専門家の先生による、英語教育に関する記事

伊藤克敏先生近影

神奈川大学名誉教授 伊藤克敏 先生にお話しを伺いました。

海外における外国語教育事情

早期外国語教育は現在、多くの国で実施されています。今回は韓国、ヨーロッパ、カナダの実情を見ながら、それぞれの国がなぜ外国語教育を重視しているのか、またそれが子どもたちにとってどんな意味があるのかを考えて見ましょう

韓国の場合

韓国の公立学校では、1981年より小学4年生以上を対象に英語を部分的に導入しましたが、1997年には、3年生から英語を必修科目としました。現在ではネイティブ・スピーカーや長時間の研修を受けた教員が電子黒板などの教材を駆使して、コミュニケーションを重視した英語教育を行っています。また、ほとんどの幼稚園や保育園でも英語教育が行われており、高校になると英語に加え日本語など第二外国語も学びます。

以前、私が主催する研究会で、韓国の公立小学校を視察した先生から「早期英語教育の充実により、小学校卒業時には大部分の児童が700~900語の語彙を習得し、簡単な英会話ができるようになる。韓国では何よりも教員研修の時間、生徒の学習時間の長さは特筆に価する」という報告も受けています。

韓国はもともと教育熱心なお国柄ですが、1988年のソウルオリンピックをひとつの契機に国際コミュニケーションの手段として、英語への関心が高まりました。さらに近年の国際企業の活躍から、英語を使える人材へのニーズが増え、国を挙げて英語教育に励んでいることがうかがえます。韓国社会全体における教育熱はあまりにも高いという声も耳にしますが、充実した学習環境の整備やその成果に関しては大いに学ぶところがあります。

ヨーロッパの場合*

ヨーロッパではほとんどすべての国で小学校段階から外国語教育を行っており、中学校段階になると2言語以上学ぶ国もあります。

その大きな理由として、先のふたつの大戦への反省が挙げられます。隣国同士で戦う悲惨な経験を通じて、平和の大切さを身にしみて感じ、平和を維持するためには異文化理解が不可欠という結論に達したのですね。また多くの国が陸続きであり、スイスやベルギーのように複数の公用語をもつ国があるという地理的な事情も加わり、ヨーロッパ全土で幼いころからの外国語教育が重視されてきたのです。

例えば、イタリアやスウェーデンでは英語の授業は小学1年生からスタートしますし、オランダでは中学校に進むとそれまでの英語にドイツ語とフランス語が加わります。ヨーロッパでは、plurilingualism(複言語主義)という言葉があり、「母語と英語」+近隣の言語など、複数の言語を学び、それぞれの視点をもちつつ、各言語を使い分けてコミュニケーションの手段にしようという考え方が広まりつつあります。

*本稿でのヨーロッパはEU加盟国中心

カナダの場合

早期外国語教育の発展において先駆的役割を果たしている国といえばカナダです。脳生理学者のペンフィールドや教育心理学者のランバートの研究をもとに1965年ケベック州で、英語に加え第二言語(フランス語)で教科を学ぶ「イマージョンプログラム」が発案されました。これは、単にある言語を学習の目的にするのではなく、その言語を通して算数などの一般教科を学びつつ、第二言語習得を目指すものです。

幼稚園の年長から開始されたプログラムでは、従来の外国語教授法に比べてはるかに効果的であることに加え、「フランス語での学習は英語の習得を妨げることはなく、むしろ英語力を高める」、「これまで以上にフランス語圏文化への理解が深まる」など外国語習得以外の面でも肯定的な成果が見られています。このイマージョンは、もともとケベック州でフランス語やフランス語圏の文化を継承したいという保護者の願いから始まりましたが、現在ではカナダのみならずお隣のアメリカ合衆国やオーストラリアなどほかの多くの国で導入されています。

世界中に未来のお友だちがいます

今回ご紹介した、韓国やヨーロッパ、そしてカナダの例からわかるように、早期外国語教育は多くの国で実施されています。言葉や異文化をスムーズに吸収できる時期から外国語に触れることは、その言語を身につけるうえではもちろんですが、ゆくゆくは社会の発展や平和につながることを理解しているからこそ、世界的な趨勢になっているのですね。

子どもへの外国語教育は"人間教育"だと私は考えています。多様な文化や考え方が共存するこの世界で、人間はひとりでは生きられません。小さいころから複数の視点をもつことで、他者を尊重する姿勢を学び、ものごとの捉え方や考え方はひとつではないという思考の柔軟性を身につけられます。そこにこそ、早期外国語教育の意義があるのです。だからこそ小さいうちからWFメソッドなどで英語にふれているみなさんは素晴らしいことをしているのです。

想像してみましょう。世界中で多くの子どもたちが英語をはじめとするさまざまな言葉を学習しています。現在のグローバル社会では、そのような子どもたちといっしょに遊んだり、学んだりすることもあるでしょう。また、大人になってからも英語を使っていっしょに仕事をしたり、旅先などでコミュニケーションをとったり......という可能性は数限りなくあります。

お子さんがなかなか親の期待するような流ちょうな英語を話してくれず、英語を学習させる意味はあるのかなと思うときもあるかと思います。そんなときは、世界中で未来のお友だちが「国際共通語」である英語を学んでいるのだということを思い浮かべてみましょう。あせることはありません。一歩一歩てくてくと進んでいる道が楽しい未来につながっていることをわくわくと想像しながら、のびのびと英語にふれていきましょう。

伊藤 克敏 先生

神奈川大学名誉教授
日本児童英語教育学会(JASTEC)顧問
英国国際教育研究所(IIEL)顧問
国際外国語教育研究会会長

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