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小学生に求められる英会話力ってどこまで必要?【玉川大学大学院 名誉教授・佐藤久美子先生】

小学校3~4年の外国語活動と、5~6年の外国語科に携わる小学校の先生方からはよく、「小学生にどこまでの英会話力を求めたら良いのか?」「自然な会話ができる能力を身につけさせるにはどうしたら良いのか?」などの質問が寄せられます。

さらに先生方から、「小学校の授業でよく取り上げられるスピーチ(夏休みの思い出、小学校の思い出、行きたい国、なりたい職業、好きな食べ物など)や、Who am I?クイズ(体の色や足の数、大きさ、住む場所などをヒントに、動物や昆虫の名前を当てたりするクイズ)は自然な会話とはいえないのではないか」というご意見も聞かれます。

では、そもそも「会話」「自然な会話」とは何でしょうか。本屋さんに行くと、英会話のコーナーにはたくさんの本が並んでいます。ページをめくってみると、一般的な英会話のハウツー本には定型表現がいっぱい紹介され、ひたすらにそれを覚えることが要求されています。
ラジオやテレビの英会話番組を見ても、まずは定型表現や決まり文句を覚えることを目指すレッスンが、多いのではないでしょうか。

しかし一方で、実際の会話というものは、定型表現を使って特に情報や意見を伝えたりするだけではなく、何となく人間関係を維持するために交わされるあいさつ程度の会話もあれば、楽しみのために交わされる会話もあります。

そこで今回は、「会話とは何か?」そして、「小学生に求められる英会話力とは何か?」というテーマで、お話ししたいと思います。

1. 会話の定義とは
2. 小学校の外国語教育で行われている会話とは?
3. 自然な会話を目指すために必要な語彙力


1. 会話の定義とは

1. 会話の定義とは

英・日の辞書で異なる「会話」の定義

「会話」を和英辞典で引くと、まずconversationが現れます。
では、conversationの定義を調べてみましょう。

ODE(オックスフォード新英英辞典):
A talk, especially an informal one, between two or more people, in which news and ideas are exchanged.
(2人あるいはそれ以上の人で、特に打ち解けて話をすること。そこでは、ニュースや考えが交わされる。)

※下線は筆者。以下同様。

LDOCE(ロングマン現代英英辞典):
an informal talk in which people exchange news, feelings, and thoughts
(打ち解けて話すことで、人々がニュースや感情、考えを交わすこと。)

Keywordは「複数」「打ち解けて話す」「ニュース」「感情」「考え」です。

次に日本の国語辞典を調べてみます。

デジタル大辞泉:複数の人が互いに話すこと。また、その話。

明解国語辞典:2人または数人の人が話をすること。また、その話。

Keywordは「複数」「話すこと」。
この2冊においては、何について話すかは書かれていません。

日本人が考える会話とは?

最初の4冊の辞書で定義を比較して気づくことは、英語の辞書では「ニュース」や「感情」「考え」などについて話すと定義されている一方、日本語の辞書ではこれについての言及がないことです。
日本人の会話について、英米文学者の加島祥造氏の言葉(『会話を楽しむ』〈2004, 岩波書店,p.30〉より)を上田明子氏が次のように引用しています(『英語の会話とはー会話分析論からー』〈2021,三省堂書店/創英社,p.13〉)。

「日本の人々の英会話下手なのは、日本語での会話からくるものだと言える。(中略)私たちは誇大表現や細かな描写をきらって簡潔に言いたがり、説明するかわりに勘で分かってもらおうとし、果てはただ黙って指さして互いに肯くのをもってよしとしてきた。この日本語会話の調子や心持をそのまま英語に移すとしたら、それは英語での会話としてもの足らぬものとなる。」

つまり、何かについて明確に述べることをせず、察してわかってもらったり、阿吽の呼吸で互いの考えを理解したりすることが良い会話である、と考える傾向が日本の人々には見られ、また、そのことが日本における「会話」の定義にも反映されているように思えます。

一方で、社会言語学者の井出祥子氏は、さらに詳細に定義されていて、以下のようにまとめることができます。
会話には、話し手や聞き手、傍観者との人間関係、話の目的などが関係し、社会や文化によっても違いがある。言葉に表れない表情、ジェスチャー、話し手と聞き手の距離なども重要な役割を果たすと述べています。

では、こうした定義を鑑み、小学校で現在行われている外国語の授業では、こうした会話の大切な要素がどのように反映されているのでしょうか。

2. 小学校の外国語教育で行われている会話とは?

2. 小学校の外国語教育で行われている会話とは?

会話についての要素別の特徴

私が研修を行った2つの小学校で、類似したクイズ大会が行われていました。

A小学校では、4、5人からなる子供たちがグループで東京のことを調べ、ヒントを4つ作り、東京のどの場所を指しているか当てさせるものです。B小学校では、昔話を同様に4人からなる子供たちがグループで読み、ヒントを4つ作り、どの物語かを当てさせるものです。

クイズ大会なので、会話というよりもややスピーチに近いものでしたが、小学校で教えるべき会話の大切な要素が含まれていると思いました。

先述の会話の定義でご紹介した会話の要素を参考にまとめてみました。

「発話のまとまり」:両校ともに、わかりやすい内容を目指して子供なりにしっかりとヒントを考えていました。

「話し手、聞き手、傍観者の人間関係」:内容をしっかり聞かないとクイズを当てることはできないので、話し手も聞き手も明確に発話する必要がある状況でした。B小学校では、発表者(話し手)、クイズに答える人(聞き手)、さらに傍観者の立場の児童がいました。
・A小学校:話し手も聞き手も椅子に座って打ち解けすぎた態度でクイズを出し、しっかりと大きな声が出ていませんでした。1人1つずつ小さな紙にヒントを書き、こっそりそれを見ながら読んでいました。ヒントを理解してもらえず、小さな紙に鉛筆で急遽イラストを書く子供もいました。
・B小学校:話し手の4人が立って下を向くこともなく、堂々と前を向きヒントについて話しました。1人ずつ大きな画用紙にヒントを書き、裏には言葉だけではわからない場合に備えてヒントになる絵も描いていました。クイズが正解になると、発表風景を聞いている子供たちも喜び、思わず、"Nice!" "Good!"と言っていました。
「話の目的」:両校ともに、ヒントを伝え、それに答えるという明確な目的がありました。

「会話の一定の規則」:両校ともに、友達の前に並ぶときは"Hello!"、終わるときは"Bye!"と声をかけていました。

「社会、文化による違い」:一般的に、人前で話をするときは、まずは"Hello!"などとあいさつをして、発表が終わると"Thank you for listening."などと声をかけるのが、特に英米では一般的な発表のルールです。日本の小学校でも、高学年になると、スピーチの後には"Thank you!"と声をかける児童も見受けられます。

「顔の表情、ジェスチャー、近接距離、非言語行動」:ここでは、2つの小学校に大きな差が見られました。人前に立って発表するスタイルでは、緊張感が出て、真剣な顔の表情になります。姿勢も良くなり(good posture)、聞いている児童との距離もやや離れます。もちろん、聞いている子供たちに目を向けることになります(eye contact)。画用紙に描いた絵を説明するときは、手でイラストを指したりします(非言語行動)。

日本語でも英語でも会話の仕方にはルールがある

A小学校での授業後、先生方が集まる研修会がありました。私からは、「ヒントを出す子供たちは、みんなの前に立って話した方が、姿勢も良くなり、視線も前を向き他の子供たちに向けられ、声も通りやすい」とお話ししました。

これを受けて小学校の先生方からは、「国語ではスピーチの仕方について、そのように教えていたし、教科書にも載っていました!」というお話がありました。発表するときは必ず立ち、良い姿勢を取り、人の目を見て話す、なども国語で教えるそうです。

こう考えると、日本語、英語の違いによらず、基本的なスピーチを含む会話の仕方にはルールがあり、実は小学校の国語などではしっかりと教えられていることがわかります。
ある小学校では、B(Big voice)、E(Eye contact)、S(Smile)、T(Try)の頭文字をとって、会話のルールに必要な「BEST」を教えていました。話すときは大きな声(クリアな声)で、人の目を見て、ほほえみをもって話し、何でも試して話してみよう!という意味です。

3. 自然な会話を目指すために必要な語彙力

3. 自然な会話を目指すために必要な語彙力

小学校における自然な英会話

最近、こうした小学校での外国語の授業をたくさん拝見して思うことは、子供たちの話し合いが簡単な英語でできるようになり、発表の後も、簡単な英語で質問をしたり、感想が述べられたりするようになれば、それこそ、小学校における自然な英会話力が身についたといえるのではないでしょうか。

そのためには、何といっても語彙力が必要だと考えます(以下Sは生徒を表します)。

S1: Let's think about three hints. I read Momotaro.
(3つのヒントを考えよう。桃太郎を読んだよ。)

S2: How about "ojiisan", "obasan", and "oni"?
(「おじいさん」「おばあさん」「鬼」はどう?)

S3: How do you say "oni" in English?
(「鬼」は英語で何て言うの?)

こんな話し合いができれば、クイズに必要なヒントを英語で考えていくことができます。私が7年近くご指導している小学校の高学年は、既にこのような話し合いができるようになってきました。

語彙力を増やすためにオススメの方法

ただし、一見簡単な「おじいさん」「おばあさん」も、なかなか英語では言えません。小学校の教科書に出てこないからです。今後こうした英語の会話も含めて、スピーチの力を伸ばすためにも、語彙力が欠かせません。

そのためには、日頃から手の届くところに辞書をおくなり、簡単な絵本を読むなりして、ご家庭で語彙力を増やす活動を取り入れることをオススメします。

そして、「小学生に求められる英会話力とは?」という質問には、実は現在、小学校の国語で教えられている内容を、ぜひ英語にも活用していただければと思います。文化の違いによらず、基本的な会話にはルールがあります。さらに、より自然な打ち解けた英会話力を発展させるために、語彙力をさらにアップしていただきたいと願っています。


佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻)名誉教授。
長年、子供の言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの『えいごであそぼ』『えいごであそぼwith Orton』の総合指導、2017年からNHK eテレ『エイゴビート』の番組委員を担当。今日に至る。全国の小学校や教育委員会でも多数研修や講演を行い、小学校英語教育の推進に努めている。

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