マザリーズって何?なぜ英語の習得に良いの?【英語教育コンサルタント・光藤京子先生】
2022.02.02
赤ちゃんに話しかけるとき、多くの人が大人に話すのとは違う独特の話し方になります。
そのときの独特の話し方をマザリーズと呼びます。マザリーズは、子供の言語能力やコミュニケーション能力を育てるだけでなく、その後の人間としての成長にも関わることが、最近の研究で明らかになってきました。
さらに、子供が英語をはじめる際にもマザリーズが良いことがわかっています。今回の記事では、マザリーズとは何か、子供が英語をはじめるにあたり、なぜマザリーズが良いのか、子供の成長にマザリーズがどのような影響を与えるかについてお話します。
マザリーズって何?
マザリーズは大人が乳幼児に行う独特の話し方
冒頭でも述べたように、マザリーズとは、ご両親や周辺の大人が乳幼児だけに行う独特の話し方です。具体的には、標準の話し方に比べ、話す速度は遅く、声は高め、誇張した抑揚になります。いわば、普段より感情がこもったような話し方といえるでしょう。
マザリーズについては、専門家が異なる国々で調査を行ったところ、どの国でもお母さんはマザリーズで赤ちゃんに話しかけることがわかりました(お母さんほど顕著ではありませんが、お父さんも)。少なくとも(まだ言葉を話すことのできない)新生児から2歳頃までは、母親はマザリーズを使い、その後は徐々に普通の話し方にシフトするようです。
赤ちゃんはマザリーズにより高い関心を示す
なぜお母さんがみなマザリーズを使うのか?マザリーズで語りかけるのは母親の本能的な行為ともいえますが、赤ちゃんは、標準的な話し方より、マザリーズを使って話しかけられたほうが、より高い関心を示すことがわかっています。
筆者も、標準的な話し方とマザリーズを使った話し方、2つの異なる話し方で両サイドから話しかけられている赤ちゃんのビデオを見たことがあります。
不思議なことに、赤ちゃんはマザリーズが聞こえてくるサイドばかりを見て、マザリーズの声だけに関心を示しました。たとえ話しかける内容がネガティブであっても(たとえば、"Don't do that!")、マザリーズで話しかけられたほうを赤ちゃんは好むのだそうです。
英語をはじめるのは、マザリーズから?
マザリーズは英語の発話に特徴が似ている
こういったマザリーズの特徴を聞いて、みなさんは何かを思い浮かべませんか?
そう、英語の発話に特徴がよく似ているのです。以前の記事でもお話しましたが、英語は強弱や高低がはっきりしていて、音の表情が豊かな言語です。その点がよく似ていますが、マザリーズを使用した発話では、お母さんはとくに母音を強調して話す傾向があるそうです。
たとえば、以下のフレーズをマザリーズで話すと、どのような感じになるでしょうか。
How cute you are!
(なんて可愛いの!)
Good job!
(お上手!)
感嘆文ですから普通に話しても抑揚は豊かになりますが、マザリーズではさらに感情がこもり、話者の話し方はゆっくりと、音程はことさら高くなります。
個人差はありますが、下線の単語では、[háu][kjúːt]や[gúd][ dʒɑ'b]に含まれる母音が普段より長めに、より強調して発音されます。
このように、ことさら強調された母音は認識しやすく、赤ちゃんの言語への目覚めを導きます。
また、話しかけられている言語が自分の母語だと思うきっかけも作るのだそうです。つまり、英語も日本語と同じようにマザリーズでたくさん話しかけたり、聞かせたりすると、赤ちゃんが母語としてとらえ、正確な発音を身につける可能性が高いということです。
日本では正確な発音を身につける機会が限られる
以前の記事で、日本人の多くは[l]や[r]などの子音のほかに、母音が苦手だと述べました。英語の母音は、口の形、舌の位置や喉の開きぐあいなど、さまざまな要素を的確に再現しないと正確な音が出ません。
たとえば、専門用語では「口腔内の広がり」と呼びますが、母音は口の形、舌の位置などで決まります。
最初に顎の位置、または口の形を[i]「イ」にしてみてください。顎または口の形は横に広がり、口角がぐっと上がります。
このままさらに顎を下げ、口を開いていくと、[i]「イ」は[e]「エ」になり、さらに口を下に開いていくと[a]「ア」になるといった具合に空間が広がっていきます。
これが[u]「ウ」、[o]「オ」になると、舌の位置は後方にずれ、さらに口の形も変わって、独特の音が出ます。
しかし日本では、このようなことを学校で先生から、ましてやネイティブスピーカーから教わる機会はかなり限られています。
また、子供はある程度成長すると、まわりの目を意識したり、母語(日本語)の干渉が加わったりして、英語らしい音をだすことをやめてしまいます。
そうなる前に、子供に正確な発音を身につけさせたいものですね。
なるべく幼いうちに英語をスタートするのが良い
そのためには英語をたくさん聞かせ、完全に耳で覚えさせる(自転車の操縦を体で覚えるように!)ことが重要です。ですから、音の吸収が良く、母語の干渉の少ない、なるべく幼いうちに英語をスタートするのが良いと思います。
乳幼児が最初に聞く英語は、標準的な英語を話すネイティブスピーカーの発話がベストですが、一番大切なのは、その英語がマザリーズのように愛情たっぷりで、表現力豊かに話されていることです。
教材を選ぶときには、そのような効果をしっかり考えて作られたもの(ディズニー英語システムはその良い例)を選ぶことをオススメします。
マザリーズは、子供の成長にどのように影響するか?
その言語を話す国民らしい表現技術を身につける
愛情に満ちた独特のマザリーズで話しかけられた赤ちゃんは、言語への気づきが早いだけでなく、おそらく顔の表情や仕草も豊かなお子さんになるでしょう。
なぜならば、平坦な話し方をするときの人の表情は平坦ですし、表現豊かに話すときは顔の表情も(ときには、身振り、手振りなどの仕草も)豊かになるからです。
そもそもマザリーズは、人類が言葉とコミュニケーションの方法を子孫に伝える大切な手段として、親が無意識に用いるものといわれています。現に、日本語を話す子供は日本人らしく、英語を話す子供は英語を話す国民らしい表現技術を身につけながら成長していきます。
小さい頃から英語をたくさん聞かせてあげよう
そのように考えると、表現力の豊かな英語にたくさんふれたお子さんが、顔の表情や仕草だけでなく、物怖じせず、対人関係においても積極的になることは十分考えられます。
赤ちゃんのときだけでなく、その後の成長の過程で、高いコミュニケーション能力や自主性を身につけるのは間違いないと思います。
そういう意味でも、お子さんには小さい頃から英語をたくさん聞かせてあげてください。マザリーズの特徴が生かされた英語を学ぶことは、お子さんの心が豊かになるだけでなく、将来大人になって、世界のさまざまな人とコミュニケーションをとる際に大きなアドバンテージになるでしょう。
※参考文献:
「0歳児におけるマザリーズの効果に関する一考察」(2015,児玉珠美)
「マザリーズとは~早期英語教育への示唆~」IBS
光藤 京子(みつふじ きょうこ)先生
執筆家、異文化コミュニケーション・英語教育コンサルタント。会議通訳、翻訳ビジネス、東京外国語大学などでの指導経験を生かした書籍、記事ブログを多数執筆。代表作の『働く女性の英語術』(ジャパンタイムズ)、ベストセラーになった『何でも英語で言ってみる! シンプル英語フレーズ2000』(高橋書店)のほか、『英語を話せる人 勉強しても話せない人 たった1つの違い』(青春出版社)、『英語だって日本語みたいに楽しくしゃべりたい リアルライフ英会話 for Women』(大和書房)、『伝わる英語 5つの鉄則』(コスモピア)など。最新作に『する英語 感じる英語 毎日を楽しく表現する』(ジャパンタイムズ)がある。