また、ターゲットセンテンスの"What do you want?"を繰り返し使う授業でしたが、食材をたずねるときと買い物のときの2種類のシチュエーションで使ったり、様々な食材の英単語を回答に当てはめることで、児童は飽きることなく会話を楽しんでいました。
<小学5年生>英文をライティングして友達のよいところを英語で伝える
5年生は"writing time"(書く時間)を授業中に設け、授業で使った単語を上からなぞって練習できる独自のプリントを使って英単語を書く練習を重ねていました。
「移動教室を通してお互いのよいところを再発見できた」という体験から、研究発表授業のテーマは「友達のよいところを英語で伝えよう」というテーマの授業です。児童がクラスメートにあててメッセージカードを作成し、次のような流れでクイズ形式の発表が行われました。
①発表者に対してクラス全員で"Who is your hero?"(あなたのヒーローは誰ですか?)と聞く。
②発表者は"He is my friend. He can run fast. He is good at playing shogi. He is active. He is my hero."(彼は私の友達です。彼は速く走ります。彼は将棋が強いです。彼は活発です。彼は私のヒーローです。)という風にカードに書いた内容を発表。
③聞き手側がカードの内容から誰を紹介しているのかを当てる。
④正解の場合は"That's right! 〇〇 is my hero."(正解です!〇〇は私のヒーローです。)と答え、"Here you are."と書いた相手にカードを渡す。
クイズ形式の発表で、クラスは大盛り上がり。「そんな一面があったのは知らなかった! よく知ってたね」と感心する児童もいました。
<小学6年生>外国人向けの観光リーフレットを作り、英語で東村山を紹介
6年生の「東村山を紹介しよう」という単元が始まる前に、東村山市長からの「外国人向けの観光リーフレットを作成してほしい」というビデオレターが送られてきており、児童のモチベーションは高まっていました。
事前の国語の授業で東村山にある施設やよいところについて意見交換し、資料を読んだり取材をしたりしてパンフレットを作成しておきます。ここで調べた内容を元に、英語の授業で英語でのリーフレットを作成。
"We have 〜. You can 〜/enjoy 〜ing."(私たちには~があります。あなたは~ができます/~することを楽しめます。)
という表現を使って東村山にある施設やお店を紹介します。
公開授業の日には、東村山市地球市民クラブ(※1)とJET(※2)の外国人がゲストティーチャーとして招かれました。ゲストティーチャーの人たちに、ポスターセッション形式(※3)で班ごとに英語で東村山を紹介します。
普段接している先生やALT以外の人と英語でコミュニケーションするため、児童たちは緊張している様子。しかし、何度も練習して臨んだ成果があり、表情は硬いながらもしっかりと伝えることができました。ゲストティーチャーからの質問にも、臆することなく英語で答えていました。
※1 東村山市地球市民クラブ:
東村山市内在住の外国籍市民を対象にした各種ボランティア活動を行う団体。外国人向けに日本語教室や、韓国人による韓国語教室などを行うほか、外国籍市民を小中学校に派遣して国際理解教育を行っている。
※2 JETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Program):
語学指導などを行う外国青年招致事業。小中高で外国語授業の補助を行ったり、国際交流員として地方公共団体で外国からの訪問客の接遇やパンフレットの翻訳、企画立案などを行ったりしている。
※3 ポスターセッション形式:
発表内容をまとめたポスターを使いながら発表と質疑応答を行う形式。複数の発表者が会場の各スペースに待機し、発表内容に興味をもった参加者がスペースに集まった時点で発表する場合が多い。
学年の課題に合わせた授業
公開授業後、体育館で研究発表会が行われました。
低学年、中学年、高学年ごとに次のような授業作りの工夫がされていたそうです。
①低学年...先生が指示を出したりほめたりするときにクラスルームイングリッシュを使い、児童が自然と単語を覚えられるようにする。
②中学年..."big voice"(大きな声)、"eye contact"(アイ・コンタクト)、"smile"(笑顔)、"try"(挑戦)をコミュニケーションのポイントとし、コミュニケ―ション・ツールとしての英語を児童に意識づける。
③高学年...児童が主体的に学び、楽しく身につけられるように、児童自身が単元名や学習計画を考える。
研究発表のあとには2年に渡り同校を指導した小学校英語教育アドバイザーの三浦邦子先生と玉川大学大学院教育学研究科教授の佐藤久美子先生が講演を行いました。
三浦先生は、アクティビティ実践紹介として、参加者と一緒にアクティビティを行い、
「アクティビティでは、児童がゲームの勝ち負けに価値を置くようにするのではなく、英語によるコミュニケーションで楽しいと感じる経験をさせることが大切」
と説きました。
佐藤先生は公開された授業の内容を振り返ったあと、同校の他教科や行事と関連づけた授業作りや、英語を使うことへの必然性をもたせた授業構成を高く評価しました。
取材を終えて
どの学年の公開授業でも、他教科や学校行事と関連した内容を扱うことで、英語の授業への興味・関心を持たせることに成功していました。
また、絵本や歌を利用してターゲットセンテンスを繰り返し練習したことにより、授業中のアクティビティでは抵抗なく英語を使ったコミュニケーションができるようになったようです。
子供の英語学習の質を高めるために、下記の2点が効果的なんですね。
①子供の興味をひく内容を英語で扱う
②重要な英語フレーズを繰り返しアウトプットする
ご家庭での英語学習でもぜひ取り入れてみてください。