英語はすでに、英語圏だけでなく、世界共通のことばになりました。お子さまにとって英語にふれることは、日本語のほかに、もうひとつコミュニケーションのツールを手に入れることになり世界が広がります。英語にふれることで広がる豊かなコミュニケーションの魅力を、玉川大学の佐藤 久美子 教授にうかがいました。
前編では、小さい子が英語を学ぶメリットと、子どもが言語を獲得していく仕組みについて、後編では、日常生活の中で英語を取り入れるコツと、「英語でつまずかせないための5か条」をご紹介します。
佐藤先生インタビュー前編 :
子どもが英語を学ぶメリットと、言語を獲得していく仕組み
Q1.小さいときから英語にふれるメリットはありますか?
Q2.英語にふれると、子どもにどんな変化がおこるのでしょうか?
Q3.生まれてすぐの赤ちゃんでも、日本語と英語の違いがわかるのですか?
Q4.日本語への悪い影響はありませんか?
Q5.赤ちゃんが言葉を獲得していく過程を教えてください
Q6.赤ちゃんが話しはじめたとき気をつけることはありますか?
Q7.お母さまとたくさん話すと、赤ちゃんの記憶力が良くなるのですか?
前編 ~子どもが英語を学ぶメリットと、言語を獲得していく仕組み
Q1.小さいときから英語にふれるメリットはありますか?
大学生や大学院生を指導していると、英語の聞き取りも発音も良くて反復する力がある人は、明らかに3歳頃に英語にふれていた人たちです。5歳以下の子どもは日本語と英語が同じように聞き取れます。その頃聞き取れた音は、たとえそのあとブランクがあっても聞き取る力が残っているようです。
Q2.英語にふれると、子どもにどんな変化がおこるのでしょうか?
まず、異文化を許容する寛容なこころが育ちます。家族旅行で函館に行った小学校3年生のお子さまが、外国人が温泉でかけ湯をしないでごみを残していくのを見て、「外国の人だから、日本のマナーを知らないんだな、もっと英語を話せたら教えてあげられるのに」と思ったそうです。また、コミュニケーションにも積極性があらわれます。やはり小学校3年生のお子さまですが、外国の方が多く集まる船に乗ったとき「ジェスチャーだけでなく、もっと英語で話ができたら、もっと楽しかっただろうな」と思ったそうです。どちらも、3歳くらいから英語にふれていた方たちです。
さらに、英語にふれていると、全体的に行動がアクティブになります。小学生が浅草で外国人にインタビューをするプロジェクトをつくりましたが、とても積極的に外国人にインタビューにいくのです。" Where are you from ?" "What food do you like in Japan?"と質問できるようになって先生方が驚いています。このように、気持ちの面でも、小さいときから英語にふれるメリットは大きいと考えています。
Q3.生まれてすぐの赤ちゃんでも、日本語と英語の違いがわかるのですか?
赤ちゃんは、お母さまのおなかのなかにいるときから、音の高さ・速さ・リズムを聞いています。生後数日で、お母さまと別の女性の声、日本語とそれ以外の外国語が聞きとれることもわかっています。
赤ちゃんはおよそ1年かけて母語の音声体系を獲得します。平均生後8か月の赤ちゃんに、毎日10分程度、5、6か月間、絵本を読み聞かせをしたり、CDを聞かせたり、DVDを見せたりして英語にふれさせたところ、英語に特にふれていないお子さまと比較して、LとRの音の聞き取りにかなりの差がでました。英語を聞かせたお子さまはかなりの率で聞き取れるようになりましたが、聞いていないお子さまは聞き取れませんでした。
Q4.日本語への悪い影響はありませんか?
英語と同じように、日本語にも聞き取りが難しい音があります。たとえば、ダとラの音を赤ちゃんは生後8~9か月ごろに聞き分けられるようになりますが、英語を聞かせても、これらの聞き取りにまったく差はでませんでした。英語をはやくから聞かせると、日本語に影響がでることを心配される方がいらっしゃいますが、悪い影響はありません。
Q5.赤ちゃんが言葉を獲得していく過程を教えてください
生後15~17か月頃から、初語が出て1語発話期がスタートします。この時期は、なんでも1語でかたづけようとするので、「アイス」と言っても、「食べたい」のか、「ここにあるよ」と言っているのか、「とって」と言っているのかなかなか判断がつきません。そして、2歳頃からは2語発話期がはじまり、複数の単語を反復したり、発話したりできるようになります。お母さまが「アイス食べる?」と聞くと、「アイス食べる」。「もっと食べる?」と聞くと「もっと食べる」と、お母さまのことばを正確に反復するようになり、2歳後半くらいからは、「もっと食べる。チョコレートも」などと、自発的な単語、表現がふえて、どんどん会話が拡大していきます。この反復は、文を獲得するためのとても重要な手段なので、赤ちゃんが模倣しやすい環境をつくってあげることが大切です。
Q6.赤ちゃんが話しはじめたとき気をつけることはありますか?
ことばを学ぶ上で大切なのは、実は、時間の長さよりもお母さまの接し方なのです。短い時間でもお母さまが気持ちをこめて絵本を読んだり話したりすると効果があります。反復ができるようになった赤ちゃんには、お母さまのものまねがしやすいように、ゆっくりと、短く話し、はやく応答してあげると、発話量や反復力、語彙力が育つことがデータからも実証されています。
Q7.お母さまとたくさん話すと、赤ちゃんの記憶力が良くなるのですか?
これまで、200人くらいのデータをとって反復力と単語力の相関関係を調べましたが、反復力の高いお子さまは、語彙サイズが大きいですね。反復というのは記憶と関わるので、何度も繰り返すと脳がこの情報は大切だと判断して、長期記憶に日本語や英語特有の音の組み合わせなどが蓄えられていきます。一方、言われたことを即返すワーキングメモリ(短期記憶の一種)も練習することで能力が上がります。短期記憶は2歳くらいから成長するといわれているので、この時期にお母さまとたくさんお話をすると、お子さまのワーキングメモリが鍛えられます。
前編まとめ
赤ちゃんは、一日たった10分の取り組みで英語を身につけていく力を持っているのですね。そして、お母さまとふれあうなかで、赤ちゃんの豊かなコミュニケーションの世界がどんどん広がっていくというお話が印象的でした。
後編では、英語の歌や、絵本の読み聞かせをするときのコツなど、毎日の生活の中で楽しく英語を取り入れるための具体的な工夫についてうかがいます。
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プロフィール:佐藤 久美子(さとう くみこ)
津田塾大学大学院文学研究科博士課程修了。ロンドン大学大学院博士課程留学。2007年度より町田市や稲城市の教育委員会の委託を受け、カリキュラムや教材作成の他、教員対象の小学校英語活動トレーニング講座を多数開講。東京都の外国語教員研修も担当。小学校英語指導者認定協議会理事。
『こうすれば教えられる小学生の英語』(朝日出版、2010年)、『小学校英語「小学校英語」指導法ハンドブック』(共著 玉川大学出版部、2005年)など著書、英語教材を多数執筆。