第二言語習得のプロセスとメカニズムの研究成果をベースに、世界で通用する英語力を備えた人材育成のための英語教育研究を行なっている西垣教授。
NHKラジオ講座『基礎英語2』の番組講師としても活躍された英語教育の専門家です。
今回は早期英語教育のメリットをはじめ、子供の英語能力を引きだすための具体的な方法を、第二言語習得の研究結果をもとに伺いました。
Q1. 英語をはじめるなら早い方が良いといわれる理由は?
Q2. 子供が「英語嫌い」。原因・対処法は?
Q3. 第二言語習得の研究から見て「ディズニー英語システム」(DWE)の良い点は?
Q4. 子供の「英語力」を引きだすために家庭でできることは?
Q5. 子供を取り巻く英語教育環境は、今後どのように変わりますか?
Q1. 英語をはじめるなら早い方が良いといわれる理由は?
成長するにつれ、第二言語の自然な習得が難しくなる
第二言語を身につける上で、その言語をできるだけ多く聞いたり読んだりすることが大切であることは、第二言語習得の研究からも疑う余地はありません。2つめの言語を習得するためには質・量ともに十分なインプットが必要です。
「話す」「書く」というアウトプットの力の養成には、豊富で良質なインプットの土台があることが必要です。英語学習のスタート年齢が早ければ、スタートが遅い場合に比べて、「聞く」「読む」というインプットの量を確保する機会を増やすことができます。
インプットの量を増やすという点で、英語に早くからふれることは有利でしょう。
また、赤ちゃんの脳はスポンジのようにあらゆる言語を柔軟に受け入れることができますが、成長するにつれ、新しい言語(第二言語)の自然な習得が難しくなると考えられています。
たとえば、日本語を聞いて話して育った子供は、特別な場合を除いてほぼ100%母語の習得に成功しますが、後から学びはじめる外国語は母語と比べると到達レベルに個人差があります。
英語の学習を考える上で、児童心理学者のJ・ピアジェの「認知発達理論」は、多くの示唆を与えてくれます。J・ピアジェは、子供の知的能力の発達には次の4つの段階があると提唱しました。
① 感覚運動期(0~2歳)
② 前操作期(2~7歳)
③ 具体的操作期(7~11歳)
④ 形式的操作期(11歳以降)
英語の学習方法は、これらの子供の発達段階と年齢を合わせて考えていくことができます。
たとえば、「前操作期」にあたる小学校低学年以前の段階では、音への感覚が鋭いので、音声を中心とした学習を大切にします。この時期は、母語と同じように、無意識のうちに外国語をインプットし、吸収することができます。
それ以降の段階の子供たちは、「なぜ?」「どうして?」と疑問をもちはじめます。論理的に考えるようになるので、意識的に学習する力が育ってくる一方で、母語のように自然に外国語を覚えることが難しくなっていきます。
また、知的好奇心が芽生えてくるので、子供たちの発達段階に合った内容でないと英語に対する興味を失ってしまいます。逆に自分の興味・関心にはまると、親が期待する以上に集中して勉強することができます。
発達段階と年齢に合わせて、子供たちの英語の学習方法も変わっていきます。
英語の正しい「聞き分け・発音力」は幼児期が大切
赤ちゃんは、世界のあらゆる言語の音韻体系を習得する力をもって生まれてきます。そして1歳になる頃までに、自分の母語の音を聞き分ける能力を身につけます。
ところがその一方で、母語以外の音を聞き分けることが困難になります。そのため、年齢が高くなってから英語にふれると、日本語にはない"l"(エル)と"r"、"s"と"th"といった音の識別が困難になったりします。このことが、幼い頃に英語の学習をはじめると有利だといわれる理由です。
幼児期に身につけた英語の正しい聞き分け力と発音力は、先々英語への自信と上達につながります。英語の学習は、何歳からはじめても遅すぎるということはありませんが、早期から英語をはじめることには多くのメリットもあるといえるでしょう。
Q2. 子供が「英語嫌い」。原因・対処法は?
英語への興味や意欲は「褒める」ことから生まれる
英語に限らず、どのような教科においても、どうしても好き嫌いが出てきます。
小学校で英語を「教科」として学びはじめるようになり、成績がつくことによって、苦手意識を感じるお子さまも少なくないでしょう。
まずはお子さまに「できる!」という自信をもたせてあげることが大切です。そのためには、小さなうちから英語の成功体験を積み重ねることがとても重要です。
でも、親はどうしても我が子の間違いに目がいきがちです。
たとえば子供が"I like banana."と言ったのを聞いて「単数形じゃない、複数形を使って!」、"I drink milk."と言ったのを聞いて「飲んだのは朝だから過去形でしょ!」などと言って、間違いを正すのは、子供たちの英語が好きという気持ちや、英語を話せる、英語を使えるという自信を奪うことにもなりかねません。
私がアメリカで勉強をしていたとき、野球の試合中、ここ一番という場面で三振をした息子に「あなたは三振をしたけれど、あのバットの振り方がすごく良かった!誰にもまねできない」と、大きな声で褒めているご両親がいました。
失敗をしてうなだれていた男の子の表情が、一瞬にして、まるでホームランを打ったかのような笑顔に変わりました。この光景を見て私は、「褒めることは大切だ」と思いました。
日本では、人前で自分の子供を褒めることに抵抗があるかもしれませんが、ご家庭の中では、ぜひお子さまの良いところをたくさん見つけて、言葉にだして、褒めてあげてください。
褒めることで、子供は間違いを恐れずにどんどんと英語を使おうとすることでしょう。
子供が間違えていたら言い直す程度で十分
褒めることが大切とは言っても、間違いを放置しておいては、いつまでたっても正しい英語が身につかないということも心配されます。子供の間違いに気づいた場合に、さりげなく言い直してあげるという方法があります。
これは、第二言語習得で有効とされている方法の1つで、「リキャスト(言い直し)」といいます。子供の誤りを、正しい表現に修正して、フィードバックしてあげる方法です。
たとえば、
Ken run.(ケンが走っている。)
: Yes, Ken is running.
(run を is running と修正して言い直す。)
あるいは、
I seed a dog.(犬を見た。)
: Oh, you saw a dog. Was it big?
(seed を saw と正しい形で言い直す。)
という具合にフィードバックします。
また、"I like banana."(バナナが好き)と子供が言ったときには、"I like bananas too."(私もバナナが好きよ)と、"I"を主語にして、子供が話すときと同じ形で、正しい英語をフィードバックしたり、会話を広げてみたりしてはいかがでしょう。
子供は間違いをくり返しながら、徐々に言語を覚えていきます。日本語で子供が「とうもろこし」を「ともころし」と言ったり、「蚊に刺された」を「蚊にに刺された」と間違って言ったりしても、親は目くじらを立てて、正しい言い方をリピートさせたりしませんね。英語も同じです。おおらかに見守りましょう。
英語の種蒔きをする幼児期には、「間違いを恐れず使う」→「褒められて自信をもつ」→「どんどん使う」→「上達する」というサイクルをつくってあげることが、英語への意欲や好奇心の芽を育てることにつながります。
子供自身がもつ「のびる力」を信じ、子供のペースに寄り添いながら見守ってあげましょう。
Q3. 第二言語習得の研究から見て「ディズニー英語システム」(DWE)の良い点は?
楽しみながら自然に英語を身につけるのに最適
日本は世界で一番、英語の習得が難しい国の1つといわれます。
その理由として、まず英語と日本語の「言語の距離が遠いこと」があげられます。
英語と日本語は発音、文字、語彙、文法などあらゆる面で大きく異なっていて、ドイツ語話者やフランス語話者よりも、日本語話者が英語を習得する場合の方が、そもそも時間がかかります。
また使わなければ英語は上達しませんが、日本では英語の授業時間以外に、英語にふれたり使ったりする機会がほとんどありません。そのうえ、恥ずかしがって人前で英語を使おうとしません。さらに、日本にいる限り、英語を使わなくても快適な生活を送ることができるので、英語を身につける必要性が感じられません。
このように、英語の習得が難しい日本の言語環境の中にあって、子供たちの英語力を育てていくには、英語にふれる時間を増やすことと同時に、まず子供に「英語って楽しい!」と興味をもってもらうことが大切です。
その点、親近感のある愛らしいディズニーキャラクターが登場するDWEは、子供の「やってみたい!」「話したい!」という気持ちを引きだし、持続させてくれることでしょう。勉強としてではなく、遊び感覚で、楽しみながら英語を身につけるのに適しています。
また子供の成長に合わせてステップアップする課題プログラム(CAP)は、子供の興味とやる気を引きだし、自信をもたせながらステップアップできるシステムだと思います。
「くり返し」の反復学習が英語の習得に欠かせない
英語の習得はピアノやサッカーの上達といっしょで、「反復練習」が欠かせません。
英語教室や学校では、英語にふれる機会が教室の中で、先生といっしょなどと制限されがちですが、DWEでは、絵本、DVD、CD、単語カードといった多様な教材を使って、いつでも、何度でも「くり返し」同じ教材にふれることができます。
同じ単語やフレーズがさまざまな教材でくり返し使われているので、少しずつ理解を深め、レベルを上げて身につけられそうです。子供が本来もっている「言語を理解する能力」や「想像力」を引きだしながら、英語を自然に習得することができるのではないでしょうか。
「音と文字」をセットにしたインプット
インプットには「音」を媒介とするものと、「文字」を媒介とするものがあります。そして、インプットが場面と結びつくとき、インプットは強化されます。
たとえば"dog"という音を聞いたとき、絵や文字でも"dog"が目に入れば、小さいお子さまは、絵を通してその意味を理解し、文字の形にも親しんでいきます。さらに、"milk"という単語を、場面と結びつけてインプットすることで、声の抑揚や状況によって「ミルクがほしい」「ミルクをどうぞ」というように、さまざまな意味を表すことも理解できるでしょう。
ですから、小さいお子さまが英語とふれ合うときのインプットを豊かにしていきたいと考えます。自然な形で、耳から英語のインプットをたくさん入れるように、自然な形で英語の文字にふれておくことも、英語学習の素地を築きます。
それは、小学1年生が学校でひらがな、カタカナの学習をはじめる前にすでに、絵本の読み聞かせなどを通して、音だけでなく、文字にもたくさんふれて下準備を済ませているのと似ています。
このことから、音と文字に、同時に親しむことができる『トークアロング・カード』などを活用すれば、音と文字の自然なインプットを得ることができるでしょう。
また、十分なインプットの体験とともに多彩なイベントなど、英語学習のアウトプットの場が用意されているのも魅力です。ネイティブ・スピーカーの先生やお友達とのコミュニケーションといった楽しい体験の積み重ねは、英語の習得の大きな動機づけになります。
さらに、40年以上の歴史と実績があり、安心感があります。DWEはさまざまな方法で、子供のやる気を後押ししてくれるのではないでしょうか。
Q4. 子供の「英語力」を引きだすために家庭でできることは?
生活の中に英語をたくさん取り入れよう
ご自宅では自然な形で、英語が生活の中にある環境をつくってあげてほしいと思います。
部屋の壁にアルファベットのポスターを貼ったり、外出先では子供といっしょにアルファベットを見つけてみたりします。たとえば、駅で「JRだね」とか、Parkingの「P」を見て、「ピーだね」、とお話したりするのはどうでしょうか。
慣れてきたらちょっと長い英語表現にも注意を向けさせてみます。生活の中にあふれる英語にふれることで、英語は子供にとってどんどんと身近なものになるでしょう。
また、小学校の英語の授業では、英語の音に慣れ親しむために低学年から歌を取り入れた活動が多くあります。ご自宅でも、普段からお子さまといっしょにスタンダードな童謡などを聞いたり歌ったりするのも良いでしょう。CD、DVDは次々と新しいものを与えるより、同じものをなんども聞かせる方が効果的です。子供は飽きずにくり返し聞きたがりますから、聞きたいだけ聞かせてあげましょう。
さらに、体を動かすゲームも楽しく、効果的です。"fly"(飛ぶ)と言いながら飛ぶまねをしたり、"ride a bike"(自転車に乗る)と言いながら自転車をこぐまねをしたりします。「全身反応教授法」といって、ジェスチャーを加えることで子供は日本語を介さずに意味を理解します。"Clap your Hands!"などは、体を動かしながら歌えるのでオススメです。
Q5. 子供を取り巻く英語教育環境は、今後どのように変わりますか?
これからの英語教育のポイントは「思考・判断力」
2020年度から小学校では、新しい学習指導要領のもとで、児童の「伝えたい気持ち」を大切にして、自分の思い・考えを英語で表現できる力を育むような授業が行われています。
5年生からはじまる外国語(英語)の目標も、以前の学習指導要領の「音声や基本的な表現に慣れ親しむ」ことから「聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を育成する」ことへと発展しています。また、子供の思考力を高めるためのさまざまな試みもされています。
そして、先生が一方的に教えるのではなく、児童が主体的に英語で聞いたり話したりしながら、言語や異文化への理解を深める体験型の授業が増え、インターネットを通じて国内や海外の子供たちとやりとりをするなど、積極的な交流も行われています。
早期英語教育の浸透により、子供たちが英語を使う機会は増え、英語を使うことに慣れてきていると感じます。間違いを恐れず、人前でも堂々と英語で会話や発表をしたり、意見を述べたりすることができるようになってきていると思います。臆することなく英語を使う態度が身についてきたら、次は、深く思考して、判断して、その内容を英語で表現することを意識すると良いかもしれません。
たとえば、抽象的、論理的な思考ができる年齢のお子さまであれば、定型の表現をまねして繰り返すだけでなく、"I like apples."(リンゴが好き)と言えるようになったら「なぜ好きなのか」という理由を添えたり、また"I want to go to Italy."(イタリアへ行きたい)と言うだけで終わるのではなく、"I like pizza very much."(ピザが大好きだから)など、お子さまにその理由を添えるように促してみてください。最初は日本語で答えるだけでも十分です。
学びの時間がまだまだたっぷりある小さなときこそ、試行錯誤しながらお子さまに適した英語の学習方法を探していただきたいと思います。幼少期に親子で十分に英語に親しんだ経験は、大きな自信となって、生涯にわたって英語学習の基盤となることでしょう。
インタビューを終えて
これからの時代を生きる子供たちには、英語で思考し、英語で自分の意見を述べ、他者を説得できるような英語力が求められると西垣先生は語ります。日本の学校教育は、世界で活躍できる人材の育成に向けて大きく進化しているようです。
小さな頃から生きた英語に親しんだ子供たちの10年後、20年後に、大いに期待したいですね。
プロフィール:西垣 知佳子(にしがき ちかこ)先生
千葉大学教育学部教授。千葉大学大学院自然科学研究科(博士課程)修了、博士(学術)。明海大学専任講師を経て、1996年に千葉大学に着任、2010年より現職。2002〜2003年度にNHKラジオ『英語リスニング入門』、2016〜2017年度にNHKラジオ講座『基礎英語2』の番組講師・テキスト執筆を担当するなどメディアで活躍。『小学校英語 えいごなぞなぞBOOK』(開隆堂出版)他、著書多数。