ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 専門家の先生による、英語教育に関する記事 > 日本人が苦手な前置詞を子供のうちに攻略!前置詞はコア(中核的意味)でとらえよう!【慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生】

専門家の先生による、英語教育に関する記事

日本人が苦手な前置詞を子供のうちに攻略!前置詞はコア(中核的意味)でとらえよう!【慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生】

英語は、前置詞言語です。英語の前置詞には、in, on, at, over, under, acrossなどが含まれます。どんな英文を読んでいても必ず出くわす語たちですね。「飛行機に乗っている」状況なら"We are on the plane."とonを使い、「困った状態にある」状況なら"I'm in trouble."とinを使って表現します。

このように、前置詞は当たり前のようによく使われます。そのため、英語力を身につけるには、前置詞の攻略が絶対に必要になります。できるだけ幼いうちに、前置詞の感覚を身につけるのが良いと思います。
ここでは、その方法を紹介します。


1. 前置詞のはたらき

2. 前置詞を理解するには、コアを感覚的にとらえる

3. 前置詞のコア感覚をつかむ方法:INの場合

4. 前置詞のコア感覚をつかむ方法:ONの場合

5. イラストや写真などを示して共通イメージを考えよう


1. 前置詞のはたらき

英語の前置詞のはたらきとは、何でしょうか。前置詞は、時間、手段、理由なども表しますが、なんといっても空間関係を表すというのが基本です。「空間関係」といってもピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。「位置関係」といえばもっとわかりやすいと思います。
例えば、以下のイラストをご覧ください。

箱の中のリンゴ

日本語では、「箱の中のリンゴ」とか「箱の中にリンゴがある」と表現するでしょう。これを英語では、an apple in the boxとか"There is an apple in the box."と表現します。an apple in the boxのinが前置詞です(註:日本語では「箱」の後に「の中に」が続いていますが、英語では、the boxの前にinが置かれています。だから「前置詞(前に置く詞)」という言い方をするのです)。

ここで注目したいのは、リンゴと箱の位置関係をinで表しているということです。
次のイラストを比べてみてください。

リンゴと箱の位置関係

左のan apple in the box(箱の中のリンゴ)は上で出てきた例ですね。右のイラストはどうでしょう。リンゴと箱の位置関係に注目すれば、an apple on the box(箱の上のリンゴ)と言います。

注目したいのは、英語では、an appleとthe boxの位置関係をinやonで表現しているということです。この2つの例だけを見ていると、「in = 中の」、「on = 上の」と理解すればよさそうです。しかし、実は、そんな単純な話ではありません。

「in = 中に」「on = 上に」ではない

「太陽は東から昇る」は"The sun rises in the east."、「壁に影がみえる」は"I can see a shadow on the wall."と表現します。ここでは「東から」がin the eastになり、「壁に」はon the wallと表現されています。
英語文を日本語にする際に、「太陽は東の中に昇る」、「壁の上に影が見える」と言うと変ですね。つまり、inだから「中に」、onだから「上に」というわけにはいかないのです。

"Look at the woman in a red dress."を「赤いドレスの中の女性を見なさい」と訳してしまえば意味不明ですね。「イチ、ニのサンでこの石を持ち上げよう」は"On (the count of) one, two, three, let's lift this stone."のようにonを使います。

ここまでくれば、「in = 中に」、「on = 上に」と理解するだけでは不十分であるということがわかるでしょう。では、どのように英語の前置詞を理解すれば良いでしょうか。

2. 前置詞を理解するにはコアを感覚的にとらえる

英和辞典でinやonを調べると、たくさんの「意味」が載っています。英語の学習で何がむずかしいかという問いに対して、「前置詞」は必ずトップ3に挙げられます。どうしてむずかしいのでしょうか。

前置詞がむずかしい理由は、上で述べたように、「in = 中に」、「on = 上に」と理解するだけでは、うまくいかない使い方がたくさんあるからです。

1つの前置詞にたくさんの意味があるので、ややこしいというのがその理由です。しかし、1つの前置詞には1つの共通した意味があります。この1つの共通した意味のことを「コア(中核的意味)」といいます。

コアと用例に注目しよう

英語の前置詞を学ぶ際には、コアと用例に注目することが大事です。コアはすべての用例の背後にある共通の意味のことです。
コアと用例の関係についてですが、幼児期や小学生の頃までは、用例にふれ、ある段階でコアを示す。すると、知っている用例の間にコアが共通していることに気づくはずです。コアがわかることで、バラバラだった用例が意味ある形でつながってきます。
一方、中学生の後半から高校生になると、すでに多くのinやonの用例で出会っており、コアを示してあげることで、「あっ、そうなんだ!」という気づきを得ることになり、学習に弾みがつくはずです。

以下、前置詞のコア感覚をつかむ方法を具体的に見ていくようにします。ここでは、英語の前置詞の中でも基本中の基本であるinとonを取り上げます。

3. 前置詞のコア感覚をつかむ方法:INの場合

用例1

まず、用例から入ります。イラストや写真や実物のモノを使うことが前置詞の学習には必須です。そこで、次のようなイラストを子供に見せて、"What's in the box?"と聞きましょう。

INの用例1

そして、"There's a rabbit in the box."と続け、口慣らし練習をするように言います。ここでは"There's ______ in the box."が注目点です。a soccer ball, a cat, an eggplantなど選択肢を変え、"There's a soccer ball in the box."のように子供に言わせるのも良いでしょう。

用例2

INの用例2

次に、箱が池になります。以下がその例です。
イラストを見ながら、子供といっしょに"a big frog ―― a big frog in the pond ―― There's a big frog in the pond."とくり返します。「池に大きなカエルがいるね」と一言言って、"There's a big frog in the pond."と言います。

用例3

INの用例3

次に、上の写真を見せて、「森の木が好き」と言いながら、"I like trees in the forest."と言います。"Trees in the forest ―― I like trees in the forest."とくり返させます。ここまでは、日本語でも「箱の中に」「池の中に」「森の中に」と言う例ばかりでした。inは「中に」という意味だと子供は考えるでしょう。

用例4

INの用例4

そこで、上のような写真を見せます。「黒いドレスの女性だよ」と伝えて、the woman in a black dressと言います。そして、子供といっしょに、"The woman in a black dress ―― Look at the woman in a black dress."とくり返します。
ここでは「in = 中に」では通じません。そこで、「黒いドレスに包まれている感じだからin a black dress」だね、と付け加えます。

用例5

INの用例5

そして、次のイラストを見せます。「the man in a black hatはどうしてinかな?」、と問いかけます。「帽子にすっぽり頭が隠れている感じ」という反応が出てくればin のコア感覚をつかみかけています。何かに包まれている感じだとinを使うということです。
箱や池は入れ物として境界がはっきりありました。境界がぼやけていても「包まれている感じ」あるいは「空間内にある感じ」が読み取れればinを使います。

用例6

INの用例6

そこで、以下のような表現が可能になるのです。
"Look at the girl. She's dancing in the rain."
雨は入れ物ではありませんが、「雨に包まれている感覚」をin the rainで表現しているのです。

何かに包まれるといえば立体的な空間を連想します。しかし、平面空間内という意味合いでもinを使います。

用例7

INの用例7

そこで、上の写真を見せ、英語で表現しかたを見てみるのも良いでしょう。
"There are swings in the park. The children are playing on the swings in the park."

INのコアイメージとは?

ここまでくれば、inのコアは「空間内(に)」というもので、以下のように表すことができます。

INのコアイメージ

「空間内(に何かがある)」というのがinのコアです。まわりを点線で表現しているのはin the rainのように境界がはっきりしない場合、あるいは、in the parkのように平面空間内を表す場合があるためです。
冒頭で、"The sun rises in the east."を「太陽は東から昇る」と訳しました。inのコア感覚を大切にすれば、「太陽は東に昇る」と訳すべきです。つまり、日の出(the sun-rising)は東の空間内に起こるということです。

4. 前置詞のコア感覚をつかむ方法:ONの場合

onといえば「上(に、の)」を連想する傾向があります。確かに、さきほどのイラストのようにan apple on the boxは「箱の上のリンゴ」と訳すことができます。しかし、次の状況はどうでしょうか。子供に写真やイラストを見せて、それを説明させるのも良いでしょう。

用例1

ONの用例1

左のイラストを見れば、「女性がベンチに座っている」とか「女性がベンチで本を読んでいる」と答えるでしょう。そこで、"Look at the girl on the bench."などと英語で言います。日本語では「ベンチに座っている女性を見なさい」となります。「ベンチの上に座っている」と言うと少し変ですね。

また、右のイラストだと、壁に2枚の絵がかかっているという状況なので"There are two pictures on the wall."と言います。「壁の上の2枚の絵」と言うと、意味不明になります。どうもonは「上」で理解していては無理があるようです。もう一枚、念押しとして次のイラストを示します。

用例2

ONの用例2

壁に影があるという状況だと説明し、影はa shadowなので、There is a shadow [ ] the wall. で何が入るかを聞いてみると良いでしょう。ここでもonを使います。

ここで「onの意味はどういう感じ?」と問うのも良いでしょう。子供が「何かがくっついている感じ」と答えたらしめたものです。
「くっついている」といっても、次のような状況もonで表現します。

用例3

ONの用例3

針と魚の口の部分がくっついている様子をonで表現し、"The fish is on the hook."と言います。これがわかれば、木になったリンゴもonで表すことがわかるでしょう。

用例4

ONの用例4

「たくさんのリンゴが木になっている」という状況は"There are a lot of apples on the tree."と表現します。

ONのコアイメージとは?

onのコアは、ズバリ「接触」です。以下のようなイラストで表すことができます。場所がどこでも、何かがどこかに接触していることが見えればonを使います(なお、机の下に何かがくっついている場合は、通常、表に対して裏側になるのでunderと言います)。

ONのコアイメージ

天井にハエがいるとします。ハエはa flyなので、"Look, there's a fly on the ceiling."となりますね。

用例5

ONの用例5

同じように、靴に泥がついている状況でも"Wipe the mud on your shoes."(くつの泥を拭きなさい)のようにonで表現します。

用例6

ONの用例6

頭にたんこぶがある状況も"The boy has a bump on the head."とonを使います。

接触といっても「面」ではなく「点」への接触もonを使うというのは「針にかかった魚」や「木になったリンゴ」でわかると思います。上で「イチ、ニのサンでこの石を持ち上げよう」は"On (the count of) one, two, three, let's lift this stone."と表現するとお話ししました。このonも接触の応用です。「イチ、ニのサン」と言ったのと同時に(連続して)、石を持ち上げようということです。つまり、2つの行為が接触している(連続している)ということですね。ここにonの持ち味があります。

用例7

最後に、机に本がある場合、もちろん、a book on the deskと言います。本と机の関係は、机が本を支える関係としても理解できすね。そこで、「~を支えに」という意味もon で表現することができるのです。片足立ちをするはstand on one footです。では、「逆立ちをする」とか「うつぶせ寝をする」はどうでしょうか。

用例8

ONの用例8

上の写真を見てみてください。
「逆立ちは両手を支えて立つ」なので"She is standing on her hands."となります。一方、「うつぶせ寝をする」は「腹を支えに寝る」なので"She's sleeping on her stomach."となります。
「仰向けで寝る」はもちろん、sleep on one's backですね。

5. イラストや写真などを示して共通イメージを考えよう

以上、イラストや写真、実物の状況を示して、いろいろなinやonの使い方を体験することで身についていきます。共通しているイメージを子供といっしょに考えると良いでしょう。
そして、前置詞を攻略するには、それぞれの前置詞のコアを感覚的にとらえたら、いろいろな用例にあたり、コアを意識した表現の理解のしかたをうながすと効果的でしょう。一旦、コアをとらえれば、inやonが出てくるたびにコア的な理解(日本語を通して理解ではない)をするようになるでしょう。


田中 茂範(たなか しげのり)先生

PEN言語教育研修所所長・慶應義塾大学名誉教授。コロンビア大学大学院博士課程修了(教育学博士を取得)。
NHK教育テレビで『新感覚☆キーワードで英会話』(2006年)、『新感覚☆わかる使える英文法』(2007年)の講師を務める。JICA(独立行政法人 国際協力機構)で海外派遣される専門家に対しての英語研修のアドバイザーを長年担当。
主な著書に『コトバの「意味づけ論」―日常言語の生の営み』(紀伊國屋書店)、『「意味づけ論」の展開―情況編成・コトバ・会話』(紀伊國屋書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(リーベル出版)、『表現英文法増補改訂2版』(コスモピア出版)、『意外と言えない まいにち使う ふつうの英語 きほんの英語』(NHK出版)他多数。

専門家の先生による、英語教育に関する記事