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英語教育に関するニュース

皆川先生インタビュー前編
かつてはタブララサ(白紙)で生まれてくると考えられていた赤ちゃんが、実は高い知覚能力を持ち、世界中の言語の音韻の弁別ができる上、数の概念・正義感まで持ち合わせていることが明らかになってきました。

慶應義塾大学「赤ちゃんラボ」で「心とことばの発達」について研究されている皆川泰代教授に、赤ちゃんの無限の可能性についてうかがいます。


Q.1 生後間もない赤ちゃんは世界中のほぼすべての言語の音韻(母音・子音)を聞き分けられるそうですね

Q.2 赤ちゃんの脳はユニバーサルな言語の獲得能力を持っているのですね

Q.3外国語の音声学習について、小学校高学年ぐらいで脳の働きが変わるそうですね

Q.4 日本語と英語のリズムの違いや効果的な習得法を教えてください

Q.5 人の顔を良く見る赤ちゃんは言語が良く発達するそうですね


Q.1 生後間もない赤ちゃんは世界中のほぼすべての言語の音韻(母音・子音)を聞き分けられるそうですね

6ヵ月齢以前の赤ちゃんの脳は、どのような環境にも適応できるように一生のうちで最も多くのシナプス(※1)を持ち、過剰なまでに神経細胞が張り巡らされていることもあり高い知覚能力が発揮されます。たとえば日本語にはないRとLの音などもユニバーサルな音の処理をして聞き分けることができます。しかし生後6ヵ月で母国語向けに赤ちゃんの脳はチューニングされていき、こうした能力は1歳までに消失します。

※1 シナプス:
神経情報を出力する側と入力される側の間に発達した情報伝達のための接触構造。

Q.2 赤ちゃんの脳はユニバーサルな言語の獲得能力を持っているのですね

特に0歳や1歳の赤ちゃんにとっては外国語の習得は母国語の習得とほとんど同じです。バイリンガルの赤ちゃんは同時に2つの言語を母国語として獲得していきます。ヒトは環境刺激とインタラクション(相互作用)することで学習を行い、脳の回路網が整理整頓されていきますから、不必要なシナプスは削除され、必要なシナプスはより効率的な回路になるように増強されていくのです。この点から英語学習も生活環境の中に自然に取り入れると効果的だといえます。

Q3.外国語の音声学習について、小学校高学年ぐらいで脳の働きが変わるそうですね
脳と結合

(1)小学生(高学年)、(2)中学生、(3)高校生・大学生の3グループで、英語のRとLの音の学習によって脳の反応や結びつきがどう変わるかを調査しました。

どのグループでも聞き取りの能力は上がりましたが、(1)小学生のグループだけは脳の部位の結びつきが異なっていました。脳の聴覚野と左の側頭葉のウェルニッケ野(※2)を中心とする低次な脳機能の結びつきが強くなって、本人も無意識のうちに脳が一瞬で音声処理をすると思われる回路が作られていたのです。

一方、中学生以上の(2)(3)のグループでは言語野の聴覚野の部分と脳の司令塔である前頭葉との長い結合が増えていました。これは大人になって発達する前頭葉の部分で「Rはちょっと暗い音だな」とか「こういう音が聞こえたらRだ」というように戦略的に判断をしていると考えられます。このように前頭葉で判断する方法は音声処理の方法としては時間がかかるので、あまり良い方法とはいえないかもしれません。

※2 ウェルニッケ野:
感覚性言語中枢とも呼ばれ、主として受容する言語を理解するはたらきをする。

Q.4 日本語と英語のリズムの違いや効果的な習得法を教えてください

日本語はモーラ(拍)リズムといって、50音図の一音と一拍が呼応しているのが特徴です。これに対して英語はストレス(強勢)リズムといって、ストレスのある音節と音節の間がだいたい同じタイミングでやってきます。おおざっぱに言うとこの中間に位置するのがフランス語やイタリア語のシラブル(音節)リズムで、単語や文の中で発音される母音の数によって音節の数が決まります。

日本語と英語ではかなり違いが大きいので、英語のリズムに慣れるためには、英語の歌を歌いながら体を動かしたり、シャドウィング(※3)などを利用するなど「身体性」に注目すると効果的でしょう。赤ちゃんも「んまんまんま」などと喃語(※4)を話すときに体を動かしながらリズムをとることがあります。

※3 シャドウィング:
音声を聞いた後即座に復唱する手法。同時通訳者の練習方法としても知られる。
※4 喃語:
乳児が発する意味のない声。子音と母音の反復音として発する"パパ"、"バブ"のような音連続のこと。言語を獲得する前段階で音を発声しながら声帯や口の使い方を学習している。

Q.5 人の顔を良く見る赤ちゃんは言語が良く発達するそうですね

6ヵ月齢で人の口を良く見た赤ちゃんが2歳過ぎでの言語獲得スコアが高くなっているという報告があります。英語を母国語とする赤ちゃんは6ヵ月齢では目への注視が多く、それ以降は口への注視が増えます。日本語を母国語とする赤ちゃんの場合、口に注目するのはそれより4ヵ月遅いことが私達の研究から示されました。

これは日本語が英語に比べて口の開き方が小さいことが一因だと考えられます。知覚的に鋭い赤ちゃんは口の動きを見分ける力も鋭く、音がなくても日本語と英語の口の動きを区別できます。英語には口を横に引く「i」や前に突き出す「u」の音など日本語にはない口の動きがありますが、お母さんが赤ちゃんと一緒にDVD教材を見ながら意識的に口を大きく使って見せてあげるなどの工夫をすると、赤ちゃんの口への注意を促すことができるかもしれません。

また、人の目を良く見た赤ちゃんの言語獲得スコアが良いという報告もあります。
いずれにせよ、人の顔を良く見る赤ちゃんがコミュニケーション能力が優れているということは多くの研究で一致しています。赤ちゃんのお顔を見ながらの話しかけは言語の発達に良さそうですね。

前編まとめ

ユニバーサルな言語の獲得能力を持つ赤ちゃんの脳の回路は、環境刺激とインタラクション(相互作用)することで、整理整頓されていきます。英語学習に関しても、生活環境の中で自然な刺激を提供できるように「身体性」に着目する学習法などが効果的なようです。
後編では、赤ちゃんの脳の特性をさらにうかがい、言語能力をさらに引き出すためのヒントをうかがいます。

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皆川先生近影.jpg
プロフィール:皆川 泰代(みながわ やすよ)

慶應義塾大学文学部心理学研究室教授・博士(医学)。慶應義塾大学赤ちゃんラボ主宰。国際基督教大学大学院(修士)、東京大学大学院(博士)取得。
国立国語研究所、国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所にて日本学術振興会特別研究員、フランスENS-EHESS-CNRS 研究員、University College Londonおよび UCL Hospital、NHS.訪問研究員等を経て現職。

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