ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 英語教育に関するニュース > 2020年に向けた英語教育の在り方を模索する ~東京学芸大学附属大泉小学校・英語研修会レポート~

英語教育に関するニュース

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小学校の英語教育において、大きな転機となる2020年を前に、これからの英語教育はどうなっていくのか、教員に求められることは何か。
模索が続く今、英語教育関係者を対象に東京学芸大学附属大泉小学校で行われている英語研修会が注目を集めています。

今回は、これからの小学校英語教育の発展に向けた課題やテーマが多く語られ、冒頭では小学校英語教育に詳しい学芸大学教授・粕谷恭子先生からのメッセージも発信された、第6回目となる研修会のレポートをお届けします。


小学校英語は「聞いて話す」音声活動を大切に〜粕谷先生からのメッセージ〜

"歌"で楽しくインプット!「3年ふじ組」公開授業レポート

先生だって悩みがいろいろ!公開授業Q&A

授業を通して見えてきた「これからの課題と対策」



小学校英語は「聞いて話す」音声活動を大切に
〜粕谷先生からのメッセージ〜

2020年から英語は通知表で評価される「教科」へ

現在小学校では、英語に慣れ親しむ「外国語活動」が行われています。

ですが、新学習指導要領が完全実施される2020年からは、小学校3~4年生は「外国語活動」、5~6年生は教科として「外国語」の授業を受けることになります。

つまり高学年では他教科と同じように通知表で評価をすることになり、教師は今まで以上に子供たち一人ひとりにしっかりと英語の力を定着させなければならないということです。

現在は移行期間として3~4年生で最低年間15時間、5~6年生で最低50時間の外国語活動の授業を行っています。2020年には3~4年生は年間35時間、5~6年生は70時間となります。これは児童にとっても教師にとっても、とても大きな変化と言えますね。

子供が"伝えたい"ことをテーマに「生きた言葉」を使う

私自身が自分の授業を通して、また色々な小学校の授業作りに関わらせていただいた経験から感じているのは、やはり子供は英語を使うことを通して英語を身に付ける、ということです。

たくさん単語を覚えさせるために、何度も反復させたり頻繁にテストを行ったりする授業方法もありますが、それを繰り返して中学生になった子供たちに、期待したほど英語が定着していなかったという実感があるからです。

では、「使う」とはどういうことなのでしょう。

実はそれはとてもシンプルなことで、意味のあるやり取りを通して、意味と英語の音を結びつけ、音がたまったら自分でも少しずつ話してみる、という流れです。出会うときの言葉の姿を図に表すとこのようになるのではないでしょうか。

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真ん中にある一番内側の円は、どうしてもこれを聞いておきたいとか、何としてもこれは伝えておきたい、という言葉を使うためのエネルギー源です。この思いを音声と結びつけ、さらには音声と文字を結びつけていきます。

「あのことが言いたいときにはあの音を出すんだな」、「この音を出している人は、こういうことを言っているんだな」という主体的な言語体験を通して、子供は少しずつ言葉が使えるようになっていきます。

子供は意味と音を結びつけるのがとても上手です。ですから授業では、覚えさせるのではなく、子供たちが意味と音を結びつけやすい題材を選び、言葉を交わす必要性のある目的・場面・状況を設定することが重要になります。

英語の4技能は「聞く→話す・読む→書く」の順で経験させる

外国語で求められる4技能とは「聞く・話す・読む・書く」です。小学校でも外国語科では「読むこと」、「書くこと」を扱うことになりますが、その基盤には「聞くこと」、「話すこと」があることを忘れてはなりません。

第二言語習得でもインプットの重要性が謳われています。言葉が音声から文字へ、インプットからアウトプットへと育っていくとすると、初めに経験するのは音声によるインプット、すなわち「聞くこと」で、最後に来るのは文字によるアウトプット、すなわち「書くこと」です。

ですから小学校での英語学習も、まず最初に「聞く」ことによるインプットが重要です。

授業では時間をかけ、音声から文字、インプットからアウトプットの道のりを、一人ひとりの発達段階を確認しながら丁寧に進めていくことが、英語の定着のために非常に大切になります。

また小学校の段階で「聞く」、「話す」という英語の音声活動を十分に経験しておくことで、読み書きや文法を多く扱う中学校の学習にスムーズに移行できるでしょう。

小学校で蓄えた言語経験が、中学・高校でもより豊かな英語教育の基盤になると私は考えています。


"歌"で楽しくインプット!「3年ふじ組」公開授業レポート

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「自ら学び、自ら考え、ねばり強く取り組む子供」を教育のテーマに掲げる学芸大学附属大泉小学校。英語の授業では"遊びながら楽しく学ぶ"をテーマに、iPadやDVDなども積極的に活用しているそうです。

今日は公開授業のために「3年ふじ組」の元気いっぱいの児童の皆さんが教室に集い、45分間の英語の授業が始まりました。ご担当は以前のインタビューにもご登場いただいた石毛隆史先生。まずはリズミカルな朝の挨拶からスタートです。

先生:Good morning!
児童:Good morning.

先生の挨拶にみんな元気よく答えます。

先生:Are you hot? Who is hot? Who is hungry?

テンポよく児童たちに問いかけると、児童は一瞬にして頭の中を英語モードに切り替え、手をあげたり"Yes."と答えたり。
楽しそうな笑い声が響きわたり、和気あいあいとした雰囲気が教室いっぱいに広がります。

短いフレーズで自然なリズムを身につける

"OK!"という掛け声とともに先生が歌い始めたのは、私たち大人も一度は耳にしたことのある英語の歌"Rainbow Song"。親しみやすいメロディに乗せて7つの虹の色が歌詞に登場します。

"Red and yellow and pink and green, Purple and orange and blue, I can sing a rainbow, Sing a rainbow, Sing a rainbow, too."

歌を歌ったあとに石毛先生は子供たちにさっそく質問。

先生:どんな音が聞こえてきた?
児童:Rainbow...
先生:How many times?
児童:・・・・・

「じゃあ数えてみるよ」と歌いながら"Rainbow"が聞こえてきたところで指を折っていきます。
児童:Three times!
先生:How many colors? Six or Seven?

少し間を置いてから"Seven"という声があちこちから飛び出しました。

先生:ホント?じゃあ、歌って確認してみるよ!

真剣に歌を聴きながら今度は指を折って1色ずつ色の数を確認する児童たち。
次は先生が用意したカラーマーカーペンを使って、歌に出てきた色をみんなでチェック。

先生:Do we have pink?
児童:Yes!
先生:Do we have red?
児童:Yes!
先生:Do we have yellow?
児童:Yes!

「聞こえてきた音」に注目させながら、先生は繰り返し"Rainbow Song"を歌います。子供たちは自分たちが色を探すことに夢中になる中で、何度も歌を聞き、自分が知っている「色」を英語の音として理解しながら発音していきます。

質問の答えを無理に言わせるのではなく「わかった!」という衝動から自然に色の名前を英語で認識する様子が伝わってきます。

目で見て歌ってもっとたくさん"色"の話をしよう!

マーカーペンを使い、出てきた色を目で見て一致させる場面では、子供たちは"Red."、"Yellow."、"Pink."、"Green."と大きな声で言いながら、歌に登場する順番に合わせてマーカーペンを並べ替えたり、先生の順番間違いを指摘したり。そしてそのたびに歌を歌います。子供の心をぎゅっと掴む工夫がたくさん!

さらに、全員が歌や色に十分に慣れたら、次は"Rainbow Song"に出てきた色を使って子供たち自身が「好きな色」をアウトプットしていきます。

ここで大切なのは、最初に"I like red."と先生が実際に自分の好きな色を正しい英語で伝えること。そのあとで子供たちに"What color do you like?"と質問します。

そしてこの問いかけは、授業の後半で行う「3年ふじ組」の旗作りへと繋がっていきます。

一人ひとりの"好きな色"で「3年ふじ組」の旗が完成

白い旗の中に描かれた56個の丸い円。子供たちに順番に自分の好きな色を聞いていきます。1人2回ずつ答えられるように円の数を多めに用意します。1回目で答えに詰まっても、2回目には英文で言えるようにするためです。

子供たちが実際に好きな色を英語で答えていく中では、"I like light blue."、"I like light green."など"Rainbow Song"には出てこない色名を挙げる子供たちも多く、想定外の答えに参観している先生方からも驚きの声が。

全員がそれぞれ2回ずつ好きな色を答え、カラフルに彩られた「3年ふじ組」の旗が完成しました。

"Rainbow Song"と色を題材にした授業の中で、石毛先生と子供たちは20回以上もこの歌を歌いました。全員が全部歌えなくてもred, yellow, pinkなど色名のパートでは大きなハーモニーが教室中に響きました。

音に慣れ親しんできたら、歌詞カードを使って音と文字を結びつける授業を予定しているそうです。

授業の後に子供たちに感想を聞いてみると、
「英語の授業はとても楽しい」
「もっと勉強したい」
「中学までに英語を話せるようになりたい」
など、意欲的な声がたくさん聞かれました。

"相手に通じる"、"何となくわかる"。その喜びと成功体験を子供たちにたくさん味わって欲しいという石毛先生の思いが随所に散りばめられた授業でした。


先生だって悩みがいろいろ!公開授業Q&A

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授業参観を終え、午後の協議会では参加された教員の方々から、授業の進め方や取り上げるテーマ、歌の選び方についてなど、石毛先生と粕谷先生に次々と質問が寄せられました。その中のいくつかをピックアップしてご紹介します。

Q:子供たちの達成目標をどのように考えて授業を進めているのですか?

石毛先生:各単元で扱う内容を元に自分なりの達成基準を作って表にまとめています。

この単元では「聞き取って理解する」を目標にしよう、この単元のこの表現は「口に出して使うことができる」を達成しようなど、4段階のレベルに分けて基準を設定しています。

指導計画をレベルに分けて可視化することで授業が進めやすくなりますし、教える側の気持ちも楽になりとても役立っています。

Q:授業で「歌」の指導をされる時に気をつけていることや選曲の注意点を教えてください。

石毛先生:個人的にはなるべく短くて覚えやすく、何度リピートしても耳障りでない歌を選んでいます。そして学年を超えて同じ歌を歌うようにしています。
英語の歌によって低学年と高学年の交流が生まれたりして、歌詞も意味も定着しやすくなるからです。

粕谷先生:歌を歌うことは、英語の自然なイントネーションやリズムを身につけるためにもオススメです。
これは子供のコミュニケーション能力を高めるためにもとても効果があると思います。音に慣れ親しんだら、歌詞カードを使って音と文字と結びつけさせていくと音声から文字への移行もスムーズになります。

Q:小学英語で扱うテーマや語彙はどこまで広げたらいいでしょうか。

石毛先生:私の授業では、子供たちの答えがあまり広範囲にならないようなテーマ設定をし、みんなが理解できるように心がけています。

今回のように「色」をテーマにした授業は比較的全員が理解できますし、音と意味を結びつけやすい題材だと思います。難しい単語が出てきた場合には無理に英語に置き換えず、日本語の語彙も織り交ぜながら進めていくようにしています。


授業を通して見えてきた「これからの課題と対策」

「今日の授業の流れは大変シンプルでわかりやすく、スムーズに進んだ印象がありました。また旗を作るという目標のもと、意思の疎通や情報の交換ができた良い授業だったと思います。ただ一方で、子供にとってはやや負荷が低すぎた感じも見てとれました」と粕谷先生。

「多くの現場で、子供たちはたっぷり"聞く"経験が足りないのに英語を言わされるケースが多い」とも指摘。

「新学習指導要領のスタートに向け、知識や技能の面で不安を感じ、悩まれている先生も多いことと思います。どのように授業をしていくか教えてくれるのは子供たちです。他の教科で培った子供の学びを見取る力を英語でも発揮して、子供の様子から何をしたらよいか、何はしないほうが良いか判断していきましょう。今日の授業はそのための参考になったのではないかと思います」(粕谷先生)

取材を終えて

2020年の「英語教育改革」に向け、教育の現場では大きな変化が訪れています。小学校英語研究の第一人者でもある粕谷恭子先生による、実体験を通した貴重なお話に、参加者の方々一人ひとりが真剣に耳を傾ける姿が印象的でした。

また「3年ふじ組」の授業では、まだあどけない生徒さんたちが楽しみながら英語に親しむ姿を目にすることができました。

文部省が掲げている「コミュニケーション能力の基礎となる資質・能力」が育まれる環境を整備し、多くの教育関係者たちが試行錯誤しながら新しい時代を迎えようとしています。

学芸大学附属大泉小学校では、今後も定期的に研修会を行なっていくそうです。


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プロフィール:
粕谷 恭子(かすや きょうこ)(写真 右)
東京学芸大学教育学部教授。聖マリア小学校英語科講師も務める。
『みんなあつまれ!はじめての子どもえいご』『ここから始めよう小学校英語―楽しい指導の第1歩』など著書多数。
『プレキソ英語』(NHK Eテレ)、『プレキソ英語 そのまま使える小学校英語教材』(NHKエデュケーショナル)などを監修している。

石毛隆史(いしげ たかふみ)(写真 左)
1983年生まれ。東京学芸大学附属大泉小学校教諭。
東京学芸大学中等教育教員養成課程卒業。同大学修士課程修了。
監修書に『えいごえほん百科 スタート』『えいごえほん百科 ジャンプ』(ともに、講談社)がある。

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