入試科目に「英語」を導入する私立中学校がここ数年で増加しています。
導入の背景には大学入試改革や小学校での英語の教科化があると考えられます。
英語入試では実際にどのような問題が出されるのでしょうか。そうしたトレンドに対して、幼児期からできる準備はどのようなものがあるのでしょうか。
中学受験生向けの模擬試験を手がける、首都圏中学模試センターの取締役・教育研究所長を務める北一成さんにお話をうかがいました。
Q1. 首都圏で141校、英語入試が私立中学に導入された背景は?
Q2. どのような問題が出るの?難易度は?
Q3. 乳幼児の保護者が今からできる準備はある?
Q1. 首都圏で141校、英語入試が私立中学に導入された背景は?
――私立中学校の入試科目と言えば、国語や算数、理科、社会などが一般的だと思うのですが、「英語」が出る学校もあるのですか?
はい。今春、2020年の私立中学入試で「英語入試」を実施した学校は、一都三県を中心に141校、志願者は約2,200名に上りました。これは6年前に比べ8倍以上に増加しています。
かつて、帰国子女が私立中学を受験する際に、英語を入試に取り入れるケースはありました。けれども2014年から「一般入試」の試験科目に英語を取り入れる学校が出てきました。
――なぜそのような学校が現れ始めたのでしょうか。
前提として、近年、より早い段階から子供たちに英語を学ばせたいという保護者の意識が高まり、帰国子女でなくても、また、海外に行った経験がなくても、英語を学んでいる子供、身につけている子供が増えてきました。
背景には、英語のトータルな技能が問われる大学入試改革が始まること、そして、小学校5~6年生で英語が教科化されることが影響しています。
小学校で英語が教科化するから私立中の英語入試が始まったという順番で考える人も多いのですが、むしろ今の小学生の保護者は、大学入試改革と今後のグローバル社会を視野に入れた英語教育の必要性を感じとっています。
残念ながら来年の大学入試で英語の民間試験を活用する予定は白紙に戻ってしまいましたが、今の小学生は、本格的な2024年度以降の大学入試改革から数年後の当事者であることは間違いありません。
何より、グローバル化により、これからの人材には英語力が求められることは明らかですから、幼児期からの英語教育に熱心な保護者が増えるのも当然のことと言えるでしょう。
こうした社会の背景を受けて、私立中学校の側も変化してきました。
もともと私立中学校は英語教育に力を入れているケースが多く、授業時間数は公立中学校の倍あることも珍しくありません。帰国生や日本で幼少時から英語を学んできた子供を一緒に受け入れて、ダイバーシティ(多様性)のある学びの環境を作ろうとする学校も増えてきました。
そこで、自分たちの学校が英語教育に力を入れているというメッセージとして、英語を中学入試に取り入れ始めたのです。難関校と呼ばれる学校、例えば神奈川にある慶應義塾湘南藤沢中等部、千葉の市川学園なども英語入試を取り入れ、ハイレベルな受験生を集めています。
英語入試を実施している学校
学校名 | 入試名、科目・面接、特記事項 |
---|---|
東京都市大学付属(東京・男子校) | 【グローバル入試】英語・算数・作文(日本語) 問題内容は英検®準2級程度 |
共立女子(東京・女子校) | 【インタラクティブ入試】英語インタラクティブトライアル(ディスカッション形式)・算数 |
東京都市大学等々力(東京・共学校) | 【英語1教科入試】英語 |
広尾学園(東京・共学校) | 【インターAG(アドバンストグループ)】English・Mathematics・Japanese・Interview 英検2級以上、または、同等以上の英語力を有する者を対象 |
三田国際学園(東京・共学校) | 【第3回・第4回インターナショナル】英語(リスニング含む)・個別面接(日本語と英語) |
慶應義塾湘南藤沢(神奈川・共学校) | 【一般入試・一次試験】英語・国語・算数 一次試験合格者のみ二次試験を実施(体育実技と面接) |
湘南白百合学園(神奈川・女子校) | 【一般・英語資格入試】国語・算数・英語資格点 英検3級以上取得者対象で級により加点 |
市川(千葉・共学校) | 【英語選択入試】英語Ⅰ(Writing)・英語Ⅱ(Reading)・国語・算数 |
開智未来(埼玉・共学校) | 【未来B】【第2回】英語・国語・算数 |
茗渓学園(茨城・共学校) | 【グローバルコース入試】英語エッセイ・個別面接(英語含む)と、保護者同伴面接の2回実施 【英語資格入試】国語・算数・英語による個別面接 英検準2級、TOEFL Junior645点 TOEFL Primary212点以上取得者を対象 |
(首都圏模試センター 英語(選択)入試導入校141校一覧<2020年入試>より抜粋)
※ 英検®は、公益財団法人 日本英語検定協会の登録商標です。
Q2. どのような問題が出るの?難易度は?
――英語入試は実際、どのような問題が出るのでしょうか。
大きく分けて2つの型があります。
1 インタビュー形式の実技テスト
ネイティブの先生や英語担当の日本人の先生と、受験生が英語で会話をする「インタビュー形式」の試験です。近年、新しいタイプの英語入試として注目を集めています。
ペーパーテストを行わない入試なので、英会話を続けてきたお子さん、英語を「聞く」「話す」ことが得意なお子さんに人気があります。
時間は10~15分程度で、個人インタビューや、グループ形式、スピーチ形式など学校ごとに特色があります。この入試の魅力は、受験したお子さん自身が「楽しかった」「もっと英語ができるようになりたい」という未来の英語学習へのモチベーションを高められる点にあります。
受験すること自体が「楽しい」と思える入試が、これらからのトレンドになると見ています。
2 筆記試験形式のテスト
いわゆるペーパーテストのスタイルの試験です。
英語の会話を聞いて後に続く質問に当てはまるイラストや語句を選ぶ、質疑応答の英文を読みながら、後に続く会話文を完成させる、といった筆記試験です。英検4級や3級に相当するレベルをイメージしていただくといいでしょう。
筆記試験形式の出題例
次の英文が意味の通る文章になるように( )内の語句を並べかえたとき、2番目と4番目に来るものの組み合わせを1~4から選び、その番号を答えなさい。ただし( ) 内は、文頭にくるべき語句の文字も小文字になっています。
問3
A:Mom, I'm going to meet my friend at the airport. What's the best way to get there?
B:Well, you could take a bus, a train, or a taxi, but it's going to be(①go / ②expensive /③choose to / ④however / ⑤you).I'll drive you there if you like.
1③-⑤ 2①-④ 3④-③ 4②-①
答え 3
(東京都市大学付属中学校 2019年度グローバル入試「英語」より抜粋)
(並びかえた文)It's going to be expensive however you choose to go.
このほか、英検に代表される、英語の民間資格試験の取得級やスコアを出願時に申告・提出すると、インタビュー形式の実技試験を免除する、算数や国語の合計点に「加点」する優遇措置をとる学校もあります。
ひとつ押さえておきたいのは、どの私立中学校でも英語入試だけを行っているわけではない、ということです。
私立中学の入試は受験の機会が複数回あります。その中で、英語を選択して受験することができる「英語入試」として設定されることが多いようです。
現在のところ、英語の成績のみで合否を判定する学校は少なく、国語や算数、作文などの科目に加えて選択する学校が多数派です。
例えば英語・国語・算数から2科目を選んで受験する、英語・国語・算数・理科・社会の5科目の中から、選択する、といった形です。学校ごとにさまざまなバリエーションがあるので特徴を見ていってほしいと思います。
また、英語入試を導入している学校でも、国語や算数などを課す入試と併用して、入学定員の何割かを英語入試で選抜する形が一般的です。1学年160~200人程度の定員であれば、そのうちの10~20人程度が、英語入試の合格者の割合、というイメージです。
インタビュー形式にしても筆記試験にしても、私立中学校で英語入試が可能なのは、大学入試のように大規模な入試ではないからです。その学校の英語科の先生が、受験生と直接会って話す、あるいは、入学してきてほしい受験生をイメージして筆記試験を作成する、こうした小規模で丁寧な入試だという点も特徴としてあげられるのです。
いずれにしても、英語の必要性が広く社会に認識されるようになり、中学入試が「英語」で受けられる時代になった、というのは私立中学入試の中では、とても大きな変化だと言えるでしょう。
Q3. 乳幼児の保護者が今からできる準備はある?
――就学前や小学校低学年の子供は、これからどのように英語を学んでいけばいいでしょうか。私立中学受験に役立つ勉強方法はありますか?
小さいときから英語に親しんで英語が好きになったら、他の習いごとや勉強を始めても、ぜひ、両立して続けてほしいと思います。
かつては、私立中学の受験勉強のために、小学校の高学年になるとそれまでの習い事をやめる、という傾向がありました。けれども、今は違います。
私立中学を目指していても、学習塾に週2・3回通い、他の日は野球やサッカー、水泳、バレエなどのスポーツ、あるいはピアノやバイオリンなどの音楽系の習いごとを6年生まで続けるお子さんが増えています。
またそうした生活スタイルが、私立中学を受験するときに「強み」にできる入試も登場しています。英語もこうした「強み」のひとつと捉えることができますし、楽しく学び続けていれば私立中学入試で活かすことができる時代ですから、ぜひ、続けていってほしいと思います。
小学校高学年での教科としての「英語」も、2020年からスタートしました。新しい教科ということもあり、学習成果を上げる環境になるまでにはまだ時間がかかると考えられます。
その意味では、家庭学習で補完することがポイントになります。お子さんに合った教材や教室を選んで、英語を学んでいくことが大切ではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?私立中学受験というと、国語や算数を必死に勉強して、受験するというイメージが強かったかもしれませんが、今では「英語」で「楽しく」受けられる学校も増えてきているとのこと。
社会の英語教育に対するニーズが、入試そのものにも影響を与えていることがわかりました。英語を楽しく学ぶことはお子さんの「強み」を増やし、受験にも役立つという、ポジティブな学習のヒントを得ることができたのではないでしょうか。