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専門家の先生による、英語教育に関する記事

「an apple」と「apple」の違いとは?冠詞問題はモノの形に注目!【慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生】

幼児の言語習得を研究する分野があります。いろいろな実験をして、幼児の言語の発達過程を研究する分野です。1970年頃からその研究は盛んになり、膨大な研究の蓄積が行われています。

その研究の中で私が興味をもったのは、もう1歳ぐらいで「砂」と「小石」の捉え方が異なってくるという内容です。簡単にいうと、砂の場合は質量に関心がいき、小石の場合は数量に関心がいくということです。

どうしてこれが面白いかといえば、日本人の英語学習で最難関とされる「冠詞」と結びついているからです。
「東京」は Tokyo ですが、「新しい東京」は a new Tokyo となります。「ピアノを買う」場合はa pianoですが、「ピアノを勉強する」場合は piano です。こういう問題がここでいう冠詞の問題です。

英語を母語として身につける幼児は、幼い頃から、apple と an apple のような違いに気づき、名詞の形が違えば、指す対象(モノ)が異なるということを直観的に学ぶそうです。
日本人にとってこれは冠詞問題と呼ばれ、英語学習の最難関の項目とみなされます。

しかし、幼児のときから、上手にモノと名詞の関係に気づかせるようにすれば、ネイティブのような直観が身につくはずです。ここでは、どういうやり方をすれば有効か、その方法を具体的に示していきます。


1. 名詞の形が違えば指すモノが異なる

2. a +名詞のaのはたらき

3. 個体として取り出す

4. 仕切り感

5. 確認問題にチャレンジしてみよう

6. 応用問題にチャレンジしてみよう

7. おわりに


1. 名詞の形が違えば指すモノが異なる

上で述べたように、an apple と apple は名詞の形(名詞形)が違います。名詞形が違えば、それが指すものも異なります。早速、イラストを見てみてください。

an apple

an apple
apple

apple

apple といえば、例えば、上のイラストのようにすり潰したリンゴを連想するでしょう。あるいは、以下の写真のように千切りにしたリンゴを連想するかもしれません。

千切りにしたリンゴ

「すりつぶしたリンゴ」や「千切りにしたリンゴ」は apple であって、an apple とは言いません。どうしてかといえば、リンゴの形(原形)をとどめていないからです。

なお、an apple は以下の左の写真のように1個のリンゴですが、apples といえば右の写真のように複数のリンゴを指します。

1個のリンゴ(左)と複数のリンゴ(右)

さて、an appleは「a +名詞」の名詞形になっています。a のことを冠詞(不定冠詞)と呼びます。この a の働きは何でしょうか。リンゴの例からわかるように、1個の形あるものを指すのが a の働きだといえます。形があるということは仕切り感があるということです。

2. a +名詞のaのはたらき

an apple や a car のように「a +名詞」の a の働きに注目してみると、次のようになります。

<<複数の中から1つを個体として、種類として、そして単位として取り出す感覚>>

複数の中から1つを個体として、種類として、そして単位として取り出す感覚

個体として取り出す典型例は an apple です。"Give me a coffee."とコーヒー豆専門店で言えば、コーヒー豆の「種類」に関心が向かいます。種類の場合も、1つを取り出すことが可能なため「a +名詞」で a coffee と言えるのです。
以下は、ある老夫婦の会話例です。

Lady:I want to buy a bread.
(パンを買いたいわ。)

Gentleman:Oh, what kind of bread do you want to buy?
(どんな種類のパンを買いたいの?)

Lady が"I want to buy a bread."と述べました。ここで注目すべきは a bread です。すると、Gentleman が「どんな種類のパン?」とすかさず応じています。この a bread も種類が問題になっている表現であることは明らかです。

一方、ファーストフードの店で"Give me a coffee."といえば、通常、単位に関心が向かい、a cup of coffee のことだと理解されるでしょう。"Get me a beer."(ビールをくれ)の a beer も a can of beer あるいは a mug of beer ということで単位の例です。このように、リンゴのような個体を表す以外にも、種類として1つを取り出す場合と、単位として1つを取り出す場合があるということです。

種類として取り出すはたらきが生きているのは、an angry Joe のような例です。これは「怒ったジョー」ということです。これがどうして種類なのかといえば、a happy Joe とか a sad-looking Joe のようにいろいろなジョーさんの側面が想定できるからです。

上の a new Tokyo も同じ考え方です。「東京」は固有名なので Tokyo です。しかし、「新しい東京」とか「古い東京」と形容詞が付けば、種類としての東京が意識されるため、a new Tokyo のように固有名でも a を使うのです。

3. 個体として取り出す

ここでは、個体として取り出すに注目しましょう。リンゴの an apple と apple は基本的な事例ですが、その応用として、a room と room を比べてみましょう。

「部屋」は壁で仕切られていますね。1部屋だと a room といいます。room になれば、その仕切りがなくなった状態で、「場所、空間」とか「余地」という意味になります。a lot of rooms だと「部屋がたくさん」、a lot of room だと「余地(あき)がいっぱい」となります。

「建物」のことを a building といいますね。では、building になるとどうでしょうか。
a lot of buildings だと「建物がたくさん」ですが、a lot of building だと「建設工事がたくさん」という意味になります。

空間(余地)や建設工事には個体としての仕切りはありません。だから、それぞれ room と building になるのです。

さて、形が違えば、意味が違うということがわかってきたと思います。この感覚を確かなものにするため、もう少し例を見てみましょう。

次の2枚の写真を見てください。どちらも「たまご」ですが、英語では、an egg / egg / eggs のどれを使って、それぞれのたまごを表現するでしょうか。

an egg vs. egg

an egg vs. egg

左はたまごの形があるので an egg です。一方、右は an egg でも eggs でも不自然で、egg になるでしょう。右のようなパンを食べていて、たまごの黄身(きみ)がドレスについたとします。友人がそれを見つけて、「ドレスにたまごがついているよ」と伝えるときには、どう表現するでしょうか?

正解は、"You've got [(some) egg] on your dress."で、やはり egg ですね。egg が指すものは、形(仕切り感)がありません。

今度は「ピアノ」です。日本語では、「ピアノを買う」も「ピアノを勉強する」もおなじく「ピアノ」です。しかし、英語では買うピアノは形があるので a piano になります。"I want to buy a piano."(ピアノ買いたいな)のように表現します。

一方、「ピアノを勉強する」とか「ピアノ科」には形としての仕切り感がありません。だから、study piano(ピアノを学ぶ)とか major in piano(ピアノを専攻する)のように piano で表現するのです。

buy a piano(ピアノを買う)

buy a piano(ピアノを買う)

study piano at Berklee College of Music(バークレー音楽大学でピアノを学ぶ)
study piano at Berklee College of Music(バークレー音楽大学でピアノを学ぶ)

「ジャズピアノを勉強しています」ももちろん piano を使い、"I'm studying jazz piano."と表現します。

4. 仕切り感

仕切り感でわかりやすい例として、「砂」と「小石」を比べてみましょう。砂には形が感じられないことから仕切り感はありません。

一方、小石は1個を手にとることができます。石の形があり、他の石と仕切り感を感じます。そこで、英語では、「砂」は sand、「小石」は a pebble(pebbles) と言います。

「砂」はsand、「小石」はa pebble(pebbles)

砂は数というよりも量に関心が向かうと思います。

「水」になるともっとはっきりします。水は、コップの水も大海の水も水に変わりはありません。砂のように形を作る仕切りがないことから water なのです。そして、それを量で表す場合は、a glass of water(グラス一杯の水)とか a bucket of water(バケツ一杯の水)のように、計量の単位を示すグラスはバケツを用います。

計量の単位を示すグラスはバケツを用いる

少しおもしろい例をみておきましょう。「羊」は単数でも複数でも sheep と言います。もちろん、羊は一頭ずつ数えることができるのですが、群れになっている羊を離れたところから見ると「白いかたまり」に見えることから sheep と表現するようです。

ちょうど、砂の sand と似ていますね。ある男性の髪に1本だけ白髪があれば、"The man has a grey hair."と言い、数本の白髪が目立てば"He has a few grey hairs."と言います。しかし、髪の毛が真っ白だともはや単体として髪の毛を取り出す意識はなく、"He has grey hair."と表現します。

5. 確認問題にチャレンジしてみよう

5. 確認問題にチャレンジしてみよう

感覚がつかめてきたことと思います。ここで確認テストをしましょう。日本語に合う英語を選んでみてください。

[1]
無線  ・ a radio
ラジオ ・ radio

[2]
鶏肉  ・ a chicken
ニワトリ・ chicken

[3]
美   ・ a beauty
美しい人・ beauty

[4]
火事  ・ a fire
火   ・ fire

[5]
建物としての学校 ・ a school
通学の対象としての学校・ school

どうですか。意外と簡単ですね。以下が解答です。

[1]「無線」はradioで、「ラジオ」はa radio
[2]「鶏肉」はchickenで、「にわとり」はa chicken
[3]「美」はbeautyで、「美人」はa beauty
[4]「火事」はa fireで、「火」はfire
[5]「建物としての学校」はa schoolで、「通学の対象としての学校」はschool

火事は出来事として一回ずつ数えることができますね。だから a fire なんです。学校に通う(通学する)は go to school と言います。同じように go to church は「礼拝に行く」ぐらいの意味になります。乗り物としてのバスは a bus ですが、交通手段としてのバスは bus になります。だから、"I go to school by bus."になるのです。

6. 応用問題にチャレンジしてみよう

6. 応用問題にチャレンジしてみよう

最後に少しむずかしい問題を見ておきましょう。a silence と silence でどう意味が違うかという問題です。

There was [a silence, silence] during the meeting.

a +名詞は「個体、単位、種類などとして1つを取り出す」感じがあり、仕切りのようなものが感じられます。そこで、"There was a silence during the meeting." といえば、会議中に数秒間(とか数分)の沈黙があったということです。これは単位として「数秒の沈黙」に関心が向かっています。
一方、"There was silence during the meeting." になると、「会議ではだれもしゃべらず静寂が覆っていた」といった感じです。ここで読み分けるポイントは「単位としての仕切り感」ということです。

watch TV vs. listen to the radio

「テレビを見る」の watch TV は a TV になりません。なぜかといえば、watchするのは「画面上に流れてくる映像(放送としてのテレビ)」であって、受信機としてのテレビの箱ではないからです。もし watch a TV とか watch the TV といえば、テレビの箱を見張っているという意味になってしまいます。

なお、「ラジオを聴く」場合は listen to the radio と言います。文字通り、「ラジオという受信機に耳を傾ける」というのが listen to the radio なのです。受信機のほうに耳を傾ければ音楽やストーリーが聞こえてくるというのが listen to the radio なのです。

「テレビを見る」は watch TV で、「ラジオを聴く」は listen to the radio となり、ややこしいと思われるかもしれませんが、ちゃんと TV なのか the radio なのかの理由があるのです。

7. おわりに

このように、an apple と apple は指すモノが違うんだよということを幼い内から感覚として身につけることができたら良いですね。
この記事で紹介したように、an egg vs. egg、a piano vs. piano、a school vs. school のように例を示し、「どっちかな?」といったゲームをくり返せば、自然に形が違えば意味も違うことが理解できるようになると思います。


田中茂範(たなか しげのり)先生

PEN言語教育研修所所長・慶應義塾大学名誉教授。コロンビア大学大学院博士課程修了(教育学博士を取得)。
NHK教育テレビで『新感覚☆キーワードで英会話』(2006年)、『新感覚☆わかる使える英文法』(2007年)の講師を務める。JICA(独立行政法人 国際協力機構)で海外派遣される専門家に対しての英語研修のアドバイザーを長年担当。
主な著書に『コトバの「意味づけ論」―日常言語の生の営み』(紀伊國屋書店)、『「意味づけ論」の展開―情況編成・コトバ・会話』(紀伊國屋書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(リーベル出版)、『表現英文法増補改訂2版』(コスモピア出版)、『意外と言えない まいにち使う ふつうの英語 きほんの英語』(NHK出版)他多数。

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