専門家の先生による、英語教育に関する記事

伊藤克敏先生近影

神奈川大学名誉教授 伊藤克敏 先生にお話しを伺いました。

英語教育についての様々な悩みや質問を伊藤先生に伺いました。

Q:私の娘は英語を話すときと日本語を話すときで、性格が違うように思います。普段はおとなしいのに、英語を話すときははっきり自己主張ができるのです。いつも不思議に思うのですが、これはよくあることなのですか? (お子さんの年齢:7歳)

A:英語を学ぶことで、英語的な思考も身につきます

英語では、何をするのかを伝える動詞が主語のすぐあとに置かれます。また、それを否定する意思は、その動詞のさらに前で示さねばなりません。一方日本語の場合は、例えば「私はそこに行きたくない」などを見ればわかるように、動詞は文末であり、否定の言葉もさらにそのあとです。日本語では相手の表情などの状況を見ながら最終的な結論を出せますが、英語を話す場合は早めに意思を決定する必要があるのです。つまり英語は、自分の意思をはっきりともたなければ成り立たない言語でもあるのです。お子さんの場合も英語を話すときには自然に積極的な思考になっているということでしょう。

外国語を習得し異なった表現形式を獲得することは、異なった思考形式を身につけること、つまり「多角的思考能力」を養成するという説もあります。英語を学ぶということは、別の思考・表現の形式を身につけること、でもあるわけです。

Q:バイリンガルの方が頭のなかで考えるときは何語なのでしょう?日本語を主に話すときは物思いにふけるときも日本語で、英語で主に話すときは英語なのでしょうか?それともクセで偏ったりするのですか? (お子さんの年齢:3歳、4歳)

A:「能力の高いほうの言語で考える」のがふつうです

ふたつの言語の能力が拮抗している場合は「均衡バイリンガル」(balanced bilingual)と呼ばれますが、これはきわめてまれで、どちらかの言語の能力がより高い「偏重バイリンガル」(dominant bilingual)というケースが圧倒的です。 思考言語は、"より言語能力が高いほう"になりますので、英語教室や英語教材などで英語を習得した場合でも、日常の言葉が日本語で、日本語能力のほうが高ければ、基本的には日本語で考える、ということになるでしょう。ただ、英語漬けの環境にいるときは思考言語も英語になる、ということは当然起こり得ます。海外留学中などに「英語で夢を見る」というのはその象徴でしょう。

けれども、実際にどちらの言語で考えるのか、というのは実はたいした問題ではありません。大事なのは、外国語を学ぶことによって、「多角的で柔軟な思考ができる能力」を獲得することなのです。

Q:8歳の長女と7歳の次女は同じようにDVDを見たり、CDを聞いたりしていますが、発音も理解力も全然違います。姉はもともと言葉に興味があり、ディズニーの英語システムのレッスンも順調ですが、妹は滞っています。英語を習得するための素質(向き、不向き)に違いはあるのでしょうか? (お子さんの年齢:3歳、7歳)

A:習得のために大切なのは「素質」よりも「動機」です

言葉を習得する素質には確かに個人差があります。言語学の世界では「言語適正」(language aptitude)と呼ばれているのですが、一般的に、知能が高く、好奇心が強く、また、積極的(外向的)な子どもは言葉の習得にも優れていると考えられています。ただ、その素質よりも大切なのは、習得の動機(motivation)、つまり「英語を話したい」「学びたい」という意欲の強さです。素質の有無を気にする必要はありません。相談者の方のふたりのお子さんの場合も、素質の違いというよりも、動機の強さの違いではないでしょうか。

姉妹といっても、性格も興味も違っているはずです。上のお子さんは言葉を学ぶこと自体が楽しいようですが、下のお子さんには別の動機づけが必要なのでしょう。その子が何をもって英語を話したい、学びたい、と思えるかを見極め、そう感じられるような機会や環境を与えることが大切です。

また、その子にあった学び方というものもあります。上のお子さんとあえてやり方を変えてみる、というのもひとつの方法だと思います。

Q:息子は英語に苦手意識をもち始め、「何のために英語やるのかわからない」と言います。英語に自主的な態度で取り組んでほしいのですが・・・。(お子さんの年齢:12歳)

A:年齢を考慮し、将来を見通した現実的な動機づけを

このお子さんの場合も、強い動機づけが必要でしょうね。つまり「何のために英語をやるのか」という疑問に答えを出してやることが大事なのです。12歳くらいだと、将来の展望を話しても十分理解できますので、豊かな英語力を身につけておけば社会に出てから有利であること、可能性も広がっていくことなどを、くどくならない程度に話してみてはいかがでしょう。また明確な目標をもたせるのも良い方法ですので、英検やスピーチ・コンテストなどにチャレンジさせるのも良いと思います。

12歳といえば単純な英語学習に飽き足らなくなってくる年齢でもあります。英語を受け身的に学習するのでなく、英語使う国内外のイベントに参加するなど、英語を積極的に活用する機会をもたせるようにしたらいかがでしょう。ワールド・ファミリー・クラブのテレフォン・イングリッシュなども存分に活用されるといいと思います。最後に、ちょっとしたエピソードを紹介しておきましょう。奈良の東大寺で、外国人から何か質問されて、それに一生懸命答え、短い英語でのやりとりができ、あとから来た友だちにうれしそうに報告しているお子さんの姿を目撃したことがあります。これはまさに、「英語でコミュニケートできる喜びを経験することは英語学習への強力な励まし、動機づけになる」ことを表しているのではないでしょうか。


伊藤 克敏 先生

神奈川大学名誉教授
日本児童英語教育学会(JASTEC)顧問
英国国際教育研究所(IIEL)顧問
国際外国語教育研究会会長

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