専門家の先生による、英語教育に関する記事

伊藤克敏先生近影

神奈川大学名誉教授 伊藤克敏 先生にお話しを伺いました。

子どもの優れた言語習得能力は 活発に働く右脳がもたらします

「人間の脳というのは右脳と左脳に分かれていて、それぞれが違う働きをもっている」という話はみなさんも耳にしたことがあるでしよう。左脳は「論理的な思考」を、右脳は五感を通じた「感覚的思考」をつかさどっていると考えられています。あれこれ考えながら結論を出すのが左脳、逆にイメージでパッととらえて直感的に判断するのが右脳だと言うほうがわかりやすいかもしれません。つまり左脳と右脳とでは、物事のとらえ方がまったく違っているわけです。

一般的に、0〜8歳くらいまでの子どもは右脳の働きが左脳の働きに勝っていると言われています。そのため、小さな子どもは、理屈抜きに物事をイメージでとらえる能力に長けているのです。そして、これこそが、小さな子どもが大人とは比較にならないほどの優れた言語習得能力をもちうる大きな理由なのです。

例えば赤ちゃんは、まだ話すことはできなくても、母親が多くの言葉をかければ、じっと耳を傾け、目の前にあるものや目の前で起こっていることを観察しながら、その意味をとらえます。ここで言う「言葉」とは単語のみならず、「ありがとう」、「こんにちは」、「バイバイ」といった、いわゆる「決まり文句」も含まれています。言葉のもつ意味や機能を状況から判断して「直感的」に理解するのは、まさに右脳の得意とするところです。「バイバイ」と話しかければ声に出さなくても手を振るしぐさを返してくれる赤ちやんは、「バイバイ」という言葉のもつ意味や機能を理解しているのです。

また、子どもは個々の発音よりも先に、一定のイントネーションをもった「言葉のかたまり(チャンク)」を習得することが知られています。イントネーションとはそれぞれの言語がもつ音の調子のことですが、音楽的能力に優れる右脳はそれをカメラのようにパッと全体的にとらえられるのです。例えば「りんご」という言葉であれば、「り」と「ん」と「ご」の別々の3つの音ではなく、「りんご」という言葉全体の音をイメージとともにとらえることができるのです。

右脳の働きでインプットされた「言葉のかたまり」は、年齢とともに発達する左脳によって分析的に処理され、少しずつ言語体系(文法)がつくられていくと言われています。そして、この過程をたどることが言語の習得において最も効果的であることは、小さな子どもが母語を「自然に」身につけていく事実が何よりも物語っていると言えるでしよう。

場面に応じた言葉のシャワーと、 「言葉のかたまり」にふれることが大切です

右脳は母語以外の言語にも同じように働きます。ですから、この右脳の働きを活かすことができる時期、つまり、子どもの時期から英語にふれれば、楽しく、無理なく英語を身につけることができます。ここで大切なのは「どんなふうにふれるのか」ということ。右脳の働きを存分に活かすためには、それにふさわしいやり方があります。

なによりも大切なことは、場面に応じた言葉を子どもたちにたくさん聞かせてあげることです。前述したように右脳は理屈で考える脳ではありませんから、視覚や触覚といった別の五感も刺激しながら、この言葉がどういう意味と機能をもっているのかを直感的にイメージできる状況をつくってあげることが大切です。DWEのDVDなどに出てくる英語は場面との関係が非常に明確でわかりやすいので、繰り返し見ることで右脳が刺激され、子どもはそこで発せられる言葉の意味を直感的に理解していきます。

また、子どもの脳が言葉をかたまりとして理解する特性を活かして、日本語とは違う英語特有のイントネーションやリズムにたくさんふれさせてあげることも重要です。DWEの歌はネイティブ・スピーカーによる自然な英語がそのまま歌になっているのでとても効果的ですよ。Talkalong Cardsも、フレーズごとに聞くことができるので、英語のイントネーションを把握しやすいですね。

歌やフレーズを子どもが真似し始めたとき、最初は発音がはっきりしていないことが気になるかもしれません。でも、よく聞いてみると、イントネーションはかなり正確に再現しているはずです。それこそが言葉をかたまりとして理解できている証拠であり、それをベースに正しいフレーズも自然に身についていきますので、心配は不要です。イントネーションを正確にとらえることは、左脳「優勢型」の大人には真似できない、子どもの時期特有の素晴らしい能力なのです。

両親との楽しい言葉遊びを通して 子どもは効果的に言葉を習得します

子どもたちが右脳を働かせながら言葉を習得するときに、遊びと組み合わせるとさらに効果が高まると言われています。例えば「むすんでひらいて」のような動作と歌の組み合わせは、その言葉の意味を理解させる助けになるだけでなく、歌に令わせて体を動かす楽しさを感じることができます。楽しいことなら子どもたちは飽きることなく何度も繰り返したがりますね。この「繰り返し」は記憶の定着にとても大切です。また楽しんで行ったことは忘れにくく、「長期記憶」に残りやすいとも言われています。

さらに、こういった遊びを身近な人といっしよに楽しむことで、相手と目を合わせて言葉のやり取りをするといったコミュニケーションの基礎も学ぶことができます。Play Alongは、ご両親とお子さんがいっしょに遊び、自然な言葉のやり取りができるようにつくられていますから、DVDの動きをお子さんといっしよに真似して、ぜひたくさん遊んであげてください。そんな「楽しい繰り返し」はお子さんの英語の習得の大きな原動力になるはずです。子どもの時期特有の言語習得能力を活かしつつ、あせらず、楽しく日々愛情をもって接してあげましよう。

伊藤 克敏 先生

神奈川大学名誉教授
日本児童英語教育学会(JASTEC)顧問
英国国際教育研究所(IIEL)顧問
国際外国語教育研究会会長

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