専門家の先生による、英語教育に関する記事

言葉の発達を助けるために親ができること

お母さんが話す"マザリーズ"は言葉の発達の栄養です。

乳幼児に語りかけるとき、大人は無意識のうちに、いつもより高い調子の声でゆったりとした話し方をします。マザリーズ(motherese=母親語)と呼ばれるこの現象は、日本語や英語のみならず、ほぼすべての言語において見られる現象です。

マザリーズのやさしく高い調子の声は、子どもにとって心地よく、敏感に感じ取りやすいと言われています。ひと言ひと言がはっきりと発音され、スピードも、大人へ話しかける場合の2倍ほどゆっくりであること、特に文の構造を理解するポイントとなる動詞がゆっくりはっきり発音されることが、子どもの理解の助けとなります。簡単な動作の命令文や言葉を引き出す質問文が多く、同じ言葉の繰り返しが多いという特徴もあります。例えば子どもが犬を指差して「ワンワン!」と言ったときに「そうね、向こうにワンワンがいるわね」と、子どもが話したことを受けて少し言い換えたり、言葉を付け加えたりすることもよくあります。

"motherese"という名前からも想像できると思いますが、いつも子どものそばにいる母親は、意識しなくてもこのマザリーズを自然に、そして上手に調節しながら与えることができます。多くの母親は、子どもが簡単に理解できるレベルの言葉を使う一方で、文法的には子どもの言語能力とほぼ同じか、やや高いレベルの言葉を無意識に発しているのです。母親の本能的な力で、子どもの言葉の発達を自然に助けているわけですね。マザリーズは、親子の心と心の交流を通じて大きな力を発揮します。心の込もった母と子のやりとりこそがコミュニケーションの原点であり、子どもの社会性や言葉の発達のために欠かすことができない重要な栄養なのです。

マザリーズは、母語以外の言語教育においてもとても効果があります。ワールド・ファミリーの教材ではPlay Along!(PA!)やDWEのブルーを中心にこのマザリーズが取り入れられていますから、英語を母語としない子どもたちが無理なく自然な形で英語を学ぶのにぴったりだと思います。いっしょにDVDを見る、いっしょに歌をうたう、いっしょにからだを動かすなど、親子の交流を楽しみながら取り組むことをぜひおすすめしたいですね。

意味のあるインプットが「認識の発達」を助けます

子どもの発達過程においては、言葉の発達より「認識(理解力)の発達」が先行するということが知られています。

子どもは言葉が出る前の生後数ヶ月のころから、母親が語りかけるマザリーズにじっと耳をかたむけ、言葉の意味を理解しようとします。例えば、まだ「ママ」、「ワンワン」程度の一語しか発語できない段階にいる子どもでも、「あのオモチャを取ってきて」と頼むとその指示をちゃんと理解することがありますね。子育て経験のあるみなさんは特によくご存じだと思いますが、これが「『認識の発達』が言葉の発達に先行している」という状況です。つまり、言われた言葉を一字一句分解して理解するのではなく、全体の意図をくみ取る力が先にできるということです。そして、語りかける言葉は"状況に合ったもの"であることが非常に大切。この、意味のある言葉のインプットの蓄積が認識の発達を促し、言葉の発達につながるのです。教材のDVDも、たとえ個々の語句の意味がわからなくても場面の状況からその意味を子どもが十分に理解できるように構成されていますので、大いに活用されると良いと思います。

子どもは自分で言葉の規則性を発見し正しい形を習得していきます

子どもが言葉を習得していく過程には、大きく3つの段階があります。

第1段階は、周囲の言葉をそのまま真似して覚える段階。「おはよう」、「こんにちは」("Hello"、"Good-bye")といったあいさつ表現など、いわゆる「定型表現(決まり文句)」と呼ばれる言葉の習得は、この時期に行われます。

第2段階に進むと、単なる模倣から脱し、言葉の大まかな観測性を自ら発見するようになります。例えば「キレイクナイ」といった一見間違いと思われる発話も多くなりますが、これは「オオキイ」の否定「オオキクナイ」、「コワイ」の否定→「コワクナイ」といった「規則」に子ども自身が言葉をあてはめているという確かな証拠でもあるのです。英語においても、「過去にするときは同士に"ed"をつける」という規則性を発見し、"goed(went)"、"comed(came)"といった誤りをする時期があります。こういった、言わば「誤りの過程(「中間言語」と呼ばれています)は子どもが習得するときの特徴といえます。

そして、より正確な規則性を理解し、言葉を整理していく第3段階を経て、最終的には正しい使い方ができるようになっていくというわけです。

子どもの場合、言葉の習得には母語でも第2言語でも同じ過程を踏みます。英語を母語とするアメリカ人の母親は、子どもが話す内容に事実関係の間違いがある場合は訂正しますが、文法的な誤りを訂正することはほとんどありません。また、発音や現在形・過去形などの造形の誤りを訂正することがあっても、当の子どもがそれにこだわることは少ないといわれています。

子どもは成長とともに「自分で誤りを訂正し、正しい形を自然と習得していきます。」日本語でも英語でも、子どもが言葉を覚えていく過程を楽しむことが何より大切です。"Let's enjoy English together.(英語をいっしょに楽しみましょう)"をモットーに、お子さんの成長を優しく見守りながら、楽しく英語にふれていきましょう。

伊藤 克敏 先生

神奈川大学名誉教授
日本児童英語教育学会(JASTEC)顧問
英国国際教育研究所(IIEL)顧問
国際外国語教育研究会会長

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