専門家の先生による、英語教育に関する記事

耳慣らしの時期はとても大事

「子どもにたくさん英語を聞かせているのに、なぜ発話しないのでしょう」という質問を、よく耳にします。その答えのカギは、「サイレント・ピリオド (沈黙の期間)」といわれる「耳慣らしの時期」にあります。「サイレント・ピリオド」とは、言葉の意味がわかっている様子でも、声に出してアウトプットしない期間のことで、言語習得の過程においてはごく自然なものです。
子どもの母語習得と外国語習得はほとんど同じ過程をとることが、最近の研究で明らかにされています。お子さんたちが母語である日本語を習得する場合、1歳半ごろまでは、お母さんのいうことはわかっていても発話できない時期があります。 この時期のことを「サイレント・ピリオド」と呼んでいます。
私が研究のためにアメリカ・ボストンに長期滞在していたときの話です。当時小学2年生だった娘は、最初の数ヵ月は、周囲の友だちからの英語のシャワーのおかげでかなり理解力はついていましたが、ほとんどまとまった英語を発することはできませんでした。しかし、アメリカ人の友だちの話はかなり理解し、身振りで応えていました。このような時期が数ヵ月ほど続いた後、娘は突然きれいな発音で英語を発するようになったのです。この数ヵ月が、娘にとっての「サイレント・ピリオド」だったのですね。

耳慣らしの時期をどう過ごすかが英語習得のカギ

言語習得の過程において、耳慣らしの時期の過ごし方はとても重要です。まず、ご両親にとって大事なことは、耳慣らしの時期である「サイレント・ピリオド」をきちんと理解すること。なかなか発話しないからといって、無理に発話を強制してはいけません。
そもそも、言葉は算数のように文法のルールを意識的に学習するものではなく、日々の生活のなかで慣れて、身につけていくものです。子どもは、最初のうちは、"Hey"や"OK"などの"定型表現 (prefabricated patterns)"をどんどんカメラ脳といわれる右脳にため込んでいき、そのため込んだ言葉の"かたまり(chunk)"を左脳で組み立てていくという作業を繰り返しながら言葉を習得していきます。
「サイレント・ピリオド」は、言葉のかたまり (chunk)をため込む期間であり、素晴らしいことに、子どもがため込む言葉の量に限界はありません。言語習得論では、"できるだけたくさんのインプットを(massive amount of input)"という言葉を使いますが、この耳慣らしの時期に、あせらずできるだけたくさんのインプットをしてあげることが、英語習得にとって非常に重要です。もちろん個人差はありますが、発話しなくても子どもはちゃんと言葉を脳にため込み、発話の準備をしているのです。ご両親には、耳慣らしの時期の大切さを理解していただいたうえで、たくさんのインプットをお子さんといっしょに楽しんでほしいと思います。Talkalong CardsやPlay Along!のDVDなどをお子さんと楽しんで聞いたり、いっしょに真似したりすることが大事です。
私の3歳の孫はTalkalong Cardsをお母さんと何度も聞いて、ほとんど全部覚えてしまいました。子どもは、楽しいことは何度でも喜んで繰り返すものです。

この時期に大切なことは、たくさんの人と英語でふれ合い、英語をたっぷり聞くこと

この時期に、いろいろな人とたくさんふれ合って、その話し方を聞くことは、とても有効です。特に、同じくらいの年齢で自分より少し上手に話すことができるお子さんの存在は影響力があります。先日、ワールド・ファミリーのイベントを拝見しましたが、小さいお子さんが、少し年上のお子さんの英語を話す姿や仕草を、とても熱心に見ているのを見かけました。きょうだいのなかでもよく見られる光景ですが、小さいお子さんは大きなお子さんをあこがれの存在として見ます。"ああなりたい"という思いで、必死に大きなお子さんの仕草を真似ることは、早く英語を身につけていくうえでもとても有効ですし、より多くの人の話し方や抑揚にふれることで、インプットに幅が出てきます。特に「耳慣らしの時期」にあるお子さんにおすすめですね。

レポートCAP
まだ発話しない時期にDVDの教材を見て同じ動作ができるようになったことをご両親が確認して報告するCAPの課題です。DVDを見て同じ動作をしたり、CDを聞きながら同じように遊んでいることを確認することで、発話していなくても、お子さんが英語を理解していることをご両親が知ることができます。

伊藤克敏先生近影

伊藤 克敏 先生

神奈川大学名誉教授
日本児童英語教育学会(JASTEC)顧問
英国国際教育研究所(IIEL)顧問
国際外国語教育研究会会長

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