英語教育に関するニュース

アジア諸国

2018年のEF社(※1)による国別英語力ランキングで、アジア圏内の1位はシンガポール、2位はフィリピン、3位はマレーシアでした。日本がアジア圏内で11位であったことと比べると大きな差があります(※2)。
シンガポール、フィリピン、マレーシアの英語力の高さの理由を探ってみましょう。

※1 EF社:1965年にスウェーデンで創立され、114の国と地域で活動している、世界最大級の教育機関です。
※2 同ランキング全体の88ヵ国の中では、シンガポール3位、フィリピン14位、マレーシア22位、日本49位となっている。

共通点①英語圏の国々の植民地だった歴史があり、多民族・多言語国家である

シンガポール、フィリピン、マレーシアの共通点として、イギリスやアメリカなどの英語圏の国々の植民地だった歴史があることが挙げられます。
また、多民族が住む多言語国家でもあるため、様々な母語をもつ人たちが意思疎通するための言語として、英語が活用されています。
それぞれの国の背景を詳しく見てみましょう。

●シンガポール

貿易港として繁栄してきた歴史をもつ。外国人が多く、公用語としての英語の重要性が高い。

19世紀初頭、イギリスの植民地となったシンガポールは、東アジアとヨーロッパの貿易通路の中継港となり、大いに繁栄しました。
こうした歴史的背景があるシンガポールは、現在も人口全体の約3割が外国籍人口です。また、シンガポール国籍をもつ人々の約75%は中国系が占めますが、約15%はマレー系、約10%はインド系となっています。
さまざまな民族が混在するシンガポールでは、主に中国語、マレー語、タミール語(主に南インドで話されている言葉)が話されていることに加え、公用語として英語が使われています。

●フィリピン

アメリカ統治時代の英語教育が成功。多言語国家であり、英語の重要性が高い。

フィリピンで英語話者が多い背景には、アメリカ領だったときの英語教育があります。
19世紀末から約50年間のアメリカ統治時代に、フィリピン各地に公立小学校が設立され、英語指導が導入されました。1939年には26.5%、1990年には69.55%のフィリピン人が英語を話せるようになったといわれています。

現在のフィリピンは、人口の90%以上をマレー系が占めるものの、国内で母語として使われている主要な言語が8つもあります。首都マニラを始めとするルソン島の住民の多くはタガログ語を母語としていますが、地方では異なる言語が母語として話されていて、方言のような言語も入れると、187もの言語がフィリピンには存在するともいわれています。
国語であるフィリピン語と公用語である英語が、これらの多様な母語を話す人々をつないでいるのです。

●マレーシア

英語教育に関する政策転換により、英語力の世代間格差が生まれた。

かつてイギリス領だったマレーシアは、人口の約50~60%がマレー系、約30%が中国系、約10%がインド系となっており、主に3民族から構成されています。マレーシアでは、それぞれの民族の母語に加え、英語が各民族の共通語として使われてきました。

1957年にイギリスから独立したマレーシアは、マレー系の人々の優遇政策を進め、1967年にはマレー語を唯一の公用語とします。さらに、イギリス統治時代に開設されていた英語学校もマレー語学校に転換され、1970年代半ばにはなくなりました。

しかし、国際化に対応できる人材育成へのニーズが高まり、2004年にマレーシアの教育全体で理数系の科目を英語で教えることが義務づけられます。この英語重視政策はインド系と中国系の国民の一部に支持されましたが、マレー系の保守派の反発も招きました。結局、マレーシアは2012年からは理数系科目を英語で教えることをやめ、マレー語教育重視に切り替えていくことになります。

このように、マレーシアの英語教育は政治的な状況により大きく変換しており、その結果、若い世代の英語力が下がっていることを危惧する声も出ています。

共通点②英語教育が早期から行われている

英語力が高いアジアの国々のもう1つの共通点は、英語教育を早い年齢でスタートしていることです。
シンガポール、フィリピン、マレーシアで英語教育を開始する年齢は日本よりも早く、小学1年生からスタートしています。

●シンガポール

小学1年生から授業がすべて英語。

シンガポールでは、母語と英語を並行して習得できるように、2言語教育という制度がとられています。
小学1年生から、すべての教科の授業が英語で行われるとともに、それぞれの民族の母語も学科として学びます。
国際ビジネス活動において英語の習得が必要だということ、また各民族の文化的な背景やアイデンティティを尊重するという考えから、1966年からこの2言語教育がとられてきました。

●フィリピン

小学校の学年が上がるにつれて英語授業の割合がアップ。

フィリピンでも、小学校から2言語教育が行われています。
小学校1年生から授業がすべて英語で行われるシンガポールとは異なり、1年生の言語使用割合は現地語9割・英語1割程度ですが、学年が上がるにつれ、英語の割合が徐々に高くなっていきます。特に理数系科目においては、高学年になるとすべて英語で行われるようになります。

●マレーシア

英語もしくはマレー語のどちらかを選択して理数系科目を学べる。

イギリスから独立する以前のマレーシアの小学校ではマレー語と英語による2言語教育が行われていましたが、独立後はマレー語重視の教育に変わり、英語教育の水準は低下しました。
しかし、国際化に対応するため、2004~2012年の時期は、小学校でも数学や理科などの理数系の科目を英語で教えることが義務づけられていました。
2012年に再びマレー語重視の教育に切り替わり、理数系科目の英語教育が中止されましたが、2016年からは英語もしくはマレー語のどちらかを選択して理数系科目を学べるようになったようです。

なお、マレーシアの公立小学校にはマレー語・中国語・タミール語、それぞれの民族の母語で教える学校があります。
マレー系小学校では英語が第2言語として、中華系やタミール系の小学校ではマレー語が第2言語・英語が第3言語として教授されています。
小学校低学年では主にスピーキングとリスニングに重点を、高学年では読み書きに重点を置いて授業が行われているようです。

まとめ

上記のように、アジア諸国の中でも英語力の高い3ヵ国は、その歴史や民族構成に共通点がありました。
英語圏の国々の支配を受けた歴史があり、多民族国家であるために現在でも英語という国際共通語へのニーズが高いのです。

また、アメリカ統治時代の初等英語教育によりフィリピンの英語話者が増えたことや、英語教育の大きな政策転換が行われたマレーシアが英語力の相対的な低下に悩んでいることを見ると、教育制度が国民の英語力を維持するためにいかに重要かがうかがえます。

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