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フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか  〜著者・米崎里先生インタビュー〜

国土は日本よりやや小さく人口は約543万人。経済規模も小さいフィンランドでは、1994年、国策として大胆な教育改革が行われました。「子供たちへの投資が未来の国力につながる」という理念が根底にあり、教育費はすべて無償です。
中でも英語学習への意欲は高く、国民の多くが日常的に英語を話します。母語はフィンランド語であるにもかかわらず、英語能力を示す国際指標の1つ「TOEFL iBT®️」の平均スコアは毎年上位をマーク。フィンランドの英語学習者の英語力は、ヨーロッパ諸外国や英語を公用語としている国々と肩を並べています。

それを支えるのは、独自の教育法にあるという、同国の英語教育に詳しい関西学院大学教育学部准教授の米崎先生。
学校英語教育の先進国、フィンランドの学習法を参考に、日本の家庭でも実践できる英語習得のヒントを伺いました。


Q1. フィンランドの英語教育に興味をもたれたきっかけは何ですか?

Q2. フィンランドの英語教育の特徴について教えてください。

Q3. 日本の家庭ではどのように応用できますか?

Q4. 早期英語のメリットについてのお考えを聞かせてください。

Q5. これからの子供たちに必要な英語力とは何でしょう。


Q1. フィンランドの英語教育に興味をもたれたきっかけは何ですか?

私がフィンランドの英語教育に興味をもったのは、フィンランドの英語教育の第一人者である恩師に同行させてもらい、現地の小学校で英語の授業を参観させていただいたことがきっかけです。まず、少人数の授業に衝撃を受け、英語の専科教員のレベルの高さにも驚かされました。

フィンランド語(ウラル語族)を母語にもち、英語は第二外国語として学ぶにもかかわらず、多くの人が流暢に英語を話すには、この国の行き届いた英語教育の仕組みがあるに違いないと思いました。

また、当時は日本でもいよいよ小学校英語が必修化されるというタイミングでした。今後の英語教育のあり方を考えるためにも、フィンランドの英語教育を研究し、広く伝えたいと考えたのです。そうして調査を進めていくうちに、教員の質の高さだけでなく、フィンランドで使われている教科書やワークブックが大変充実しており、その内容のおもしろさに夢中になってしまいました。

Q2. フィンランドの英語教育の特徴について教えてください。

Q2. フィンランドの英語教育の特徴について教えてください。

フィンランドでは、英語の学習はこれまで小学校3年生からでしたが、2020年より小学校1年生からの開始となりました。フィンランド人の英語の専科教員が教えています。また、教科書と教科書に付随したワークブックの内容がとても充実していて、「発音」「歌・チャンツ()」はもちろんのこと、ゲーム的要素を取り入れて楽しく学べるよう工夫がされており、多種多様な言語活動が教科書、ワークブックの中で展開されています。

さらに、小学校の早い段階から「発音」、「語彙」や「文法」の学習にも力を入れ、学習した内容をくり返し学べるような仕組みが、教科書、ワークブックで提供されています。この「くり返し学習」は、その学年課程を修了し、進級した後でも行われるようになっていて、語彙や文法の定着につながっています。

初等教育からインプットを重視し、アウトプットにつなげる

外国語学習では「インプット」が非常に大事だといわれていますが、フィンランドの英語教育においても圧倒的なインプットの量に驚きます。小学校のワークブックに掲載されている語彙や文法に関するプラクティス数は、日本の中学校の約4倍で、小学校の間に使用する教科書やワークブックで掲載されている語彙数は、約2,800語、中学校までには6,500語を超えています。日本では小中学校合わせても2,200〜2,500語ほどなので、フィンランドが大きく上回っていることがわかります。

教員たちの指導法にも特色があり、基本的には教科書とワークブックを使って授業を行いますが、暗記ではなく、前述通り子供たちが楽しく学べるようゲーム的要素を入れるなど工夫し、「使う」ことに比重を置いた授業となっています。
また、日本で重視されている音読は、フィンランドでもよく行われています。こうした実践的な授業を少人数で行うため、子供たち一人ひとりへの支援が行き届き、発言したり発表したりするアウトプットの機会が必然的に多くなります。

専科教員による英語の授業、手厚い教科書、少人数の授業、まさに「これなら話せるようになる!」と思える理想の英語教育だと感じました。

※チャンツ:英語の文章を一定のリズムにのせて歌うこと。

Q3. 日本の家庭ではどのように応用できますか?

フィンランドの小学校での英語授業は、「音声」と「視覚(映像やイラスト)」、「文字」を連結させることで子供たちの英語力の定着を目指しているなと感じました。この3要素のつながりをご家庭でも意識されると良いかもしれません。
たとえば"a dog."や"two cats."という英語を音で聞かせたら、絵や文字でも見せてあげると、記憶に残りやすくなります。耳で聞き、目で見て文字として認識する。このくり返しによって、英語の仕組みが自然と理解できるようになります。

日頃のやり取りを通じてインプットとアウトプットを増やす

学習定着率を高めるには「他人に教えるなど能動的な学習法を用いると、より学習内容の記憶の保持につながる」という報告があります。近頃は大学でも自分が調査したことを発表し、意見交換をする授業形式がよく見られます。
ご家庭でも、子供に「今日は何を学んだの?」と聞いてあげると良いでしょう。子供が答えたことに対し、「そうなんだ、そういうことを学んだのね」と声をかけてあげることも効果的だと思います。

また、「今日は何か新しい発見あった?」とさりげなく問いかけ、子供が返答したら、それをリピートしてあげてみてください。たとえば、
「犬って英語では"bowwow"って鳴くんだって」と子供が言ったとしたら、
「へぇ、そうなんだ。"bowwow"って鳴くんだね」という具合にくり返してあげると、習ったことが定着しやすくなるでしょう。子供が興味をもった単語をきっかけに、英語を使うことを楽しいと感じるようになるかもしれません。
日頃のやり取りを通じて、インプットと自然なアウトプットを増やすことができれば、英語への理解もより深まります。

Q4. 早期英語のメリットについてのお考えを聞かせてください。

Q4. 早期英語のメリットについてのお考えを聞かせてください。

早期英語のメリットはたくさんあると感じます。日本人にとって、英語は言語習得の難易度が高く、その分英語学習には多くの時間と努力が必要です。英語学習を早期からスタートすれば、英語をくり返し学ぶ時間が長くなり、インプットの量もアウトプットの機会も増やすことが可能になります。
また、母語と違う言語にふれることよって、異文化や多様性への理解が深まることもあるでしょう。英語を身近なものとして早くから慣れ親しむことは、英語を生涯学習として学ぶ力の土台となります。十分な時間を費やし、無理なく英語力の素地を育んでほしいと思います。

※「英語と主な言語との距離」参考例

カテゴリー1(600〜750時間の授業)
英語に非常に近い言語

デンマーク語、オランダ語、フランス語、イタリア語、ノルウェー語、スペイン語、スウェーデン語

カテゴリ−2(900時間の授業)
英語に類似した言語

ドイツ語、インドネシア語、マレー語、スワヒリ語

カテゴリ−3(1,100時間の授業)
英語とは言語的、もしくは文化的に異質な言語

チェコ語、フィンランド語、ギリシャ語、ポーランド語、ロシア語、トルコ語、タイ語

カテゴリー4(2,200時間)
英語とは言語的、もしくは文化的に非常に異質な言語

アラビア語、中国語、日本語、韓国語

( )内は習得にかかる授業時間数の目安

※出典:Foreign Service Institute(FSI)

Q5. これからの子供たちに必要な英語力とは何でしょう。

これから未来を担う子供たちには「協調・共生」のための英語コミュニケーション能力がますます重要になると思います。言葉や文化、価値観の異なるたくさんの人たちと対話をし、力を合わせて地球的課題の解決策を見出し、平和な共生社会を築いていこうとする国際協調の精神は、グローバル時代を生き抜くために必要な力です。
私が担当したある小学校の英語授業で、印象に残った児童のコメントがあります。
「世界をもっと平和にしていくには、外国の人々と話さなければならない。だから英語を勉強するのは大切だと思った」。
英語は、国境や言葉の壁を越え、対話を通してお互いを認め合いながら支え合う、豊かな人間関係を育むためのスキルであり、英語を学ぶ一番の目的がそこにあると思います。
そして、何のために英語を学ぶのかーー。それをまず私たち大人が意識し、問い直すことが大事です。大人がそういう視点をもたずして、子供がグローバルな世界で羽ばたくことは難しいでしょう。

子供の興味や関心を引き出し、発見をサポートする

子供は、私たち大人が考えている以上に多くの可能性を秘めています。その可能性は、子供自身が出会う多様な体験によってさらに大きく広がっていくでしょう。
これは私の持論ですが、子供がやりたいこと、好きなものは子供自身が自発的に見つけるものだと考えています。ですから、親が「これをやりなさい」と言って子供に何かを与えるのではなく、子供の興味や関心をうまく引き出し、発見をサポートする機会をつくると良いと思います。
たとえば、子供の目につくところに英語のアルファベットのカードを置き、「Aとaは形が違うね」、と子供が気づいたとき、
「ほんとだ、なんでだろう」と問いかけたり、「おもしろいね」と声がけしたりするだけで子供の小さな成功体験につながり、興味・関心を高めます。

日本人が英語を習得するのは非常に困難なことではありますが、ご家庭での日々の対話ややり取りを通し、小さな成功体験を積み重ねながらお子さまの強みをのばしてあげてはいかがでしょう。英語は生涯学習です。先を見据え、子供が好きなもの、楽しいと感じることをいっしょに探し、日々の暮らしの中でそれを発見する豊かさを親子で体験してほしいと思います。

※関連記事:北欧諸国の英語力はなぜ高い?

インタビューを終えて

教育水準が高いことで知られるフィンランド。小学校でも家庭でも成績のために教育を行っているわけではないようです。子供の興味・関心をさまざまな方法で引き出し、子供が自主的に学ぶ力をのばすことを目標にした教育理念に、世界の注目が集まっています。幸福度と学力の両方がうまく連動しているフィンランド式の英語教育を、ご家庭でも参考にされてはいかがでしょうか。


フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか  〜著者・米崎里先生インタビュー〜

プロフィール:米崎 里(よねざき・みち)先生

兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究博士課程終了。学校教育学博士。現在、関西学院大学教育学部准教授。フィンランドの英語教科書の研究分析を行う。主な著書に『フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか』(亜紀書房)、『国際的にみた外国語教員の養成』(東信堂)(共著)などがある。現在、日本の小学校や児童の実態にあわせ、フィンランドの学校で使われているような英語ワークブックの開発を試みている。

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