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英語学習に効果的な「意味がある反復」とは?【慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生】

言語学習に反復(くり返し)は不可欠です。反復しなければ、言葉の意味を理解することができないからです。
特に、幼児は好んで言葉の反復を行います。以下は、お母さんと幼児のやりとりの例です。

「もう食べたの?」
 -「うん、もう食べた」

「動物園に行きたい?」
 -「動物園、行きたい」

「お店、開いているね」
 -「お店、開いてる」

このように母語の学習では反復は自然にみられる現象です。
しかし、英語学習で反復といえば、機械的で、実につまらないものと考えている人が少なくないのではないでしょうか。

中学校では、"Repeat after me."と教師が言い、生徒がダラダラと反復するという風景がよく見られます。ダラダラ反復では何ら学習効果は生まれません。
そのため、昨今のコミュニカティブ・アプローチと呼ばれる英語の教授法では、形式的な反復をそれほど重視せず、意味を重視した自発的な発話を強調する傾向があるようです。

しかし、反復なくして外国語学習はありません。このことは、外国語学習を専門とする多くの人が異口同音に述べているところです。反復するという行為は、学習だけでなく、表現活動においても大きな効果をもたらします。

問題は、何(what)を、どう(how)反復するかです。先に結論を言うと、「表現の型」を「意味がある形で」反復することが大切です。
そして、「学習効果が実感」できる反復であれば積極的に実践したくなるでしょう。

1. 「意味がある表現の型の反復」とは?

1. 「意味がある表現の型の反復」とは?

では、意味がある反復とはどういうものでしょうか。外国語学習における反復の大切さについてはよく議論されますが、どうやって反復するかについては議論が乏しいのが実情です。

そこで、意味がある表現の型の反復について、実演してみたいと思います。読者のみなさんは、スライドなどを使って、お子さんに英語を教える状況を想像してください(ここでは「子供」と呼びます)。

では、はじめましょう!

意味がある表現の型の反復方法① 同じ表現の型をくり返す
まず、教師役となる親がcactusと発音します。もう一度、cactusと言い、次の写真を見せます。

cactus

そして、"Don't touch that cactus. It's prickly."と続けます。これを一枚のスライドで示すと以下のようになります。

Don't touch that cactus. It's prickly.

子供の立場から見てみましょう。
文字を見ながらcactusという音を聞きます。この段階でcactusって何だと想像するでしょう。写真が出てきた段階で、cactusが何を指しているかわかるはずです。

そして、"Don't touch that cactus. It's prickly."と続けます。2度目は、生徒も、"cactus - Don't touch that cactus.--It's prickly."とくり返します。"Don't touch that cactus."と"It's prickly."のあいだに少し間(ま)があると良いですね。

Don't touchの意味がわからない場合は、手振りで示すと良いでしょう。すると、子供は、「サボテンを触ってはだめ。トゲトゲがあるから」と理解するでしょう。

次に、skunkが登場します。skunkという音を聞き、"Don't touch that skunk. It's very stinky."と続けます。ここでも全体を一枚のスライドにすれば以下のようになります。

Don't touch that skunk. It's very stinky.

<語><写真><Don't touch that 語><It's very 形容詞>がここでいう表現の型です。この表現の型がくり返されます。語と写真で日本語を介すことなく語が何を指しているか理解できるはずです。

そして、"Don't touch that skunk. It's very stinky."は「そのスカンクを触ったらダメ。めちゃくちゃくさいから」という意味合いであることを読み取らせます。つまり、"Don't touch that skunk. because it's very stinky."ということです。

この調子で表現の型をくり返していきます。

prickly, stinkyなどは「むずかしそうな」形容詞です。しかし、子供は、難なくクリアします。サボテンは「トゲトゲしい」、スカンクは「臭い」といった知識をもっていれば、ここでの形容詞は自然な文脈で使われているため、pricklyのほうがlarge や deepよりむずかしい単語とは、みなさないということです。
このようなやり方で、形容詞と名詞をそれぞれ10個ずつ紹介します。

意味がある表現の型の反復方法② 名詞だけ、形容詞だけで確認する

十分に反復練習をしたら、名詞だけを再度確認すると良いでしょう。以下のようなスライドがあれば良いですね。

名詞だけを再度確認する

同様に、形容詞を加えて理解確認をします。

同様に、形容詞を加えて理解確認

すると、おもしろいことがわかります。stinkyと言えば、skunk--stinky skunkと言えるようになるということです。子供がふれたのは"It's stinky."の形で、文法的には「叙述用法」の形容詞です。しかし、説明をしなくても、子供は、(a)stinky skunkと「限定用法」の表現を自然に使います。

それだけではありません。上のような訓練をしておくと、"What's that?"という質問に"It's a cactus. Don't touch it. It's prickly."と表現できるようになるでしょう。

2. 幼い子供は反復をゲームのように楽しむ

2. 幼い子供は反復をゲームのように楽しむ

こういった表現を可能にするのが、意味がある反復です。表現の型を反復する中で、子供の興味を惹き、そして、結果として学習が進む。これが、意味がある反復の力です。

英語教育では、反復練習は古臭い方法とみなされ、敬遠する人がいます。
敬遠すべきは反復ではありません。機械的な反復が敬遠の対象になるべきで、意味がある反復は、むしろ、積極的に取り入れていかなければならない、というのが筆者の考えです。
特に幼い子供の場合、反復することをゲーム的に捉え、楽しんで反復をするようです。

今回、反復の力について記事を書こうと思うに至った理由があります。実は、筆者は、バイリンガルとモンテソーリを両輪とした幼稚園のアドバイザーを務めており、子供たちの英語習得の過程を観察する機会があります。そこで、意味がある表現の型の反復が第二言語の習得においていかに大切かを強烈に感じたからなのです。

幼稚園に来る子供たちは3歳か4歳が中心です。ほとんどの子供たちにとって英語にふれるのは初めてです。ネイティブの先生は一切日本語を使わず、自然な速度の英語で語りかけます。1年も経つと、先生の言っている内容はほぼ理解できるようになるだけでなく、日本人の先生には日本語で、ネイティブの英語の先生には英語で話しかけるようになります。

途中を観察していると、"Heads or tails?"(表か裏か?)とか"Easy does it."(そっとやってね)とかMy favorite color is (pink.)といった先生のコトバを聞こえた通りにくり返し、次々に表現を身につけていっているようです。幼稚園の時期は、模倣や反復が自然に行われる第二言語が自然に身につく黄金期だと思います。

意味がある反復は、幼い子供のためだけに有効なのではありません。小学生、中学生、そして高校生にも有効な学習方法なのです。考えてみると、究極の言語表現といわれる詩のエッセンスも表現の反復にあります。まさに、"Meaningful repetition goes a long way."(意味ある反復はとても役立つ)ですね。


田中茂範(たなか しげのり)先生

PEN言語教育研修所所長・慶應義塾大学名誉教授。コロンビア大学大学院博士課程修了(教育学博士を取得)。
NHK教育テレビで『新感覚☆キーワードで英会話』(2006年)、『新感覚☆わかる使える英文法』(2007年)の講師を務める。JICA(独立行政法人 国際協力機構)で海外派遣される専門家に対しての英語研修のアドバイザーを長年担当。
主な著書に『コトバの「意味づけ論」―日常言語の生の営み』(紀伊國屋書店)、『「意味づけ論」の展開―情況編成・コトバ・会話』(紀伊國屋書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(リーベル出版)、『表現英文法増補改訂2版』(コスモピア出版)、『意外と言えない まいにち使う ふつうの英語 きほんの英語』(NHK出版)他多数。

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