ディズニー英語システム TOP > 乳児・幼児からの英語 > 専門家の先生による、英語教育に関する記事 > 身近な「カタカナ語」を英語学習に取り入れる方法とは?【慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生】

専門家の先生による、英語教育に関する記事

身近な「カタカナ語」を英語学習に取り入れる方法とは?【慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生】

日本語の約18%がカタカナ語であるという説もあるくらい、日本語にはカタカナ語があふれています。

大型の辞典では50万語ぐらいが収録されていることを考えると、カタカナ語の数は何万語に及ぶということです。

カタカナ語のほとんどは外来語ですが、日本語の一部になり、日々の生活の中で使われています。例えば、アトリエ、オブジェ、アベックはフランス語から、パン、ボタン、カステラはポルトガル語から、アジト、イクラ、カンパはロシア語から、アルバイト、アスピリン、アレルギーはドイツ語から、といった具合に元の言語はさまざまです。

しかし、外来語の中で圧倒的に多いのが英語から来た言葉です。そして、これからも英語由来の外来語は、確実に増え続けると思います。

例えば、スポーツ用語を考えてみてください。スポーツは、カタカナ語のオンパレードです。
以下はテニス用語ですが、英語の言い方がそのままカタカナになっていますね。

シングルス singles
ダブルス doubles
ベースライン baseline

サッカーやゴルフでも同じです。スポーツだけでなく、「バナナ(banana)」「ペン(pen)」「オンライン(online)」「アート(art)」など、分野別にみると、食品、文具、インターネット、文化などほぼあらゆる分野にカタカナ語が浸透しています。

幼児は、たくさんのカタカナ語を含む日本語の中で育ちます。英語由来のカタカナ語が圧倒的に多い中、カタカナ語を英語学習に生かさないのはもったいないことです。
では、カタカナ語を英語学習にどう生かせばよいのでしょうか。

カタカナ語は諸刃の剣

カタカナ語は諸刃の剣

カタカナ語をうまく利用するためには、カタカナは英語学習の「諸刃の剣」であることをおさえておく必要があります。単語を覚える「とっかかり」になると同時に、カタカナ読みが英語読みの「邪魔」をするからです。英語だと思って使ったら、通じない和製英語だったというのはよく経験することです。

「バレエを踊る」の「バレエ」を例にしてみましょう。英語ではballetとなります。日英共通した表現でそのまま使えそうですが、日本語の「バレエ」と英語のballetは音の響きがまったく異なります。似ているもの同士でも、音として捉えるとずいぶんと違いがあるのです。

筆者は、「バレエ」とballetを同時に学ぶことで、日本語と英語の違いが際立つだけでなく、楽しみながら語彙力を上げることができると考えています。
カタカナ読みを英語読みにすることで、英語の音の特徴が体得できるだけでなく、語彙力を上げる絶好の機会になるということです。

まず、カタカナ語を英語学習に生かそうとする場合、日本語と英語の関係に注目しておく必要があります。
ここで注目したいのは、①英語ではないカタカナ語の場合、②カタカナ語と英語では意味が異なる場合、そして、③英語をそのままカタカナ語にしているが発音が異なる場合です。①と②は、英語では通じない和製英語になります。③は上の「バレエ」とballetの関係にあたります。

和製英語の場合

例えば「ホットケーキ」は英語でpancakeといいます。また、「シーチキン」をそのまま英語にすればsea chickenとなるでしょうが、英語ではtunaといいます。これらは①の英語ではないカタカナ語の例です。ほかにも次のような例があります。

①英語ではないカタカナ語の例

アイスキャンディ popsicle
ナイスミドル  attractive middle-aged man
シャッターチャンス perfect moment (to take a picture)

次に、②のカタカナ語と英語では意味が異なるというものが多くあります。
「シュークリーム」はcream puffといいます。shoe creamだと「靴磨きのクリーム」の意味になってしまいます。
「シャープペンシル」をそのままsharp pencilにすると、「先の鋭い鉛筆」となり、意味が違ってきます。英語では、mechanical pencilといいます。この手のカタカナ語も多数あり、以下はその例です。

②カタカナ語と英語では意味が異なる例

レンジ microwave oven
キーホルダー key ring, key chain
センス taste
ゴールデンアワー prime time

「レンジ」をそのまま英語にすればrangeになりますが、rangeは「幅、列」の意味で調理器の「電子レンジ」ではありません。keyholderは「建物のマスターキーなどを所有している人」のことを指します。

また、golden hourは「太陽が昇った直後、あるいは太陽が沈んだ直後の時間」をいいます。日本語の「ゴールデンアワー」に当たる英語はprime timeです。

「ファッションセンスが良い」だとhave nice taste in fashionとなります。また、senseは「感覚;意味」ということで、いわゆる「センスが良い(悪い)」の意味では使いません。

和製英語を使った学び方

上で説明した「①英語ではないカタカナ語」と「②カタカナ語と英語では意味が異なる」2つの場合は、「和製英語」であるということに違いはありません。和製英語は全く通じないものがほとんどです。そこで、和製英語と英語の違いをしっかり認識しておく必要があります。

和製英語に注目して、お子さんとやり取りをするには、以下のような流れが考えられます。保護者は、以下のような食べ物を見た場合、「これ何?」と聞きます。

和製英語を使った学び方

すると、お子さんは「ホットケーキ」「アイスキャンディ」というでしょう。そのとき、「英語ではね、pancake、popsicleというんだよ」と教えてあげます。すると、「日本語のホットケーキは、英語ではpancakeというんだ」と理解するようになるでしょう。幼い子供は、大人が想像するより簡単に、そして早く、日英語の違いを理解するものです。こうやって、日英語表現を対比させていくのです。

いずれにしても、幼児の頃から、日本語と英語では言い方が違うと知ることは、後々の英語学習に効いてきます。こういう違いに注目しないまま英語を学んでいると、英語ができると自信をもっている人(成人)でも、"It's so hot. I want to eat an ice candy."のようにうっかり和製英語で表現してしまうことになるでしょう。

カタカナ英語の発音に注意

英語由来のカタカナ語の中で、もっとも多いのが③英語をそのままカタカナ語にしているが発音が異なる表現で、ここではカタカナ英語と呼びます。英語をそのままカタカナにしているため、単語を増やす観点からいえば、大いに利用価値があります。しかし、発音には注意が必要です。

カタカナ英語を学習に利用する方法は、「場面や話題でつなげていく」のが良いと思います。

家の中にある「英語をそのままカタカナ語にしているもの」を探す

家の中にある「英語をそのままカタカナ語にしているもの」を探す

「家」を場面として取り上げた場合、「カタカナ語で呼ばれるものに何があるかな」といってお子さんといっしょに探すゲームをすると良いでしょう。

そして見つけたカタカナ語を画用紙などに書き込んでいきます。その場合、以下のように英語も書き込むようにしましょう。

ドア(door)⇒キー(key)⇒オーブン(oven)⇒テレビ(TV)⇒テーブル(table)⇒ソファー(sofa)⇒スプーン(spoon)⇒ナイフ(knife)⇒フォーク(fork)⇒ピアノ(piano)⇒バスルーム(bathroom)

筆者は、こうした「繋がり」のことをボキャブラリー・チェイン(vocabulary chain)と呼んでいます。チェインが長くなれば、別の画用紙を使えば良いでしょう。また、チェインが長くなれば達成感を感じることができるでしょう。

探したカタカナ英語を定着させる

次に、探索した内容をお子さんの英語力として定着させていきます。画用紙の情報を使って、家の中のドアを指して、英語でdoorと言います。お子さんもdoorとくり返します。ドアとdoorはあまり音の違いは感じられないかもしれません。しかし、テーブルとtableになると、英語らしい音に気がつくことでしょう。tableはアクセントがta-のところに置かれ、最後の-bleには「ル」のように「ウ」の音は入りません。

カタカナ英語を英語でリズミカルに発音する

最後は、語句の音を連鎖的に楽しむ訓練です。door--key--oven--TV--table--sofaといった具合に、お子さんといっしょに見つけたカタカナ英語を英語でリズミカルに発音していきましょう。テーブルを手で叩いてリズムをとりながら、1つずつ発音する方法もあります。また、door-door and doorのように3回繰り返す(2番目と3番目の間に軽く「アン」を入れる)方法も効果的です。

いろいろな場面や話題を取り上げる

上の要領で、カタカナ英語を英語化(英語らしい音にすること)していくわけですが、場面や話題にはいろいろなパターンがあります。

以下はそのサンプルです。場面や話題の「窓」を準備し、今日はどこを探索しようかとお子さんに尋ねます。そして、今日は「スポーツ」について見てみようといった感じで、スポーツに関するカタカナ英語のボキャブラリー・チェインを作ります(それぞれのカタカナ英語の例は下に示しています)。

このように、場面・話題の窓があれば、どの場面、あるいはどの話題だとどれぐらいの単語を知っているのか、語彙力の可視化が可能になります。そうすることで、もっと語彙力を向上させたいという動機づけにもなるはずです。

いろいろな場面や話題を取り上げる

コンピュータ

インターネット(internet)、チャージ(charge)、ダウンロード(download)、スクリーン(screen)、タッチ(touch)、オンライン(online)、バーチャル(virtual)、デジタル(digital)、ウイルス(virus)

まちでみかけるもの

テーマパーク(theme park)、エーティーエム(ATM)、レストラン(restaurant)、スクール(school)、サービス(service)、ホテル(hotel)、バス(bus)、チケット(ticket)

食べ物

パイ(pie)、トマト(tomato)、バナナ(banana)、パスタ(pasta)、カレー(curry)、チキン(chicken)、ビーフ(beef)、ヨーグルト(yogurt)、ヘルシー(healthy)、フルーティ(fruity)、ジューシー(juicy)、エスニック(ethnic)、スイート(sweet)、ミネラル(mineral)、コーヒー(coffee)、ビール(beer)、キャベツ(cabbage)、レタス(lettuce)、キャロット(carrot)

スポーツ

サッカー(soccer)、スイミング(swimming)、ゴルフ(golf)、ジム(gym)、エクササイズ(exercise)、ハンドボール(handball)、マラソン(marathon)

学校

アイパッド(I-pad)、バインダー(binder)、バックパック(backpack)、レッスン(lesson)、ペン(pen)、マスク(mask)、ワークシート(worksheet)

ファッション

カジュアル(casual)、フォーマル(formal)、アンチーク(antique)、スリム(slim)、タイト(tight)、ストレート(straight)

色彩

ピンク(pink)、ブルー(blue)、 オレンジ(orange)、 グリーン(green)、 ホワイト(white)、 ブラック(black)、 ブラウン(brown)、 パープル(purple)、 レッド(red)、 グレー(gray)、 ゴールド(gold)、 シルバー(silver)、 イェロウ(yellow)

心理

デリケート (delicate)、ナーバス(nervous)、ハッピー(happy)、ショッキング(shocking)、メンタル(mental)、 ポジティブ(positive)、ネガティブ(negative)、シャイ(shy)、クレイジー(crazy)

評価

ゴージャス(gorgeous)、リッチ(rich)、ラッキー(lucky)、プラス(plus)、マイナス(minus)、スペシャル(special)、チャーミング(charming)、グッド(good)、ベスト(best)、ベター(better)、スーパー(super)、フェア(fair)、パーフェクト(perfect)、ナイス(nice)、グローバル(global)、フル(full)

お子さんが知っているカタカナ語を英語として発音することができるようになれば、語彙力が上がるだけでなく、英語の音の特徴にも慣れてくるはずです。英語の音の印象をたくさん頭に刻んでいくこと、これが英語らしい音の習得には最良の方法なのです。そして、英語らしく発音することができるようになると、英語が自分の言葉として身につくようになるのです。

おわりに

カタカナ語に注目することは、言葉の感覚を幼いころから磨くことにもつながります。生活の中で、「バズる」とか「ダブる」とか「ググる」などのカタカナ語にも直面するでしょう。その場合、「この『バズる』のバズってなんだ?」と疑問に思うようになればしめたものです。
buzzは「虫などがぶんぶんなる」という意味ですが、それが転じて「やかましく噂になる」という意味になります。「ダブる」にしてもdoubleのダブだとわかれば、どうして「ダブる」なのかが納得できるはずです。
言葉の意味合いをあらためて振り返ること。これが言葉の感覚を磨く道だと思います。


田中茂範(たなか しげのり)先生

PEN言語教育研修所所長・慶應義塾大学名誉教授。コロンビア大学大学院博士課程修了(教育学博士を取得)。
NHK教育テレビで『新感覚☆キーワードで英会話』(2006年)、『新感覚☆わかる使える英文法』(2007年)の講師を務める。JICA(独立行政法人 国際協力機構)で海外派遣される専門家に対しての英語研修のアドバイザーを長年担当。
主な著書に『コトバの「意味づけ論」―日常言語の生の営み』(紀伊國屋書店)、『「意味づけ論」の展開―情況編成・コトバ・会話』(紀伊國屋書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(リーベル出版)、『表現英文法増補改訂2版』(コスモピア出版)、『意外と言えない まいにち使う ふつうの英語 きほんの英語』(NHK出版)他多数。

専門家の先生による、英語教育に関する記事