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専門家の先生による、英語教育に関する記事

敏感期に英語の音声能力を身につけよう!「耳慣れ」と「口慣れ」

私は、モンテッソーリ教育とバイリンガルの両方を大切にする、「インターナショナル モンテッソーリ ミライキンダーガーテン」という幼稚園に、開園からずっとかかわってきました(開園時からアドバイザーとして、2022年4月からは園長に就任)。2歳から5歳の園児が100名ほど通う幼稚園です。

園児たちを見ていると、5歳頃までの時期は言語の音に対しての「敏感期(sensitive period)」なのだとつくづく思います。英語にふれ、使う機会があれば、自然に音声能力を身につけていくことができます。まさに、音声能力の獲得のための「黄金期(golden period)」です。5歳ごろまでが「黄金期」といいましたが、概して、早ければ早いほど良いといえます。

英語の音をキャッチする「耳慣れ」だけでなく、英語音を発するための「口慣れ」が同時に起こっています。ネイティブの先生たちの自然な英語を生活の中で耳にしているうちに、自分でも同じような発音で表現することができるようになるのです。

そして、日本語と英語を混同することなく、2つの言語を発達させています。以前、小学校に英語を導入する議論の中で、英語の導入は日本語能力の発達を阻害する要因になるという主張がなされたことがありますが、子供の言語習得能力は、大人たちの想像をはるかに超えており、2つの言語を自然に使えるようになっていくようです。

思春期までに音声能力を獲得する

思春期までに音声能力を獲得する

音声能力を身につけるための「黄金期」はもちろんのこと、その後、思春期頃までたくさんの英語にふれ、英語を使うことで、自然に英語の音声を身につけることができれば理想的です。

そういう状況だと、英語の「意識的な学習」ではなく、英語の「自然な獲得(知らないうちに覚えちゃったという現象)」が起こるのだと思います。

しかし、ほとんどの日本人の子供にとって、たくさんの英語にふれたり、使ったりする環境はなかなか得られないというのが実情でしょう。そこで、ある程度体系的に、英語の音声に注目した「学習」をする必要があるのです。

その場合でも、大切なのは、上記の園児の例のように、耳慣れと口慣れを意識した訓練を行うということです。ここでは、そのための5つの方法を紹介していきます。

「耳慣れ」「口慣れ」の訓練方法5つ

1. 音なぞり

第1に、聞こえたままを声にするようにしましょう。自然に聞こえる音をそのまま発音してみる「音なぞり」がとても大事です。そのため、次のような活動をしてみると良いでしょう。

聞こえ方がずいぶん違うことに気づく

まず、バナナなど身近な食べ物の写真を子供に見せます。すると、子供は「バナナ」と言うでしょう。すぐに、「バぁーナ(banana)」と発音します。子供は、「バナナ」と「バぁーナ」の音の違いに気がつくはずです。そこで、もう一度「バぁーナ」と言い、同じように音なぞりをするように促します。

同じく、バニラの写真を見せて「何アイス?」と聞けば、「バニラ」と答えるでしょう。すぐに「ヴァーラ」と発音します。あとは、バナナの場合と同じです。

バナナ

バ・ナ・ナ

banana

ぁーナ / ブぁーナ(のように聞こえることも)

バニラ

バ・ニ・ラ

vanilla

ヴァーラ

このように、英語で聞こえた音の通りに、自分でも音なぞりをしていくと、英語の音の特徴に気づくはずです。これを何回かくり返し行えば、日本語で親しんだ発音のしかたのチューニングを行うことができます。これは、英語音への一歩です。

2. 英語らしさを作る音の耳慣れと口慣れ

英語らしい発音をするには、英語の特徴的な音を選んで、集中的に訓練することが大切です。ここでは、母音の中でも、最重要な[æ]という音に注目しましょう。appleの[æ]です。この音を身につけるだけで、ずいぶん英語らしく響くはずです。練習法としては、シングル法とトリプルアップ法があります。

シングル法は、しっかりとappleのようなターゲット音を発音して、きちんとそれぞれを正しく発音できるかをチェックします。
トリプルアップ法はapple, apple, and appleと2回目の発音の後で軽くand (ən[d])と入れて発音します。英語のリズムに慣れさせるための基礎訓練にもなります。

以下は、具体的な練習法です。お子さんといっしょにやってみましょう。

攻略したい音 [æ]

この音を発音するための口作りのポイントを以下に示します。やってみましょう。

◆口をぐっと横へ引いてニッコリして口作りをします。

◆写真のように、あごに力を入れて、口が横に長方形を作るイメージで発音しましょう。

 [æ]を発音するための口作りのポイント

この口の形で、以下を発音してみよう。

apple

上の音なぞりの要領で、apple と 「アップル」ではだいぶ音の印象が違うことに気づかせることが大切です。

まずは、この音を含むいくつかの単語のシングル法での訓練です。3回は練習しましょう。上の写真のような口を作って[æ]の部分を発音することが大切です。

シングル法

apple

次にトリプルアップ法です。
andは軽く「ァン」と発音です。手拍子をとりながら、リズミカルに発音しましょう。

トリプルアップ法

apple apple and apple

最後の仕上げに、下線部の[æ]に注意して、次の英文を音読するのも良いでしょう。

Lucy was a fantastic singer and a great dancer.

[æ]と同様に、語頭と語尾の[p][t]の発音法を身につけるだけで、ずいぶん英語らしい発音になるはずです。

3. 音の強弱に注目

第3に、音の強弱に注目しましょう。日本語で「マクドナルド」といえば、強弱のアクセントをつけないで「マ・ク・ド・ナ・ル・ド」と発音しますね。

ところが、英語は強弱がはっきりしている言語です。この強弱が英語のリズム感を作ります。以下のような活動をお子さんといっしょにやってみると良いでしょう。少し大げさなぐらい強弱をつけましょう。

マクドナルドの英語の音の強弱

単語だけでなく、以下のような決まり文句も強弱を意識して発音すると、感情をこめた豊かな表現になります。●が強く発音する箇所です。

  ● ・ •
Good for you!
(良かったね!)

    ●
Come on!
(おいおい!)

 •   ● 
Are you ready?
(準備はできた?)

ぜひ、くり返し練習してみてください。英語の音感覚ができてくると思いますよ。
表現が使われる状況を想定し、強弱のアクセントに注意しながら慣用表現を声にだす訓練をすれば、徐々に感情をこめた言い方というものが体得されるはずです。

4. カタカナ英語に注目

第4に、カタカナ語に注目して、英語の音の特徴を知ることも有益です。カタカナ語は単語力をのばすために利用できると同時に、日英語では発音がだいぶ異なるということの気づきを与えてくれます。慣れ親しんだカタカナ語に注目して、日本語と英語の発音の違いを学びましょう。

「日本語のドライブは英語ではdriveだよ」といった具合に、お子さんが「ドライブ」とdriveを聞き分けることができるようにしましょう。

日本語英語
ドライブ drive
スタート start
ブルー blue

日本語では、子音の後には母音が必ずつきます。ドライブだと[doraibu]のように、[o]や[u]が入ります。

一方、英語ではdriveのdとrの間に母音は入りません。startの[s]と[t]の間にも母音は入らず、最後の[t]は飲み込む感じで、もちろん、母音はつきません。blueも[bl]に「ウ」が入らないことがポイントです。

カタカナ英語に注目して、英語との違い学ぶには、次のようなカタカナ英語と本当の英語を音の面で比較する活動をするのも良いでしょう。

カタカナ英語と本当の英語

お子さんに対して、英語でmilk、cabbageと発音します。お子さんは音を聞いてどれかを当てるというゲームです。英語の音を聞いただけでは何か判断しにくいものが含まれています。

milk cabbage omelet

具体的には、次の順番に英単語を発音し、どのイラストか子供に当てさせます。

milk cabbage omelet

音に注意してみると、日英語ではずいぶん違いがあることに気づくでしょう。慣れ親しんだカタカナ語を英語的な発音で声にだせるようになることを目標に訓練してください。

5. チャンク(かたまり)を意識して読む

第5に、英語の文字が読めるようになると、息継ぎを意識して、間をとりながら音読する方法が有効です。闇雲に大きな声で読むのではなく、リズムや強弱に注意しながら、息継ぎを意識して音読することが大切です。この手法を「チャンク音読法」と呼び、息継ぎの箇所がチャンクの区切りになります。

お子さんにとって無理のないチャンクの長さにし、意味が不明になる箇所で息継ぎしないように気をつけましょう。
以下の英文をご覧ください。

Today Mother's Day is celebrated on different days around the world. In the U.S. it is in May.

これをチャンク化し左に寄せれば、以下のようになります。

Today
(今日)

Mother's Day is celebrated
(母の日は祝われます)

on different days around the world.
(世界中で異なった日に。)

In the U.S.
(米国では)

it is in May.
(それは5月になります。)

ここでつけたチャンク訳は、英語の発想を理解するのに役立ちます。チャンクごとに息継ぎしながら音読することで、リズムも安定してきます。リズムが安定すれば、音読を聞いている側も、とても聞きやすいという印象をもつでしょう。

また、音読をくり返し練習すると余裕も出てきます。そうなれば、次に片手にテキストを持ち、もう片手を使ってジェスチャーしながら音読すれば、単なる音読ではなく、ナレーションとかストーリーテリングとしてのパフォーマンスになるはずです。

その場合、英語の強弱に注意をすること、それに伴って適当にポーズをとって、感情をこめて読むことが大事です。

以上、ポイントを決めて、英語の音の訓練をすれば、音に対して敏感期にある子供であれば、英語音の特徴を会得することができるはずです。敏感期だからこそ、英語の音声能力を磨くのに最適な時期なのです。ここで提案したような訓練をくり返せば、英語を聞く耳作り、英語を話す口作りが自然とできてくると思います。ぜひ、トライしてみてください。


田中茂範(たなか しげのり)先生

PEN言語教育研修所所長・慶應義塾大学名誉教授。コロンビア大学大学院博士課程修了(教育学博士を取得)。
NHK教育テレビで『新感覚☆キーワードで英会話』(2006年)、『新感覚☆わかる使える英文法』(2007年)の講師を務める。JICA(独立行政法人 国際協力機構)で海外派遣される専門家に対しての英語研修のアドバイザーを長年担当。
主な著書に『コトバの「意味づけ論」―日常言語の生の営み』(紀伊國屋書店)、『「意味づけ論」の展開―情況編成・コトバ・会話』(紀伊國屋書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(リーベル出版)、『表現英文法増補改訂2版』(コスモピア出版)、『意外と言えない まいにち使う ふつうの英語 きほんの英語』(NHK出版)他多数。

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