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専門家の先生による、英語教育に関する記事

子供の「話してみたい!」気持ちを育む模倣と反復とは?【玉川大学大学院 名誉教授・佐藤久美子】

中学校の英語教育といえば、"Repeat after me!"という言葉が浮かぶほど、教師の後に続いて英単語や表現をリピートしたことは、皆さまご記憶にあると思います。
小学校でも、クラス全体で教師の後に続いて単語や文を反復したり、ABという二人の往復会話だと、列ごとに担任とALT(Assistant Language Teacher)の後に続いて反復したりと、この活動はよく行われています。

それでは、なぜ反復が大切な活動なのでしょうか?また、母語の獲得においても、模倣・反復という過程は見られるのでしょうか?

今回は、母語の獲得過程で見られる幼児の発話模倣と、第二言語獲得における反復活動に注目して、母語、第二言語獲得において、模倣と反復がいかに幼児や児童の発話を促す上で大切かということについてお話しします。


1. 2歳児は模倣・反復期

2. 第二言語獲得でも模倣・反復が発話のカギ

3. 母語も第二言語も獲得過程には共通点がある


1. 2歳児は模倣・反復期

1. 2歳児は模倣・反復期

母語の獲得過程を観察すると、2歳児は典型的な模倣期です。たとえば母親が「クレヨンがあるよ」と言えば、子供は「クレヨンがある」と答えます。「小田急線に乗ってきたね」と母が話しかけると、「小田急線」と答えます。
一見、母と子が会話しているように聞こえますが、実は、子供が母親の発話を模倣しているのです。

さらに、保護者もまた子供の発話をよく模倣します。子が「椅子がある」と話しかけると、母親が「椅子があるね」と答えます。子供が「のってみる」と言うと、「のってみる?」と母親は答えます。

この母と子の発話の模倣率には相関関係があり、母親が子供の発話を模倣する率が高いほど、子供の母親の発話を模倣する率も高いことがわかっています。子供との会話が多い場合は、父親でも同じ現象がみられると思われます。

また、模倣率が高い親子の子供ほど発話量が多く、発話量の多い子供は語彙力も高いことが私の調査から明らかになりました。そこで、この『模倣』という現象が言葉の獲得に必要なことがわかりますが、実際にはどんな役割を果たしているのでしょうか?

(1) 安心感を与える
保護者が子供の発話を模倣すると、子供は保護者が自分の話を聞いてくれている、という安心感をもちます。同時に、内容の確認もできます。

(2) 発話を修正したり、拡大したりする役目を果たす
保護者は、全く子供と同じ発話をくり返すことも多いのですが、少し、発話内容を広げることがあります。

例:子供「リンゴがある」
  保護者「リンゴがあるね。赤いリンゴがあるね」
  子供「赤いリンゴ」
  保護者「食べてみる?」
  子供「食べてみる」

このようなやりとりを通して、「リンゴ」という名詞だけの表現に、「赤いリンゴ」と形容詞も加えて言えるようになります。

(3)音マネ上手は発話力アップにつながる
日本語でも英語でも、「音マネ」することによってワーキングメモリ(聞いた後の音を一時的に保存する短期記憶の一種)が鍛えられると考えられます。ワーキングメモリの発達は、語彙の増加はもちろん、聞いたことを自分の言葉で発話する能力、つまり発話力につながります。

(4) 音マネ上手のカギは親子のコミュニケーションの量
子供が「音マネ」上手になるには、保護者の役割が大切です。
日常的に親子でのコミュニケーションがよく取れている子供ほど「音マネ」が上手であるという結果もでています。よく話をしている子供は、たとえ聞いたことがない日本語の単語であっても、聞いたその場で上手にマネ(模倣)をすることができるのです。

※参考:佐藤久美子・桐山伸也・梶川祥世「母子相互作用における子どもの発話を促す要因:模倣と発話タイミング」(2021,玉川大学脳科学研究所紀要)

2. 第二言語獲得でも模倣・反復が発話のカギ

2. 第二言語獲得でも模倣・反復が発話のカギ

子供の母語の獲得過程のお話をしましたが、実は第二言語、英語の獲得でも同じことがいえます。2017年に行った子供の第二言語獲得過程に関する共同研究で明らかになりましたが、英語文の反復ができると発話につながります。また、単語・文の反復がその場で即興的にできるのは、その意味や文構造をある程度理解していることがわかります。

例えば、英語のネイティブの3歳の子供に次の文を模倣するように伝えます:

I chased the dog who chased the rabbit.
(私はうざぎを追いかけた犬を追いかけた。)

すると子供は次のように反復しました。

I chased dog and dog chased rabbit.
(私は犬を追いかけて、犬はうさぎを追いかけた。)

3歳くらいの子供は、冠詞などは省略する傾向があります。また、関係代名詞はまだ使いません。そこでwhoは省略されているのですが、意味はほぼ理解しているので、上記のような反復を行ったのです。

同様のことが、英語を0歳児から英語を学習している子供にも見られます。
わたしが行った調査について、具体的にご紹介します。

(1) 次のような英語を反復させます:

・What's your name?
(あなたのお名前は?)

・Do you like dogs?
(犬は好き?)

・What animal do you like?
(何の動物が好き?)

子供の応答を、5段階評価(0~4点)で採点します。
ネイティブのように正しく、かつ発音も良ければ4点、発音はやや日本語に影響されているが正確であれば3点、など。

(2) 同じ文を使い、今度は質問に英語で答えさせます:

・What's your name?
 - My name is _____.

・Do you like dogs?
 - Yes, I do. / No, I don't.

・What animal do you like?
 - I like _____.

同様に5段階評価(0~4点)で採点します。

(3) 遊びの中で英語を使って話すように保護者に伝えます:
保護者と子供がいつも使っている、着せ替えができるお人形で遊んでもらうように指示します。

母:What color do you like?
(何色が好き?)
子:I like blue.
(青が好き。)

母:Do you want this hat?
(この帽子がほしい?)
子:Yes.
(ほしい。)

母:This blue hat?
(この青い帽子?)
子:Yes, this blue hat.
(うん。この青い帽子。)

ここでも、英語遊びの上手な母が、自然に発話を拡張して"This blue hat?"と形容詞を加えて質問します。すると、子供もその文を模倣して、"This blue hat."と答えます。Exact(正確)に反復するところから、Expand(拡張)して反復する過程は、母語の獲得と全く同じ過程が観察できます。

(4) 調査結果
① 英語反復と英語の応答
② 英語の応答と遊びの中での発話の回数
③ 英語の語彙力と遊びの中での発話の回数

上記の3点には、統計的な有意差があることが明らかになりました。すなわち、英語の文の反復ができるようになると、自然にその意味や文の構造も理解できるようになり、英語による応答も可能になります。英語による応答ができるようになると、自然の遊びの中でも、自由な発話がでるようになるのです。

3. 母語も第二言語も獲得過程には共通点がある

3. 母語も第二言語も獲得過程には共通点がある

小学校でも、どんどん文を反復させている小学校の子供たちは、英語のスピーチ・コンテストでも、自分で内容を考えて、堂々と発表することができるようになります。一見単純に見える模倣・反復は、自由な会話のカギになることがおわかりいただけたでしょうか。
日本語の母語の獲得過程と第二言語の英語の獲得にも、共通点があるということなのです。


佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻)名誉教授。
長年、子供の言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの『えいごであそぼ』『えいごであそぼwith Orton』の総合指導、2017年からNHK eテレ『エイゴビート』の番組委員を担当。今日に至る。全国の小学校や教育委員会でも多数研修や講演を行い、小学校英語教育の推進に努めている。

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