専門家の先生による、英語教育に関する記事

歌はことばの獲得に効果があるの?

今回の玉川大学 佐藤 久美子先生のエッセイでは、歌がことばの獲得にどんな効果があるのかご説明いただきました。
また、『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』コーナーでは、「子供がひとりで英語教材を楽しめるようにするには?」というご質問にお答えしています!


子供は歌を聞いたり、歌ったりするのが好きですよね。
英語の学習教材でも、歌が使われているものがたくさん市販されています。

しかし、「歌はことばの学習に効果があるのか?」という点については、多くの意見があるのです。
楽しんだり、気持ちを高めたり、というような情動面の効果については肯定的な意見が多く出ていますが、単語を覚える・表現を覚える・発音を向上させる、という面では期待できない、という意見もあります。
そこで、今回は「どんな歌が子供に好まれ、覚えられやすいのか?」という調査をご紹介した上で、歌を使った英語学習の効果をご説明します。

子供がどんな歌が好き?

そもそも、子供はどんな歌が好きなのでしょうか?
以前、Webで2,000人以上の保護者の方に回答いただいた調査を見てみましょう。
これは日本語の歌を使った調査ですが、以下のような調査を通じて、子供が好む曲・覚えやすい曲の傾向を明らかにすることができました。

曲調・歌詞による歌の好みの違いについての調査

【調査方法】

  • 曲調を変えた歌を3曲、プロに作曲してもらう。その3曲を、子供と保護者に聞き比べてもらい、どの曲が好きか投票してもらう。
  • 曲に合わせる歌詞を変えて4回に渡り提示して、毎回、「どの曲が好きか?」「どの曲が覚えやすいか?」を子供と保護者に投票してもらう。
提示する歌詞のパターン①提示する歌詞のパターン②
1回目 ストーリー性のある歌詞 ストーリーのない歌詞
2回目 具体的な単語(リンゴ、犬など) 抽象度が高い単語(くだもの、動物)
3回目 イメージが湧きやすい単語(リンゴ、犬など) イメージがやや湧きにくい単語(メロン、カエルなど)
4回目 歌詞が韻を踏んでいる 歌詞が韻を踏んでいない

【調査結果】

次のような基準を満たす曲が子供にも保護者にも好まれ、覚えやすいという評価を得られた。

  1. キャッチーなメロディーで、リズミカルな曲
  2. 目に浮かぶようなストーリーが描かれている(文脈がある)、映像が浮かびやすい歌詞の曲
  3. 動物ではなく犬やネコ、果物ではなくリンゴやみかんのように、具体的な単語が使われている歌詞の曲
  4. イメージが湧きやすい単語(※1)が使われている歌詞の曲。
  5. 語尾が韻を踏んでいる歌詞の曲。

※1 イメージが湧きやすい単語:
この調査では、NTTが調査した辞書(『NTTデータベースシリーズ 日本語の語彙特性』)の中で心像性が上位に位置する単語を、「イメージが湧きやすい単語」としている。例えば、動物ではパンダが、果物ではバナナが心像性第1位。カエルなどはそれほど高くなく、お菓子の中では、プリンが上位に来ている。

上記の要素を満たしている以下の歌詞の曲が、一番人気の歌となった。

バナナ踊る
たまご回る
ママプリン作る
ほら、パンダもみてる
大好きさ、みんなで食べようよ

この調査結果は、英語学習にも応用ができます。
子供に好まれやすく覚えやすい英語の歌を使えば、英語学習の効果を高めることができるのです。

英語学習向きの歌はどんな歌?

それでは、子供が好みやすい・覚えやすい英語の歌とはどんな歌でしょうか?
その例として、ディズニー英語システム(DWE)のStory and SongsのCDに出てくる歌を見てましょう。

このCDでは、"The Spelling Songs"という歌の音声が流れる前に、「ミッキーが魔法の帽子にアルファベットを入れると、アルファベットで表したものが帽子から実体化して出てくる」というストーリーが語られています。
歌の前にストーリーの前振りがあり、しかも絵本がセットになっているので、ミッキーが何をしようとしているのか、文脈が子供に明確に伝わります。

さらに、"The Spelling Songs"の曲はキャッチーで、1回聞くと覚えられるようなメロディです。歌詞の中でcat, hat, mat, batが韻を踏んでいて、house,mouseが韻を踏んでいます。韻を踏むことでリズミカルになり、歌詞も覚えやすくなっているのです。

"The Spelling Songs"の歌詞

C-A-T spells CAT.(猫のつづりはCAT)
H-A-T spells HAT.(帽子のつづりはHAT)
M-A-T spells MAT.(マットのつづりはMAT)
B-A-T spells BAT.(バットのつづりはBAT)
H-O-U-S-E spells HOUSE.(家のつづりはHOUSE)
M-O-U-S-E spells MOUSE.(ネズミのつづりはMOUSE)

DWE Book 1 p.51より

また、"Balloons"という他のDWEソングも、リズミカルで覚えやすい歌になっています。balloonsという英単語が繰り返され、blueとyouが韻を踏んでいるのがポイントです。
この曲はヒューイ・デューイ・ルーイが風船をふくまらせるストーリーの中で使われていて、子供が歌詞の内容をとてもイメージしやすい曲です。

"Balloons"の歌詞

Balloons, balloons, balloons, balloons,(風船、風船、風船、風船)
Yellow and red and green and blue.(きいろと、あかと、みどりと、あお!)
Balloons, balloons, balloons, balloons,(風船、風船、風船、風船)
One for me and one for you.(ひとつはわたしに、ひとつはあなたに!)

DWE Sing Along! Book 1 p.68より

このような歌をお子さんと一緒に歌って、ぜひ英語に親しんでみてください。

歌での英語学習の効果をもっと高めるには?

歌での英語学習の効果を高める方法がもう一つあります。
日本語で親子でお話をしたり、歌を歌ったり、本を読んだりすることも、英語の習得によい影響があるのです。

以前も下記の調査についてご紹介しましたが(※2)、日本語の語彙力の高い子供は、歌・チャンツ・朗読どの音源を使っても発音力は伸びやすいという結果が出ています。

音源の違いによる単語発音向上の効果を測る調査

【調査方法】

  • 調査に参加する3歳~5歳の子供に、英語の歌2曲含まれる単語を10個と、含まれない単語10個を発音するテスト(単語反復調査)を行う。その発音結果を、英語のネイティブスピーカーに評価してもらう。
  • 3つの異なる音源(歌・チャンツ・朗読)で同じ英語の歌2曲の歌詞を、3歳~5歳の子供たちに3週間毎日聞いてもらう(聞く音源ごとに50名ずつのグループに子供を分ける)。
  • 3週間毎日聞いてもらった後に、再度20個の単語反復調査を行い、英語のネイティブスピーカーに評価してもらう。

【調査結果】

  • 日本語の語彙力の高い子供は、歌・チャンツ・朗読どの音源を使っても発音力は伸び、統計的な有意差も出た。
  • 日本語の語彙力の低い子供は、朗読を聞いた子供のみ発音向上の効果が認められ、歌やチャンツは効果が出なかった。

【調査からわかったこと】

  • 日本語の語彙力が英語の単語の反復力にも大きく関わる
  • 日本語の語彙力のある子供は、どの音源を使っても、わずか3週間英語を聞いただけで単語の発音が向上する
  • 英語の朗読が特に発音向上に効果がある
  • CDに含まれる単語のみならず、含まれない単語の発音向上も見られる


この調査から、日本語でママやパパとたくさんお話をしたり、歌を歌ったり、本を読んだりすることも、英語の獲得につながることがわかります。
なお、日本語の語彙力が低い子供(覚えている日本語の単語数が少ない子供)には、なぜ歌やチャンツに効果が見られなかったのか、明確な答えは出ていませんが、「歌の場合はメロディーを覚えるのに負荷がかかる」「朗読は単語のアクセントなどが正確で、ゆっくりと読まれているので聞きやすい」などの理由が考えられています。

そこで、下記のようなポイントを押さえておくと、英語学習の効果をさらに高めることができるでしょう。

  • 日本語でも親子で積極的にコミュニケーションを取る
  • 歌で英語が定着しづらい子供には、英語の絵本の朗読に音源を変えてみるとよい

さらに、DWEのように絵本のストーリーと歌が連動している英語教材を使うと、歌と朗読どちらからでもアプローチできるので便利ですよ。
お子さんに合った教材を見つけて、英語を親子で楽しんでくださいね!

※2 関連記事はこちら


『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』第22回:子供がひとりで英語教材を楽しめるようにするには?

英語教育お悩み解消QA第22回

◆DWEユーザーの方からのご質問◆

我が家は共働きのため帰ってからがバタバタと戦場のようです。
私が家事をしている間に英語教材の映像を見せようと思っていても、ひとりでは集中してみることができず、私と遊んで欲しくて足元にまとわりついてきたり、他のテレビ番組などを見たがります。
週末は一緒に見て遊んだりするのですが、平日はなかなか時間を取ることができません。
子供ひとりで楽しく映像を見せるにはどうしたらいいのでしょうか?

◆佐藤先生のご回答◆

週末に親子で英語教材の映像を見た時に、ママやパパもお子さんと一緒に反復練習したり、踊ったり、歌ったりしてみてはどうでしょうか?
その後、平日にひとりで教材を見せる時も、できるだけ合間合間に話しかけたり、一緒に歌を歌ってたりしてみましょう。

子供はママやパパが大好きなので、自分が見ているものや遊んでいるものに等しく興味を持って欲しいのです。

週末の時間のある時に、教材の映像に出てくるおもちゃで一緒に遊んだり、同じ歌を歌ってみてください。映像の動作を一緒に真似したりするのもよいでしょう。
ママやパパと一緒に楽しんだものには自然に興味が湧いてきて、お子さんがひとりでも楽しめるようになると思います。


佐藤先生近影

佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻) 脳科学研究所 教授。
長年、子供の言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。
2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの「えいごであそぼ」、「えいごであそぼwith Orton」の総合指導を担当。

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