専門家の先生による、英語教育に関する記事

これからは小学校でどんな英語を習うの
今回の玉川大学 佐藤 久美子先生のエッセイでは、2020年から内容が大幅に変わる小学校の英語の授業について解説いただきます。
また、今回の『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』コーナーは、「教材の答えを暗記してしまうようになりましたが良いのでしょうか?」というご質問。
お子さんが英語教材を使い慣れてきたときの参考になりますので、ぜひチェックしてみてください!

私は年間70回近く小学校の英語の授業を見て、先生方に研修を行っています。
小学校の先生方は、最初は英語を教えることに慣れていませんが、数回研修を受けるととても上手に英語を教えられるようになります。

2020年からは小学校3年生から英語の授業がスタートし、5、6年生では英語は教科になるため、先生たちは英語を教える準備に非常に力を入れているのです。

英語が教科になるということは、他の算数や国語、理科、社会と同様に評価がつき、単に音になじむだけではなく、技能・知識を定着することが求められます。
そのため、未就学児の保護者の方々にとって、小学校ではどんな英語を勉強するへの関心が高まっていると思います。
そこで今回は、小学校ではどんな英語を学習することになるのかをお話したいと思います。

小学校で習う英語表現の例

ある中学校の英語の先生が、小学校の授業を視察して驚いていました。
「つい最近、中学2年生に"What do you want to be?"という文の構造を教えたのに、小学生が同じ英文を話していたよ!」と。
この英文を中学校で説明するなら次のような感じになるでしょう。

【中学校での説明の例】
"What do you want to be?"は、「あなたは何になりたいですか?」という意味を表し、want to ~は不定詞の名詞的用法を表します。
名詞的用法は、「~すること」の意味を表します。

しかし、小学校ではこんな説明は一切しません。下記のような流れで文と単語を覚えてしまいます。

【小学校での学び方の例】
①なりたい職業の単語(pilot, artist, florist, dancer, scientist, writer, doctor, nurse, baker, police officerなど)をチャンツなどで繰り返し発音。
②"What do you want to be?" 、"I want to be a pilot/artist/florist...."というフレーズを反復練習。


英語を教わった小学生3、4年生は、まだまだ記憶力が良いので、文を丸ごと暗記して、あっという間に友だちと会話ができるようになります。
現在小学校3、4年生で習う英語表現を見てみてみると、保護者の方の多くが、中学校1~2年生の頃に習っていたような英語表現が並んでいると思います。

〇小学校3年生で習う表現の例

1. Hello!(こんにちは!)
2. How are you? (お元気ですか?)
 I'm happy.(私は幸せです。)
 I'm hungry.(私は空腹です。)
 I'm sleepy.(私は眠いです。)
3. How many? (いくつですか?)
 How many apples?(いくつのりんごですか?)
 5 apples.(5個のりんごです。)
4. I like blue. (私は青色が好きです。)
 Do you like blue?(あなたは青色が好きですか?)
 Yes, I do. (はい、好きです。)
 No, I don't.(いいえ、好きではありません。)
5. What sport do you like? (あなたはどのスポーツが好きですか?)
 I like tennis.(私はテニスが好きです。)
6. アルファベットの大文字を学習。自分の名前の頭文字を伝え合う。
7. This is for you.(これはあなたのためです。)
 Thank you.(ありがとう。)
 What do you want? (あなたは何が欲しいですか?)
8. What's this? (これは何ですか?)
 It's ~.(それは~です。)
9. Who are you? (あなたは誰ですか?)
 Are you a ?(あなたは~ですか?)
 Yes, I am.(はい、そうです。)

〇小学校4年生で習う表現の例

1.Hello!(こんにちは!)
 My name is ~.(私の名前は~です。)
2.How is the weather?(どんな天気ですか?)
 It's sunny. (晴れです。)
 It's rainy.(雨です。)
3. Stand up.(立ちなさい。)
 Sit down.(座りなさい。)
3. I like Mondays.(私は月曜日が好きです。)
 What day is it?(何の日ですか?)
4. What time is it? (何時ですか?)
 It's homework time.(宿題をする時間です。)
 It's lunch time.(昼食の時間です。)
5. Do you have a pencil?(鉛筆を持っていますか?)
 Yes, I do.(はい、持っています。)
 No, I don't.(いいえ、もっていません。)
6. アルファベットの小文字を学習。
7. What do you want?(あなたは何が欲しいですか?)
 I want tomatoes, please.(私はトマトが欲しいです。)
8. Go straight. (まっすぐ進んで。)
 Turn left.(左に曲がって。)
 Turn right.(右に曲がって。)
9. I wake up at 6:00. (私は6時に起きました。)
 I go to school at 7:00.(私は7時に登校しました。)



いかがですか?
そして、5、6年生は以下のような表現を学習します。
現在の小学校ではかつての中学校で学んでいたレベルの英語を学習しているのです。

〇小学校5、6年生で習う表現の例

1.Where do you want to go?(あなたはどこに行きたいですか?)
 I want to go to Italy.(私はイタリアに行きたいです。)
 I want to see/visit~.(私は~を見たい/訪れたいです。)
2.What would you like?(あなたは何をお望みですか?)
 I'd like pasta.(パスタをお願いします。)
3.What sport do you want to watch? (あなたは何のスポーツを観たいですか?)
 I want to watch tennis.(私はテニスを観たいです。)
4.What do you want to be? (あなたは何になりたいですか?)
 I want to be a singer.(私は歌手になりたいです。)

英語の授業ではコミュニケーション力の育成も重視するように

数年前、小学校で英語学習が始まったばかりの頃は、よくゲームが行われていました。
例えば次のようなゲームです。

【数年前に英語の授業で行われていたゲームの例】
①児童2人の真ん中に消しゴムを置く。

②先生がたくさん野菜の名前を英語で発音していき、carrot(ニンジン)という単語が聞こえたら児童は消しゴムを取る。
③消しゴムを速く取った方が勝ち。

しかし、私は「こうしたゲームはもうやめましょう!」と研修でお話ししています。
英語の単語を少し聞く程度では、単語や表現は定着しませんし、まして、自分の話したいことを人前で堂々と話す力はつきません。

英語を勉強する大きな目的の一つは、人前で堂々と話したり、友だちの話をしっかり聞けるようにし、コミュニケーション力の育成することでもあるのです。
そこで、友だちとたくさん話したり、先生と英語でやりとりしたりする機会の多い授業がふさわしいと思います。

そこで今では消しゴムを取り合うようなゲームではなく、「インタビュー・ゲーム」という言葉を使ったゲームが授業に取り入れられています。
小学校5、6年生で習う"What do you want to be?"というフレーズを例に、インタビュー・ゲームの流れを見てみましょう。

【インタビュー・ゲームの例】
①児童は自分のなりたい職業を決める。
②できるだけたくさんのクラスメイトにインタビューしに行き、What do you want to be?"とたずねてなりたい職業を聞く。
③クラスメイトからインタビューされたら、自分のなりたい職業を英語で答える。

このゲームでは、5人と話せれば、5回英語表現を練習することができ、英語でやりとりする機会をたくさん確保できます。

さらに、英語を使いたくなるように、英語を使う必然性がある場面を設定することも必要です。
机の上に3本並べられたエンピツを見て、"How many pencils?"(エンピツは何本ありますか?)と聞いても、ワクワクした気持ちにはなりません。
本当に聞いてみたいことをたずねたり、伝えたいことを話せてはじめて、英語を使うことは楽しくなるのです。
そこで、次のようなゲームを通じて英語を使いたくなる場面をつくりだす方法があります。

【英語での数のたずね方を練習できるゲームの例】
①ペットボトルのキャップをたくさん用意する。
②児童を数名ずつにグループ分けし、グループのメンバーが順番にペットボトルのキャップのつかみ取りをする。
③グループの全員がつかみ取りを終えたら、キャップを片手でつかんだまま全員で"How many caps?"(いくつのキャップがありますか?)と言う。
④グループのメンバーが順番に、自分がつかんでいるキャップの数を英語で答える。
児童1: I have seven caps.(私は7個のキャップを持っています。)
児童2:I have five caps.(私は5個のキャップを持っています。)
児童3:I have six caps.(私は6個のキャップを持っています。)
⑤グループの全員で、キャップの数をを英語で足し算して言う。
全員:Seven + five + six = eighteen.(7たす5たす6は18です。)

このゲームでは、英語を使って算数の勉強もできます。

他に、児童同士で"What is your special day?"(あなたの特別な日は何ですか?) と聞き合うという活動をしている先生もいらっしゃいました。児童は、自分の思い出に残るできごとを絵に描いておき、それを発表するのです。このやりとりは、英語で月や日にちを伝える練習になります。
"When is your special day?"とたずねられたある男子児童が
「My special day is July 4th.(僕の特別な日は7月4日です。) ほねを折った日。」
と答えて笑いを誘う場面もありました。
なお、この活動ではJuly 4thのように日付の英語表現が言えることが目標なので、その他の部分は日本語で話させていました。

子どもは英語を使う必然性があれば英語を使いたくなります。
ご家庭でも、次のような会話で「必然的な場面」をつくりだしてみてはいかがでしょうか?

子:おやつが食べたい。
母:What do you want?(何が欲しいの?)
子:クッキー。
母:How many cookies?(いくつのクッキーが欲しいの?)
子:Five.(5つ。)

こうした会話はゲーム感覚で楽しめます。どんな時に英語を使えば子どもは答えたい気持ちになるのか、それは保護者の方が一番よくご存知のはずです。
ぜひ日常生活でも一言英語を取り入れてみてください。
また、「ディズニーの英語システム」(DWE)の英語表現をそのまま使える日常の場面も多いので、DWEをお持ちの方はそうした場面を見つけて試してみても良いですね。

『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』第8回:教材の答えを暗記してしまうようになりましたが良いのでしょうか?

英語教育お悩み解消Q&A第8回

◆DWEユーザーの方からのご質問◆

同じ教材を何度も使っていたためか、答えを暗記してしまうようになりました。これで良いのでしょうか?

◆佐藤先生のご回答◆

これで良いのです!
暗記するほど何度も使っているなんて、すばらしいです。

子どもの言葉の学習は暗記するところから始まります。
小学校での英語の授業でも、何回も反復練習しているのはそのためです。
例えば、"What animal do you like?"(あなたは何の動物が好きですか?)、 "I like dogs."(私は犬が好きです。)というフレーズを学習するときは、まず動物を表す単語(dog, cat, lion, tiger, elephant, rabbit, monkeyなど)を言う練習をし、その後、"I like ~."という文に動物を表す単語をあてはめて何回も繰り返して覚えます。
何度も練習していると、自分が本当に好きな動物を発表する時にも、自信をもって言えるのです。

このフレーズを学習していた小学生と外国からの留学生が一緒に給食を食べる機会がありました。
すると、子どもたちはまず"What animal do you like?"と留学生にたずねました。自信のある英語表現を使って話のきっかけを作ったのです。
子どもたちはさらに、"What sport do you like?"(あなたは何のスポーツが好きですか?)、 "What color do you like?"(あなたは何色が好きですか?)という表現を使って留学生との話を広げることができていました。
1つの英語表現をしっかり暗記することで、応用の表現も使えるようになっていたのです。

ぜひ今の教材の使い方を続けてください。


佐藤久美子先生近影

佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻) 脳科学研究所 教授。
長年、子どもの言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。
2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの「えいごであそぼ」、「えいごであそぼwith Orton」の総合指導を担当。

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