アメリカの代表的な新聞として知られる『ニューヨーク・タイムズ』の東京支局記者として、日本のニュースを英語で世界に発信する上乃久子さん。
英語を使いたい一心でキャリアを磨き、夢を叶えました。
日々、英語のネイティブスピーカーとバリバリ仕事をこなす傍ら、2021年には『純ジャパニーズの迷わない英語勉強法 増補版』(小学館新書)を出版。海外生活や留学経験がなくても、外国語ができればさまざまなチャンスが巡ってくるといいます。
そんな上乃さんに、英語の上達法や英語で開けた世界について伺いました。
Q1. いつから英語に興味をもつようになったのですか?
Q2. 「純ジャパニーズ」が生きた英語を身につけるコツとは?
Q3. 日本人は英語が苦手?挫折を乗り越えるには?
Q4. 英語ができる強みと今後の目標をお聞かせください。
Q5. 英語で未来を切り開くためのアドバイスをお願いします。
Q1. いつから英語に興味をもつようになったのですか?
※高校2年生の修学旅行で訪れた東京ディズニーランド®︎
外国の方に、恐る恐る「いっしょに写真を撮ってくれませんか?」と片言の英語で話しかけて撮影した記念の1枚
アニメで「外国」に憧れを抱いた少女時代が英語の原点
私は瀬戸内海沿いの小さな町で生まれ育ちました。幼い頃に英語にふれるような機会はありませんでしたが、漠然と「外国」に憧れを抱いていた時期があり、私が英語に興味をもつきっかけになりました。
幼いとき『世界名作劇場』というテレビアニメが放映され、妹と毎週楽しみに見ていました。『アルプスの少女』にはじまり、『赤毛のアン』、『小公女セーラ』など、世界中で古くから親しまれてきた定番名作シリーズの番組で、その舞台となっていたのがイギリスやアメリカ、オーストラリアでした。
雄大な自然や美しい街並み、ときおり聞こえてくる外国語...。主人公たちの可愛いドレスにも目を奪われました。
映像を通して異国の生活や文化にふれ、外国のイメージに浸りながら過ごした少女時代の体験は、私が英語やグローバルな世界に目を向ける原点だったといえるかもしれません。
Q2. 「純ジャパニーズ」が生きた英語を身につけるコツとは?
※ロサンゼルス・タイムズに勤務していた当時の同僚とのホームパーティー
楽しみながら積極的に英語にふれる環境に身を置く
私自身、留学経験もなく海外に長期滞在したこともありません。
ですが、常に多国籍の環境に身を置き、生身の人間を通じて積極的に英語を学び続けてきました。
大学は英文科に在籍し、周囲には外国人の先生がたくさんいましたし、韓国や中国などから交換留学に来ている学生たちも多く、国際色豊かなキャンパスで過ごしました。ビーチパーティーやサークルの合宿といったイベントがあれば必ず参加し、英語で交流する楽しさを実感しました。学生時代は、英語に苦しんだり勉強が辛かったりした記憶はありません。
好きなもの、興味があるものを英語の入口にする
英語を習得する上では、根気よく続けられる自分なりの方法を見つけることが大事だと思います。今はデジタル教材や動画など、気軽に英語にふれられるツールが身の周りにあふれています。それらを上手に活用して、読む、聞く、書く、話すを、1日10分でも15分でもくり返し、毎日英語に親しむことです。
長続きさせるコツは、自分が好きなもの、興味があるものを入口にすると良いと思います。アニメ、音楽、映画、料理...、なんでも良いので好きなことを通して英語を吸収していくのがオススメです。
一気に覚えようとするのではなく、リラックスしながら英語に親しめる環境を整え、英語体験を積み重ねてみてください。
「アウトプット」が上達のカギ
英語力の基礎となるインプットに加え、アウトプットにも力を入れるとことが上達のカギになります。私の経験上、効率の良いアウトプット学習法が「音読」です。目で見て覚えた新しい単語やフレーズを何度も声に出して読んでみます。英語のリズムとテンポを自然に体に定着させるのにも有効です。
音読は好きな洋楽の歌詞を読むのも方法ですし、ご自身の1日を英文にして表現すればより実践力がつきます。
たとえば、"I get up at seven o'clock.(私は7時に起きる)"とか、"I brush my teeth.(歯を磨く)"、"I turn on the TV.(テレビをつける)"といった具合に、例文を作って音読してみましょう。慣れてきたら、主語を"My friend(友達)"や"My English teacher(英語の先生)"などに替えてバージョンを増やします。
音読によって日頃から口慣らしをしておくと、将来的にスピーキングに自信がもてるようになります。
基本をしっかり、毎日くり返し練習すれば、日本にいながら生きた英語力を身につけることは決して不可能ではないと思います。
Q3. 日本人は英語が苦手?挫折を乗り越えるには?
※前職・ロサンゼルス・タイムズ時代のオフィスにて、支局長と談笑中の上乃さん
苦手意識をもたず「逆転の発想」で最初の一歩を踏みだす
「英語がしゃべれない」とか「できない、わからない」と嘆く日本人の方の声を聞くことがありますが、英語は自分が考えている以上に相手に伝わるものだと私は思っています。
語彙が1000しかないとしたら、1000の中で表現してみようという「逆転の発想」に切り替えてみてください。言葉だけで伝わらないときには、ジェスチャーで表現したり、写真や動画を見せたりする方法もあります。言いたいことが明確にあれば、自分の伝えたいメッセージや相手が言おうとしていることを聞きだすことができるものです。
英語は、あくまでもコミュニケーション手段のひとつです。苦手意識をもたずに「話したい!」「知りたい!」というポジティブな気持ちで最初の一歩を踏みだしていきましょう。
英語を学ぶ仲間の存在が学習モチベーションを高める
私がモチベーションを維持するために大切にしているのが、英語を学ぶ仲間の存在です。新しい表現や単語、驚いたこと、間違えたことなどをLINEやメールで共有したり、会って話したりする機会をつくっています。
ひとりではなかなかやる気になれないようなときも、同じ目標をもつ仲間がいれば、気持ちを高めることができます。
「好奇心」+「楽しく復習・予習」で英語力が伸びる
私自身、翻訳や記事1本書くにしても、毎日浴びるように新しい表現や単語と出会いながら仕事をしています。英語でビジネスをしていく上ではまだまだ足りないことに気づかされますが、知らなかった表現に出会えば「こんな言葉があるんだ!」と楽しくなり「もっと知りたい」とやる気スイッチが入ります。
挫折や失敗、間違いは誰にでもあります。私も何度も挫折をくり返しきましたが、大切なのは「英語でコミュニケーションしたい」とか、「知りたい」という好奇心です。そこに「楽しく復習・予習」が加われば、英語力は必ず伸びていくものです。
Q4. 英語ができる強みと今後の目標をお聞かせください。
※2016年 ケネディー大使、米国から来日の重鎮トム・ハーキン上院議員らのレセプションにて
たくさんの出会いや交流から人生の新たなチャンスが開ける
英語がしゃべれなければ行くことができなかったような場所に行くことができ、そこでたくさんの人たちと出会えたことは、私の人生の大きな収穫になりました。
その出会いや交流によって、新たなチャンスも開けました。一貫して思い描き続けてきた「英語で仕事がしたい」という夢を叶えることができたのです。
海外から有名人が来日されたときなどに、憧れのミュージシャンの方の通訳をしたり、東京の名所案内や食事をご一緒したりすることも多々あります。役得ですが、いちファンが仕事以外で楽しい時間を過ごせるというのは、モチベーションにつながります。
他言語を学んで価値観が多面的になり、視野が広がる
英語を学んで自分の考え方が多面的になり、視野が広がったことは「書く」という仕事においても強みになりました。
言語にはそれぞれ異なった考え方や捉え方がありますが、英語は「いつ、どこで、誰が、何をしたか」が明瞭な言語です。
とりわけ「誰が」という責任の所在を明らかにするため、曖昧さやニュアンスを大切にする日本語の感覚では、外国人に正しく伝わらないことがよくあります。
たとえば日本の著名人の記者会見などでも、話のなかに主語と述語がいくつもあったり、主語がなかったりすると「いちばん言いたいことは何?」と思ってしまうんですね。それを通訳の方が英語に訳してはじめて意図が理解できた、ということがありました。
ビジネスではもちろんですが、ふだんの生活においても、無意識に省略してしまいがちな日本語より、英語のルールの方がより多くの人に伝わりやすいかもしれないということに気がつきました。
それからは、英語と日本語の異なった言語感覚を理解し、英語であっても日本語であっても常に「正確さ」と「わかりやすさ」を心がけて書くようにしています。
海外の雑誌や新聞を若い人たちに興味をもって読んでもらいたい
日本と外国の両方の視点に立ったときに見えてくるものがあります。日本の価値観はもっとアップデートしたほうがいい部分もあるので、それを私なりに書き記してみたいと思っています。
そして、海外の雑誌や新聞を若い人たちに興味をもって読んでもらいたい。外のことを知ることで、自分の視点もより豊かになると思います。その橋渡しになるような記事を書いていけたら嬉しいですね。
そのためには常に努力ありき。プレッシャーを感じますが、より良い記事が生み出せるように、弛まぬ努力を続けていこうと考えています。
Q5. 英語で未来を切り開くためのアドバイスをお願いします。
※2017年 アントニオ猪木議員の取材風景
インタビューや通訳には英語力はもとより、「日本人としてさまざまな背景知識が必要になる」と上乃さん
好奇心の芽が英語の能力を開花させる
未来を生きる子供たちが、好奇心をもち続けて英語と向き合えるように、子供の「好奇心の種」をつぶさず育ててあげてほしいと思います。「知りたい」とか「好き」といった興味関心が先にあれば、言葉は後から必ずついてきます。
私の子供時代は、親に「勉強しなさい」と言われた記憶もなく、アニメを見たり漫画を読んだり自分が好きなことをして過ごしました。もし英語を押しつけられていたら、逆に英語嫌いになっていた可能性もあります。私が主体性をもって興味のある道を進んで来られたのは、親が子供を信じて見守っていてくれたからかもしれません。
失敗を恐れず、英語で未来のフィールドを切り開く
今後は、第二・第三言語として英語を身につけ、流ちょうに話す人たちが増えていく時代になると思います。私も職場では、英語の訛りも間違いも気にせずに、圧倒的な勢いでぐいぐい話しかけてくる多様な国籍の同僚たちに囲まれています。
そんな中で英語を武器にチャンスを掴むには、あきらめないで英語と向き合う強い気持ちをもち続けることです。失敗を恐れず、世界中の人と英語でコミュニケーションすることの大切さ、楽しさを知ってほしいですね。
英語ができれば、その圧倒的な情報量で自分の創造性や可能性が開けます。知れば知るほど表現や概念が広がり、これからの人生・価値観が豊かになるに違いありません。
英語は毎日の積み重ねです。挫折や失敗の壁を乗り越えた先に、広大な世界が待っています。英語で未来のフィールドを大きく切り開いてほしいと思います。
インタビューを終えて
日々、英語ネイティブ特派員との同行取材や同時通訳、英文の取材レポートの作成などをこなす上乃さん。最近では日本のビジネス、文化、トレンドなどをテーマに自ら取材した記事を著名原稿として発信する機会も増えています。日々、英語に親しみながら英語力を身につけておくことで、世界も視野も大きく開けるに違いありません。
プロフィール:上乃久子(うえの ひさこ)
ニューヨーク・タイムズ取材記者。1971年岡山県生まれ。1994年に四国学院大学文学部英文科卒業後、同大学の事務助手として勤務。その後東京都内のバイリンガル雑誌社、翻訳会社、ロサンゼルス・タイムズ東京支局、国際協力機構(JICA)を経て、現職。サイマル・アカデミー同時通訳科修了。米国ヨガアライアンスRYT500認定講師。『純ジャパニーズの迷わない英語勉強法 増補版』(小学館新書)著者。