専門家の先生による、英語教育に関する記事

歌で英語学習
今回の玉川大学 佐藤 久美子先生のエッセイでは、どんな音声を聞かせると英語学習に効果的なのか、実際の調査結果を元に解説いただきます。
また、『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』コーナーでは、英語の読み書きを促すタイミングや方法について解説していますので、ぜひチェックしてください!

音源によって英語の学習効果に違いあり!

英語をインプットする際の音源の違いが英単語の発音の向上にどのように影響するかを調べるため、
①歌
②チャンツ(リズムだけでメロディーがない)
③絵本の朗読(声色を変えたり気持ちを込めて読む)
の3種類の音源で比較し、英単語の発音をより聞き取れて、反復=発音がよくなるかを調査しました。
今回はその調査結果をお伝えします。

調査の対象

3歳~6歳の保育園の子どもたち200名を対象に調査しました。

調査の方法

第1ステップ

英語の歌2曲("Five Little Monkeys"と"Where is Thumbkin?")の歌詞に出てくる10個の単語と、その他の単語10個を合わせて、計20個の英単語をネイティブスピーカーがボイス・レコーダーに録音します。
この録音を子どもたちに聞かせ、英単語を1人ずつ反復=発音してもらい、ネイティブスピーカーが下記の基準で発音を審査して採点します。

【発音の採点基準】
ネイティブ並みの発音:4点
正確ではあるが日本語的な発音:3点
一部不正確な発音:2点
不正確な発音:1点
無音:0点

第2ステップ

次に、200名の児童を50名ずつ以下の4つのグループに分けました。
①歌を聞くグループ
②歌詞のチャンツを聞くグループ
③歌詞の朗読を聞くグループ
④何も聞かないグループ

①②③のグループには、音源が異なる同じ歌詞のCDを、3週間毎日聞いてもらいました。

第3ステップ

3週間後、また一人ずつ、事前に検査した英単語20個を発音してもらいました。

調査の結果

・①②③のどのグループも、3週間英語のCDを聞いただけで、何も聞かないグループよりも、発音力を採点した得点の向上が見られます。何も聞かない④のグループでさえも、第1ステップでネイティブの音声を聞いているため、第3ステップの調査ではわずかながらに総得点は上がりました。

・ ①②③のどのグループの子どもたちも、CDに出てくる10個の単語だけでなく、CDに出てこない10個の単語の発音も上達していました。英語の音の配列などに馴染みが出てきたためと見られます。

・ 日本語の語彙力のある子どもは、歌、チャンツ、朗読の何を聞いても、発音力の伸びが見られます。統計的な有意差が認められました。

・一方、日本語の語彙力のない子どもは、朗読タイプのCDを聞いたグループだけ、統計的な有意差がある伸びを示しました。歌やチャンツは、伸びが見られませんでした。

・ 子どもの日本語の語彙力の違いによって、以下の傾向が見られました。

 日本語の語彙力のある子ども
 ...5歳児くらいであれば、どの音源でも3週間CDを聞くだけで大幅に発音力がアップします。ただし、4歳以下であると、歌を聞いたグループの発音力の伸びはそこまで大きくなく、朗読とチャンツを聞いたグループで大きな伸びが認められました。

 日本語の語彙力のない子ども
 ...4歳以下では朗読を聞いたグループだけが発音力の伸びがあり、チャンツと歌を聞いたグループでは効果が見られませんでした。

まとめ

■絵本の読み語りは英語の発音の向上にも効果がある

上記の調査結果から示されるように、朗読・チャンツの音源は子どもの年齢に関係なく効果がありました。また、朗読については子どもの日本語の語彙力に関係なく効果がありました。つまり、前回(※1)ご紹介した絵本の読み語りのような活動は、英単語の聞き取りや発音の向上にも効果的であることがわかります。

では、なぜ歌はそれほど効果が上がらなかったのでしょうか?
その理由の一つとして、歌にはメロディーがあり、これを覚えるのに負荷がかかっためと考えられます。
その点、メロディーがない朗読やチャンツは小さい子どもたちにも聞き取りやすく、発音向上に効果があったと思われます。

※1 参考リンク:

■耳になじみがある歌なら歌詞を覚えやすい

以上のように、メロディーを覚える負荷があるかどうかで、歌を使った学習効果は変わってきます。そこで、歌を使って英語学習を行うときは、日頃から耳になじんでいる曲を使いましょう。

例えば、"ABC Song"や"Happy Birthday to You"などの曲は、日本の日常生活でも歌ったり耳にしたりする機会が多いので、子どももメロディーになじみがあります。
このようななじみのある曲を英語で歌っていれば、メロディーを覚えるのに負荷もかからず、歌詞も自然に覚えられるのです。

さらに、キャッチーで繰り返しが多い曲も、耳になじみやすいためおすすめです。
DWEの曲で言えば、Sing Along!(シング・アロング)※2)に出てくる"What's your name?"、"Balloons"などの曲は、とてもキャッチーで歌詞の繰り返しが多いので、子どもがメロディーも歌詞も覚えやすくなっています。

※2 参考リンク:

■歌詞を覚えられれば、日常生活でも使える

英語の歌詞を覚えてそらで歌えるようになれば、歌詞のフレーズを日常生活でもすぐに使うことができるようになります。
子どもが気に入った曲を親子で歌いましょう!

小学校3年生くらいまでの子どもは、歌詞の意味がわからなくても自然に覚えることができます。4年生以降になると、意味がわからないと、まねだけして歌詞を覚えるのが難しくなります。
ぜひ、0歳の頃から子守歌代わりに"ABC Song"や"What's your name?"のような曲をくちずさんでみましょう。
子どもが2歳頃になったら一緒に歌えるように、乳児の時期から英語の歌を取り入れてみてください。

『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』第7回:英語の読み書きは何歳頃から意識して始めたら良いですか?

英語の読み書き

◆DWEユーザーの方からのご質問◆

英語の読み書きは何歳頃から意識して始めたら良いですか?

◆佐藤先生のご回答◆

もちろん焦る必要はありませんが、4、5歳頃から意識されても良いかと思います。
英語の絵本を毎日読んであげれば、日々英単語を見たり聞いたりするので、子どもは簡単な単語くらいなら自然に覚えてしまいます。
さらに、クレヨンや絵の具で大きくアルファベットを書いた紙を部屋に貼ってあげれば、アルファベットの名称も覚えていきます。

2020年から、小学校でも英語が教科扱いになり、文字の学習もしっかり入ってきますので、就学前に少しずつ準備しておくのも良いでしょう。

子どもの読み書きの練習に便利なのが、Webから無料でダウンロードできる3~5歳向けのワークシートです。様々な種類のワークシートがありますので、ぜひ探してみてください。
例えば、"Snake"(ヘビ)の絵と"S"の字が描いてあるワークシートなら、親が"S, s, snake."と言いながらSの字を指でなぞって示してあげるのも良いでしょう。

Dot-to-Dotsと言って、ABC順に線を結んでいくと楽しい絵を描けるワークシートもあります。
塗り絵タイプのワークシートなら、塗り絵で遊びながらアルファベットも書かせてみたり、単語を発音させてみたりしてはいかがですか?

また、複数の単語が並んでいるワークシートでは、"Where is a monkey?"(サルはどこかな?)、" Where is a red balloon?"(赤い風船はどこかな?)などとゲーム感覚で子どもにたずねてみてください。
子どもに答えを指でさしたり、発音したり、色を塗ったりしてもらうと、楽しい親子の遊びになります。


佐藤久美子先生近影

佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻) 脳科学研究所 教授。
長年、子どもの言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。
2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの「えいごであそぼ」、「えいごであそぼwith Orton」の総合指導を担当。

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