ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 英語教育に関するニュース > 幼少期から本当の語彙力を育むには?~大東文化大学・山口謠司准教授インタビュー~

英語教育に関するニュース

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書籍『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』が17万部突破のベストセラーシリーズとなったことは、語彙力に自信がない大人が数多くいることを浮き彫りにしました。
今回は本書の著者である大東文化大学・山口 謠司准教授(※1)に、「本当の語彙力とは何か?」「子供の語彙力を育むにはどうしたら良いか?」を伺います。

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Q1.『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』が売れたのはなぜですか?

Q2.語彙力について、どんな悩みをもっている人が多いのでしょうか?

Q3.語彙力を身につけるにはどうしたら良いでしょうか?

Q4.本当の語彙力とは何でしょうか?

Q5.子供が外国語の語彙を習得するためにはどうすればよいのでしょうか?

Q6.子供の語彙力を育むために、親はどのようにサポートすればよいでしょうか?



Q1.『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』が売れたのはなぜですか?

「忖度(そんたく)」という言葉で語彙力のなさを自覚した人がたくさんいた

2017年、森友学園問題・加計学園問題が世間をにぎわせていて、ニュース報道やSNSで「忖度」が多用され、2017年度の新語・流行語大賞にも選出されました。
そして、2016年に刊行した『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』の帯には、偶然「忖度」という言葉が入っており、出版のタイミングと世間で注目を集めていた言葉がうまくマッチしたのが、一番大きな理由だと思います。
「忖度」がきっかけとなり、語彙力のなさに気づいた人がたくさんいたのですね。
「そんな言葉知らなかった。いや、他にも知らない言葉がたくさんあった」と、語彙力に自信のない読者層の自覚を促したのが、この本が売れた背景だと思います。

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Q2.語彙力について、どんな悩みをもっている人が多いのでしょうか?

いろんな世界の人とつきあう経験の差が、語彙力の差を生んでいる

語彙力のある人とない人の差が開き、二極化しているとよく感じます。
学生たちを見ていると、就職活動が本格化してくる大学3~4年生くらいになって、語彙力がないことを自覚し、焦り出すパターンが多いです。

「会社の人とどう話せば良いかわからない」「エントリーシートに何を書けば良いかわからない」など、そういう悩みをしょっちゅう打ち明けられます。
例えば、手紙の時候の挨拶のテンプレートはパソコンでいくらでも調べられますが、普段使わない言葉を並べても、本当にわかっていなければきちんと使えません。親しい間柄なら「いつも大変お世話になっております」で良いかもしれませんが、相手によっては「平素より格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます」と書かなければいけません。「平素」なんて、意味を理解していなければ、なかなか書ける言葉ではないですよね。

語彙力がないと、言われたことがちゃんと理解できないし、言いたいことをうまく言葉にできないので、相手にどこまで通じているのか不安になります。
語彙力について、「このままで大丈夫かな?」という不安や葛藤を抱えている人たちは社会人にもたくさんいるでしょう。

一方で、体育会系の学生が語彙力の面でとてもうまくやっている印象を受けます。対外試合や遠征で、他校やいろんな街を訪れるからだと思います。文系の学生の方は、自分が興味ある世界の仲間たちだけでかたまってしまいがちなので、かえって語彙力に乏しかったりします。

大人の世界でも、他業種や他の会社の人と言葉や会話がかみあわないことがありますが、それと同じです。同じ大学の同じ学部同士で話す語彙と、他大学の違う学部の学生の語彙は違います。
若いときからいろんな世界の人とつきあう経験は、語彙力を育む上でとても大切です。


Q3.語彙力を身につけるにはどうしたら良いでしょうか?

語彙は使わなければ蒸発する

読んでわかったつもりでも、語彙力は案外身についていないものです。
そこで、新聞や本を読んだら、印象に残った言葉や感想を書き出しましょう。
例えば、朝日新聞の「天声人語」を読んだら、何が書かれていたか一言で書き出してみるのです。
また、散歩で知らない花を見つけたら、その花の名前を調べて書き留めたり、俳句や短歌を作ったりしてみるのも良いですね。

そういう風に言葉を積極的に使うと忘れにくくなり、忘れたとしても思い出しやすくなります。
結局、語彙は使わなければ、あっと言う間に蒸発していくものなんです。
でも、何回も何回も書いたり、声に出して読んだり、調べたりすることで、語彙は少しずつなじんでいき、自分のものにすることができます。

視覚よりも聴覚で言葉を受け止める比重を高めよう

さらに、視覚よりも聴覚から言葉をインプットする比重を高めることも大切です。

僕の実家は謡(※2)をやっていて、子供の頃は父に稽古をつけてもらっていました。
稽古は落語同様、口伝(※3)ですから、多少メモをとることもありますが、「耳で聞いて覚える」のが基本でした。そのおかげで、言葉の吸収力は間違いなく高まったと感じています。

別に古典芸能に関わる家庭でなくても、ごく普通のご家庭で同じような環境を作ることはできます。
テレビよりもラジオの時間を増やす、朗読や落語のCDを流す、それだけでも、言葉に対する感度と想像力がぐっと育まれるはずです。

※2 謡(うたい):
能の声楽(言葉・台詞)にあたる部分のこと。また、それのみを謡うこともいう。

※3 口伝(くでん):
口頭で伝えること。古典芸能では、師匠が弟子に奥義や秘伝を口伝えに教授すること。

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Q4.本当の語彙力とは何でしょうか?

必要なときに必要な言葉をすぐに取り出せる力

本当の語彙力とは、「これが一番ぴったり!」と感じられる言葉を、必要なときにポンと取り出せる力です。
そのためには、何かを見て感じる力と表現する力を両方を兼ね備えている必要があります。

以前、落語家の柳家 三三(やなぎや さんざ)さんから、言葉で表現する力について興味深いお話を伺いました。
「落語の言葉をどうやって覚えているのですか?」とたずねたところ、「覚えていない。丸暗記してやろうとしても絶対にうまくいかない」というお答えでした。
では、三三さんはどうやって落語を話しているのでしょうか? 
三三さんが落語の登場人物になって話すときは、小僧役・オヤジさん役などの登場人物たちにしゃべらせながらも、それを実況中継する演出家のような自分も、そこにいるのだそうです。
演出家のように全体を見る視点があることで、落語の世界は成立し、その成立した世界の中に言葉を入れていくと、言葉が生きたものとして立ちのぼってくるのだといいます。

このように、ただ覚えただけでは言葉は使えません。
その言葉が「どういう印象を持っているのか」「硬い表現なのか」「柔らかい表現なのか」「どんな場面で生きるのか」など、言葉1つ1つのオーラのようなものをつかむことができると、生きた言葉として、必要なときに使えるようになっていきます。
三三さんは落語をしながら、まさにこのオーラをつかんでいらっしゃるのです。
それは、言葉を生かす力とも言えるでしょう。

また、「言いすぎない方が伝わる」ことがあるのも、少し覚えておいてください。
例えば、ヨーロッパの言語が、完璧に何かを定義をしようとする一方で、日本語は、なんとなく伝わればそれでよしとするところがあります。「相身互(あいみたが)い」という言葉に象徴されるように、「同じ境遇にある者同士、お互い様だよね」「足りない者同士、助け合っていこうね」という気持ちがあるんです。
三三さんの落語でも、状況描写をするときに言葉をどんどん捨てていくほど、お客さんのイメージが膨らんで噺が面白くなるそうです。「10言わなくても1言うだけで、お客さんと世界を共有できる」ときがあると仰っていました。
そういう意味では、「言わない語彙力」というのも、時として必要なのかもしれません。


Q5.子供が外国語の語彙を習得するためにはどうすればよいのでしょうか?

何もしないと子供は発音しやすい言語を選ぶ

外国語の語彙を習得するのも、基本的には日本語と方法は同じです。
耳で聞いた言葉をしっかりアウトプットする機会を作るようにしてください。
幼い頃からバイリンガルの環境で育った場合、子供は発音しやすい言語の方を選んでしまいがちです。
例えば、我が家は日本語とフランス語で子育てしましたが、日本語の「本」とフランス語の"libre"なら、発音しやすい「本」の方を息子は好んで使っていました。
また、日本語とフランス語の両方を覚えても、正確に通訳ができるかというと、それは別問題です。
それぞれの言っていることはわかっても、頭の中で日本語とフランス語をつなぐブリッジができないと、通訳はうまくいきません。
耳から聞いて、書いたり、話したりする機会をたくさん作ることが、外国語を習得するときにおいても大事だと思います。

また、英語の場合、映画の台本をオンラインで気軽に購入したりできるので、それを活用してみても良いでしょう。
親子で一緒に映画を見た後、台本を読んでそれぞれの役になりきり、ロールプレイングしたり、朗読してみたりしてください。
映画の台本は言葉が非常によく練られていますから、生きた言葉の勉強にはもってこいですよ。

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Q6.子供の語彙力を育むために、親はどのようにサポートすればよいでしょうか?

耳からのインプットを大事にする

ラジオでもインターネットでも良いのですが、お子さんが耳から言葉を聞く環境や時間をできるだけたくさん作ってください。
繰り返しになりますが、聴覚からのインプットが語彙力を養うためには欠かせません。
耳から言葉をいっぱい聞かせ、漢字や英語のスペルでどう書くのかたずねたりして、アウトプットをひきだしてください。

言葉をイメージする力を養う

子供には、聞いた言葉を頭の中でイメージさせてください。
言葉をイメージする力は、生きた言葉を使う力につながります。
例えば、生まれたばかりの赤ちゃんを、イギリスでは"gorgeous"と表現しますが、日本語の中で「ゴージャス」と言うときはぜいたくで華やかなものについて使われることが多いので、違和感がある人もいるかもしれません。
しかし、英語の"gorgeous"という表現は、宝物のようにまばゆいばかりに光が広がっているようなイメージの言葉なので、このイメージを把握していると、ネイティブの表現がしっくりきます。
耳で聞いた英語の音と実生活で使う英語の意味が結びついたとき、生きた言葉になるのです。

外に出て感じる心を育てよう

子供と一緒にどんどん外に遊びに行って、実際に見て、感じて、味わって、生きたものにふれるようにしましょう。
生きている言葉を耳で聞き、心で感じるようにしましょう。
こうした体験が感情や心を伴った言葉につながります。

たくさん失敗させよう

子供が聞いた言葉を話す機会が増えれば、当然、間違いや失敗もあります。
でも、子供の間違いや失敗には大らかな気持ちで接しましょう。
子供が恥をかくことを恐れずにたくさん失敗しながら学んでいけるように、親からもサポートしてあげてください。

インタビューを終えて

本当の語彙力を身につけるためには、繰り返し言葉にふれて使うことが大切なんですね。
知っているつもりの言葉でも、「本当に意味を理解しているか」「書けるか」「声に出して言えるか」などを試してみると、新たな発見がありそうです。
また、山口先生が「聴覚で言葉を受けとめる」ことを非常に重視されているのが印象的でした。
語彙力を育むためには、子供も大人も言葉にじっくり耳を傾ける時間を作ることが大切なようです。


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プロフィール:山口 謠司(やまぐち ようじ)

1963年、長崎県佐世保市生まれ。
大東文化大学文学部准教授。博士。
大東文化大学大学院、フランス国立社会科学高等研究院大学院に学ぶ。ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員を経て現職。
専門は書誌学、音韻学、文献学。
17万部のベストセラーシリーズ『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)、21万部を突破したベストセラー『心とカラダを整える おとなのための1分音読』(自由国民社)、『日本語の奇跡』『ん』(いずれも新潮新書)、和辻哲郎文化賞を受賞した『日本語を作った男』(集英社インターナショナル)など著書多数。

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